7-10 トヨン
ヨール王二三年七月六日(日)。
エンリを含めた水利の検討会のあとすぐに、バギーにイオナを乗せて出発した。まずはヤダ川を下る。随行をイオナにしたのは電源容量を改造してあった中で最も稼働率が低かったからだ。初めてモルに行った時にアンがスタンドアローンになって電源残量が危なかったことへの対応だ。今までに行っていない遠隔地だから、準備はしておくべきだ。
カースン国内ならまだネゲイの紋章入りでバギーも使えたが、外国であるトヨンで人目に付くようなバギーの使い方は避けたかった。このため、できるだけ早く海からトヨンの町の近くまで川を遡上し、適当な場所で上陸して山中にバギーを隠して徒歩でトヨンの市門を目指す。衛星画像による事前偵察はとても役に立った。海からトヨンに伸びている川の名前はマーヤン。マーヤン川の源流はカースンの北、ムラウーの領内になる。前回の川の移動時に気にしていた河床洗掘も、斥力場の形状を更に工夫することで速度を上げることができた。「舟」として動く形状だから問題があったのだ。陸上不整地を移動するホバークラフトの設定なら、方向制御はやや甘くなったが水中への影響をもっと小さくできた。多分、水上用と陸上用で、斥力場設定をプログラムしたのは別の人物なんだろうと思う。
通信系統はバギーの移動経路に沿って附近の山頂に「虫」を配置している。バギー本体は「虫」だけでなく定点軌道にあるガンマとも直結させた。万一「虫」系統に支障が出ても、アルファと接続はできる。遅延は生じるが。
夜明けの直前、一の鐘で市門が開くのを待つ行列に加わる。今日はあまり目立たないように神殿まで行きたい。オレ達が行列の最後尾に着いたのと同じ頃に市門が開いた。これから行列を一組ずつチェックするから、門を通れるのは十五分ほど後になるだろう。周囲の会話を拾って訛りとかの情報を得たかったのだが、朝早くてまだ眠いのか、話し声はほとんどない。女達の多くはは皆ベールのようなもので顔を隠している。透けるような薄布であったり、眼のところに孔がある布だったりするが、昔のイスラム教徒が使っていたブルカのようなものだ。機会があれば由来を聞いてみよう。
市内に入った。インプラントの視界に重ねられる地図で目的地の方向を目指して歩く。地球的基準ならまだ〇五〇〇時前だが、一の鐘を過ぎているので紹介状を門衛に渡して取り次ぎを頼むぐらいなら問題はないはずだ。どうせ会えるまでには数時間待たされるだろうし、「二の鐘で戻る」とか言って市内を散策してもいい。国の名前はトヨンで、町の名前もトヨンだが、トヨンの王様はマーヤンの川もっと上流に遡ったコーフという町にいるらしい。首都はそちらになる。カースンにしてもトヨンにしても、国で一番大きな寺院が首都ではないところにあるのは、それなりに理由があるのだろうと思う。今回の行程は進捗を随時ジェーン・ドゥに短文で送っている。現時点での最終報告は「市内に入った」までだ。出発時に送った短文には「おやつは銅三枚まで」と返ってきた。ナガキ・ヤムーグの家が日系であることは地球文明圏では知られているが、そのオレに送ってくるジョークとして、そんな古い言い方をよく覚えていたものだ。「市内に入った」に対しての返信はない。まだ寝ているのだろう。それから、ヴォルタとの会見が始まったら音声もモルに送るし、話の流れ次第ではジェーン・ドゥが会話に加われるようにも用意してある。
市内を入ってから徒歩三十分弱でトヨンの寺院に到着した。早朝だが巡礼らしい人が入場の門に並んでいて、オレ達もその列に加わる。市門に入った時ほどの待ちもなく門を通って、オレは門脇に案内所を見るけると、イオナと並んでその建物に入った。カウンターにジェーン・ドゥの紹介状を乗せて案内を請う。
「カースンから来た。モルのオーキョー様からの紹介状もある。ヴォルタ・ドゥ・オーキョー様に面会を願いたい。まだこんな時間だから、『三の鐘で』とか言われたらその時間に出直すが、まずは取り次ぎを頼みたい。」
カウンターにいた中年の男が紹介状を読む。ジェーン・ドゥの大きな指輪の印章はここでも特徴的だろう。カウンターに置かれたオレの手にも「三つの名前」の印章があるのを見て、表情が改まった。
「この時間、オーキョー様はまだ寝ておられるか、星読寮かと思います。確認に行かせますので、あちらの椅子でお待ち下さい。」
中年男は紹介状を一段奥にいた若い女に見せた。彼女も薄布を顔に垂らしている。
「ノラ、オーキョー様にオーキョー様からの使者だ。オーキョー様のご都合を確認してきてくれ。」
紹介状を見せられたノラは文面を一読すると「わかりました」と言い残して小走りに建物を出て行った。椅子に座ろうとしていたオレ達に中年男が声をかける。
「ナガキ・ヤムーグ様、とは、この箱をお作りになってるナガキ・ヤムーグ様ですよね。」
中年男の手にはネゲイの工房で作っている折り畳みコンテナがあった。トヨンにまでコンテナが届いているとは知らなかった。
「指輪の模様と、この箱の印でわかりましたよ。」
「トヨンにまで届いてるとは知らなかったよ。まだ作り始めて二ヶ月ほどだったかな。」
「十日ほど前ですかね。行商が来まして、その行商が持ってた七箱を全部買いました。これはいいです。こんなのを作ってる方とお会いできて、嬉しいです。」
「そこまで喜ばれるとこちらも嬉しいね。」
「さっき出ていったノラの家は細工師でして、ノラもこれを見て家で作らせたいとか言ってましたよ。でも知恵の代金がわからないからどうしようとか。」
カースンだけでなく、ここの人達は結構知的財産所有権について敏感なようだ。
「カースンでは期限付で専売になってる。トヨンでは、多分何の取り決めもしてないと思う。」
「ノラが困ってたのもそこですよ。ちょっとならともかく、沢山作り始めたら組合も何か言うだろうし、トヨンとカースンの貿易で問題が起きかねないって。」
「分解してみたら、木工職人なら真似しやすい。だから、カースンでも期限付にしてるんだけどね。」
「あとで、時間ができたらで結構ですから、ノラとも話をしてもらえませんか?。」
「それは構わないけど、なんで同僚の実家の商売にそこまで世話したいの?。」
「ああ、ノラは私の姪でして、ノラの母は私の姉なんです。」
「なるほどね。トヨンでの『箱』の製造販売権を、期限付でもいいから押さえておきたいってことかな?。でも私はトヨンでそういう契約をしたことがないから、どこで誰に証人になってもらうかとか、必要な手続きは全然わからないんだが。」
「それこそオーキョー様ですよ。トヨン大寺院の代表司教で、トヨン市の領主でもあらせられます。トヨンの国全体は代表できませんけど、市内のことならオーキョー様の名前で布告できるんですよ。」
「今日の話の目的はそこじゃなかったし、それを細かく話そうとしたら時間もかかりそうだな。ネゲイでは、確か工房からの出荷一組で銅貨一枚が私のところに来るようになってた。同じ率で、オーキョー様との話に時間の余りがあったら、話に乗ろうか。イオナ、条件を書き出して確認してくれ。」
中年男はヨルス・ネーンと名乗った。姪はノラ・ダズル。イオナが蠟板にメモを取り始めるとヨルスはまた蠟板を見て箱と同じように製造販売権の話を始めようとする。これも同じように期限付で、面積にあわせて金額が変わる。そんな話をしているうちにノラが戻ってきた。
「オーキョー様は星読寮です。まだ金星を見ておられます。金星が見えなくなったら、使者の方と会うとおっしゃいました。今から星読寮まで歩いて行ったら、丁度いい頃になるんじゃないでしょうか。」
「金星」と訳されたが、多分ヤーラ359-1よりも内側の軌道にある359-2か359-5のどちらかだろう。
『359-2よ。まだ肉眼でも辛うじて見えてる位置よ。』
アルファが補足する。さっきの箱と蠟板の話はどうしようか。
「ネーン殿。さっきの話、私とオーキョー様が話してる間に下書きだけでもできるなら、よほど変な条件でなければ、それで話を決めてもいい。今日オーキョー様に会えるなら夕方には、私達は出発する。まだこんな時間だけど、急げるものなら急いで話をまとめてもらいたい。で、ノラ・ダズル殿、まずはオーキョー様のところまで案内を頼む。その後は、ネーン殿のところへ急いで戻ってくれ。『箱』の話がしたいらしいから。」
「『箱』って、あの『箱』ですか?。」
「詳しい話はネーン殿から後で。まずはオーキョー様に会わせてくれないか?。」
ノラに案内された部屋は塔の根元にあった。塔の一階部分は中央を廊下が通っていて、左右が部屋となっている。その部屋の一つが星読寮の事務室兼休憩室らしい。塔の近くには、実務で塔を使う者達の拠点が置かれている。これはモルよりも効率的な配置だ。
星読寮までの移動中に箱と蠟板の話を聞いたノラはオレ達を星読寮に送り届けてすぐに案内所に引き返す。星読寮では別の二十代半ばほどの女が待っていた。
「さっき話があったオーキョー様のお客様ですね。もうすぐ、降りてこられると思いますから、そちらの椅子でお待ち下さい。」
勧められた来客用らしい椅子に座る。さっき別れたノラはネーンと話したら帰宅して商売の話をするのだろうか。そのあたり、休暇に関する手続きなどもよくわからないから想像しかできない。色々なことが上手くまわれば、午後にでも蠟板と箱に関してトヨンでの製造契約が取れるだろう。ネゲイの職人不足には一助となる。元々期待していなかった外国での契約なので、それが黒字になるならネゲイもカースンも文句は言わないと思う。だが、双方に報告は必要だろうな。ネゲイはともかく、カースンにどうやって連絡するかは悩ましい。早くデルタを使えるようにしたい。
部屋に着いて数分ほどして、塔から人が降りてくる音がした。何か話している。声は若い女二人で賑やかだ。オレにも経験はあるが、徹夜明けのハイテンションな状態のようだ。
『α、そろそろ映像と音声も。』
『了解。』
イオナが見聞きしている情報がそのままモルのジェーン・ドゥ・オーキョーに中継され始め、ほどなく、声の主が姿を見せた。肩から荷物袋を提げている。オレ達に椅子を勧めた女が塔から降りてきた二人に小走りで近づいて何か話している。二人はオレ達を見て、笑顔を浮かべてこちらに歩いて来た。オレ達も立ち上がる。近づいてくる二人のうち一人は、薄布に加えて眼帯で右眼を隠していた。眼帯の女が言った。
「ヴォルタ・ドゥ・オーキョーは私です。お母様からのお使いは、あなた?。」
塔の下部分に入るときに見たが、塔への昇降は梯子だ。荷物を持って眼帯を着けたままの昇降は、オレなら避けたい。その避けたいことをやっているということは、慣れているのか本当に見えていないかだ。興味はあるが、聞くことが失礼にあたる可能性もある。今は普通に挨拶をしておこう。
「マコト・ナガキ・ヤムーグ。それから手伝いのイオナ・ニムエ。モルからの紹介状はここに。」
イオナが紹介状をヴォルタに渡した。ヴォルタは一読して顔を上げる。テンションは高いままだ。
「面白い。お話を伺いましょう。星読寮よりも私の部屋の方がいいわ。デラ、さっき読んだ数字の整理は後回しにするから、ええと、この箱に全部入れておいて。一休みしたら先に始めてもらってもいいわ。私はファラと私の仕事部屋に戻る。ファラ、部屋に戻ったら、あなたの分も含めて眠気の覚める苦いのを何か持ってきてくれる?。」
デラと呼ばれた助手?はヴォルタの分の荷物も受け取り、机の上に木簡を取り出して順番の確認を始める。椅子を勧めてくれた女はファラという名前らしい。オレ達はヴォルタの案内で、また別棟にあるヴォルタ・ドゥ・オーキョーの執務室に到着した。また応接用らしいテーブルに就いて、ファラは「何か苦いもの」の準備のために席を外す。
「では、改めて、ヴォルタ・ドゥ・オーキョーは私です。お母様からの用件をお聞きします。」
「マコト・ナガキ・ヤムーグ。長ければマコトで結構。こっちは、私の手伝いのイオナ・ニムエ。」
「マコト殿、と、イオナ殿。今は憶えた。ええと、紹介状……。書いてあるね。マコト・ナガキ・ヤムーグ。それからイオナ殿、書いておこう。」
ヴォルタは紹介状の余白に日付とイオナの名前を書いた。
「徹夜明けだからちょっといつもの私と違ってて、もしかしたら五月蠅いって思うかもしれないけどごめんなさいね。金星を、ずっと測ってたのよ。金星って、わかるかしら?。」
「最近は夜明けの頃に東の空によく見えてる」と答えようとしたが、話題が変わった。
「あ、イヤ、忘れて下さい。客人の用件を聞くのが先です。どのような用向きでしょうか?。」
まだ「何か苦いもの」を頼まれたファラは戻ってきていない。最初は「お土産」を渡すところから始めるのが無難なのだろうが、ウーダベーに関する話は人が少ない方が安全だと思う。
「モルのジェーン・ドゥに聞いた話だけど、去年の終わり頃、夕方、暗くなって来た頃、あなたは空の星を掴もうとしたことはなかったですか?。」
右は眼帯で隠れているが、左の眉が上がった。眉はすぐに元に戻って彼女は話し始める。
「マコト・ナガキ・ヤムーグ殿も興味がありますか。お母様から教えてもらったんですけど流れ星というのは本当に空の上から星が落ちてきて、地面の上では石ころになってるって、ご存知ですか?。それでその石は周りの石とは違ってて、中には鉄の塊そのものだったりとか面白いものが混じってるって……、あ、また、ごめんなさいね。話が逸れました。はい。去年の暮れ。大きな流れ星を掴めないか試しました。うまくきませんでしたけど。」
推測が当たっていてよかった。
「モルでも『そんなことができるとしたらトヨンにいる私の娘だけだろう』って、言われました。」
「何をどこまでお話ししていいのか、判断しにくいんですけど、お母様がそこまでマコト殿に話してるなら、正直なお話もしましょうか。」
ヴォルタは話の順序を考えているのか沈黙を挟んだ。
「お母様は相手によって紹介状の書き方をちょっと変えてます。紹介状自体は色んな人が見るから、文面だけじゃわからないようになってる。文面は決まり文句しか書けないわ。でも、私が真面目に話を聞くべき相手か、社交辞令だけで追い返していいか、目印があるの。どこで見分けるかは、教えないわよ。で、この紹介状は、マコト・ナガキ・ヤムーグ殿を全面的に信用していいって、ええと、つまり、私が話す内容の一部は、秘密にしておかないといけないことも混じるって、そういう警告です。話の一部は漏れたら何かの騒ぎにもなる。お母様が信頼してるならそのあたりの判断もできる方なんでしょうけど、お話しする前に警告だけはしておかないと、私も安心できません。ええと、私の言いたいこと、わかりますよね?。」
政治的な権力や特殊なウーダベーの使い方に関する話題には秘密もあるだろう。手許の枯れ枝を燃やすぐらいならともかく「手」は使い方次第で軍隊にも匹敵する。ヴォルタも、この関係の話は、知るが少ない方がいいと考えているようだ。
「だから『何か苦いもの』が届く前、話を聞いてる人が少ないうちに本題に入ったんだ。私達も、その『流れ星』のことで話しておきたいことがあってね。」
ドアが開いてファラが「何か苦いもの」を運んできた。話は一旦中断する。
「ファラ、内密の話をしたいから、悪いけど部屋の外に出てもらえる?。」
「初対面の方と会う時は一人にはならない方がいいのでは?。」
「お母様からの特使よ。よくある寄付金で名誉を買いたいような人じゃあない。でも内密の話よ。変に漏れたら困るような話。漏れたら、まずファラが困ったことになるわ。」
ヴォルタの言葉にファラが頷いた。
「モルのオーキョー様からのそういうお話なら、仕方ありませんね。いつもの控え室でお待ちしますから、また声をかけて下さい。」
ファラは自分の分の「何か苦いもの」以外を配り終えて部屋を出た。話の続きだ。オレは自分の前に置かれた「何か苦いもの」を一口飲んでみる。眠気覚ましの刺激物の色々な混合物だった。詳細はイオナがサンプルを取り込んでくれているだろう。ファラとヴォルタがやりとりしている間にインプラントへ割り込みメッセージが来ている。
『起きたよ。こんな時間にもう話を始めてるなんて驚いた。部屋の中の様子も見えてるし音声も聞こえてる。話の流れがおかしくなったら割り込むし、おかしくならなくても最後には少し話をさせておくれ。』
『了解。』
面会の時間帯が想定よりも早かったので少し心配はしていたのだが、モルのジェーン・ドゥも準備が整った。
「人払いをありがとう。話が途切れたね。戻そう。その去年の終わり頃の『流れ星』は私達のものだ。空から地上を見ている途中で、地上から引っ張られて、カースンの北の方に落ちた。」
「空の上にいた?。ということ?。あなたたちの、流れ星?。」
「空の上にいた、我々の『流れ星』が、地上から引っ張られてカースンの北の方に落ちた。ネゲイのあたりだ。」
「自分達の流れ星?。そんなことができそうなのは、お母様か、お母様の知恵を全部使えるような人としか思えない。お母様の紹介じゃなかったら追い出してるわ。マコト・ナガキ・ヤムーグ殿。あなたは自分用に流れ星を持ってて、それが何処に落ちたか知ってて、落ちた流れ星は、あなた達のものだと、そういうことかしら?。」
「去年の暮れの流れ星については、そういうことになる。」
「去年の暮れじゃない流れ星がありそうな言い方ね。」
「そのとおり。別の流れ星があってね。使いたいんだが、また引っ張られると困る。だから、空のものを引っ張らないように、お願いするのが今日私達がここに来た目的だよ。」
ヴォルタは考え込む。
「あなたがとんでもない大嘘を誰にも負けないくらいに上手に話せる人か、本当にそうなのか、見分けたいわ。お母様さえ騙せるほどの人だとしたら、ああ、その、私の立場上、本当に、そこまでのことを信用していいか、考えさせて。」
「構わない。いきなりこんな話を聞かされたらそうなってしまうことはわかるよ。質問には、何でも答える。」
ヴォルタが言った。
「じゃあ、ちょっと質問するわ。『ト、ベィ、オルノットト、ベィ』これに続く言葉は?。」
翻訳ができなかった。カースンとトヨンの訛り方の違いでもない。だが聞き覚えはある。
『α、今のはシェイクスピアみたいに聞こえたんだが。』
『モルのジェーン・ドゥ・オーキョー由来かも。地球文化圏の、大人の英語話者ならわかる質問ね。』
この程度のシェイクスピアならオレにもわかる。
「『ザリズァ、クエッション』。発音の癖は無視してくれると嬉しい。」
ヴォルタが答えた。
「お母様が信用した理由がわかりました。私もそうします。でも、空のもの、流れ星、いつもなら手を伸ばす前に見えなくなるのに去年のあの時だけは手を伸ばすだけの時間があって、とうとう流れ星が手に入ると思ったんですけど、手を伸ばさないとなると、流れ星は手に入らない。それは残念だわ。」
「こちらはお願いしているんだから、見返りは用意しよう。本物の流れ星でもね。その辺の石ころでなくて本物だと納得してもらうのは難しいけど。」
「お母様が信用している人だから協力はしたいですけど、そうね、見返りというのも何かお願いしたいわ。確かに流れ星を持って来てもらっても本物かどうわからないし、私の欲しいもの、何があるかしら。」
「ジェーン・ドゥ・オーキョー様からは、『知恵、或いは、知恵を得るための道具。そういうものが喜ばれる』と聞いてる。」
「あと、甘い物も嬉しいですけど、そうですね、確かに新しい知恵の方が嬉しいです。うーん。新しい知恵。お母様が信用する人……。ええと、新しい知恵を年に何回か、春夏秋冬、四回、ああ、冬はどうかな?。冬でも、トヨンに来ることはできますか?。来る度に私が何かを聞いて、その場で答えられない場合は次の機会で答えていただくとか。」
「私が年に四回、ここで新しい知恵を伝えるという条件かな?。」
「それが続く限り、空は見るだけ。手を伸ばさない。約束しましょう。」
第一目的は、とりあえず達成だ。




