7-2 帰還の翌日
ヨール王二三年六月二三日(土)。
工房でノルンと少しだけ話をして、二の鐘の少し前に領主館に着いた。同伴はクララ。エンリと、ダールがダメならドーラが、というはずだったが、ドーラもネリも一緒に来た。オレ、クララ、エンリ、ネリ、ドーラ、ダールで六人だ。最初の目的地は家具の店。材木商のブングの従弟の工房だとか。この店にも蠟板の仕事の一部が入っていたようで礼を言われる。仕事の配分はノルンに任せていたから、オレとしては礼を言われても返答しにくい。
総勢六人もいて、クララはともかく、この顔ぶれで店に行くのは憂鬱だったが仕方がない。ベッドの出資者はエンリとダールだが、ネリとドーラも大いに口を挟み、ベッド一つで一時間近くもかかった。オレは、各部材がマーリン7のエアロックを通れるかと組み立て方の確認をクララに頼んだだけ。仮にいつものエアロックが使えなかったとしても、デルタを格納していた底部船倉からなら組み立て終わった状態でも居住区に搬入できるはずなのだが、地球式に測れば二一時を過ぎても明るい今の季節に、上陸して船倉扉の開放はやりたくない。
エンリのベッドを決めたら次はネリのベッドを選ぶことになる。こちらの出資者はオレだった。予算的には問題ないのだが、どちらのベッドにしても飾り彫りの模様に何がいいかとか、聞かないで欲しい。
注文したベッドは、今は休憩室として使われている工房の長屋の中の空室まで配達するよう頼んだ。これからしばらく、この部屋はマーリン7に運ぶための家財道具の仮置場となる。それ以外に運び込むべき荷物があればこの部屋に置くようにエンリとネリには伝えた。エンリは「ほぼ衣類だけ」でヤダから移ってきているが、それ以降で増えた荷物もある。とはいえ、ネリも、ルームBの中の衣類などの収納スペースを見たときに「余裕がありますね」と言ってるから、二人とも、それほど物持ちではない。ベッドさえ運び込めばいつでも、という状態だった。
あとやっておくべきことは、お披露目か。以前にゴールから聞いたが、バースがドーラを迎えるときは大宴会をやっている。招待客リストはオレの「声を掛けておくべき人」リストをゴールとエンリに加筆修正してもらえばいいだろう。場所は、またヨークの店か。規模的にも地理的にも、便利すぎる。だが少々味に飽きてきたところもある。季節が変われば料理も変わることを、期待したい。ライブラリにある各種料理レシピは、地球文化圏で手に入りやすい材料をを使うことが前提になっているので、ネゲイでは応用がやりにくいのだ。
午前中で大物の話は終わり、あとは小物で足りないものの話となる。市内の店々をまだ六人組のまま歩き回っている。ハイカクの工房など、オレと縁のある店にも立ち寄って帰還の報告をする。ドーラとダールが昨晩考えたという今日の予定を大体終えたときには四の鐘近くになっていた。解散の手前で、移動途中にクララが書いていたお披露目招待客の案をダールに預ける。明日は最近の定例でネリとエンリがマーリン7に来る休日だから、適当に修正加筆したものを返してくるだろう。
対外的な予定が終わって、工房に戻ろう。特に何も置いていなかったと思うが、荷物の仮置場なども用意しておかねば。そう考えるとαからの通信だ。
『仮置き用の場所はダイアナが片付けたわ。色々忙しくなりそうだから、小ニムエ達の稼働率を上げるわよ。マコト、もう少し私達をこき使えばいいのに。』
ヨール王二三年六月二四日(日)。
またネリとエンリをマーリン7に迎えた。タンクでインプラントの検査をする。二人とも定着度合いは定格に達している。もう、毎週検査の必要はない。筋力の伸びはないが、バランス能力など身体を使いこなす能力は向上していると思われる。試してはいないが綱渡りもできるだろう。これは地球文明圏ならインプラントの定着度を確認するためのテスト項目にもなっている。だが教育程度が高く、計算を含む事務仕事にも長けている王女様を迎えるにあたっては、ネリとエンリも体を使うよりも事務仕事の能力を底上げしておいた方がいい。ハンナとの婚約が決まってから何度かαともその話をしている。体を使う訓練としての剣術は領主館での朝稽古でもできる。マーリン7でやるべきことは、座学だな。四則演算の訓練。様子を見ながら科学知識の基礎教育も施す。特に科学知識に関しては数ヶ月のアドバンテージがあれば王女様が追いついてくるのに一年ほどはかかるだろう。
そういうわけで、今のネリとエンリは計算問題集に取り組んでいた。木簡に記された十二進数版だ。オレの場合は数式を見ただけでαが計算結果を返してくれているが、今の二人には反復練習をしてもらっている。オレがずっとヤーラ359-1に住み続けるわけではないから、αからの補助ナシでも能力が落ちないようにしておいた方がいい。
インプラントが記憶の定着を強化しているので、数時間の訓練で四則演算ならカースンで使われている五~六桁までの計算は見ただけで数字が浮かぶ程にできるはず、とαが言っていたので、オレも問題集に取り組んでみた。オレが必要としているのは十進数と十二進数の変換だ。会話の中で数字が出てきたときに、よく勘違いしそうになる。
一時間ほどの「練習」後に休憩。少し脳を休ませる。次は科学の授業ということになっている。しばらく別のことをやってから計算問題を再開して定着度を確認する予定だ。
「科学の授業」はオレが持ち込んだ品物の順に進めることにした。最初は蠟板だ。蠟は温めると融ける。温度の数値化。温度計の使い方。水の沸点と融点の間を百分割。十二進数表記では八四分割となる。二人にも、十二進数と十進数の換算は教えておいた方がいいな。温度計に記されたアラビア数字の読み方は教えてある。ハイカクの初期の失敗の原因となった熱収縮の説明。蠟板だけでも一時間以上を費やしてまだ終わらない。聞いている二人にも少し情報量が過大になってきているようだ。休憩しよう。イヤ、そろそろ三の鐘か。正午に近い。今日はこのあたりで終わるか。
午後はジェーン・ドゥに届ける無線機関連で必要なものをαに確認した。今は東経四五度の定点軌道で運用しているガンマだが、これを使う前提で考えるとガンマを他の用途に転用できなくなってしまう。今もベータが続けている「全地表の通年の画像収集」が終わったら、別の用途は幾らでもありそうなのだ。それに、ジェーン・ドゥがトヨンに住んでいるという「娘」と話を付ければ、デルタを本来の用途である人間の移動用にも使える可能性が出てきている。
「一番簡単なのはデージョーから定点軌道のガンマを経由させる方法だけど、最初はそれで進めて、ガンマをほかの用事に使うとなったら地上に中継点を作って、ということになるわね。」
「中継点を『虫』で代用するのは、バッテリーからしてむつかしい?。」
「そうね。短期間ならともかく、年単位ではとても無理よ。」
「じゃあどこか適当な山の上とかに、光電池付の中継機点を置く必要があるか。」
「ここの近くを優先して候補地はもう幾つか見つけてあるけど、そこまで登るのが大変ね。道と呼べるようなものはほとんどないから、多分バギーでは無理。行けなかったら、デルタが欲しいわ。」
「デルタを使うのはジェーン・ドゥがトヨンと話を付けてからだな。じゃあ、最初はガンマ経由として、今必要なもの、備蓄から出せるもの、足りていないもの、そんなあたりから整理していこうか。」
最小限度としては、音声通信ができればいいが、こちらから呼びかけたときに相手が応じられるとは限らない。文字通信の機能も付けて短文のやりとりもできるようにしておいた方がいいだろう。カメラも付けるか?。ジェーン・ドゥなら使いこなせると思う。機能を増やすと光電池も大きくなってくるな。どこまでが限界だろうか。
「最初は音声と文字だけでいいと思うわよ。通信機を持って外で歩き回りながら話をしたりは、ヤーラ359-1じゃあ明らかに『変な人』だもの。」
αがオレの暴走を止めてくれた。
「じゃあ、音声と文字。フルキーボードは嵩張るから、音声認識で文字化できて、短文のやりとりとか画面表示でも確認できて一定期間の保存もできる、そんなあたり?。」
「どんなものを渡すのがいいか考えてたけど、当面の目標としては蠟板と同じ大きさ、二つ開き、蠟の代わりに通信画面が貼り付けてあるのはどう?。ジェーン・ドゥの部屋の中で窓の近くに光電池付の充電器兼中継機本体を置いて、蠟板サイズの端末を持ってもらえたら寺院の敷地内ぐらいならカバーできそうよ。材料の在庫は、大盤振る舞いしてもよさそうと思ってるの。何かが不足してもまたカースンへ行って、浜辺で何日かバカンスをすればヤーラ359-1到着以降に消費した分は全部回収できるわよ。」
海岸まで、前回は移動に二晩を使ったが、陸路で乗客あり、途中でモルにも寄るという条件付きだった。川を使えば片道一晩でもたどり着けそう、と計算はしている。
「海はいいね。多少何かを抽出しても、取り過ぎの心配がない。」
「ええ。ネゲイの近くばかりで材料集めをやると『掘り尽くし』の心配が出てくるもの。」
「よし。材料も心配ないなら、『蠟板』みたいな形を目指してみるか。今日から作り始めたとして、どのくらいで準備できる?。」
「多分、電波強度とか使い勝手とかで何度か調整をしないといけないと思ってるわ。『新製品』ですからね。回路だけのプロトタイプ一号なら。二~三時間で用意できるわよ。まだ四の鐘前だから、明るいうちにね。仮組み、部品を固定しただけの不格好なものにはなるけど。」
「そうすると、最速で動いて明日の朝にはモルでテストできるって?。」
「ジェーン・ドゥも『朝のお勤め』みたいなことをやってるとか言ってなかったかしら。『会うなら午後がいい』って。だから、もし今夜移動するなら、真っ直ぐ海まで行って、今度は『実験』じゃなくて本当に不足気味の物資を集めて、明日の三の鐘の前にモルまで戻るような行程がいいわ。ダイアナとエリスを付けるわよ。」
「それだと、ノルンにも言っておいた方がいいな。」
「ノルンは、今ネゲイの町に出てるみたいね。工房にはいないわ。現在位置は不明。」
「戻ってきたら、バギーで行って明日の予定について話しておこう。」
「そうね。戻ってきたら知らせるわ。」
一六一五M。通信機と中継機の仮組みが終わる。テストをするには、マーリン7から少し離れた方がいいので、バギーで一式を工房まで運んで試してみた。ノルンを待つにも都合がいい。
「最小限度の機能」は大丈夫そうだ。作業の途中でノルンも帰ってきた。オレが工房に来ていることに気付いたノルンに声をかけられる。
「いかにも『マコト殿』風な道具ですね。何に使うんですか?。」
「『モルのお化け』に頼まれたんだ。使い方は、今は秘密にしておこうかな。」
「ぱっと見て、複雑そうなので説明されてもわからないかも。」
「仕組みは、多分そうだな。今は無理だろうと思う。で、ノルン、明日の予定の話もしたかったんだ。」
「明日ですか。どうしたんです?。」
「『お化け』に頼まれたコレの関係で、明日はちょっと不在にしたい。だから明日の朝にやるつもりだった予定の確認とかを、今からでもできないかな。」
「ああ、わかりました。蠟板を持ってきますから、ちょっと待ってて下さいね。」
ヨール王二三年六月二五日(火)。
川を使った移動は、何も考えすにスピードを上げると大波を起こして周りに迷惑になってしまう。今まで使う機会が少なくて試していなかった「水上移動」のための各種設定の中に「消波しながら高速化」というものがあった。これは速度に応じて斥力場の形状を微調整して波をできるだけ立てないようになっている。「消波しながら高速化」以外にも小技を幾つも試しながら、新池から約六時間でカースンの沖に達した。〇二〇〇Mだ。経路上に「虫」も撒いた。モルで人と会うのに、通信機能は必須だ。干潮の時間帯で、深夜にもかかわらず下りの船を何艘も追い抜いた。多少相手を揺らせはしたが、転覆させるようなものではない。モルまで戻る頃は潮の流れが逆になるから、川を遡上する船を縫って移動することになる。まあ、消波は十分に使えることがわかったから、大事にはならないだろう。
海に向けたウーダベーの指向性は前回の実験で確認済み。バギーからでも安全に発動できる方法を確立している。目標は海水のみ。海底から何かを取り出したら濁らせたりして痕跡が残ってしまう可能性があるので、少なくとも陸が見える範囲では海底を掘るのは自重しようと思っている。「ウーダベー方式」で狙うのは、有用性が知られていない、存在量が少ない、単離が困難などの理由で市場であまり出回っていない鉱物などを考えていた。今日はその中でも光電池とバッテリーに使えそうな物を中心に集めることにしている。前回の収集物からある程度の濃度予測は作っているが、ppb(十億分の一)の単位でも小数点以下の濃度ともなれば、測定誤差もあるだろうし場所によっても変わるだろう。そんな理由で変動があっても、海水一トンあたり一ミリグラムにもならないという測定結果であれば、カースンの近くの海はどこでも似たような数字だと思っていた方がいい。そんな濃度の物質一グラム集めるには、海水数千トンを相手にするということだ。これは大きな数字にも見えるが、ウーダベーの効果範囲には十トン以上の海水が入っている。ゆっくり移動しながら収集を続ければ、効果範囲を通過する海水の累計はすぐに千トン程度にはなる。今のオレが欲しいと思うような大抵の物質は多くても数十グラムほどなので、大した時間はかからずに必要量を集めることができるだろう。
十種類ほどの抽出を終え、「謎物質」の錠剤を飲んで休憩した。夜空を見ながら考える。地球でもヤーラ359-1でも、鉱山で石を掘り出して砕いて選別して化学処理を施して、という今までの主流方式は、鉱毒、ボタ山、採掘跡の大穴といった副産物を生み出す。ウーダベーで海水から任意の物質を取り出せば過去の鉱業が抱えていた問題はほとんど発生しない。潮流があって海水が常に入れ替わっている場所に採集基地を幾つか設ければ、ヤーラ359-1全体の需要を満たせるだけでなく地球文明圏への輸出も可能ではないだろうか。任意の物質を海水から抽出することはオレの知る限り地球文明圏でも今までも各地で何度も試されているが濃度と効率が問題で、塩化ナトリウム以外で商業化は中々できていない。それが可能なほどの濃度で海水中に金属類が溶け込んでいたら、地球型の生物は棲めないのだ。ヤーラ359-1の海水は地球のものと大差ない。やや塩分が薄い程度。そうすれば、他の物質濃度も薄いのだろうか。だが、「ウーダベー」による抽出は、とても効率がいいように感じる。運転席はダイアナだ。エリスが荷台でオレに採集物のコンテナを受け渡しするなどの手伝いをしてくれていた。エリスの口を借りたαと話をする。
「これは、地球文明圏への輸出とかできるものかな?。」
「ランニングだけで見れば単位質量あたりの採掘から精錬までのコストは、ウーダベーを使うと地球方式の千分の一にもならないわ。うまくやれば、マーリン7の複製を作るだけの材料も一ヶ月で準備できる。本当にマーリン7を複製しようと思ったら造船所の建設から始めないといけないし、造船所を建設しようと思ったらそれなりの建設機械も作らないといけないけど、どこか無人の海岸を占有できたら長くても五年でそこまで到達できる。あとは、代金又は代金となり得る物資の受け取り、そのあたりのコストがどうなるか、現時点での地球文明圏の最新の相場状況はわからないけど、私達が出発した時点での価格で考えると、稀土類は大暴落よ。鉄みたいな珍しくないものでも価格競争に勝てるかもしれないわ。でもそのあたりの最終判断は、ここからの報告を受けた『機構』側の仕事よ。」
「『機構』も、公式には交易を目標に掲げてるけど、余剰人口を送り出せる場所を探すのがメインで、あまり大規模な交易の例は聞かないし。」
「輸送コストが問題よね。常に。」
ここで、オレが触れるのを避けていた案も出てきた。
「それと、副次的な問題は出そうだけど、もう一つの方法もある。私達がこの技術を謎物質と一緒に持ち帰って、地球文明圏の各地でこれを広めることよ。」
「ジェーン・ドゥが気にしていたことの一つだな。有用すぎる技術を持ち込むことの影響の大きさだ。オレも最初は単純に喜んでいたが、この方法をどこまで広げるかはよく考えるべきだ。こんなことに結論は出せるものかな?。」
「ここまでの情報になると機構は隠匿するかもしれないわ。『虫』みたいにね。」
「必要なものは、発動装置になる『謎物質』を溜め込んだ人間、機能をコントロールするAI、人間とAIの接続ケーブルとして機能する神経インプラント、そんなところかな?。オレ以外の人間に扱えるかは、まだ確認できてないけど。」
「マコトの思考順序も要素の一つよ。文法が大きく違ってる複数の言語圏で育ってきてるマコトは思考ロジックの組み立て方、順序が独特みたいよ。」
「エンリはどう?。『火』を出してたけど。」
「エンリは『火』だけしか使えない、というのは、やっぱりあなたとは思考の順序が違うのよ。少なくとも、エンリの思考はカースン語の語順で整理されてるわ。マコトの思考はもっと輻輳してる。複数の文法で同時に考えてるからよ。」
「そのあたりは自覚してないな。声や文字で考えを外に出す時は特定の文法になってるつもりだし。」
「……今、記録を確認したわ。機構があなたのインプラントの機能を拡張したときに、当たり前だけど動作確認はやってる。やっぱり思考内容の読み取りができるようになるまで、平均よりも時間がかかってたようね。インプラントの機能拡張以外にも適性確認とかで病院で検査漬けになってた期間中に終わってるけど。」
「あの時か。そんなあたりの細かい説明はなかった気がするけど。」
「標準手順なら怪我の治療で最初にインプラントを入れたときは『痛い』『熱い』『寒い』とかの生命維持に必要な感覚だけしか読まない設定で、これは誰でもほとんど同じ信号系で脳に入ってくるから調整というようなものはほとんど必要ないわ。病院ではその後で義肢を動かせるように機能拡張をやってるけど、これも誰もがほぼ同じ信号処理よ。でも言語系とかは、全部の音声会話や文字認識とその時の脳波パターンを対比させて、思考内容を読み取れるように学習するのよ。」
「そのあたりの仕組みについて、昔何かで読んだことがある。そういう仕組みにしないとダメ、というのは当たり前だな。忘れてたよ。」
「話を戻すと、マコトの脳内の信号処理系は独特で、それがウーダベーの内容にも関わってる可能性がある。そうであれば、今やってるみたいな海水からの資源サルベージは、誰にでもできるものではない、ということよ。」
「エンリに訓練をさせればできるかな?。」
「できるようになるにしても、時間がかかるでしょうね。物事の考え方の順序を変えるのよ。性格まで変わりかねない。そこまではやりたくないでしょ?。」
「初めてオレが『火』を使ったあとで、再現のためにオレの思考ログを再現したことがあったよな。あの方法は……、ダメか。オレの思考ログをそのままネリに入れても、思考順序が違ってたら解釈できないか。」
「そうね。その方法は上手くいかないわ。解読方法を間違った暗号みたいなことになる。『文字化け』ってヤツね。下手すると、そこで変なところの刺激を出して脳が機能不全を起こしかねないわ。安全プロトコルもあるからそんな結果を出すような刺激は出せない設定になってるけど。」
「脳の機能不全は危ないな。余程の安全率を確保しておかないとその方法はダメということ、了解だ。結論として、『素質のありそうな人間を見つけて訓練する』としかならないか。ここでインプラントを入れる人間をあまり増やしたくないんだが。」
「インプラントを入れる人を増やさないことには賛成よ。私達の手に負える範囲に留めておかないと。」
「ハンナは、インプラントを入れないわけにはいかないんだろうな。ジェーン・ドゥは、今のところオレにその気はないけどどう思う?。」
「ハンナもジェーン・ドゥも、それでいいと思うわ。特にジェーン・ドゥは、私達や本人が望んだとしても適合性検査をよくやらないと。二百歳を超えた人間への移植というのは、ライブラリにも症例がないわ。」
「わかったよ。ジェーン・ドゥは、特に本人からの希望がない限りはナシ、やるにしても前準備は通常以上に万全に、ということで。そろそろ、資源抽出を再開しよう。次のコンテナを渡してくれないか?。」




