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23、魔法講習

 私が教会を訪れたのは、話を聞いた一週間後のことだった。


「みんな知ってると思うけど、基本のおさらいから始めるね」


 前は室内で教えたけど、今回はより実践的なものをと言われているので外で行うことにした。

  六歳から十二歳程度に見える子供が十人。元気に手を上げて返事する子や、真剣な眼差しを向けてくる子、嫌々参加してる子など、反応は様々。

 ティオからも成長過程で魔力バランスが崩れた子やコントロールが上手く行ってない子への指導と聞いていたが、思ったより人数が多い。この分だと全属性見る必要がありそうだ。


「この世界には主に、木、火、土、金、水の五代属性が存在します。ここに入らない属性や稀少属性もあるけど、それは置いといて」


 基本的に誰でも使える属性として上げられているだけで、その中に属さないものもあるのだが、話が脱線するのでやめておく。ちなみに稀少属性は治癒魔法や空間魔法、呪術魔法などなど。種類はあるものの、千人中一人いるかどうからしい。


「この五つの属性は、生まれた時から誰もが使えると言われているわ。うん、使えない属性があるって子もいるよね。それは魔力量や、コントロールの問題なの」


 話しながら近くに落ちていた手頃な枝を拾い、地面にザリザリと線を引いた。

 線の下に属性を表す葉っぱや雫を書くと、自然と子供達が囲むように足元に視線を向ける。


「魔力の量は人によって違っていて、成長と共に増えていく。だいたい成人する事には増えなくなるらしいから、あなた達はまさに増えている頃ね。今まで出来てた事が上手く出来なくなったりしてる子もいるんじゃないかな」


 今まさに自分達の身に起こっていることだからか、よそ見している子はいない。手頃な石を十個拾い、属性を表す模様の線上に一つずつ置いていく。


「いい? この石一つを魔力一と考えて、ひとまず各属性に一つずつ置きます。すると、残りは五つ。この五つがどこに振り分けられてるかで、得意不得意が生まれるの」


 手元に残った石を見せながら、例えとして水に石を三つ追加した。残った二つを適当に土と金に割り振った。そうして線の横に新しく縦線を引き、横線に近い方を不得意、逆の端に得意と書き足す。


「使える魔力が多ければ多いほど得意属性になりやすい。この例えだと、水属性は得意だけど、火と木の属性に魔力が一しかないから火を起こす事も、花を咲かせる事も難しくて苦手な属性ってことになるわ」


 ぐるりと子供達の様子を見る。特に質問や不明点はないようだ。今日は比較的年齢が上の子供ばかりで、元々基礎は知っているからだろう。


「あなた達に関係するのはここから。この水属性が得意な子が成長して、魔力量が二十に増えたとしましょう。ここに十を足すんだけど、これが問題でね。得意な水属性に追加されても威力が増して扱いが難しくなるし、苦手だった火属性に追加されてもコントロールが身に付いていないから勝手に火が出るようになってしまったり。成長による魔力バランスの変化で、得意と不得意が逆になる人もいるそうよ」


 追加の石の半分を水属性に置いたり、全てを火属性に置いてみたり。色んな置き方をしながら説明する。

 思い当たる節があるからか、動作や表情が違っていても全員腑に落ちた様子だった。理解が早くて助かる。それならさくさく進めよう。


「じゃあ、各自全部の属性を使って確認してみましょう。最初は木属性を試すから、この種を持って隣の人と距離をあけた場所に立って。移動できたら、ゆっくり芽吹かせてみて。芽が出ないからって焦ったり、調子に乗って花を咲かせようとしないこと。いいわね?」

「はーい!」


 前もって準備していた種を小瓶から取り出し、一人に一粒ずつ手渡していく。種を握りしめて、思い思いの場所を陣取って試し始める子供達。

 ふ、と目の前に手を差し出されて、視線を上へと向ける。そう、上に。


「……」


 何故かキラキラ輝く瞳で私を見下ろす相手を、じとりと睨みつける。実は子供達に説明を始める前から一人異色な存在が混ざっていたのだが、気にしたら負けだと無視し続けていた。

 ため息を吐いて視線を逸らすと、種の入った小瓶を片付ける。もちろん奴に渡す種などない。


「せんせー! 芽出た!」

「おれも!」

「うそお、私出ないよ!?」

「それぞれ個性があるって言ったでしょう。焦らずに集中して。必ず芽が出るから」


 そう、この種は魔力さえあれば芽は必ず出る。そこから先は魔力量やコントロールによるのだけど。

 私の言葉に、芽が出ないと周りの空気に押されて焦っていた子が口を引き結ぶ。険しい顔で種に向き合う子の横から、そっと細く柔い腕に手を添える。


ぽんっ


「出たあ!!」

「うんうん、その調子。皆も次は葉っぱを目指してみて」


 触れられることでその部分の感覚が鋭敏になり、微かに魔力を流せば滞っていた同属性の魔力が引き付けられて流れが良くなる。

 一人ひとりを見回っては魔力を促したり、打ち止めをやんわり伝えたり。木属性は暴走することが少ないから安心して見ていられる。次は火属性だから気をつけないと。


「はい、先生!」

「……なんですか」


 大人しく子供達が奮闘するのを見ていたかと思えば、急に手を上げて存在を主張してきた。いつも非常識なくせに、こういう時だけお手本のような動作をするなんて。子供達が見ている手前無視できない。なんてずるい奴だ。


「オレは何をしたらいいですか!」

「その辺の草でも毟っててください」

「はーい」


 ずるい男改め、子供の中に一人混ざった図体のデカい男。ハルセに、遠回しにあっちへ行ってろと指示をする。素直に教会の壁沿いに生えている雑草を毟り始める。


「本当、どういうつもりなんだか……」


 アコルデを突き止められてから約十日。

 前触れなく三・四日おきに現れるハルセに振り回される日々が続いていた。しかも、市場や町中を歩いていても居場所を突き止められる。さすがにディソナンテの中でも一番王都から遠い教会までは来ないだろうと思っていたのに、気づけば子供に混ざっていた。もはや恐怖でしか無い。


「フィー先生?」

「あ、うん。種はあの知らない人がいる辺りに置いておいて。次は火属性をするから、さっきより隣と距離をあけて、絶対に人のいるほうを向いてしないこと。いい?」

「はーい!」


 だから子供に混ざって一緒に返事するんじゃない!

 口から出そうな罵声を押し留め、再びハルセを視界から外す。さっさと終わらせて帰ろう……。



 * * *



「疲れたぁ」

「ご苦労さん」


 一通りの属性を教え終わり室内で休んでいる私に、ノルが飲み物を差し出した。

 少しとろりとした赤い液体は、教会の裏手に生えている実を潰して絞ったものだ。そのままでも美味しいけど今はキンと冷えたものが飲みたい。

 魔法で創った氷を中に入れると、ノルが自分のコップも傾けて来たのでそちらにも投入する。


「あれがそうかい」


 あれ、とは言わずもがな。子供達と中庭で遊んでいるハルセのことだ。精神年齢が近いのだろう。むしろ子供に遊んでもらっている感が強い。


「本当、いい加減にしてほしい……」


 ディソナンテに来るな、来たとしても私の前に現れるなと再三言った。割と本気で殴って動けなくして、オッタにもう一度回収を頼んだりもした。

 なのに、また三・四日経つと何事もなかったかのように、ケロリとした顔で私の前に現れては同じ事を口にする。


「手合わせしようぜ!」

「出た。もう嫌、その言葉もアンタの顔も二度と見たくないし聞きたくない」

「腹でも痛いのか?」

「黙れ駄犬」

「わん?」


 ちなみに私が抱えてるのは頭だ。なぜ腹の心配をする。

 もうハルセと話すのも億劫で、持っていたコップを一気に飲み干して立ち上がる。ちらりとノルに視線を流せば、心得たとばかりにノルは近くの子供に何かを話してハルセを連れて行かせた。


「ニオの件はどうなってる?」


 場所をノルの私室に移す。窓も扉もしっかり施錠し、カーテンで外と遮断した部屋は昼なのに暗い。


「使われてる薬草の目星はついてるんだけど品切れ中らしくて、まだ全然試せてないの。誰かさんがよからぬ薬の材料として大量に使ってるから、こっちまで回って来ないんだと思う」


 ニオから話を聞いた翌日、ティオにディソナンテにある薬屋に行ってもらったが在庫はなく。入荷もいつになるか分からないと言われたらしい。仕方なく王都の薬屋に行ったものの、回答は全く同じ。


「もしかしたら森に生えてるかもしれないから、この後行くつもり」

「そうかい。ならもう一つのほうはどうするんだい?」

「もう一つのほう?」


 レイエンダの森は人の手が入りようがないので、色んな草が自生している。それこそ妖精や精霊に引っ付いて、見覚えのない草花が生えるなどしょっちゅうある。


「あのハルセとか言う男が、ニオの予言相手だと思うかってことさ」

「……わからない」


 ハルセ自身を占うことは出来なかった。だからといって、願いの成就を助けるという(えにし)でないとは言い切れない。

 今調べている惚れ薬の件も、話を聞いた時に浮かんだのはリツとハルセだった。

 ハルセをうまく使えば、本当に出所がミトロピア家なのか探りやすくなるのは分かってる。ノルやニオがそれを望んでいるのかは分からないけど、確実に遂行するための案としては数えているだろう。

 それは分かっているけれど、私が言えるのはただ一つ。


「出来ればもう関わりたくはない」


 げんなりと言う私に哀愁でも漂っていたのか、ノルは少し目を見張ったかと思えば豪快に笑いだしたのだった。


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