さみしい日
今日もベッドで目覚める。
クリスマスの日に、君が買ってきてくれた白いベッドだ。
綺麗に包んで、リボンまでつけて、雪の日に汗をかきながら、重たそうに持って帰ってきてくれたベッド。ふわふわとした踏みごこちと、ほどよい固さが気に入っている。
ぺたぺたという、君の足音が僕の目覚まし時計。
目を開けて、洗面所へ向かううしろ姿をじっと見送ると、ややあって、鼻歌が聞こえてくる。はずだった。
いつまで経っても、君の歌声は聞こえない。
今日は声が小さいのかも、と思って君と同じように裸足で洗面所へ向かうと、髪を梳いている静かな音が響くばかり。
ごきげんがよくないのかな。けれど、今日は雨じゃないはずだ。走って窓枠に飛び乗って、空を見上げる。雲は多いけれど、薄い青色の空もきちんと見える。いい天気だ。
なんだか僕まで調子が出なくて、いつも君が座っているクッションの隣に座り込む。洗面所から出てきた君は、ここでお化粧をするから。
うとうとしながら待っていると、ぺたぺた、という音とともに君がやってくる。
「今日はここにいるの?」
いつもより、ちょっぴり元気のない声。なぜなのかを、ケモノの僕なりに推し量りながら見上げると、ほんの少しだけほっぺたを緩めてクッションに座った。
「もしかして、バレちゃってるの?」
君が元気ないってことなら、とっくに気づいているよ。僕は黙って、君の手のひらが背中を撫でるのを待つ。
「あのね……」
ふわ、と軽い感触が背中に生じて、僕は目を閉じた。こうした方が、君はおしゃべりしやすいでしょう?
「今日は、私の一番大好きな人が、いなくなっちゃった日なの」
君の一番大好きな人。
僕はその人のことを知らないけれど、君が大好きになった人なら、いい人に違いない。
「カレはね、雨の日にいなくなったんだよ。ちょうど、キミと私が出会ったときとおんなじような天気。それに、おんなじ場所」
僕が、君と出会った日……?
桜の樹の下で、冷たい雨に震えていたときのことを思い出す。
君の大好きな人も、震えていたのかな。
「カレは、ただのお隣さんだったけれど。いつも一緒だったの」
ふふっ、と君の笑う声が聞こえる。そっと瞼を持ち上げてみたけれど、一瞬で君の優しい笑顔は消えてしまった。
「どんなときもね、私のことを守ってくれたんだよ」
いつもの通り、抑揚のない話し方だったけれど、聞いているうちになんだか悲しくなってきてしまった。君の膝の上にいってもいいかな?
そろそろと足を持ち上げて君の膝に座る。ちょっとだけ目を丸くした君は、僕を抱っこしてぎゅうと抱きしめた。
「だから、今日だけは、ちょっぴり寂しい日なんだ」
そう言って頬ずりをする君は、いつもより小さく見えて。頭をナデナデしてあげたい気持ちになった。君が僕にしてくれるみたいに。だって、僕は君が好きなんだもの。
けれど、長さの足りない前足は、君のサラサラの髪を揺らすだけ。
僕は静かに抱きしめられた。
君に抱っこされると落ち着くんだ。
君の心音が、トクトクと僕の中に入りこんで癒してくれるから。
君のことが、大好きだから。




