極寒の大地 2
その頃・・・
ナジェージタ郊外
ロシア軍指揮所
日本軍(自衛隊)から退去命令がかかって数分後・・・
この場所にも衝撃を伝え、第5連邦技術開発局は爆発した。
(※パルコヴニク 西郷・・・)
心の中でそう呟き、大型ディスプレイで戦況を確認しながら、マルゲロフ大佐は彼の言葉に従った事が正しかったと実感していた。
※ロシア軍(陸)で大佐を現す。
初めは彼に従う気など全く無かった。
だが、作戦開始から40名以上の死傷者を出したロシア軍。
施設から出て来る新たな脅威との直面、スペッツナズと互角に渡り合える施設守備隊・・・
その全てが、甘い考えで臨んだ彼を完膚無きまでに叩きのめした。
当然、帰還したらこの責任は償わなくてはならない。
それよりも、これ以上損害を出さない事が今の自分に出来る最大の責務だと思い彼は指揮を取っていた。
そんな彼だからこそ、不意にもたらせられた自衛隊からの退去命令も素直に聞き入れる事が出来たのだろう・・・
爆発直後より彼との連絡が取れなくなった事に不安を覚えるも、第2の戦場と化したこの指揮所内をまとめる事に、彼は全力を注いでいた。
そんな中・・・
突然響き渡る爆音!
先程感じた施設の爆発ではなく、かなりの近距離で起きた事が判る。
「何事だ!」
状況を掴もうとマルゲロフ大佐が叫ぶ!
外の状況を確認しようとイワノフ中佐自ら指揮所のドアへ駆け寄り、その扉を開けた。
次の瞬間、ドアより真っ赤な閃光が侵入し、イワノフを含め数人のオペレーターが身体の一部を残して消失した。
「なっ!」
一瞬の出来事に言葉が止まる。
膝より下だけを残し消滅したイワノフ中佐、ほか数名の隊員・・・
えぐり取られたかのように開けられた大穴から外の景色が見え、BMP-90が照射したサーチライトが、マルゲロフの前に1体の『バウーク』の姿をさらけ出す。
「なんだあれは?」
無意識にそう言葉がでる。
化け蜘蛛と目が合った気がした・・・
その瞬間、化け蜘蛛の背中から先程見た赤い閃光が放たれ、マルゲロフの身体を包みこんだ。
施設の爆発から数分。
混乱さめやらぬ現場では、西郷ほか2名の捜索が懸命に行われていた。
その捜索を続ける北上2佐の脳裏に彼の最後の姿が浮かんでくる。
指揮官でありながら常に部下より先に現場に入り、部下より後に帰隊する西郷・・・
そんな彼だからこそ自分も含め、部下からの信頼は絶大だった。
数分前もそうだ。
あのまま来れば爆発に巻き込まれる事は無かったのに・・・
自らがしんがりを勤め退去を開始したSFG。
出口近くで合流したスペッツナズの負傷兵を助けるべく彼は足を止めた。
そして、橋本曹長もそれに付き添いあの爆発が起こったのだ。
(あの爆発・・・生存しているとは・・・)
そう考えそうになって北上は首を横に振る。
(考えるな!隊長はきっと生きている!)
彼はそう思い、辺りを見渡した。
捜索には特戦群だけで無く、スペッツナズまでもが加わり行われていた。
一緒に退去した彼等が仲間を呼んでくれたのだ。
北上の目に何故だか涙が浮かんで来る。
空には現場を照らすべくハインドのサーチライトが輝いていた・・・
そんな彼等の行動を無にする出来事が直ぐに起ころうとは、誰が思っただろうか?
夜空に閃光が走る!
格納庫で見たあの閃光である。
「総員待避!」
北上は大声で叫んだ。
それと同時に、旋回していたハインドが爆発し、辺りに破片を撒き散らす!
北上2佐は、ラドチェンコが逃亡したと思い込んでいた。
自衛隊だけならともかく、外には戦車やヘリ、ロシア軍の大部隊が居る。
たった2体の機体で彼等は戦えないだろうと思っていたからだ。
だが、その考えが甘かった。
ラドチェンコは、組織の秘密を知るこの場全ての部隊を殲滅すべく動き出していた。
バウークの登場により混乱の渦は更に巨大な物へと変わって行く。
日露VSバウークの戦闘がまさに始まろうとしていたのだ。
無数の黒煙が立ち昇る北の大地。
爆音と同時に夜空に現れた爆炎から落下するのは・・・
増援に駆け付けたハインドの変わり果てた姿であった。
「スーパーハインド撃墜されました!」
リアルタイムに流れる無人偵察機の映像に次いで、工藤1曹の報告が飛び込む。
バウークの出現から15分・・・
瞬く間に撃墜された全ての攻撃ヘリ。
更に1個戦車小隊までもが破壊され、ロシア軍はほぼ壊滅状態の危機に瀕していたのだ。
「3号機!あの兵器の分析は出来たか?」
多脚機動兵器と呼ぶに相応しいバウークの出現から伊達は3号機に搭載兵器の分析を命じていた。
「不明です!コンピュータは解析不能を示しています!」
そこに國村の無線が入る。
「レーザー兵器じゃないんでしょうか?」
それに遠藤が答える。
「6号機、憶測で発言は控えろ!確かにそう見えるかも知れないがレーザーやビーム兵器と言う物は、そう簡単な物では無いんだぞ!」
しばし流れる沈黙・・・
そして伊達が話し始めた。
「2号機、あの武器についてどう考える?」
「はい・・・私も断言は出来ませんが、私の知っているレーザーやビーム兵器とは何かが違うと感じております。
そもそも、レーザーやビーム兵器と言う物は、大気中で減衰しその威力を100%発揮する事が不可能だと記憶しております。
アメリカのYAL‐1(Airborne Laser)や、アメリカ/イスラエル共同開発のTHEL(Tactical High‐Energy Laser)戦術高エネルギーレーザーは、すでに実戦配備されていますが、あの兵器のように短波光線ではなく、目標を破壊するまで連続照射しなければなりませんから、レーザーの可能性は低いと思われます。
どちらかと言うと、ビーム兵器に近い感じを受けますが、なんらかの粒子を収束して撃ち出すのがビーム兵器であり、最近EUで発見された新粒子によるビーム兵器もまだ実用段階に至らない事や、本来レーザーやビーム兵器は光速度なのに対し、3号機からの情報だとあの兵器の初速は約2300m/Sec、現用の砲よりかなり高初速ではありますが、光速で無い事から・・・全く別の兵器だと思われます!」
恐らく、遠藤の言葉の通りだろう・・・
沈黙を続けていた伊達は、その言葉を聞くと決断した。
「各機、戦闘配置!」
伊達の声が響く!
各々の思いを抱きつつ、各員が力強く操縦桿を握り締めた。
「小隊はこれより敵、多脚機動兵器を殲滅する。街に近い目標をa郊外の目標をbとしaより各個撃破する!付近にはまだ多数の日露地上部隊がいる。
困難ではあるが、秘匿行動に心掛けよ!」
『「了解!」』
そう答えた小隊が動き出す。
スリープモードにより減光していたHUDのパネルが本来の光力を取り戻すと、ジェネレーターが駆動を始め独特な機械音を響かせながら鋼鉄の身体にオイルという血液を循環させて行く。
「ピッ!」
「特機1より特機7、日露地上部隊の視界を遮断する!※火集点KA107.KA118に即時煙覆、煙覆時間120秒!」
「7号、了解!」
※火集点=火力集中点の略。砲兵随伴時、事前に地図上に設定してあるポイント
応答してすぐに行動に移る7号機。
機内通信の高見1尉と君嶋3曹の声が響く。
「オートバランサー」
「チェック!」
「両脚ホールド」
「ホールドよし!」
「即時煙覆射撃、火集点KA107、座標1120‐2632。火集点KA118、座標1126‐2534」
「チェック!」
「2個目標に※TOT」
(※Time On Target=同時弾着射撃)
「了解!」
「弾種、WP(黄燐発煙弾)Fire control」
「FCS切り替えよし!」
「緒元算定完了、自動入力、試作※ETCG電圧調整よし、射撃準備完了!」
(※Electro‐Thermal Chemical Gun=電子熱化学砲)
そう言うと林の中の巨体は動きを止めた。
そして・・・
「カウントダウン!5秒前・・3・2・1・発射!」
高見1尉の声と同時に林内に連続した砲声と、電子熱化学砲の青白い砲炎がほとばしった!
砲炎はすぐに砲口制退機により掻き消され、砲声が止まぬうちに第2射目が続く!
瞬く間に12発の砲弾が闇夜に消え、7号機は通信を開いた。
「7号機、発射完了!繰り返す!発射完了!弾着20秒前!」
「弾着~今!!」
号令と同時に12発の発煙弾が着弾し、爆音を響かせながら辺りに白煙の壁が形成された。
そう・・・
それは、まるで彼等の開戦の狼煙のように




