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決着 1

立ち昇る黒煙と、新たに出現した白い煙壁!


一瞬にして日露地上部隊からバウークの姿が遮られ、騒然とした現場はさらに混乱する。



だが、それは日露地上部隊だけで無く、バウークに搭乗するガーリン少佐も同じだったのである。




突然の飛翔音と眼下で炸裂した発煙弾。


照準していたT95が一瞬にして視界から消えると、まるでホワイトアウトでもしたかのように画面が真っ白になったのだ。


それが発煙弾によるものだと直ぐに悟ったガーリンの耳に、今度はレーザー警報が飛び込んで来る。


先程もロシア軍からレーザーロックを受けていたガーリンは、それが同一の物であると判断し余裕を見せた回避行動に移って行く。



新兵器に搭乗している事からくる慢心と言う物だろうか?


それが後に命取りになるとも知らずに・・・



ガーリンは、回避行動を取りつつレーザー照射を受けている方向へと機体を向ける。


そうする事でレーザーを照射している戦車の姿を捉えられると思ったからだ。


だが、戦車どころか探知レーダーは何も捕える事は無かったのである。


探知レーダーを近接攻撃用0~2000mに設定していたガーリン。


そのモニターに広がる雪原と立ち昇る黒煙・・・


その遥か後方の暗闇が一瞬輝くと、黒煙の一つに穴が穿たれ、強烈な衝撃がバウークを襲った!


これが彼に取ってもバウークに取っても初の被弾である。


それにより錯乱状態に陥ったガーリン


メインモニターは被弾により機能を失い、けたたましい警告音が機内に鳴り響く。


それがガーリンの恐怖心を更に煽り立て、サブモニターに切り替えた彼は、その場からの離脱を計ったのだ。



ラドチェンコとの交信も忘れ全速力で離脱する化け蜘蛛。


そこに容赦なく精密誘導砲弾の雨が降り注ぐ!



連続する至近弾を必死に回避しながら郊外へと向かうガーリン。


それが特機小隊によって誘導されていようとは・・・


今の彼には予想すら出来ずにいた・・・


月夜に輝く白銀の機体が雪煙りを上げながら郊外へと向かって行く。


先程まで絶え間無く降り注いだ砲弾も進路を変えた途端に止んだ事からガーリンは敵砲兵の射程から離脱出来たと考えていた・・・


「ピッ!」


「特機3より1号機、目標a間もなくKPキルポインへ入ります」


「1号了解!」


伊達はそう答えると自機の120mm砲に初弾を装填した。


前回も少し記したが、彼等が今作戦から装備している主砲メインウエポンは、新に採用された試作型電子熱化学砲[ETCG]である。


聞き慣れない言葉だと思うが、この砲は火薬を使用した砲と大きく異なり液体の装薬を使用した砲なのである。


悪戯に火薬の量を増やしても、砲の初速と言う物には限界があるのはご存知だろうか?


火薬の最大初速は約1800m/secであり、これ以上の初速を求めるには火薬には限界があるのだ。


速ければ速い程良い訳では無いのだが、初速が向上する事により、命中時間の短縮、命中率の向上、弾道の安定化、等の利点が発生する。


液体装薬の主は、『アルミ』と『水』で、軍機につきその他の原料や詳細については話せぬが、発射原理について簡単に記そう。


この液体装薬アルミに大量の電流を流すとプラズマ化する。プラズマ化したアルミは、水から酸素を奪い発熱・・・属に言うテルミット反応である。


さらに、水から独立した水素はテルミット反応によって膨大なエネルギーを生み、そのエネルギーによって砲弾を射出するのだ。


これにより火薬の限界を超えた約1980m/sec~3000m/secの初速が可能となる。


また、液体装薬は流す電流の量を調整する事により、射距離を自在に変化させる事が可能で、間接射撃をする7号機には、電流のコントロール機能が付加され、それにより、飛距離に応じて火薬を調整する作業が無くなったのは言うまでも無く、従来の砲弾も使用可能なように配慮された次世代砲が電子熱化学砲なのだ。



その砲のチャンバーに初弾が装填され、鈍い金属音が辺りに響く。


そして伊達は話し始めた。


「1号機より各機、先程の4号機の射撃は確認したと思う。4000という距離ではあるが目標はあの砲弾を弾く重装甲と特殊形状の機体である。十分注意して対処しろ」


『「了解!」』


伊達は、それを聞くとKPへと向け前進を開始した。


ナジェージタの中心地より北に5Kmの地点。


ここにはもう建物どころか立木の姿もなく、ただ一面に真っ白な雪原が広がっていた。


そこを化け蜘蛛こと、バウーク2号機が雪煙りを上げ疾走する。


ガーリンも大分落ち着いたのであろう・・・


その機体は徐々に速度を緩め、雪原の中央でその足を止めた。


仮にも彼は、世界最大の民間軍事会社ホワイトクリフの少佐である。


ただ、歩兵としての戦闘とは違い、馴れない機体に搭乗しての戦闘で被弾した事が、彼をまるで素人のような行動に駆り立てたのである。


どんなに優れた兵器があっても使い方が判らなければ意味を成さないのと同じで、彼は戦闘のプロではあるが機体の操縦に関しては素人と言っても過言では無いのだ。


しかし、そんな彼でもロシア軍地上部隊を壊滅寸前まで追いやる事が出来るバウークのシステムはその優秀さを物語っていた。


「局長!こちらガーリン、聞こえますか?」


「ああ、聞こえている。どうした?そんなに慌てて」


「はい、たった今、地上部隊の反撃を受け少し下がった所です」


「なに?後退だと?」


「はい、何からかは判りませんが被弾してメインモニターを破壊されました」


「なっ!あれほど2000m以内の敵には注意しろと言ったではないか!(これだから軍人と言う者は・・・脳みそまで筋肉で出来ている)」


「そ、それがレーダーには何も映りませんでした」


「何?どう言う事だ?」


「はい、レーザー警報が鳴ったので機体をそちらに向けたのですが、2000m内に目標の姿を捕える事が出来なかったのです」


「探知距離以外から攻撃を受けたと言う事か?」


「はい、それに敵は砲兵まで投入して来ました。街の中心地はすでに射程に入っています」


「?変だな・・・我々が行動する前に確認した偵察衛星の情報では重砲部隊の存在は確認出来なかったのだが・・・何か嫌な予感がする・・・単独行動は危険かもしれん!こちらはもう少しでかたずく、ガーリン!街で合流するぞ」


「了解しました」


ガーリンはそう言うと機体を反転させ、機首を再度街の方向へと向け歩き出そうとした。




だが・・・



その瞬間、青い閃光が目の前を横切り雪原に爆音を響かせる。



小隊の攻撃が始まったのだ。


バウークが機を反転させた事により、2号機が放った砲弾は目標に命中する事なく地面へと突き刺さった。


レーザー探知対策として手動照準射撃を行ったのも外した原因の1つなのだが・・・


それはさておき、これにより小隊の攻撃は敵に察知される事となった訳であるが、小隊はすでに次なる行動へと移行していたのだ。



全周を警戒するバウーク。



しかし、光学迷彩や対赤外線コーティング等、各種装備がなされた特機小隊をバウークのセンサーは捉える事が出来なかったのである。


ガーリンに数分前の記憶が蘇る。


「どうなってやがる!」


彼がそう言った時、動体探知機が反応を示した。


直ぐにその方向へと機を向けるガーリン!


そこには・・・


光学迷彩を切った5号機の姿が映し出されたのだ。


モニターに映る2足歩行型の機体・・・


「あれは、Type21!!」


そう、ベンヌの主要幹部なら彼等(特機小隊)の存在を知っている。


「施設にヤポーシカが来ていたが、まさかこいつらまでいたとは!」


ガーリンはそう言いながら5号機に照準を定めようとする。


だが、


既に照準を定めていた5号機から先に発砲が始まった!


40mm機関砲の砲炎が雪原を照らし、無数の曳光弾がバウークへと伸びて行く!


だが、流線型のボディーと装甲がまたしてもその効力を発揮してしまうのだ。


弾かれる砲弾!


そして、バウークの反撃!


背中の砲が開くと、赤い閃光が5号機を襲う。


後に判る事なのだが、バウークに搭載されたこの兵器は、LN砲(Linear Needle Gan)と名付けられるベンヌ開発のオリジナル砲であった。


特殊な金属の棒にビームを纏わせ、リニアライフルにより撃ち出す・・・各国の最新技術の集合体とも呼ぶき恐るべき兵器なのだ。


戦車の装甲をも融解貫通する砲弾が次々に吐き出されるのだが・・・


機動力の優れる21式を砲弾は捉えられなかったのだ。


機動力を犠牲にし重装甲化したバウークと機動力の21式、対象的な2つ機体の人類史上初の死闘はこうして幕を開いたのである。

5号機の跳躍により、舞い上がる雪煙り!


その雪煙りを数本の閃光が貫いた!


あれから数分、バウークの乱射ともいえる砲撃は続き、40mmの効力が無いと判断した5号機は回避に専念していたのだった。



「どうした!逃げてばかりではこの私は倒せんぞ!」


と話すガーリン。


《ピピッ!》


その機内に突然コール音が鳴り響く。


疑う事なく無線を開く彼だが・・・


「誰が1機だけと言った?付け上がるのもそれまでだ!」


ラドチェンコと思っていたその通信と異なる声が彼の耳に飛び込んでくる。


それは、3号機が解析したバウークの無線周波数を使用し2号機がそう話した物だった。


「何っ!!」


驚くのもつかの間、特機の反撃が始まる。


不意にバウークの視界から消える5号機。


それと同時にまた機内に警告音が鳴り響く!



直ぐに機体をそちらに向けるガーリンだが、そのモニターに映し出された物はあの青白い砲炎であったのだ。


「ひぃぃ!」


言葉に成らない声を上げながら、右へと回避するバウーク。


だが、始めの砲撃と違い2号機が放った120mmHEAT弾はその足へと食らい付いた。


着弾!


何千度という爆炎の大輪がバウークの下で咲き開く!



その破壊力は凄まじく、被弾した左第二脚部だけでなく、隣接する第三脚部も同時に吹き飛ばしたのだ。


付け根から黒煙を上げ、まるで血の様な作動油を雪原に大量に撒き散らしながらも、機に搭載されたオートバランサーが機体を立て直し堪えるバウーク!



そして見えない敵に対しリニアニードル砲を乱射する!


そして、


「卑怯だぞ!姿を見せろ!」


と無線に向かい叫んだのだ。


「卑怯?お前も軍人なら判るだろう?そんな言葉が戦場で通用するとでも?お前が日露地上部隊に対して行った行為の数々・・・」


そこまで話した遠藤に今まで堪えたその記憶が蘇る。


そして少し間を置き話し始めた。


「たが、我々もただの殺戮集団では無い。貴機に対して降伏を勧告する!速やかに武装解除し投降セヨ!」


と告げたのだ。


「誰が黄色い猿なんかに降伏するものか!」


すぐに返るガーリンの通信を聞いた遠藤は・・・


「了解した。貴機を全力を持って排除する!」


と答えた。




「隊長!聞いた通りです」


「了解した!」


遠藤の報告を聞いた伊達の命令が飛ぶ!

 

「7号機、こちら1号機!精密支援射撃要請!私の合図で敵、多脚機動兵器へ直接砲弾を撃ち込め!」


7号機の「了解」の言葉を待たずに1号機はすぐに次の命令を下した。


「5号機!再度、光学迷彩を切り敵の注意を引け!」


「4号機は、右側面の脚を狙撃!敵の機動力を奪え!」


「3、6、は待機!残りは4号機の射撃後、各個に射撃を開始セヨ!」


『「了解!」』


各機が伊達の命令に答える!


そして5号機がバウークの前に姿を現したのだ。


「ようやく姿を現したか!」


そう叫びながら再び砲撃を開始するバウークだか、その砲弾はまたしても目標を捕らえる事は出来なかったのである。


そこへ4号機の精密狙撃が加わる!


発射音とほぼ同時に着弾する砲弾は2号機が放った砲弾同様にバウークの銀色に輝く巨大な足を見事にもぎ取った!


本来の機動力の半分以上の機動力を奪われた化け蜘蛛であるが、それでも砲撃の手を緩める事なく、反撃に転じている。


4号機の砲撃が合図となり各機の自由射撃も始まり、十字砲火に晒されるバウーク!


その独特なボディーと装甲で致命弾は無いものの爆炎が機体を包み込んだのだ。



そして・・・



その砲声がやんだ時、伊達の命令が飛んだ。


「今だ!7号機!」


その命令と同時に3Km後方に配備された7号機の155mm砲から2発の精密誘導砲弾が放たれた。


バウークの周りの爆煙が晴れる。


ボロボロになりながらも健在するバウークの上方に迫る砲弾。


その砲弾は、真上よりほぼ直角に化け蜘蛛の背中と頭と呼ぶべき場所へ突き刺さった。


「おのれぇぇぇえ!」


ガーリンの最後の叫び。


堅固な目標を攻撃する時に用いられる遅延信管が作動し、伝爆薬が砲弾本体のTNT爆薬に点火する!


そして機体が一瞬膨らんだかのように見えた化け蜘蛛の巨体は大爆発を起こしその最後を向かえたのだった。


その最後を見届けた伊達から通信が飛ぶ。


「目標aの破壊を確認!各機次に目標へ移行しろ!」


そう言うと小隊は、メラメラと燃えるバウークのもとを後にした。


その頃・・・


ロシア軍の司令部付近にいたラドチェンコはガーリンの通信により、彼等(第1特別機動小隊)の存在を知った。


当然、ガーリンよりも21式について知識もあり、ベンヌにとって脅威である事も認識している。


その彼等がたった今、僚機であるガーリンの機を撃破したのである。


ラドチェンコは迷った。


組織の情報によると彼等の総数は6機。1対6では誰が考えても多勢に無勢であり、勝敗は目に見えて明白である。


だが・・・


自分が作ったこの機体に絶大なる自信を持ち、ここで彼等の1機でも葬る事が出来れば・・・


組織においての彼の評価は確実に上がり、念願であるナイトのポストへ近づくと考えたのである。


しばしの沈黙・・・



そして機体は進み出す。




「!」


「隊長!!」


3号機、工藤の声が響く!


無人偵察機で確認していたもう1機のバウークが急に進路を変えたのだ。


合流する為に郊外へと向かっていたラドチェンコの機を予想して前進していた小隊の動きが止まる!


「3号機、細部を報告しろ!」


と、伊達の通信に工藤が答える。


「はい!こちらに向かっていた目標bが転進!ナジェージタ中心地へ向け前進中です」


「何っ!それはマズイ!市内にはまだ日露地上部隊が多数点在する!各機なんとしても目標bを郊外へ移動させるんだ!」


そういいつつ機体を追う小隊!


ラドチェンコの真意をこの時、誰一人として判る者は居なかったのである。



これから小隊に訪れるであろう悲劇も知らずに・・・

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