Operation Start 3
同時刻
連邦開発局 内部
陸上自衛隊・特殊作戦群2個小隊は、施設内部に侵入すると6つの分隊に分かれ行動を開始していた。
<ピッ!>
「アルファリーダー。こちらアルファ5、スペッツナズが施設内に突入。現在施設警備部隊と交戦中」
そう話すのは、第1分隊の橋本曹長である。
「アルファリーダー了解。ポイントマン、警戒しろ敵は近いぞ!」
アルファリーダーこと、西郷1佐が先頭を歩く隊員に注意を促す。
彼等は、目的である重要人物の捕獲及び組織の情報収集の為に行動していたのだが、事前に入手した施設見取り図と侵入した施設内部がそれと異なり、行動に遅れが出ていたのである。
「サーモシステムを活用しろ!」
西郷が再度ポイントマンに命令する。
ポイントマンは、コクリと頷くと腕に取り付けられた端末のスイッチを入れ歩き出した。
彼等が装備しているのは、先進個人装備システムであった。
日本板、次世代統合型歩兵戦闘システム ランド ウォーリア(LandWarrior)である。
2007年にガンダムの愛称で技研から発表されたこの装備は、改良に改良を重ね第4世代個人装備システムとして特戦群に配備された最新装備であった。
問題点であったバッテリーも、小型化と軽量化に成功し、一回の充電で約72時間の行動が可能であり、ソーラー充電や手動充電も可能で、長期間の作戦行動も可能なように配慮されていた。
又、西郷が言ったようにサーモシステム(熱感知装置)や暗視装置、各隊員の視覚の共有化、対赤外線コーティング等の装備も充実しており、改良ケプラー板は、従来のケプラー板の半分の厚さで7.62mm弾を防ぐ効力を有していた。
そして、この装備の最大の売りは他にもあったのである。
通称―【カメレオン】と隊員に呼ばれるシステムで、21式の光学迷彩とまでは行かないものの、表面を覆う特殊な生地が装備の色を自在に変え、雪原なら白、密林では迷彩と地形に応じて従来なら装備を変えなくてはならない物がこのシステムにより自在に対応が可能になったのだ。
余談ではあるが、法改正後の日本企業が兵器開発に参入し、これらの新技術を次々に開発、一部ではあるが輸出し、又その応用技術により新たな家電製品やその他の産業にも大きな影響を与えた事により日本の景気は目まぐるしく回復していたのである。
その他にも、メタンハイドレートの液体化、安価な採取技術の確立、それらを使用した自動車や次世代エネルギーの開発などにより日本は莫大な利益を上げ、国防予算も大幅に向上したのは言うまでも無いだろう。
そして話は特戦群へと戻る。
幅が約2メートルの中央廊下、そこを西郷率いる第1分隊が前進する。
数分前に第5分隊が施設の発電施設を爆破し、非常灯の淡いオレンジ色の光が廊下を照らし、その奥からスペッツナズと施設守備隊が交戦してると思われる銃声が絶え間無く彼等の耳に届いていた。
そして、その銃声は次第に近く大きな音へと変わって行く。
彼等は、守備隊の真後ろへと接近していたのだ。
守備隊が懸命に応戦している背後に付いた第1分隊。
隊員の視線が隊長である西郷へと向けられる。
西郷がコクリと頷くと、彼等はサイドポーチより手榴弾を取り出し、ピンを抜き前方で唸りを上げるバリケード銃座にそれを投げ放つ。
<パン!パン!パン!>
テレビや映画で見る手榴弾とは違い、本物の手榴弾は撃鉄が雷管を叩いたことを告げる発火音をさせながら、放物線を描き銃座の中へと消え、轟音と共に爆発した。
これも、映画等とは異なり派手な爆発は起こさずTNT火薬の力により殺傷力のある鉄球を周囲にばらまくのである。
そして、爆発が収まると同時に数名の隊員がバリケードの中へと突入して行く!
スペッツナズに無線で発砲を止めさせ、生存者にとどめの銃撃を加えて行く。
残酷という言葉は戦場では存在しない。
殺らなければ、次に彼等と同じ運命を辿る事になるのは自分たちなのだから・・・
第1分隊員が到着してから、ほんの数分で1つの銃座は沈黙した。
時を同じく、数個の分隊も交戦し不意急襲で守備隊の銃座を黙らせていった。
そんな中、第4分隊から敵が処分中であった組織に関する書類とハードディスクを確保したとの連絡が届けられ、継いで第6分隊から応援を求める通信が飛び込んで来る。
<ピッ!>
「アルファリーダー、こちらフォックスリーダー(北上2佐)現在、幹部と思われる数名を発見、守備隊に阻まれ交戦中!至急増援を求む!」
「こちらアルファリーダー、了解した。至急そちらに合流する」
そう言うと彼等は、第6分隊がいる場所へと駆け出していた。
第6分隊から通信を受けてから数分が経過した頃・・・
第1分隊は、彼等のビーコンを頼りに現場へと向かっていた。
しばらくするとRPK(ロシア軍軽機関銃)の軽快な発砲音が耳に入り、継いで応戦している第6分隊の後ろ姿が見えて来る。
跳弾が壁を伝い、耳障りな音を響かせ飛び回る中、フォックス リーダーこと北上2佐がいる場所へ西郷は滑り込み状況を尋ねた。
「状況は?」
「はい!この階を検索中、ターゲットの施設局長ラドチェンコ及び、警備隊長らしき人物を発見し捕獲を試みました。しかし、運悪く駆け付けた守備隊と鉢合わせ現在に至っております!」
「それで目標は?」
「発砲を続けている銃座奥、格納庫らしき施設へと入るのを確認。当初、ロシア軍より渡された施設図面には無い場所で細部は不明です」
「そうか、まずあの銃座を黙らせるのが先決だな」
そう言いつつ、西郷は銃弾が飛び交う遮蔽物の陰からガンカメラを出し銃座を覗く。
その直後、RPKの銃声を掻き消す爆音が通路へと響き渡る。
その爆音と同時に、今まで7.62mm弾を弾いていたコンクリートの柱が砕け、裏で応戦していた隊員を吹き飛ばした。
「なっ!」
西郷は、一瞬の出来事に声を上げる。
近くにいた隊員が応急処置をすべく、吹き飛ばされた隊員の下へと行くのだが・・・
少し離れた場所から見る西郷らの目から見ても生存は絶望的だったのだ。
「下がれ!」
瞬時に何が起こったかを悟った西郷の声が通路に響く。
西郷の声に反応する隊員達であったが・・・
それを敵が待つはずも無く、絶え間無く撃ち続けられる軽機関銃と先程の轟音が今度は連続してSFGの隊員を襲ったのだ!
その重く響く銃声は、守備隊が設置した机やロッカーを積み重ねボディーアーマーを被せただけの簡易遮蔽物に大穴を開け、その陰にいた隊員を吹き飛ばして行く。
「重機関銃!?」
その光景に隊員の一人が叫び、すかさず西郷が答えた。
「いや、あの発射速度と交戦時間から考えると重機関銃の可能性は低い!恐らくは対物ライフルだ!各員速やかに強固な遮蔽物に隠れるんだ!」
隊員が吹き飛ばされる中、自分が何もしてやれない悔しさを抱きつつ、西郷は新たな打開策を模索していた。
精強無比と言われる男達・・・
各部隊から集められ、現在まで想像を絶する過酷な訓練を積み重ねて来た陸自最強部隊。
だが、その誰もが撃たれた経験などあるはずも無く
腕を吹き飛ばされた隊員や、ボディーアーマーの横からはみ出す腸を必死に戻そうとする隊員が泣き・叫び・のたうち回る。
その隊員達の声さえも、守備隊の軽機関銃と対物ライフルの銃声が容赦なく掻き消し、止む事の無い死の旋律を奏でている。
そこに別分隊の到着を知らせる無線が飛び込んで来た!
「エコー及びブラボー分隊到着!現在地、アルファ・フォックス両分隊、後方100(m)」
「アルファリーダー了解!エコー3、そこから対物ライフルの射手が見えるか?」
「こちらエコー3確認!」
「よし、直ちに潰せ!他の分隊はエコー3の援護!奴らの気をそらすんだ!」
西郷が命令した隊員、エコー3こと第5分隊・富浦3曹は狙撃手である。
他の分隊にも居ない訳で無い・・・だが、第1分隊の射手は目標に近すぎ、第6分隊の射手は対物ライフルの初弾で絶命していた。
富浦が目標を潰すべく位置を移動する。
すぐに各分隊の援護射撃が始まり、敵の銃火と共に大音響が通路に木霊した。
そして、富浦が目標の対物ライフル射手に照準を合わせると、19式自動対人狙撃銃のセレクターを下げたのだ。
19式自動対人狙撃銃――陸自が2019年に採用した純国産のセミオート対人狙撃銃である。
従来のM24ボルトアクションライフルでは連続的な射撃による牽制などが行えない点が市街戦に向かず、セミオート狙撃銃の精度向上もあってSASS(セミ・オートマチック・スナイパー・システム)として豊和重工が制作した物であった。
その19式の銃口から7.62mmの塊が飛び出して行く。
銃声は、直ぐに周りの銃声に掻き消されるが、銃弾は対物ライフルのスコープを抜け、それを覗く射手の頭を貫いた。
対物ライフルの爆音が止む!
継いで軽機関銃の銃声も止んだ。
富浦が狙撃したのだ。
その瞬間、バリケードから数名の隊員が乗り出し、小銃下部の40mm擲弾を発射する。
鈍い発砲音と共に反対側のバリケードまで飛翔し空中で爆発!
その爆発で守備隊は沈黙した。
硝煙や血の臭いが立ち込める通路
バリケードを乗り越え、数名の隊員が駆け出して行く。
「クリア!」
レシーバーごしに制圧完了の報告が入る中、衛生隊員が負傷者の応急処置を始めていた。
戦闘時間、約35分・・・その戦闘でSFG5名の命が失われた。
守備隊に至っては12名が死んでいる。
これが戦闘だ。
今回は日本側が勝つ形になったが・・・何が起こるか判らないのが戦場であり、正規戦になればその数も更に増え、何百何千という数の命が消えて行く。
数分前まで西郷の隣にいた藤本3曹・・・今年配置になったばかりの隊員で25になったばかりだと言っていた・・・
その彼らしき遺体が西郷の前に転がっている。
彼は対物ライフルの射撃を受け、首から上が無くマネキンのようにさえ見える。
必死に彼の顔を思い出そうとするのだが・・・
(すまない)
心の中でそう呟いた西郷はバリケードを越える。
後から合流したデルタ分隊に負傷者を任せると、目的を達成すべく歩きだしたのだ。
すると、守備隊の死体が目に入る・・・
そこには、隊員らの命を奪った対物ライフルが転がっていた。
太い鉄パイプを数本繋ぎ合わせ、先端に旧式戦車の砲口制退機を付けたような形の対物ライフル。
ゲパードM3アンチ・マテリアル・ライフルである。
ハンガリーのMOMウォーターメジャーリング社が開発した大口径ライフルであり、M1・M2は12.7 mm弾を使用するのだが、このM3は更に強力な14.5mm×114機関砲弾を使用する対物ライフルでる。
名前の通り、本来は装甲車両やヘリコプターに対して使用する目的で開発された物なのだが、従来のライフルより射程が長く、対スナイパー兵器としても活躍しているライフルなのだが・・・対人使用はバーグ陸戦協定により禁止されているのだ・・・
だが、軍を始め警察までもが数多くのアンチマテリアルライフルを装備し使用しているのが現状であり、戦争になればそんな事は通用しないのである。
どんな兵器でもあれば使用するのが人間であり、それを創造したのも人間である。
それが現実なのだ・・・
(皆、無事に・・・)
作戦前に話した言葉が脳裏を過ぎる。
西郷は左手に持つ藤本の認識表を強く握り締めると、それを胸に閉い進み出した。




