極寒の地 2
天幕へと戻った日本部隊。
天幕とは言っても60人以上が優に入れる大型の物である。
車両や戦車等を整備する目的で開発された物を改良した物であり、内部には個室や作戦室も存在していた。
そこへ到着すると西郷1佐は同行した幹部達から大量の質問を浴びる事となる。
「隊長!どういう事ですか!」
第2分隊長の山田3佐が少し大きな声で尋ねる。
他の幹部も彼に乗じ室内はがやがやと騒がしくなって行った。
「静かにしないか!それでも貴様ら部下の命を預かる幹部自衛官か!」
そう叫んだのは副隊長の北上2佐であった。
静まり返る作戦室。
「北さん・・・まぁ、そんなに熱くならずに。彼等だってここへ来る前から耳にたこが出来るくらい聞かされた作戦と違う話が返って来たんだ。聞きたくもなるだろうに・・・」
そう言いながら幹部達の前に立つ北上の肩を叩き、彼の横へと出る西郷1佐に北上2佐は話を続けた。
「隊長!部下の前です。ちゃんとした名前で呼んでもらわないと部下に示しが尽きません!」
「固い事は抜きにしようや!これから戦場で戦う仲間じゃないか。彼等だって納得出来ない状況で作戦に望んだらそれこそ作戦に支障をきたすと言う物だよ」
西郷の言葉にまた彼の悪い癖が出て来たと思いつつ、北上2佐は席に付き西郷が話を続ける。
「緒官、先程ニコライ大佐が我々を〝支援部隊〟と言ったがこの計画は我々日本が立案し、本当なら彼らの支援の元で作戦を遂行するはずだった物であるから・・・緒官らは怒っているのだろう?
そんな事はどうでも良いではないか!
作戦や我々の行動が変わった訳でもないだろう?
どっちが主役でどっちが脇役などと言った肩書きにこだわっているようでは旧軍と何一つ変わらんではないか?
我々は・・・与えられた任務をこなす。
結果はどうであれ皆で生きて日本に帰ろうではないか。
評価と言う物はおのずと努力した者にもたらされる物なのだよ。
部下の命を預かる我々だからこそ、その事を肝に命じて行動しなければ成らないではないか!
緒官らもまだ各分隊や装備の最終確認がまだであろう?
速やかに行動に移ってくれ!以上、解散!」
西郷の言葉にあっけに取られつつ尻を蹴られた幹部達はあっと言う間に部屋を後にする。
西郷はそれを眺めながら以前これと同じ事を、〝ある〟人物に言われた事を思い出していた。
その頃―――――
特機を載せた富士輸送機編隊は中国とロシアの国境線上を無事通過し、アルグン川を越えるとブリヤート共和国の上空を飛行していた。
防空惘に引っ掛かる事なく順調に飛行を続ける4つの巨大な翼に日本技術の高さを感じながら・・・
そんな中、機長から通信が入る。
「富士1より、特機1。まもなくバイカル湖上空。現在まで異常なし!降下ポイントまで約15分」
「特機1了解」
伊達はそう答えると再度通信のボタンを押した。
「特機1より、小隊各機。聞いた通りだ!降下開始まで約15分。各機、火器管制システム及び全システムの最終チェックを実施しろ。
降下完了後は作戦開始まで無線封止。各機は示されたポイントで隠蔽し待機せよ!」
『「了解!」』
各機からの無線を確認した彼は自分の機体のチェックを開始する。
そうこうしている間にも富士は飛行を続け・・・
15分後・・・降下ポイントへと達したのであった。
8つの大型パラシュートが無事地面に降下した事を確認し帰路へ付く富士を見送りながら伊達も機体を目標ポイントへと進めて行く。
時計を見ると13時を過ぎようとしていた。
作戦開始まで残す所6時間弱・・・彼らの緊張も徐々に高まって行く。
同時刻――――
ロシア連邦 某所
第5連邦技術開発局
ここはナジェージタと言う田舎町・・・実はそうでは無くロシアの秘密兵器開発局なのである。
地上の建物のほとんどがほぼ無人であり、メインの施設は全て地下に存在した。
その地下3階のオフィースにブランド物のスーツに身を包んだ1人の男がいた。
男は銀色のアタッシュケースを机上に置き、それを開けると通信装置が顔を見せる。
男は手慣れた手つきでそれを操作するとコールボタンを押した。
≪ピピ!≫
電子音と共に相手が出た事を告げるグリーンのランプが点灯し彼は話し始める。
「私です・・・
はい・・・
例の物は最終テストを無事終了させました・・・
はい・・・
データ及び設計図は先程転送を済ませております・・・
はい・・・
了解しました・・・ナイト様」
そう言うと男は受話器を置きウォッカの入ったグラスを手に取りそれを飲み干し呟いた。
「ナイトめ・・・いつまでもそのポストにいれると思うなよ。いずれ必ずお前のポストを越えてやる・・・」
そう言いながら男は、パソコンの画面を覗いていた・・・
≪ピピピ!ピピピ!≫
男が作業をしていると不意にパソコン脇の電話が鳴り響く。
男は作業は止めるとボタンを押し答えた。
「どうした?」
男が話している相手は秘書のナターシャであった。
「たった今、軍管区の方から連絡がありました」
「で?軍がこの時期に何と?」
「はい。例の試作戦車の開発状況を本日の1900頃に視察に来るとの事です」
「・・・ふん。何も知らない軍の犬が・・・判った。各部所にこの事を伝えておいてくれ」
「判りました」
そう言うと電話は切れた。
男の名はスミノフ ラドチェンコ。
この施設の最高責任者であり、自らも兵器開発に取り組む研究員であった。
そして彼にはもう1つ隠された顔があったのである・・・
それは・・・世界統一組織Bennuの幹部という顔であった。
ベンヌとは、古代エジプト神話に登場する不死鳥の名でその名は「光り輝く」「立ち昇る」を意味し、あのフェニックスの元となった鳥の名前である。
エジプト神話において最高神ラーの化身とされ、世界を創造した時その姿で現れたのだという・・・
組織は世界に新たな法と秩序を創造すべく、その名を選んだ。
もともとこの施設の研究員だった彼は独占欲が強く、あらゆる手段を使い主任研究員の座まで昇りつめていた・・・そんな頃、彼の元に一本の電話が入る。
それが彼とベンヌの最初の意コンタクトであった。
始めは頭のいかれた連中だと思っていたのだが・・・
その組織は彼の望む役職へと彼を導いていった。
彼の欲望にいったい何人の人間が冷たいシベリアの土の下に消えた事だろう・・・
ラドチェンコはそんな組織に報いるべく研究に没頭し、本来軍に上げる数々の新技術を組織へと献上して行った。
そしていつしか【ルーク】という組織の幹部の座を掴む事となったのである。
今ではこの施設のほとんどの人間が組織の関係者であり、組織の望む兵器を開発した。
ありとあらゆる世界の技術が集まり、他国の軍の戦闘データまでが彼の元へと届けられる。
一国の研究員ではなく、その巨大な組織の魅力にどっぷりと浸かりさらなる欲望が彼を狂気の渦へと走らせる。
だが・・・現有国家の反撃が静かに始まろうとしていた。
ロシア連邦
ナジェージタ郊外
現地時間 18:20
林の中をゆっくりと前進する白い集団・・・
西郷1佐率いるSGF・第1小隊、総勢30名の隊員たちである。
「第2小隊配置完了です」
小隊付の橋本曹長がノート型の戦場現示システムを見ながら小声で西郷に報告した。
作戦開始まで無線封鎖をしている事もあり、目を向けるとシステムに第2小隊の光点と指定ポイントが重なり点滅している事が確認出来た。
「了解」
西郷はそう言うと双眼鏡を覗き込こむ。
彼の前方、約150m先に木造の大きな倉庫群が見える。
一見普通の倉庫なのだが・・・ここは先に述べた通り偽装された街であり、ロシアの極秘施設なのだ。
主要施設が地下にあると言う事は当然、入り口が存在する。
その他にも換気の為のダクトや、その施設を稼動させる為には数々の設備が必要になってくるのだ。
衛星でここに排気ダクトがある事を確認している彼等はこの場所で警戒待機し、1900にそこへ突入するのである。
「まもなくだな・・・」
そう呟きながら彼は腕時計に目を向ける。
作戦開始まで後40分・・・空を見上げると薄暗くなった空から鳥の羽のような大粒の雪がゆっくりと降り始めていた。
同時刻―――
第5連邦技術開発局
地下第2格納庫
ラドチェンコは視察準備の確認の為に格納庫へと足を運んでいた。
担当の主任や研究員、この施設の主要幹部が顔を連ねる中、黒塗りの試作戦車に目を向ける。
もう数ヶ月前に完成している戦車なのだが軍に見せるのはわざと遅らせた未完成の戦車なのである。
そうやって政府を欺き彼らは今まで研究を続けて来たのだ。
そんな中、研究員の雑談が彼の耳に飛び込んで来た。
普段なら聞き逃すような普通の会話なのだが・・・
「まいったな・・・臨時の視察って・・・娘の誕生日なのに」
「ああ・・・でも変だよな?俺の大学のツレが軍管区の司令部勤務なんだが、そんな話聞いてないって・・・」
「どうせ上の気まぐれだろ!早いとこ準備終わらせようぜ」
それを聞いたラドチェンコは嫌な予感を感じ取ったのだ。
(まさか・・・)
何度かしか経験した事がない悪寒と呼ぶべき物が彼を包み込む。
彼はこの組織の幹部になるべく困難な道を進んで来た。
その中で経験した彼の脳が危険だと告げているのだ。
「警備主任を呼んでくれ!」
彼はそう言うと自分のオフィスへと足を向け進み出していた・・・




