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極寒の地 1



5ヶ月後――――


月日が経つのは早いものであっと言う間に5ヶ月と言う時間トキが過ぎ去ろうとしていた。





新潟県―佐渡島

第1特別機動小隊

格納庫 06:23


 ここ佐渡島にも前日から降った雪が数センチ積もり、格納庫から見える大地山を真っ白く染め遅い朝日がやっと辺りを照らしその雪をキラキラと輝かせている。



「おはようございます!」



格納庫から外を眺める伊達に聞きなれた声が掛かる。



振り向くと遠藤1尉が彼の元へと歩み寄って来た。


冬季の戦闘服に身を包み両手にはコーヒーの入ったカップを持っている。



それを伊達へと手渡し自らもそのコーヒーを口にする。


「いよいよだな」


コーヒーを口にした伊達が口を開いた。


「・・・はい。情報部からの定時報告にも有力な物はありませんでした。やはり行くしか無いんですね」


「ああ・・・敵は我々の想像以上に手強い相手なのだろう・・・我々の存在に一早く気付き軍隊に攻撃して来る組織だぞ。そう簡単にボロは出さんよ」



「そうですね・・・こちらから動かなければ進展は無いと言うことですね」



「ああ・・・だが今回我々の任務は※SFGの支援だ。


 表だって戦闘をする訳で無い事を今一度隊員に徹底してくれ。まぁ・・・彼らならそれも自覚していると思うがな」


(※特殊作戦群:Special Forces Group:SFGp又はSFG)


「はい。あれから自分も含め、メンバーの訓練に打ち込む姿勢が変わりました。実戦を経験している事も大きいのですが、経験していないあの3人でさえ同じ気持ちなのでしょう。


やはり5ヶ月前のあれが彼らを変えたのだと思います」


「だろうな、我々に今後与えられる任務もさらに過酷になってくるだろう。だが我々は進むしか無いのだ」


「判っております。何処までも付いていきますよ」


「また・・・お前に苦労を掛ける事になりそうだな」


「以前にも言いましたが、そんな事はありません!自分がそうしたいから隊長に付いていくのです」


「そうか、頼りにしているぞ。そろそろ集合の時間か・・・それでは作戦室へ行こうか」


「はい!」


そう言うと伊達と遠藤は作戦室へ向け歩き出した。



格納庫には冬季迷彩と新装備を施された21式8機がその彼らを見送るように堂々と並んでいた。









12月8日 AM 0700

同基地内・中央作戦室――――


そこに冬季迷彩の戦闘服に身を包んだ第1特別機動小隊、総員11名の姿があった。



何故、戦闘服なのか?パイロットスーツではないのか?と言う疑問が過る。


それは・・・彼らが万が一撃破された場合・・・


機体を捨てる。


だが、脱出したその場が最前線なのである。


戦闘機や航空機のパイロットも同じではないかと思うが彼らが戦う舞台フィールドは地上なのである。


万が一撃破されると敵の真っ只中に放り出される訳であり、それでも彼らは戦わなくてはならないのだ。いや・・・戦うのではなく生存しなければならないと言った方が正しいのかもしれない。


そう言う観点から彼らは当初交付されたパイロットスーツを着ず、戦闘服を着用するようになっていた。





それでは本題に戻ろう――――



作戦室のドアが開き司令の益田と情報部の遠山1尉が入室してくる。


「敬礼!」


伊達の号令により各員が司令に敬礼をする。


益田は答礼をし着席の指示だすと自らも着席した。


そして遠山が壇上に足を運ぶと話し始めた。


「おはようございます!


 まず始めにこの5ヶ月間、情報部として有力な情報を掴めなかった事を深くお詫びしたい」


そう言うと彼は頭を下げる。だが、すぐに遠藤1尉が反応した。


「そんな事はありません!情報部は一生懸命やってるではありませんか。今回の作戦だって情報部が立案した作戦です。これからが情報部の真価が問われる時です!」



「遠藤1尉・・・ありがとうございます」



遠山はそう話し頭を下げると再び話し始めた。


「それでは現在の状況説明に入りたいと思います。


SFGは無事ロシア連邦に到着、現在作戦準備中であります。


 我々、日本政府とロシア政府・・・正確には情報部とKGB(国家保安委員会)が調整し、彼らも例の組織の存在を認知していた為、スムーズに支援要請を得る事ができ、サバイカル軍管区から第40独立特殊任務旅団・第1支隊と第302戦車大隊からT-90が2個小隊、Ka-50ホークム2対戦車ヘリ2機、Mi-24スーパーハインド2機が現在作戦準備中であります」


そう話す遠山の聞きなれない言葉に高見1尉が質問する。


「独立特殊任務旅団とは?」


「あ・・・スペッズナズと言えばご理解頂けるでしょう。ロシア連邦軍 参謀本部 情報総局 所属の特殊部隊であります。他にもアルファ部隊等の部隊も御座いますが、今回は彼らが特戦群と合同作戦に望みます!」 



遠山は高見1尉が納得するのを確認しつつ話を続けた。


「作戦開始予定時刻は、本日の1900時であります。


工場関係者及び従業員が帰宅し被害が拡大しないように配慮しつつ、主要幹部を叩きます。


敵はまだロシア政府を欺いていると思っており、それを利用し1900に視察をすると偽の連絡をし主要幹部を足止めする予定となっており・・・


 施設の防衛システムや警備状況、作戦地域の地図や配置図、その他作戦に必要と思われる情報は21式へ転送しておきましたのでご確認ください。


 以上で情報部の説明を終わります。ご武運を!」


遠山1尉はそう話すと敬礼をし部屋を後にする。




そして彼等、第1特別機動小隊のメンバーは行動を開始する。







同基地滑走路 08:00


現存する21式専用輸送機【富士】4機すべてに機体が搭載されその大きな翼の航空機がゆっくりと滑走路へと並んで行く・・・


「こちら富士1、離陸準備完了!オールグリン。いつでも行けます」


管制官は益田司令へと顔を向ける。


益田はコクリと頷くと管制官は前を向き話し始めた。


「こちら管制塔!離陸を許可します」


「富士1了解!各機離陸を開始する」


そう言うと巨大な翼は北の空へと向け羽ばたいた。






伊達は――――富士と連動するサブモニターで飛行する外の景色を眺めながら情報部から転送されたデータに目を通していた。


他の隊員たちも各々の機体の中で自分の時間を過ごしているのだろう・・・


初めの頃はこの時間が何よりも苦痛だった。


戦地へ赴く緊張と、任務を達成しなけらばならないという使命感。

そしてなにより部下を必ず連れて帰って来なければならないという責任が彼の肩に大きくのしかかる。


だが・・・任務を重ねる毎にその意識は変わっていった。


確かに隊長というポストに付く彼なのだが、その前に1人の人間なのである。


戦場で死線を潜る事により生まれる仲間意識というもの・・・仲間というよりも家族と呼べる存在に彼らは変わっていく。


そんな中でも各々が一線を引き与えられた任務を遂行するようになったのはいつからだろう?


軍隊という組織では仲間を特に大切にする。それは自衛隊と言う組織でも同じで、実戦経験がなくても、教育・訓練・演習・通常業務の中でも彼らに芽生えて来る物なのである。


確かに我々が今、行っている物は一般人に言わせれば合法的な〝殺人〟なのかもしれない・・・


だが、もしあなたが自分の家族・友人・恋人等、大切な人がそういう危機に瀕した時、どう行動するだろう?


人の命を奪うという事は確かに行ってはならない行為である。


しかし、彼等のような人間が居るからこそ平和という名の物があるのではないだろうか?



その答えは一生見つからないと思う。



それが自分も含め我々が人間だからではないだろうか?





高度1万メートル――――


カメラのレンズに付いた水滴が凍り、それを溶かすべくヒート機能が作動し氷をまた元の姿に変えるのを見ながら伊達はそんな思いに更けていた。


そしてチラッとモニターに目を向ける。


デジタル表示の時計が静かに時を刻み、その上に日付が表示されている。




(12月8日・・・・・!)




皮肉にも今から81年前・・・


1941年12月8日。


この日、大日本帝国(当時の日本)は米英に対し宣戦を布告した。



結果はご存知だと思う。




この大戦で約2千万人以上の命が失われた。




先人たちが血を流し築き上げてきた日本・・・


あの悲劇を繰り返してはならないと言う思いを抱きつつ、彼らはこれから戦地へと赴く訳である。




誰にも知られる事もなく・・・




そして飛行機は北の大地を目指し、順調に飛行を続けていた・・・














ロシア連邦 

現地時間 12:50


ウスチクートより南南東に200Kmの地点。


そこに今、作戦の為に設けられたロシア軍の仮設指揮所及び自衛隊の宿営施設が存在した。


その自衛隊の野外大型天幕に完全武装の特殊作戦群2個小隊。総勢60名の隊員が待機中であった。


「隊長!」


一人の隊員が話しかける。


「なんだ?」


「スペッズナズが到着致しました。これより彼らの指揮官に挨拶に向かいます」


「判った・・・」


そう言うと隊長らしきその男と副隊長、小隊付幹部は天幕を後にする。


コンテナを改造したようなロシア軍の仮設指揮所に入った彼等は、そこでスペッズナズの指揮官と対面する。


「初めまして。特戦群第1小隊長兼、日本部隊最高責任者を勤める西郷 隆英1等陸佐です。こちらは第2小隊長兼、副隊長の北上2佐です」


そう言いながら西郷はロシア部隊の隊長らしき人物に右手を差し出す。


「第40独立特殊任務旅団・第1支隊長のニコライ・マルゲロフ大佐です。隣は副官のイワノフ中佐。ようこそロシアへ!」


そう言うとニコライはがっちりと西郷と握手を交わし話し始めた。



「予定通り、作戦は本日の1900に行います。

しかし、日本政府に言われるまであの施設が例の組織の掌握下に入っていると気付かないとは・・・KGBも・・・おっと、こちらの話しでした。


事前調整はしてると思われますが確かに情報は日本からもたらされた。だが、ここはロシアだ。


自衛隊はあくまでも我々の支援である事を肝に命じて行動して頂きたい」



「・・・了解致しました。我々自衛隊も精一杯御協力させて頂きます。それでは、我々も最終確認と点検がありますのでこれで」



そう言うと西郷他、数名の日本部隊は指揮所を後にした。



それを最後まで笑顔で見送ったニコライ大佐だったが、彼等が指揮所を出るとその表情は変わっていた。



「※ヤポーシカが!少しばかりKGBよりやつらの情報を持っているからと調子に乗りおって。


(※ヤポーシカ=ロシア語で日本人の差別用語)


実戦経験も無いような部隊に何が出来ると言うのだ?


最初から我々だけで事は足りたのだ。それを・・・上層部め・・・まあ良い。彼らの好き勝手にはさせんよ」




そう言いながら彼は葉巻を出すと両端を噛み切りイワノフが差し出すライターで火を付け、大きく吸い込み吐き出した。


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