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反攻への序章 




新潟県――佐渡島

第1特別機動小隊基地

中央作戦室・現地時間 08:30


休暇より急遽戻された彼ら小隊メンバーは1晩休んだ後、ここ中央作戦室へと召集されていた。





何も告げられぬまま1晩を過ごした彼ら。苛立ちと真相を求めようとする探究心を各々が抱きつつ、司令の到着を今か今かと待機していたのである。



≪ガチャ!≫



ドアが開く音と共に全員の視線がそのドアへと向けられた。


そこに基地司令の益田1佐と見慣れぬ幹部自衛官が2名が入室して来る。



「全員そろっているな」


部屋を見渡し司令が呟いた。


「昨日は散々な目に遭わせてしまったな・・・私もこんな事態になろうとは想像していなかった」



ゴホンっ握りこぶしで口を隠しながら軽く咳付くと司令は話し始めた。



「これから諸官らに話す事は今まで以上に機密性の高い物である事を認識すると共に・・・今後は今作戦が終結するまで一切の私的な外出を禁止するものとする」



その司令の言葉に一瞬ざわめきが起こるが、彼等は覚悟を決めていた。



「その前に・・・紹介しなければならない人物がいる。彼等をこちらへ」



司令の言葉の後に閉じられたドアが開き見慣れぬ隊員が3人入場してきたのである。


「紹介しよう。本日より特機に配属となる、高見1尉、神崎3尉、君嶋3曹の3名だ。時間の関係上、自己紹介は後回しだ。私から彼らの簡単な紹介をする」



「まずは、君嶋 キミジマシノブ3等陸曹から・・・

 彼の原隊は装備実験隊で21式のテストパイロットをしていたのだが、その腕を買われ部隊訓練等の専門教育を終了し本日、この隊に配属された。一応レンジャー有資格者で実戦経験こそないもののシュミレーションではかなりの成績を出している」


司令の紹介に1歩前へと出た彼が頭を下げる。


「次は、神崎 カンザキマモル3等陸尉だ。

原隊は第6高射特科郡で、主にこの小隊では対空援護の任に付いてもらう。今までは6号機に負担して貰っていたのが、6号機の専門は破壊工作であるのでその負担は軽減されるだろう・・・



 最後に、高見 由香タカミユカ1等陸尉を紹介する。

 原隊は特科教導団で前進観測班長(FO)射撃指揮(FDC)等の数々の職を歴任した火力支援のエキスパートである。


 機体については7号機に高見1尉と君嶋3曹が機乗。8号機が神崎3尉となる。先も軽く説明したのだが、7号機は火力支援機で8号機が対空支援となるのだが・・・これを諸官らに確認して貰いたい」



益田がそう言うと、後ろから大型のスクリーンが現れ少し形の変わった21式の映像が流れ始めた。



「これは7号機の映像なのだが、撮影日時は昨日の1605時である」


司令の言葉にメンバーが反応する。


そう・・・その時間は彼らが謎の武装集団と交戦していた時間帯なのだった。


メンバーが食い入るようにスクリーンを見つめる。


その映像には他の21式より太く頑丈な2脚を地面にロックし大型の砲を約45°の角度で構える機体の姿が克明に映し出されていた。


その機体の背にはこれまた他の機には搭載されていない、大きなバックパックが装着され恐らくは予備の弾薬等が搭載されていると想像出来た。


その機の上半身がゆっくりと動き出す。


そして・・・その機体がピタリと止まった瞬間、その砲口から1発の砲弾が放たれた。



ここで画像が切り替わる・・・それは21式のHUDの画面の一部と思われた。


様々なデータがHUDに並び、砲弾の予測飛翔経路や気象法、専門的な情報の他に砲弾自体の飛翔画像が表示され、その画面の右上には着弾の予想時間が刻々と時間をカウントしていた。


そして、そのカウントが10秒を切った時、その画像にAV-22の姿が映し出されていたのである。


あっと言う間に接近したその砲弾の画像はそこで途切れノイズだけが画面に映し出された。


驚きの声が上がると同時にそこで画像は止められ、司令が話しを始める。


「これが7号機に搭載された新装備【22式155mmライフル砲と新型誘導砲弾・通称【神眼】である。


 現在、米軍や自衛隊で装備されているカッパーヘッド砲弾やExcaliburエクスカリバー砲弾の様な精密誘導砲弾の改良型で、炸薬の増加と射程の延長に成功し、コストも従来の誘導砲弾よりかなり抑える事に成功した物で、その命中精度は約99%と驚異的な数値を誇る。


 又この砲弾の信管にはVT(近接)やディレイ(遅延)の機能も有しており様々な目標に精確かつ強大な火力を指向出来る。運用次第によっては航空機の破壊も可能だ。


 昨日は、緊急の事態だったので私が彼らに命令し富士で近くの山岳に降下させ支援砲撃を命令したが、これからはこの7号機が諸官らのメンバーとなって火力支援を実施する。有効にこの機体を活用してもらいたい」


その司令の言葉で昨日のあの光景がメンバーの脳裏を過ぎっていた。


正確無比なあの着弾を目の当たりにしたメンバーはつくづくこの機体が味方である事に感謝していた。


「それでは話を本題に戻そう!」


司令の言葉に再度、小隊全員が注目する。


「岩塚1佐、お願いします」


司令がそう言うと着席していた2人の自衛官が立ち上がる。


そして・・・軽く頭を下げると話を始めたのだ。


「始めまして、防衛省・情報部作戦2科より出向して来ました。岩塚1佐と申します。こちらは、私の部下で遠山1尉です。遠山1尉、後は頼む」


「はい!」


岩塚1佐は着席し、皆が腰を掛けている大きなドーナッツ状のテーブルの各人の前の小型のディスプレイが起動し防衛省のロゴが映し出されていた。


「皆様、機密上の観点から配布資料はありませんのでその画面と私からの説明のみとさせて頂きますのでご了承下さい」


そう話す遠山1尉の口調に室内が静まり返る。


「まず始めに、昨日の小隊を襲った謎の集団の説明に入りたいと思います。画面をご覧下さい」


遠山の言葉に全員が画面に注目する。


「皆様は、民間軍事会社と言う言葉をご存知でしょうか?」


数人のメンバーが首を横に振る。


「イラクで米軍が雇用した実績もある組織で、主な業務としては軍隊や特定の武装勢力・組織・国に対して武装した戦闘員を派遣しての警備・戦闘業務に加え、兵站・整備・訓練など旧来型の傭兵と異なり提供するサービスは多域に渡り、近年はさらに向上の一途を辿っている民間組織であります。


【PMC】PrivateMilitary Company

【PMF】Private Military Firms

【PSC】Private Security Company


と様々な名前がありますが我々は以降【PMC】と呼び名を統制し呼称したいと思います。


このPMCが今回、小隊を襲った謎の組織の正体であります」


その言葉に室内がどよめいた。


「あの装備を傭兵が?」


遠藤が呟く。


「そうです。回収した遺体からは、どの組織か特定する様な物的証拠は検出されませんでした。遺体の人種も様々で、白人や黒人、日系人・・・いや日本人の遺体も確認されています。

武器や装備品、どれも西や東側の最新装備で皆様も確認されたと思いますが、最後に出てきたAV-22強襲ヘリ、オスプレイ2に関してはまだ米軍も配備していない新型機でありました。


 この事からも想像出来る様に、敵はかなり強大な力を有した組織である事が判断出来ると思います。ましてやこの銃器の制限が厳しい日本国内にあのような装備を持ち込んだ前例は今までありません。


我々、日本国、自衛隊はこれを間接侵略と受け止め、内閣総理大臣の決裁が下りた暁には直ぐにでも反攻作戦を実施出来る様に計画を進めております」


その遠山の言葉に隊員達は驚愕の表情を浮かべ、遠藤1尉が質問した。


「間接侵略?その傭兵を雇ったのはどこかの国と言う事ですか?」


遠山1尉は軽く頷くとその質問に直ぐに答えた。


「それに付きましては、これから説明に入らせて頂きます」


始めからその質問が来るのが判っていたかの様に遠山は淡々と説明を続ける。


「皆様、再度画面をご覧下さい」


言われるまま全員が画面を食い入る様に見詰め、そこには様々な企業や会社の名前がリストアップされていた。


「画面に表示されている様々な企業、財団、諸団体の名前がリストアップされていると思います。


先ほど間接侵略と申しましたが、我が部隊に攻撃を依頼、又は傭兵を動かしている黒幕は国ではありません。


 まだ特定はしておりませんが・・・我々、情報部が掴んでいる情報ではこれらリストに乗っている企業や諸団体が複合し、何か途方も無い計画を進行中だと言う事が現在確認されているだけなのですが・・・


 南アフリカの作戦以降活発になっているこれらの組織を我々はマークしておりました。アメリカやイギリスの情報機関も動いていると聞きますし、リストを見れば判る様に全世界の企業や諸団体が名を連ねている事からも各国の情報部も行動している可能性があります。


 リストの中には日本国内の企業も含まれ、世界最大の民間軍事会社ホワイトクリフや各国の有名軍事企業の名もあり、その気になれば小国の1つや2つ簡単に制圧出来るでしょう・・・


 この様に全世界の企業が集団で暗躍している事例も前例が無く、集結し独自の国家の様なものを形成しようとしているのです。


 我々はこの事を重く受け止め、対応し、なんとしても彼等が計画しているその作戦と首謀者を潰さなくてはなりません!


 特機小隊の襲撃の件からしても、すでに他国の情報機関より先に我々の存在も確認済みなのでしょう。


 まだ基地までは特定されて居ないと思いますが、海自と空自にはこの佐渡島の警戒を最大まで引き上げ警戒に当たらせております。又、基地警備に陸自の応援も要請しておりますし、21式の部品を生産している各企業には警察の協力を得て24時間体制で警戒に付くことが決まっております」



 

冷静に話している遠山の言葉に、只ならぬ思いがある事にその場にいる全隊員が気付き始めていた。



「・・・私事わたくしごとではありますが、この情報を得る為に我が情報部の隊員が多数、志し半ばで殉職しております。彼らの無念をどうか特機小隊の手で晴らしてもらいたい!」


「遠山1尉!」


岩塚1佐が忠告する。


「・・・失礼しました」


我に返り頭を再度下げると彼は話を続けた。


「取り合えずここまでの説明は皆様、理解出来たと思われますが・・・何か質問は御座いませんか?」


遠山が辺りを見渡す。


誰もが始めて聞くその情報に戸惑いの色を隠せずにいた。


頭ではそれを理解しているつもりなのだが、その組織の大きさやこれから何が待ち受けているのか?


どんな事態に発展して行くのか?誰にも想像出来る物ではなかったのである。


「それでは話を続けます。


 先ほど話した、黒幕や首謀者の特定、その組織の真の目的の特定が今後の情報部の最重要課題となっていく訳ですが・・・今回こちらに出向したのにはこの説明の為だけではありません。



 第1特別機動小隊にその先駆けとなって貰うべく任務の説明に来たのです」



遠山がそう言い終えるとプロジェクターが起動し、彼の側のスクリーンに世界地図が表示される。


そして、自動的に地図はある国を拡大し停止した。


「益田司令、作戦の概要に付いて話しても宜しいでしょうか?」


遠山1尉はそう言いながら司令に許可を求めた。



「ああ、始めてくれ」


遠山はそれを確認するとPCを操作しながら話し始める。


「それでは、情報部より依頼する今作戦の概要に付いて話したいと思います。


 スクリーンをご覧下さい。皆様もご存知の通り・・・ロシア連邦であります。



 そしてここが・・・」


キーボードを操作する音が静まり返った部屋に響き渡る中、スクリーンに映し出された衛星写真はさらに拡大され、何処かの田舎街の上空の画像へと切り替わる。


「一見、普通の田舎街にも見えますがこの街には秘密があり。実はこの街全体が偽装された秘密兵器実験場兼開発工場なのです。


 現在では偵察衛星やUAVの発達により、地上に秘密に出来る場所が無い事は皆さんもご存知かと思います。対応策が無い訳では無いのですが・・・


 我々がそうしている様に先進国のどの国でもこの様な地下施設が確認され、そこで様々な兵器が今も開発されております。


 何が開発されているかは判りませんが・・・この施設はロシアの新兵器研究所でありながら、例の組織との繋がりもあり、主要幹部の1人が居ると思われる施設です。


そこで第1特別機動小隊には、ここを襲撃する特殊作戦群の援護と護衛の任に付いてもらいます。


 我々には情報が足りません!しかも他国の兵器研究所ともなれば警備も厳重で我々だけでは対処出来きないのが現状です。


 今回は陸自の特殊作戦群メインでの情報収集及び、主要幹部の拉致が行われる訳ですが・・・


 ロシア政府とも秘密裏にコンタクトを取り、ロシア軍との連携も図る予定です。しかし、組織が巨大なだけに油断はできません。我々としては万全を期する為、第1特別機動小隊もこの作戦に参加させる事を決定いたしました。


 あくまでも援護と護衛が任務の為、ロシア政府にもこの事実は隠し特戦群のみと伝えます。そのつもりで任務に望んで下さい。


 尚、作戦開始時期につきましてはロシアとの調整や機体の現状から、5ヶ月後の12月X日とさせて頂きます。


 それまで我々情報部も可能な限り情報の収集と組織の解明に当たり、作戦決行までの情報は逐次流しますのでそのつもりでいて下さい。以上で作戦の概要に付いて終わります」


そう言うと遠山1尉は立ち上がりメンバーの前で深々と頭を下げ説明を終わらせると、情報部の2名は退席していった。



その後、沢山の情報を突きつけられた小隊メンバーは各々の思いを抱きつつ、通常業務へと戻っていく。





作戦開始は今から5ヶ月後、そのロシアの地には一体なにが待ち受けているのだろうか?


もはやテロ組織と呼べるものでは無く、企業や諸団体がまとまり、新たな国家となりつつある事実。


彼らの目的とは?


 国家間での戦争は無くなりつつある現代においてテロとの戦いが主流となった今、新たな脅威が生まれ、それに立ち向かう現有国家の今後の指針とは?




――――時代は正に新たな局面に向かおうとしていたのである。


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