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暗躍(下)



「何が起こった!?」


モニターに映し出されたAH-2からの映像が途切れ突然、砂嵐の様なノイズ画面に切り替わり遠山1尉は声を上げた。




ここは偽装指揮分析車の車内


ヘリが交信していたIHQはこの車両だったのである。


彼は直ぐにそれが撃破されたのだと悟り、ヘリが破壊される直前の映像分析をオペレーターに命ずる。


オペレーターは頷くとヘリからの最後の画像を巻き戻し画像を停止させた・・・


そこに映っていた不明機の映像をコンピューターにかけオペレーターは答える。


「不明機判明しました。AV-22強襲ヘリ・オスプレイ2です!」


オペレータに言われた機種を聞いた遠山はさらに驚いた。


「なんだと!?まだアメリカが配備していないオスプレイの強襲型」


AV-22強襲ヘリ(オスプレイ2)これは従来の輸送ヘリであるオスプレイに武装と対地対空の機能を持たせた新型ヘリでアメリカが配備予定の機であった。


強襲ヘリと聞くとロシアのハインドDが有名なのだが・・・アメリカが特殊部隊用に開発したのがこの機体なのである。


「やつらそんな物まで日本に持ち込んでいたのか・・・まずい!向っているUH-60に連絡、直ちに引き帰らせろ!やつらの餌食になるぞ」


「了解!」


直ぐに行動に移るオペレーター。


遠山は自分が取れる最善の策を限られた時間の中で模索していた・・・


(どうする?八戸の第5高射特科郡・・・いや地上部隊は無理だ、時間が無さ過ぎる。どうすれば・・・)


「三沢に連絡・・・スクランブル待機中のF-15に要請!UH部隊は近くで待機、護衛に2対戦ヘリからAH‐64を!」


そう言うと遠山はまた席へと付いたのだ。








同時刻――――


爆音と共に山肌へと墜落するAHを見た原はゆるめたアクセルを再度、踏み込みバスを加速させていた。


「あの航空機は?」


阿部が見慣れぬ黒い機体を指し尋ねる。


「オスプレイだと思いますが・・・あの機には武装が付いています。初めて見る新型機です」


と工藤が答える。


「どちらにしろ、敵には代わり無い!原、真っ直ぐ走るな。狙われるぞ!皆も何かに掴まれ、来るぞ」


伊達が忠告すると同時に山の反対側から黒い機体が現れる。


そして先程の自衛隊機同様に、攻撃位置へと着く為、バスと平行に飛行するオスプレイはその機関砲をバスへと指向した。



バスに指向する30mmチェーンガンの砲口から炎が迸り辺りに砲声が木霊する。


原はブレーキべダルを踏み込み急激に速度を緩めると目前のコンクリートの壁やアスファルト、ガードレールに巨大な穴が穿たれた。


ピッチを変え空中に停止したオスプレイを確認した原は、今度はアクセルペダルを踏み込み、車を走らせる。


だが・・・先ほどのワゴンがそうである様にヘリに対して車両は余りにも無力で脆弱だった・・・


再度オスプレイから発射された砲弾は右フロントタイヤを撃ち抜き、タイヤその物が剥ぎ取られた。


足を失ったバスはガードレールへ吸い込まれる様にぶつかり横倒しとなる。


横転とまでは行かなかったものの、かなりの速度で横倒しになったバスは火花を出しながらアスファルトの上を、まるでスケートリンクの様に滑空し土の法面にぶつかり停止したのだ。








横倒しになった車内―――


頭を抱えながら状況を確認すべく伊達が叫でいた。


「各員!異常の有無送れ」


その言葉に反応したメンバーと阿部は直ぐに伊達にそれを告げていた。


防弾車両とヘリに撃たれた場所が良かった為か、メンバーの誰もが大きな怪我も負わず1人また1人と装備を確認し車外の警戒に入って行く。


謎の襲撃者のヘリはホバーリングで、バスの前方約200メートルの位置から機関砲をこちらに指向し様子を伺っている。


「奴等の目的は何なんだ?」


自らの装備を確認した伊達が阿部に尋ねる。


「恐らく・・・小隊メンバーの拉致、もしくは暗殺が目的だと思われますが・・・後者の可能性は低いと思われます。ですが、我々がここで抵抗すれば彼等も黙って居ないでしょう・・・」


と話す阿部の言葉に誰もが耳を傾けていた。


「隊長!捕まる位なら俺は最後まで戦いますよ」


速水が小銃に初弾を装填しながら話す。


「私も速水2曹の意見に賛成です!戦闘能力は劣りますが、小隊の1員として最後まで戦いたいと思います」


國村3尉もそれに同意し小隊全員がここで戦う意思を伊達へと告げていく。




小隊が戦闘配置に付く中、阿部は野外無線機をバスから取り出し本部との連絡を始めていた。


「00(マルマル)こちら03(マルサン)」


通信準備を終えた阿部1曹がマイクに向かい通信を始める。


「03、こちら00、感良し。状況送れ」


すぐに返答が返り、聞き慣れた遠山1尉の声と確認出来た阿部は状況を報告すると支援状況を本部に確認した。


「03、現在、三沢のF‐15がそちらに向かっている。到着予定は約10分後・・・」


それを聞いた全員が覚悟を決めた。


この状況下での10分と言う時間は余りにも長すぎたのだ。


もし、ヘリがその気になれば・・・全滅するのに必要な時間は4~5分あれば十分であり、


地形も悪く遮蔽物になっているのは先程まで彼等が乗っていたバスだけなのである。


逃げようにも道路を渡り反対側の沢に降りるか、現在地より土の法面を5~6メートル登らなければならず、そんな行動に出よう物なら間違いなく攻撃されるのは目に見え、小隊は絶望的な状況の中、反撃の機会を伺っていた。





そして・・・襲撃者が動き出した。




ホバーリングしているヘリから2本のロープが降ろされ、指示を仰ぐ小隊の視線が伊達に集まっていく。


「降下して我々を拉致する気だろう、敵は我々が武装している事をまだ知らない。各員、引き付けろ!私が合図するまで撃つな」


伊達の言葉で小隊に緊張が走りヘリから次々と完全武装の兵士が降下し展開を始めて行く。



時計を見つめる伊達・・・無線連絡からまだ2分も過ぎて居なかった・・・



89式短小銃を持つ手に力が入る。



(来るのか!)


伊達がそう思った時、ヘリから拡声器で警告が告げられた。


「抵抗はやめたまえ。赤外線及びX線システムで諸君らが武装している事は確認済みだ。警告に応じ無ければ発砲する」


片言の日本語で発せられる警告を無視する小隊一同・・・誰もが覚悟を決めていた。


じりじりと歩兵が接近する中、ヘリのガンナーはトリガーへと指を掛け・・・照準をバス中央へと指向した。






だが――――双方に立ち込める緊張の糸を一瞬で断ち切る事態が発生する。







不意に大気を切り裂く飛翔音と共に、何かが飛来しオスプレイ上空で爆散したのである。


その場に居た全員の視界を歪ませ、一瞬の洩火と爆音が山々に響き渡ると共に衝撃波が伝わる。


炸裂したそれは無数の破片を飛散させ、ヘリを引き裂きヘリ自体を火の玉へと変貌させたのだ。



バラバラに爆発し飛散するヘリの残骸がさらに飛散する。


その燃えた機体の破片が展開している謎の武装集団の上へと降り注ぎ・・・即死する者、呻き声を上げながらのた打ち回る者が見て取れる。


「なんだ!」


阿部が驚き声を上げていた。


「榴弾砲?」


遠藤がそう呟く中、伊達が命令する。


「各員!現状維持!状況が判るまで待機せよ」


伊達はそう言いながらその突発的な状況を掌握しようと考えていた。


(確かにあの爆発・・・飛翔音や曳火・・・、榴弾砲の物に酷似していた。だが、あれほどまで命中精度が良いものなのか?初弾でヘリを撃墜?敵か味方による物か?考えろ!)


混乱する状況の中、生き残った謎の武装集団からの発砲が始まっていた。


「応戦しろ!」


伊達の号令により双方の銃撃戦が開始され、響き渡る銃声をかき消すかの様に、またあの飛翔音が彼らの耳に飛び込んで来る。


≪シュルルル! シュルルル!≫


「来るぞ!全員伏せろ!」


伊達の命令の直後、爆音と衝撃が小隊に轟く。


正確無比に着弾した2発の砲弾は粉塵を高々と舞い上がらせ火薬の臭いを周辺に立ち込めさせた。


恐らく飛翔してきた砲弾は155mm榴弾。何度か目にしたその砲弾の破壊力を真近かで体感することななろうとは・・・メンバーの誰しもが思う事は無かったのである。


1発の榴弾の殺傷半径は約43メートル四方。その砲弾の直撃を受けた謎の武装集団はどんな障害物に隠れようとも、生存は絶望的だろう・・・


爆音が耳から離れる頃には銃声どころか辺りは静寂に包まれていた。


そこに阿部が持つ無線機から呼び出し音が鳴り響き、それに出た阿部は直ぐに伊達の元へと駆けつけた。


「ま・・・益田1佐からです!」


「司令から?」


驚きつつも伊達は渡された無線に出る。


「伊達です」


「驚かせて済まない。時間が無かったものでな、情報部から連絡は受けている。もう直ぐ迎えのヘリが行く筈だ。それに乗り速やかに帰隊せよ。状況は到着次第伝える。以上!」


無線が切れると上空を通過する2機のF-15の轟音と接近するヘリのローター音が聞こえて来る。


目前に着陸するUA-60からは普通科小隊が展開し、テキパキと警戒に付いて行く中、阿部に案内されるままそのヘリへと乗せられる特機のメンバー達。



「後は我々が処理します。皆さんの私物品も後で届けさせますので速やかに帰隊して下さい」


そう敬礼しヘリのハッチを閉めた阿部を眺めつつ、ヘリは三沢基地へと飛び立っていった。


そこから直ぐに輸送機へと乗り換え佐渡島へと送られたメンバーたち。


久々の休暇は、血塗られた思い出をメンバーの記憶に留める事となり。



彼等が・・・これから世界を巻き込んだ事態へと発展して行こうとは・・・想像出来ずにこの幕は閉じるのであった。




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