離脱(1)
米軍との戦闘は熾烈を極め特機小隊を苦しめて行く・・・
果たして小隊は無事にメキシコの地を離れる事は出来るのだろうか?
同時刻―――
特殊潜水艦【うずしお】艦内では・・・
伊達との交信を終えた近藤はすぐさま回収の為の作業を止め艦を反転させマイクを取り話し始めた。
「本艦はこれより敵輸送艦の捜索にあたる。1番2番発射管にステルスUAVを装填!直ちに射出し各機に北東及び南西海域を偵察飛行させろ!
もたもたしていると、どんどん敵に揚陸の機会を与え特機小隊に及ぼす危険性が高くなる!速やかに敵艦を発見セヨ!」
近藤の命令により慌ただしくなる艦内・・・だが、艦長席に座る近藤は冷静だった。いや、普段より頭が冴える感覚さえ覚えていた。
3号機から送られて来たLCAC-1 エアクッション型揚陸艇の情報と映像を自ら分析し敵輸送艦の位置を無人偵察機(UAV)を操る操作員に指示しながら艦もすぐに対応出来る深度へと浮上させて行く・・・
数分・・・数秒と言う時間が、乗員達を焦らせていく中・・・・
UAV操作員から敵艦発見の一報が入る。
「敵艦を発見!米海軍所属の強襲揚陸艦エセックスです!」
「そうか!で護衛は?」
「それが・・・付近を探索しましたが護衛艦の姿は確認出来ません。単艦のようです!」
「・・・単艦?米軍が1隻で?何か裏がありそうだが・・・かえってこちらには好都合だ。
魚雷発射管、1番2番に19式対艦誘導弾装填。データ入力開始!1番は甲板にセット。航空機を破壊しろ!2番は艦尾揚陸ハッチへセット!敵を陸に上げさせるな!」
近藤がそう言うとすぐさまその命令は復唱され
「データ入力完了!いつでも発射出来ます!」
と報告が帰ってくる。
それを聞いた近藤は大きく息をし命令を下した。
「1番2番発射!」
「了解!1番2番発射!」
発射された2発の対艦ミサイルは海面を目指し登っていく・・・
そして、海面を突き破るとミサイルを保護していた筒体が外れロケットモーターへと点火し海面すれすれを飛翔していく。
近藤は、スクリーンでその2つミサイルを表す光点と目標を表す光点を無言のまま・・・
祈るように見つめていた。
同時刻
米・強襲揚陸艦【エセックス】指揮所
それまでオペレータが戦況を伝え騒がしかった指揮所内がテーブルを叩く音とカップが割れる音によって静まりかえった。
「なにをやっとる!」
そう罵声を上げ立ち上がったワドル准将を見つめる乗員達・・・
「これだけの兵員を投入してまだ1機も撃破出来んとは何事だ!」
「先遣部隊は全滅・・・まだ半数以上揚陸していないものの被害報告は増える一方ではないか!」
返答に困るオペレータ。
「しかし司令・・・当初の情報と違い日本軍の機体は4機では無く現在確認した機体数は6機!しかも機動性が高く容易には撃破出来ません!」
「そんな言葉は聞きたくない!我々は世界最強のアメリカ軍。負ける事はゆるされんのだよ!まだ揚陸していない部隊の揚陸を急がせろ!」
『「イエス サー!」』
そう言うとまた指揮所内はまた慌ただしく動きだしたのだ・・・が・・・
≪ビィー!ビィー!≫
突然、警報が鳴り響き警報を示す赤色灯が回り始めオペレータが叫んだ。
「ミサイル接近!数2!迎撃システム起動します」
そう言うとキーボードを素早く操作するオペレータ。
「早い!RIM-116 ローリング・エアフレーム・ミサイル迎撃間に合いません!ファランクスに切り替えます!」
すると、甲板に設置された20mmファランクスの砲口がミサイルの接近方向を一斉に指向する。
「距離1000!迎撃開始」
毎分4500発の発射速度を誇るファランクスが唸りを上げ夜の海に無数の閃光を描き出す。
吐き出されたタングステン弾芯の20mm砲弾が海面に水柱を作りだすが・・・音速の19式対艦誘導弾を捉える事は出来ず・・・1発目の誘導弾は海面から大きく飛び上がり上空から垂直に甲板へと飛び込んだ。
艦を大きく揺らし甲板に大きな穴を開けハリアーやコブラ等を次々に吹き飛ばし誘爆を繰り返す。
2発目はファランクスの砲弾を受けるも止まる事無く、海面すれすれから浮き上がり艦尾の揚陸ハッチに飛び込み揚陸艇を巻き込みながら爆発した。
「被害状況は!」
電装機器からバチバチと火花が上がり火をだす計器類を乗員が必死に消火する中!ワドルは叫んだ。
「甲板に着弾!現在延焼中。航空機が誘爆している為、消火活動難航しています!」
「艦尾にも着弾!こちらも現在延焼中。揚陸ハッチ使用不能!」
「各部所死傷者多数!着弾により防空システムにも影響がでています」
被害報告が次々に告げられる中、オペレータが新たな報告をもらたした。
「司令!地上部隊が援軍を要請しています!」
「司令!司令!・・・」
「・・・・・・・・・」
甲板は使用不能となり増援も送るめどが立たなくなった指揮所内でワドルは沈黙のままひび割れた大型ディスプレイを見つめていた。
そして・・・
「作戦中の全部隊に告ぐ!作戦中止!繰り返す。作戦中止!
地上部隊は直ちにポイントbに後退!生存者保護を優先し速やかに移動せよ。本艦も消火活動を急がせろ!以上」
そう言うとワドルはうなだれマイクを置き副官に指揮を預けると指揮所を後にした。
その頃―――
【うずしお】はミサイル着弾後すぐに艦を反転させ回収地点を目指していた。
本来ならば確実に敵艦を撃沈すれば良いのだろう・・・だが、UAVからの映像により航空機や揚陸艇が発艦出来ない事を確認した近藤の判断でそれを止めたのだ。
そして【うずしお】は回収地点へと到着する。
「艦長!回収予定地点です」
「よし!浮上開始。対空・対海上警戒を厳にし速やかに小隊を回収せよ」
そう言うと【うずしお】は浮上を開始し海面に出ると同時に前部甲板が2つに割れ格納庫が姿を現した。
近藤は直ぐさまその足で艦僑に登り、手にしている双眼鏡で沿岸を覗いた。
GPSで特機小隊の6つの光点は確認していたのだが自分の目で確認したいと言う気持ちで一杯だったからである。
そして1分もしないうちに現れた小隊各機は次々に艦へと収納され艦は海中へとその姿を消していったのである。
そして場所は変わり・・・まだ消火活動の続くエセックスにて―――
指揮所を後にしたワドルは自分の部屋へと入っていく。
椅子に腰を降ろすと机の鍵を開け小型のアタッシュケースを取り出し、胸のポケットからカードを出すとそのアタッシュケースの口へと差し込んだ。
≪ピッ!≫
電子音と共に開いたケースの中からは衛星通信装置が現れ、ワルドは予め設定してあるコールボタンを押した。
「私だ・・・」
落ち着いた声が通信機から返ってくる。
「ルーク様・・・申し上げにくいのですが作戦は・・・失敗に終わりました。かなりの損害を受け私の判断で部隊を撤退させました」
「ほう?それは変だな、失敗は許さんと言ったつもりなのだが?」
「・・・しかし、あのままですとこちらは全滅、作戦自体に無理があったのです!」
「それは作戦に志願した君の言葉とは思えないな」
「も・・・申し訳ありません。日本軍は恐るべき物を完成させました。あれが量産されれば世界のミリタリーバランスは大きく変わる事になります」
「そんな話しをする為に君は私を呼んだのかね?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
沈黙がしばし続き無線の主は静かに口を開く。
「・・・判った。もう話すな・・・君の処遇は追って達する。戦闘データを転送後、本国へ戻れ」
「了解しま・・・≪ブツ!≫・・・」
一方的に通信は切られワルドは通信装置のマイクを置いた。
その頃・・・
エセックスより北100Km上空に1機の航空機が現れる。
米空軍の新型ステルス爆撃機【B‐3・メガスピリット】である。
その姿は逆Wの形状で、まるでB2が2機合体した様な姿のその機体は、高度1万メートルをエセックス目指し飛行していた。
≪ピッ!≫
「私だ。作戦は失敗した・・・始末しろ」
「・・・了解」
交信を終えたB‐3のウエポンベイが静かに開き2発のミサイルが姿を現した。
ウエポンベイから現れたそれは真っ黒な塗装を施された黒い塊であり・・・
まだ実戦配備されていないステルス巡航ミサイルで金属でできたエイのような形をしている。
この【AGM‐X2】の弾頭にも新型の特殊気化爆弾が内蔵されていた。
「退役まじかの揚陸艦と旧式装備の地上部隊とは言えまさか・・・味方にこれを使う事になるとは・・・」
一人のパイロットがそう呟く。
「あの人に逆らったら次に死体袋に入るのは俺達だって事を忘れるな」
「判ってる。さっさと発射して帰投するぞ!」
そう言うとB‐3のパイロット達は発射準備を進めていく。
「衛星照準システム正常。目標aを強襲揚陸艦エセックス」
「セット!」
「目標b集結中の地上部隊群」
「セット!」
「なお現在目標周辺は無風・・・Bestconditionだ」
「了解!発射カウントダウンを開始・・・3・・・2・・1」
「Fire!!」
機体から切り離された2機のミサイルはカクンと機体を離れると落下を始め・・・ロケットモーターに点火しあっと言う間にB-3を追い越し夜の闇の中へと消えていく。
「ミサイル発射確認。これより基地へ帰投する!」
交信を終えたB-3も大きく旋回し闇の中へと消えていった。
それからしばらくして―――
強襲揚陸艦エセックス艦僑
通信を終えたワドルは消火指揮をしている艦長がいる艦僑へと向かっていた。
その背中には最初の頃の勢いは無く、フラフラと艦僑へ出ると艦長が忙しそうに乗員に指揮している姿が飛び込んでくる。
ワドルはその艦長へ話しかけようと彼の元へと歩み寄るのだが・・・
≪ピカッ!≫
不意に強烈な閃光が艦僑に差し込み次の瞬間。地上部隊が集結しているであろう場所が紅蓮の炎に包まれた。
「!」
「何が起こった!!」
その場の状況を理解できずワドルは叫ぶ。
「判りません!地上部隊連絡途絶えました。連絡取れません!」
「ま・・・まさかルークが!」
そう呟いた時、エセックス全体が白い霧のような物に包まれそれが巨大な火の玉へと変わり、物凄い爆音と共にエセックスは消滅した。
そして場所は変わり―――
海上自衛隊・特殊潜水艦
【うずしお】では・・・
特機小隊を回収し一路日本を目指す艦に格納庫内で近藤の声が響いていた。
「伊達!!大丈夫か」
潜航し航路を伝えた彼は指揮を副長に委任し格納庫へと駆け付けていた。
「はい・・・なんとか小隊を連れて帰る事が出来ましたが・・・このざまです」
そう言いながら機体から降り各機体を見上げる伊達と近藤。
どの機体も戦闘の激しさを物語り5号機の前では速水が衛生隊員の手当を受けている姿が確認出来た。
「米軍相手に全機連れて帰って来れたんだ!隊長として立派に任務を果たしたではないか」
「それは、部下達のおかげです。私1人の力ではありません」
「そう謙遜するな!お前が隊長だから皆が付いて来たのだ。防衛省の方には私から報告する。
伊達・・・まずは休め。この機体ではしばらく任務は無理だろう?
それに日本に着かなけれこの事態の真相も判らぬであろうし・・・我々では無理かも知れないが・・・とてつもなく強大な力が働いているような気がしてならないのだよ・・・」
と近藤は語尾を伊達だけに聞こえるよう声を下げて話し指揮所へと戻っていった。
伊達は何も言わず近藤に敬礼をした後、小隊員の集まる速水の所へと歩きだす。
隊員達に近づくにつれ彼等の話し声が聞こえてくる。
「痛っ!」
ピンセットで抜かれた破片の痛さに声を上げる速水。
「これで全ての破片は取れたと思いますが念の為、医務室まで来て下さい!」
と話す衛生隊員。
「隊長!」
最初に気付いたのは遠藤がそう声を上げた。
「どうだ?速水の様子は?」
「今、衛生隊員によって破片は取り除かれましたが念の為、医務室で見てもらう事になりました」
「そうか、他の隊員は大丈夫なのか?」
そう言いながら辺りを見渡す。
「はい。異常ありません」
「了解した。本任務終了!各員、日本に着くまで自室で休んでくれ。ご苦労だった!」
そう言うと小隊メンバーは伊達に答礼をして各々部屋へと帰っていった。
伊達もそれを確認してから自室へと戻る。
こうして小隊の地獄の様な1夜は幕を閉じたのであった。