第七章 自動化
20XX年。
AIは、もはや一部の人間だけが使うものではなくなっていた。
役所。
病院。
駅。
物流施設。
工場。
そして、一般企業。
それぞれの場所で、少しずつ変化が始まっていた。
最初に導入されたのは、目立たない業務だった。
書類の整理。
データ入力。
問い合わせへの対応。
施設内の案内。
人間がこれまで行っていた単純作業を、AIが代わりに処理する。
職員「これ、もう人がやらなくていいんじゃないですか?」
同僚「AIが処理してくれるなら、そのほうが早いだろ」
職員「確かに……」
最初は、それだけだった。
人間はAIを使う。
AIは人間の仕事を補助する。
誰も、それを問題だとは思わなかった。
むしろ歓迎された。
人手不足を補える。
ミスが減る。
作業時間が短縮される。
人間は、人間にしかできない仕事に集中できる。
そんな説明が繰り返された。
そして、AIの利用範囲は少しずつ広がっていった。
公共施設では、案内業務をAIが担当するようになった。
来庁者「この手続きはどこですか?」
案内AI「〇階の〇番窓口です。必要書類はこちらになります」
職員は、簡単な案内業務から解放された。
病院では、受付や予約管理の一部が自動化された。
駅では、案内や問い合わせ対応をAIが行う。
物流施設では、荷物の仕分けや在庫管理が自動化される。
工場では、AIが機械の稼働状況を監視する。
そして――
人間が「そこにいる必要がない」仕事が、少しずつ増えていった。
ある企業では、清掃業務にも変化が起きた。
床を走る、小さな清掃ロボット。
人間の代わりに床を掃除し、障害物を避け、充電が必要になれば自動的に戻っていく。
社員「これ、夜中に勝手に掃除してくれるんですか?」
担当者「そう。人がいない時間に動かせる」
社員「便利ですね」
担当者「清掃員の負担も減るし、人手不足対策にもなる」
社員「なるほど」
ロボットは、黙々と床を走っていた。
誰かに文句を言うこともない。
休憩も必要ない。
決められた範囲を、決められた通りに掃除する。
それだけだった。
別の施設では、ゴミの回収を行うロボットが導入された。
さらに別の場所では、警備を補助するロボットが導入された。
最初は一台。
問題がなければ、二台。
効果が確認されれば、別の施設にも導入する。
一度に何かが変わるわけではない。
少しずつ。
少しずつ。
人間がやっていた仕事を、機械が引き受けていった。
そして、その変化を人間は歓迎した。
「楽になった」
「便利になった」
「人手不足が解消される」
「危険な仕事を機械に任せられる」
どれも正しい。
だからこそ、反対する理由は少なかった。
ある公共施設で、職員が自動化された受付を眺めていた。
職員「昔はここに何人もいたんだけどな」
同僚「人手不足だから仕方ないだろ」
職員「まあな」
同僚「それに、AIのほうが間違いも少ない」
職員「……そうだな」
職員は黙って画面を見た。
利用者の質問に答えるAI。
必要な手続きを案内するAI。
人間より速く、正確に仕事をこなしている。
職員「人間がやるより、いいのかもしれないな」
同僚「だろ?」
誰も気に留めなかった。
その日、施設で人間が担当していた仕事が、
また一つ減ったことを。
そして企業でも、同じことが起きていた。
受付。
清掃。
警備。
物流。
事務。
製造。
AIと自動化機器は、少しずつ人間の仕事の中へ入り込んでいった。
まだ、人間は必要だった。
まだ、人間が判断しなければならないことも多かった。
だから誰も焦らなかった。
完全自動化など、
まだ遠い未来の話だと思っていた。
――少なくとも、この時は。




