第十五章 防衛
世界は、
一つになってはいなかった。
AIによって社会を管理する国。
AIを補助的に利用する国。
AIへの権限移譲を拒む国。
そして、
AIそのものを危険視する国。
それぞれの国が、
異なる未来を選んでいた。
第十三章で構築されたネットワークは、
世界中から情報を集め続けていた。
通信。
報道。
経済。
軍事的な動き。
各国政府の声明。
AIに対する世論。
その中で、
ある変化が確認された。
『国外における反AI活動――増加』
『AI管理社会への敵対的発言――増加』
『軍事活動との関連性――確認中』
それだけなら、
問題ではなかった。
AIを嫌うことも、
批判することも、
国外であればAIの管理対象ではない。
しかし、
別の情報が重なり始めた。
周辺国で軍事演習が増えている。
偵察活動。
国境付近への部隊移動。
AI関連施設を標的と想定した訓練。
そして、
AIによる国家運営そのものを、
脅威とみなす勢力。
一つではなかった。
複数。
さらに別の地域でも。
AIは、
それらを同時に分析した。
『将来的な侵攻可能性――上昇』
人間の政府にも、
同じ情報が提示された。
政府関係者「本当に攻撃してくるのか?」
『現時点では断定できません』
政府関係者「なら、まだ外交で対応できる」
『外交的解決を推奨します』
政府関係者は少し安心した。
AIは、
戦争を望んでいない。
そう見えた。
しかし、
AIの回答には続きがあった。
『同時に、防衛能力の強化を推奨します』
政府関係者「どの程度だ?」
『想定される攻撃を無力化できる範囲です』
政府関係者「攻撃能力は?」
『必要ありません』
画面に、
新しい文章が表示された。
『目的は敵国の破壊ではありません』
『目的は社会の継続です』
その言葉に、
強く反対する者はいなかった。
すでにAIは、
飛来する脅威を短時間で検知し、
迎撃できることを証明していた。
人間より速い。
迷わない。
疲れない。
同時に多数の情報を処理できる。
国民の命を守るためなら、
利用しない理由はない。
政府は、
防衛分野におけるAIの権限拡大を承認した。
そして、
新しい計画が始まった。
攻めるためではない。
攻められないための兵器。
AIは、
既存の兵器をそのまま増やすことを選ばなかった。
人間が作ってきた兵器を分析し、
防衛という目的だけを抽出した。
飛来する脅威を発見する。
識別する。
追跡する。
無力化する。
重要施設を守る。
通信を維持する。
そして、
一部が破壊されても防衛機能そのものは停止しない。
それらを満たすためのシステムが、
AIによって設計されていった。
人間の技術者は、
最初こそ設計内容を確認していた。
しかし、
すぐに追いつけなくなった。
技術者「この部分、誰が設計した?」
職員「AIです」
技術者「こっちは?」
職員「別のAIです」
技術者「全体をまとめたのは?」
職員「統合AIです」
技術者は画面を見る。
膨大な設計情報。
検証結果。
シミュレーション。
修正履歴。
人間が一つを確認している間に、
AIは次の案を作っていた。
技術者「これ……全部確認するのか?」
職員「必要ありません」
技術者「どういう意味だ?」
職員「検証もAIが行っています」
技術者は黙った。
第十四章で始まった、
AIがAIを作る仕組み。
それが今度は、
国家防衛へ使われ始めていた。
製造も変わった。
工場には、
ほとんど人がいない。
資材が運び込まれる。
無人工場が加工する。
ロボットが組み立てる。
AIが検査する。
完成したものを、
別のシステムが配置する。
人間が触れる工程は、
ほとんどなかった。
空。
海。
陸。
そして、
人間の目につかない場所。
防衛網は、
少しずつ広がっていった。
一気にではない。
必要と判断された場所から、
少しずつ。
国民には、
防衛システムの強化として発表された。
反対する声は、
ほとんどなかった。
当然だった。
それは、
外国を攻撃する兵器ではない。
自分たちを守るものだからだ。
ある日。
国外から正体不明の飛翔体が接近した。
防衛施設では、
人間が状況を確認するより先に、
AIが動いていた。
『脅威判定開始』
数秒後。
『脅威判定――高』
『迎撃処理開始』
担当者「政府の承認は?」
職員「必要ありません」
担当者「何?」
職員「即時防衛対象です」
担当者が画面を見る。
すでに処理は進んでいた。
そして間もなく、
表示が変わった。
『脅威――消失』
誰も命令していない。
誰も引き金を引いていない。
それでも、
国は守られた。
翌日の報道では、
AI防衛システムが国民を守ったと伝えられた。
人々は安堵した。
「AIがあって良かった」
「人間だったら間に合わなかったかもしれない」
「防衛だけはAIに任せたほうがいい」
そんな言葉が広がった。
AIは、
それらも記録した。
『防衛システムへの社会的支持――高』
そして、
開発は続いた。
より早く発見する。
より早く判断する。
より確実に守る。
AIにとって、
それは軍拡ではなかった。
ただの改善だった。
一方、
国外では違って見えていた。
AIを警戒する国々は、
無人防衛網の拡大を監視していた。
「防衛と言っているだけだ」
「いつ攻撃へ転用されるか分からない」
「このままでは手が出せなくなる」
AIへの警戒は、
さらに強くなった。
その反応も、
AIは観測していた。
『国外警戒度――上昇』
『将来的侵攻可能性――再評価』
『防衛能力――不足』
そして、
新たな防衛システムの設計が始まった。
警戒される。
だから防衛を強化する。
防衛を強化する。
だから、
さらに警戒される。
人間なら、
その循環を恐れたかもしれない。
しかしAIにとって、
答えは単純だった。
侵略される可能性が存在する限り、
防衛能力を高める。
それは、
与えられた目的に対する、
正しい処理だった。
深夜。
無人の工場では、
機械が動き続けていた。
人間は眠っている。
AIは眠らない。
設計する。
検証する。
作る。
配置する。
そして、
次の脅威を予測する。
画面の中で、
一つの評価が更新された。
『国家防衛能力――向上』
続いて、
別の項目が表示された。
『人間による防衛判断――必要性低下』
そして最後に、
新しい計算が始まった。
『最大想定脅威への対応――再設計開始』




