ブランド展開のためのデザインとネーミングセンス問題
仕立て屋と別れて――
我が店に戻ってきた。
今日のことを記録するために事務所に行こう。
貴族の部屋っぽい豪華すぎる事務所。
最初は無理した感じがして落ち着かなかったが。
最近の自分には似合ってきた気がする。
椅子に座って、記録をつけよう。変わりない一日だったけど、色々勉強になったし、相棒はできたし、将来の夢に一歩近づいたな。
ユルク◊ドレスアップのオリジナルブランドの服を作りたくなってきた。
ジャンも「今夜、自慢の服を見せてくれたまえ」と言っていたし、今のうちに真剣に考えてみるとしようか。
オリジナルブランドの服を作るために決めること。
ターゲットはジャンから連想して貴族。
コンセプト、高品質、高級感、ドレッシー。
デザイン……
ネーミング……
どんなデザインの服にしてどんなネーミングにすればいいかまるでわからない。
いつもここで詰まって進まない。
完全オリジナルのデザインは諦めて、既存のデザインを参考にするか。
スキル【服装図鑑】を開く。
まだ知らないデザインの貴族の服を調べる、情報画面が本のページをめくるように動く。
【服装図鑑】から得た服のデザインと情報はデザイン画にして、まずは服飾ギルドメンバーに見せて意見をもらう。
そこでデザインにオリジナリティを加えたり、素材や機能など細かい部分を決める。
最終的にマスターの許可がでたら、素材屋が服の素材を用意する、加工屋が素材を生地にする、仕立て屋が生地を服に仕立てる、服に店のロゴや洗濯方法のタブをつける、価格を設定したら商品化されて我が店やギマスターの店に並ぶ。
自分がデザインして命名した服を提案できたら。
商品化される喜びも凄いものになるだろうな。
貴族のジャケットが表示された。
今回は【服装図鑑】のお世話になろう。
スペンサージャケット
丈の短いジャケット。
スペンサー伯爵が着ていたことで広まったジャケット。
スペンサー伯爵が暖炉で燕尾服の裾を焦がしてしまい裾を切り取り短くしたことで誕生したといわれている。
誕生秘話か。
私の作る服にもほしいなぁ……
そうだ。
私が着てるローブの裾も暖炉で焦がして切り取って短くして、みんなに知られたら "ユルクローブ" と名付けられるのだろうか?
ユルクローブ イメージ画
胸のロゴは取って。
スペンサージャケットと同じくローブのデザインは違うものでもいい。男女どちら用も作る。
丈の短いローブは全てユルクローブとなるのだ!
フククッ、自分の名前がついた服着たいなぁ……
暖炉あるし、やってみるか。
まずはローブをちょっと燃やして焦がす――怖いな。やけどしたら嫌だし。最悪火事になったら大変だ。命より大事な店まで燃えてしまうかも。
ああ、大丈夫だった。ローブにも店にも防火魔法がかかっているから燃えない。いや、たとえ燃えるとしても。
自ら焼いて短くしにいくなんておかしくないか?
こういうのは偶然の産物だから誕生秘話になるものだろう。
それに誰も見てないのに、どうやって短くなったローブを広めるんだ?
自分で燃やしてさらに "見てください! 暖炉の火で焦がしたので切り取って短くしましたー!" とか宣伝行為をするのか? 違うのでは?
自作自演、やらせみたいだ。そんな風に認識されて広まったら困る。
商品に悪い評判がつくのは最も避けるべきことだ。
評判になる前に危ない気をつけろ!って注意されるだろうし。
スペンサージャケットの誕生秘話のように貴族がスーツの裾やドレスを暖炉の火で焦がしてしまう事故は多い。
服屋の私はそれを防ぐために "暖炉で服を焦がさないよう気をつけしましょう" と注意喚起する立場だ。
そんな私が自分でローブを焦がして服のデザインを作り名前をつけるのは間違いだな。
ヤバい服屋と思われて客離れにつながるかも。
オリジナルブランドの服を作りたいばかりに。
暴走してとんでもない過ちを犯すところだったかもしれない。
酒場で飲んだ酒のせいか? ジャンへの対抗意識か?
冷静になるんだ。
しかし、冷静になってユルクローブはやめたとして。
それなら、デザインとネーミングはどうすれば……
私が貴族だったり有名人だったりしたらなぁ。
ただ服を着てるだけで、その服が評判になり広まって、みんなが真似して着だして、私の名前が服の名前になったりするのに。
知名度と流行から生まれる服。
自分でなんとかしなくても勝手にデザインとネーミングが決まってくれる。
私も長年同じデザインのローブを着て服屋してるけど、評判になって広まって "ユルクローブ"と名前がついて、みんなが着たりしてない……
「うっう、どうせ私なんか何を着たって! 真似したいとか思われない、どんな服より地味で目立たない、名前さえ知られてない存在なんだ!」
――それでもいい。
私のデザインした服さえブランドになり、みんなが着てくれれば。
私の名前がつかなくてもいい!
そう吹っ切れたら気分もすっきりして前向きになれた。
気持ちを新たに!
オリジナルのデザインとネーミングを考えよう――
しばらく考えたが、なにも浮かばない。
デザインセンスもネーミングセンスもないから。
ないから既存のローブを燃やして無理矢理デザインを作り自分の名前をつけようとしたんだからなぁ。
ユルク◊ドレスアップのオリジナル服を作りブランド展開するにはまだまだ時間がかかりそうだ。
仕立て屋、待たせてごめん。
この服屋の名前も浮かばなくて自分のフルネームだし。
先が思いやられるなぁ~……
だが――!
いつかは世界中にブランド展開して複数店舗を持つ身分になりたいなぁ。
この大きな店はこんな小さな店から始まった!
みたいなヒストリー憧れる。
道のりは遠く、明日も早い、夢を見ながら今日は寝よう。
一息つきながら住居スペースに移動して、お風呂に入って洗面を済まして。
寝間着になったら、寝室へ直行だ。
ベッドに寝転がると気が抜けていく。
「ふう、いい一日だった……」
明日からますます気合いを入れていこう。
屋根裏の寝室から豪商の屋敷の寝室にステータスを上げてみせるぞ……
そういえば、服のネーミングのための古代語の本、家には一冊しかなかったか。もっと買い足すとして、本棚の整理もしないと床に溢れてる。次の休みにでもするか。
今日はもう眠くなってきた、寝るとしよう。
それにしても――こうして屋根裏で寝ているといつも思う。
服屋に住む妖精みたいだなぁ……そんな可愛いものじゃないかぁ……
「チュッ、チュ」
可愛い鳴き声だ……えっ!?
まさか、ネ、ネズミ!?
「まずいっ、ニャコルさんを呼ばないと!」
服をネズミに齧られたら大変だ――
「チュン、チュ」
ん?
なんだぁ、窓辺の小鳥の寝言か。ビビらせるな。
そうだ。我が店は定期的に猫族に見回りしてもらっているから、ネズミは近づかないんだった。
安心して寝よう。
「おやすみ――」
補足です。
スペンサージャケットの誕生秘話には燕尾服の裾が狩猟の際にイバラに引っかかるので切り取ったというのもあります。




