仕立て屋との帰り道
大通りに出て、客待ちの馬車を拾えた。
マスターとはここで、お別れだ。
「今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。楽しかったな、また三人で町に行こう」
「今度は、娯楽街に行きましょう」
「そうしよう。三人で揃いのベストを着てな。いっそ、ギルドメンバー全員分を作るか」
「いいですね、ギルドベスト! そうしましょう!」
私とマスターの勢いに。
仕立て屋は諦めたように苦笑いしている。
「仕方ない。仕立てを手伝いますよ」
「頼む。では、またな」
「お気をつけて」
「二人も気をつけて帰れ。豪商でなくとも必要なら用心棒を雇えよ」
「はい」
「では、おやすみ」
「おやすみなさい」
馬車を見送って。
仕立て屋と並んで、寝静まった大通りを歩き出す。
いつもの帰り道だ――
「マスターも言ってたし」
仕立て屋が辺りに視線を向けた。
「用心棒を雇うなら私もとめないよ」
「うーん、私が連れ歩くのはまだ早いかな。防御魔法服を着るか護身用武器持つくらいにしとくよ。そういえば、仕立て屋もハサミ持ってたね」
完全な無防備ではなかったか。
私とともに、仕立て屋も腰に目を向けた。
「ハサミはあまりもう武器にはしたくないけどね。裁ちバサミみで生地以外のモノを切るのはよくないし、私のはスキルで切るから影響はないにしても、気分的にね」
「そっか、頼りにしてしまってた」
「必要なら切るよ。ユルクもマスターも丸腰だからね」
「ギルドベストに攻撃魔法とか仕込んでもらおうかな」
「そうだね。攻撃を受けたら反撃する仕掛けとか、マスターと話してみるよ」
仕立て屋はさっきと打って変わって真剣な口調だ。
「なんだかんだ、ちゃんと作ってくれるんだね」
「ふふっ、二人がその気になったらとめられないからね。それに、マスターと仕立てをする良い機会だから。今日も、色々と勉強になったな」
「仕立て屋は勉強熱心だね」
「まぁね。ユルクも、ヴェイルさん達の服装観察をしてたなら、お互い様だよ」
「うん、久しぶりに、ヴェイルさんの服装観察ができて良かったよ。ジャンも興味深い服を着てたな」
「そうだね、ジャンはやっぱり裁縫の腕がいいし、ますます上手くなってたな」
「ジャンは仕立ての腕もだけど、将来は店も出したいって言ってたっけ。ジャンなら接客も上手いだろうし、貴族出身だから貴族街にも店を出せそうだよね」
先を越されるかもな……
その時は、お祝いするけど。
しかし、
「私も負けられないというか、向上心を刺激されるよ」
「ユルクも、将来は貴族街に店を出したいんだ?」
「言ってなかったっけ?」
「自分のブランドを持ちたいって話は聞いたことあるけど」
一緒に飲んだりするなかで全て話ていると思ってた。
ここで、改めて話しておこう。
「うん、ブランド展開するなかで貴族街にも店を出したいと思ってるんだ。まぁ、マスターの店を見学した時にも感じたけど、今の私には無理な話だから将来的にね」
仕立て屋はフムフムと聞きながら微笑んでいる。
「仕立て屋はどう思う? 将来的には何か考えているの?」
少し探りを入れてしまった。
一緒に貴族街に来てくれたら嬉しいからな……
仕立て屋が町に残るなら、他を見つけないといけないし。仕立て屋の弟子をスカウトするとか……
「私も、ユルクと一緒に貴族街に行くよ」
仕立て屋は私の目を見てきっぱりと言ってくれた。
真っすぐな眼差し、強い意思と心強さを感じる――
「キル……!」
これが、"相棒" ってやつ!?
間違いない、わかる。
口には出さないけど……
喜びを隠せない!
「ありがとう! キルが町に残るなら、他の仕立て屋に頼まないとと思ってた」
「ユルクと会う前は、町の仕立て屋で居続けるような気もしてたんだけどね。私も、ユルクとジャンの向上心に刺激されたかな」
仕立て屋は遠くを見るように夜空に目を向けた。
それから、私を見た。
「仕立て屋と服屋だから当然かもしれないけど、ユルクありきの人生になってる気がするな」
「嫌かな?」
「嫌じゃないよ」
反射的な問いかけに、仕立て屋は即答してくれた。
「ここまできたら貴族街でもどこでも一緒に行くよ」
「ありがとう! 私も、仕立て屋ありきで考えている部分があった。貴族街に誘いたかったから嬉しいな!」
腕をブンブンさせる力強い握手。
仕立て屋はされるがままになって、笑っている。
しかし、しっかりと握り返してくれてもいる。
この対応に、誠実な対応を返そう。
「すぐと言いたいところだけど、貴族街に店を開くのはまだまだ何年も、下手したら10年くらい先の話になるかもしれないんだ」
「何年先でも構わないよ」
仕立て屋はクスッと笑った。
「私達だからね、勢いでやって失敗しないためにも、このままの調子で腕を磨いて資金を貯めながら、しっかりと時期を見極めよう」
「そうしよう!」
私達は約束のスマイルを交わした。
良い気分で、並んで再び歩き出す。
「貴族街に店を出すなら、マスターの座はどう? 目指さないの?」
意外な問いかけがきた。
服飾ギルドマスターの座か……
「それは考えたことなかったな。私は、マスターって柄じゃないと思うし……目指さないかな。あんな尊敬できる存在になれそうにはないし、ヴェイルさん達、あのメンバーをまとめられる気がしないし」
「確かに、彼らをまとめるのは大変だよね」
「マスターの後ろから、好きに服装観察してるほうが性に合うよ。仕立て屋は?」
「私も、柄じゃないし器じゃないな」
「そう? 既に、仕立て屋の親方になっているのに」
私よりは器がありそうだが。
仕立て屋は控えめに笑っている。
「親方になったのは、ユルクが店主になる時にそれなら年齢の近い私が親方になったほうが、今みたいに向上心を刺激しあったり、やり取りもしやすいだろうからいいだろうって、みんなが言ってくれたからだよ」
「そうなんだ……」
私ありきで人生変わってるって。
本当に、そうみたいだな。
「だけど、仕立ての腕もありきでだよね。他に年齢の近い人もいるけど、親方にならずにキルの弟子になってるし」
「まぁね」
仕立て屋は信頼と安心をくれるスマイルをみせた。
「実力を認めてもらってはいるけど。親方業はベテランが助けてくれているから、マスターみたいな器だからではないよ。私はリーダー気質でもないし」
「リーダー気質か。私もないな、店は一人でやってるし」
「ユルクは一人でどんどんやる凄さがあるよね。それなのに、下っ端気質というか、用心棒が居ないとすぐやられそうな小物なところもある。ひみんなにバレバルの怖がりだし」
「ひどいな!? 」
凄いと称賛されてると思ったら、次々出てくる辛辣な評価に驚いた!
一緒に将来を歩む私を冷徹に分析してるのか。
それなら、改めて確認しておこう。
「そんな私と貴族街まで行くわけだけど、本当にいいの?」
「その頃には器も大きくなってるんじゃないかな? お互いにね」
「そうだね、お互いにね」
二人で成長していくしかない!
「その頃には、ユルクはマスターの座につく器にもなっているかもね」
「そうかな? それなら仕立て屋も器になっているだろうから、サブマスターになってもらおうかな? それか、仕立て屋がマスターで私がサブマスター」
「考えておくよ」
冗談めかした軽い提案に前向きな返事をくれた。
案外、仕立て屋のほうが向上心がありそうだな。
なんにしても将来、成り上がる展望が広がった。
そう思ったところで、店についた。
「それじゃ、明日からもよろしく」
気持ちを切り替えて、いつもの挨拶とスマイル。
「よろしくね。おやすみ」
「おやすみ」




