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異世界服屋ユルクドレスアップ !  作者: 鏡野スガタ


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気まぐれ素材屋の服装

 「あなた達の話し声が聞こえたから、来てみたニャン」


 ニャコルさんは猫耳を動かした。


「三人で夜のお散歩かしら?」


 猫族らしい気ままな予想だなぁ。

 癒やされて気持ちが落ち着いてきた、マスターと仕立て屋もいつもの様子に戻ってスマイルをみせた。


「ああ、今しがた『ヨルダケ』に寄ってきたところだ」

「そうなの、わたしは今から素材を届けにいくところニャン」


 ニャコルさんは片手を掲げた。

 黄金に輝く鳥の羽を持っている――


金光鳥(ゴールドピカバード)よ」

「確か、国鳥にもなっている鳥モンスターですね?」


 実物は見たことがない。

 一般の狩猟採取は禁止されているし、服飾など特別な用途でのみ許可されていて、採取量には制限もある貴重さだ。


「この尾羽根、マスターとヴェイルの注文通りの枚数が取れたニャン」


 貴重なだけに貴族街の服や魔法服にピッタリの羽だな。

 我が店では扱ったことがない、かなり高価だし。

 ここぞとばかりに、仕立て屋とともに眺めておく。

 マスターは羽を確認するように見て、満足げにうなずいた。


「ありがとう。立派な尾羽根だな。いつ見ても美しい」

「お肉も絶品よね。報酬の一つに頂く約束だからディナーにするニャ」


 ニャコルさんはペロリと舌なめずりをした。

 猫族からそんな話を聞くと、素材採取というより狩りだなぁと思ってしまう。


「そうそう、金光鳥もいいけど」


 ニャコルさんは私達の視線を集めるように、サッと少し明るいところへ移動した。


「新調した服も見てニャン。どう?」


 三人揃って服に目を移す。

 猫のようにまじまじと服装観察しよう――



 素材屋の服装

挿絵(By みてみん)

 ポーズまで取ってくれてサービス精神旺盛だな。

 こちらは獣人の獣化に対応する魔法服だ。この服を着たまま猫になったりできる。

 猫の毛でてきたファー襟。襟元には鈴が付いている。この鈴は普段は鳴らず魔力を込めることで自在に鳴らすことができる。

 黒革またはブラックレザーのノースリーブ。

 太もも丈とかなり短い、ショートなブラックレザーズボン。ショートパンツ、ホットパンツともいう。

 上下で統一感のある同じ素材やデザインの服は、セットアップという。

 太ももまであるブラックレザーのサイハイブーツ。

 膝上丈の総称でオーバーニーブーツ、ロングニーハイブーツ、超ロングブーツなどともいう。

 レッグハーネスでズボンとブーツをしっかりと留めている。こうすることでブーツのズリ落ちやズボンの裾のめくれを防ぎ体にフィットさせて空気抵抗を減らすなど、猫族のアクロバティックな動きに対応する。

 動いた際の服装の乱れも防ぎ、しなやかなシルエットを維持できるオシャレアイテムでもある。

 こちらも手首にファーがついたレザーグローブ。ベルトでしっかりと装着している。

 グローブは左右で長さが違う、アシメグローブ (アシンメトリーグローブ)という。

 全身レザー。猫族もレザーも水に弱いのでしっかりと防水加工してあり、黒猫のように闇で目立たない加工もしてある。

 闇にまぎれる黒と丈夫なレザー、夜の素材採取に適したスタイルだ。ベルトのバックルが猫の目のようにキラリとした輝きを放っていて、夜の美しさと神秘さを醸し出している装い……


 説明を省いた簡単な名前は素材採取用のセットアップだ。猫族のギャザラーギア (素材屋の装備)、キャットファーとレザーのタイトスタイルなどともいう。


「お似合いですよ。ニャコルさんのしなやかさにピッタリのシルエットですし、ファーとレザーの真逆な素材感が猫族のモフモフさと俊敏さをあらわしているようで、良いコントラストになっています」


 語尾にニャンをつけそうになるのを堪えてスマイル。


「ありがとニャン!」


 ニャコルさんは嬉しそうにゴロゴロ鳴きだした。

 尻尾もくねって喜びを体であらわしている。可愛い。


「わたし、猫獣人だから普段から猫の毛をつけた服ばかりになるでしょ? それも良いんだけど、それだけに、ツヤツヤでツルツルしたレザーにも憧れるというか、好きなのニャン!」


 なるほどと、うなずく。

 猫獣人のモフモフはトレードマークだが、ツルツルも良い感じだ。


「スタイルとしては似合っていていいが」


 マスターが視線を足に走らせながら言った。


「レザーの動きやすさはどうだ? 特に、ブーツは膝の関節部分まで覆っているが伸縮性は問題ないか?」


 私もブーツを見てみよう。

 確かに普通なら、膝を覆うと動きにくくなるが――


「この革は動きやすいニャン」


 ニャコルさんは片膝を曲げ伸ばしした。


「体に密着してるけど突っ張ることもないし、走っても飛びかかっても違和感ないし、軽くて疲れないニャ」

「そうか。それだけ、ニャコルに最適なこれは山羊革(ゴーススキン)……跳ね山羊(ジャンピングゴート)か?」

「そう、それニャン!」


 ジャンピングゴート。ずば抜けたジャンプ力を持つ山羊モンスターだ。捕らえるのが大変でこちらも貴重な素材。

 それを言い当てるとは。ニャコルさんの話からだけでなく、ブーツを目で見て判断していた……さすが、マスターの観察眼だ! スキルを使わずにして凄い、尊敬しかない。


「ニャコルさんの動きでも問題ないなら、かなり良い素材ですね、ジャンピングゴースト。仕立てもしやすいし」


 仕立て屋も職人のスマイルをみせた。

 真剣な眼差しで参考にするように見ている。


「ああ、そうだな。これの仕立ても上等だ」


 マスターも感服したようだ。

 ジャンも仕立てに関わったのかな?

 着る者も仕立てる者も満足させる良い服だなぁ。

 私もたまには、革製品を着てみるか?

 似合わない気がするし必要ない気もするけど……


「ユルクの言うように、猫族特有のファーとも良く合っている。素晴らしいな」


 マスターの総評にスマイルとともにうなずく。

 そうだ、私も気になることを聞いておこう。


「ベルトのバックルが猫の目みたいに光りますけど、獲物というか素材採取対象に気づかれませんか?」


 気づかれるようなら、改善の必要もでてくる。

 鈴の黄色のように光らない色にしたり鈍い金属製にするとか。


「フフッ、気づいた時には手遅れニャ」


 ニャコルさんの私を見る目が恐ろしく光った。

 採取対象になった気分だ……!


「問題ないんですね、それならよかった!」


 狩る側に取り入るような必死のスマイル。


「ヴェイル達にも指摘されたけど、少し問題があっても、わたしはこのユルクの言うように、猫の目みたいにキラキラ光る綺麗なバックルを使うニャ」


 ニャコルさんの語気が強くなった。

 シャーッて、怒り出さないか心配になる。


「もしかして、ユルクも、わたしとサブマスターのスタイルを比べてるの?」


 目つきも鋭くなった。

 サブマスター、素材屋のことか。

 ヴェイルさん達に素材屋と比べられて、色々言われたのかな?


「比べてなんてないですよ」


 本心から否定したが。

 ニャコルさんは威嚇してきた!


 爪のある (わかる)手袋

挿絵(By みてみん)

 引っかかれたら終わりだな。

 レザーグローブの中からでもわかる、鋭い爪。

 こちらもジャンピングゴートの革製で爪の長さや形にも合わせることができる柔軟さだ。

 グローブが突き破られないようにまたは爪が折れないようにしっかりと内側は加工されている。

 特にこのグローブは魔法加工されているので、レザー越しでも爪の威力を問題なく発揮できる。


 爪を完全に出したバージョン

挿絵(By みてみん)

 爪だけ露わにすることもできる。


 説明を省いた簡単な名前はクロウグローブ、爪手袋 だ。爪はイミテーション (手袋に付属)の場合もある。

 猫族や魔女や魔族などが使う恐ろしいアイテム――!


「ユルク達にも、しっかりと教えておくニャ」

「ひっ」

「サブマスターは機能性重視だと言って、いつも無駄のない地味な服を着てるけど、あんなのは嫌ニャン!」


 爪で教えず口で教えてくれた、助かった。

 そうか。素材屋みたいに地味になりたくないよね、うんうんと必死にうなずいておこう。


「問題がないなら、それでいい」


 マスターがなだめるように言った。


「猫族のニャコルとアイツでは着る服に違いがあるのは当然だ。存分に要望を言っていい」

「そうニャ」


 ニャコルさんは手を下ろした。


「採取上手のサブマスターの服装を真似るべきなのはわかってるけど、わたしは好きな服を着て、採取に不利な部分は猫族の実力でカバーするニャン!」


 ニャコルさんは強気なスマイルをみせた。

 実力を信じて、好きな服を着てもらおう!


「ニャコルさんはオシャレも重視しているんですね。サブマスターは無頓着だけど。ニャコルさんの素材採取スタイルへのこだわり、よくわかりました」

「わかってくれて嬉しいニャ」


 スリスリしてきた。

 ホッとしたし嬉しいけど、服に毛がつく、いや、気にしない! スリスリしてもらえた喜びのほうが大きい!


「マスターとユルクの次は」


 ニャコルさんの光る目が仕立て屋に向けられた。


「キルは何か気になることはあるかニャ?」

「いえ、ないです。ニャコルさんらしいスタイルで良いと思いますよ」


 仕立て屋は物分りがいいような、甘やかしているような笑顔をみせた。

 ニャコルさんは仕立て屋とマスターにもスリスリしてから、スイっと離れて通りに立った。


「服も見せて、こだわりもわかってもらえて、気がすんだニャ。あなた達と会って話したことヴェイル達にも伝えとくね。それじゃ、またねニャン」


 ニャコルさんはサッと駆け出して消えていった。


「俊敏な動きが問題なくできているな」

「はい」


 感嘆の溜息とともに見送る。


「ニャコルさんとサブマスターの服装、言われてみると、かなり違いがありますね」

「ああ、これからも、それぞれの主張を大事にして素材採取に適した服を着せてやらないとな」

「はい」


 マスターの言葉に仕立て屋とともうなずく。


「引っかかれなくて、よかったな」

「はい」

「いつもながら猫族の言動は予測がつかないね、ユルクがやられないかハラハラしたよ」

「全くだよ。最終的にはいつも通り、スリスリしてもらえてよかった」


 マスターと仕立て屋はうんうんとうなずいた。


「さぁ、帰るとするか」

「はい」


 三人でおもむろに猫の毛を取りながら再び歩き出す。


 もう、猫達が動きだしている時間。

 昼型の人間は寝る時間だな――




補足です。


登場人物紹介

名前 ニャコル

服飾ギルドのサブメンバー。

猫族は気まぐれなので、好きな時だけ素材屋として働く契約を交わしている。

ニャコルの他にも何人か居るが、全員が極稀にしか会えないレアメンバー。



サブマスターの服装は「素材屋 その装備と名は」をご覧ください。


尻尾穴をイラストで紹介しようかと思いましたが、女の子キャラなので控えておきます。


黒色についてですが、挿絵だと光ってますし黒は逆に闇で目立つといわれていますが、最近は艶消しや光を吸収して反射させないなど目立たないようにする加工技術が色々あるようです。


ブーツのサイハイとオーバーニーのラインがどこかや使い分けは人それぞれです。特に創作では曖昧になります。

主な違い

オーバーニー→一般的に使われて知られている。膝上であることがわかればいいとき向け。響きが可愛い。

サイハイ→あまり使われず知られていない。太ももまであることを明確にしたいとき向け。響きがカッコイイ。


革についてですが、山羊革は柔らかいのでブーツの足元部分などは、もっと丈夫な牛革を使い補強されていたりします。このような作りや何の革を使ってるなどは、細かく長くなる領域なのでマスター達といる時や必要な時だけ紹介することになると思います。


レッグハーネスのブーツとズボンを繋ぐストラップと留め金は前だけにあるものと後ろにもあるものと種類があります。


レッグハーネスをしている部分、ズボンとブーツの間の太ももは絶対領域というそうです。元ネタがエヴァンゲリオンでオタク語ですが、最近は一般にも浸透しているようです。

こういう元ネタが近代でオタク語由来みたいな表現は現代からの転生者が使うならまだしも、異世界人のユルクが使うのは変かな?と思い紹介は控えましたが、作品の世界観やキャラに合っていればいいかとも思います。

ユルクはスキルであらゆる世界の服装用語を知ることができるので紹介してもいいとは思うんですが、絶対領域って服装用語なのかな?と疑問に思ったのでやはり紹介は控えました。

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