ほのぼの帰り道のはずが夜歩きはやはり危険!?
「さて、これからどうするか」
マスターは懐中時計を出した。
「思ったより長居して遅くなってきたな。ジャンの話を聞いて、娯楽街にも久しぶりに行ってみたくなったが」
「そうですねぇ」
明るい通りのほうに三人で目を向けた。
飲み屋街の向こうに娯楽街がある。広場には芸人達がいて、露店や劇場もやってるだろうな。
「行きたいが、明日も店があるからな。今度にして今日は帰るとするか?」
「そうしましょうか」
残念だけど。今からじゃ深夜になってしまう。
娯楽街に背を向けて歩き出す。
しかし、この通りも並ぶ店はランプの明かりが誘惑的で、店内の様子は幻想的だ。ここだけでも見ていて楽しいな。
「ユルクはまだまだ元気そうだな」
マスターが後ろをゆったり歩きながら微笑んでいる。
私と並ぶ仕立て屋も不思議そうに見てきた。
「いつもより元気が余ってるみたいだね。一日忙しかったと思うけど」
それなのに、私が一番元気な理由か。
あれだ。
「昼休みに、一本2000リラする回復ポーションを飲んだから、それがまだ効いてるんだと思う」
「一本2000リラって、売り子さんのやつ? こっちにも売りに来たけど、人数分買うと高くなるから断ったよ」
「そう、売り子さんの。私も最初は断ったんだけど、そうやって断わられて売れないって悩んでてさ。売れるスタイルにするために服選びを手伝ったらお礼にくれたんだ。タダで貰えてラッキーだったよ、マスター向けの高級ポーションだよね」
「いや、俺でも、そんな高いポーションは滅多に飲まないぞ」
「そうなんですか。毎日飲むためにストック沢山持ってそうに見えますよ」
「そうか? ポーション自体あまり飲まないぞ」
「仕立てを教えてくれてた頃は、よく飲んでたと思うけどやめたんですか」
「ああ、あの頃は、色々と忙しくしていたからな。最近は落ち着いてきたし健康に気をつけだしたのもある。二人も体には気をつけろ、あの頃の俺のような状況だろうが、ポーション頼みで無茶はするなよ」
「はい」
マスターの思いやりある忠告に、仕立て屋とともに感謝と約束のスマイルを返そう。
「それにしても、そんな高いポーションを貰えたとは、良いアドバイスができたようだな」
「はい。他の売り子さんと違いをつけるために、先代の売り上手だったおばあさんのスタイルを取り入れて、魔女っぽい服装を提案しました」
「ああ、おばあさんも売りに来てたね。そっちからは買ったことがあるよ」
「俺も、買わされた覚えがある」
仕立て屋とマスターまで、凄腕売り子には抗えなかったか。
「その、おばあさんがくれたお守りのブローチも似合うような服にしました」
売り子さんに提案した二種類の服装を説明する。
フムフムと二人とも想像するように聞いている。
「そこに丁度、リュシェンヌさんのメイクもしてもらえてさらに良い感じになって、後で町で見かけた時は商品も無事に売れていました」
「よくやったな。リュシェンヌさんのメイクも加わればガラッと変わっただろう。機会があれば一度、見てみたいものだな」
「私も、通りを歩いてたら見てみるよ」
「似合っていると思ったら、ポーションを買ってくださいよ」
「わかった」
「いいよ」
「おばあさんから受け継いだ調合も上手いし、本当にオススメですよ」
良い報告と販促もできたし、満足のスマイル。
話しているうちに明るい通りを抜けた。
街頭だけの少し薄暗い道を行く――
「大通りに出たら、マスターの乗る馬車を拾いましょう」
「いや、あっ」
私の提案に、マスターは何か言いかけて苦笑いした。
「あっ、とは?」
「いや、歩いて帰るかと思ったんだが、危ないよな? 用心棒の居ないうちは」
「そうです、そうです」
私の忠告を思い出してくれたか。
「用心棒?」
仕立て屋は何事?と言いたげに聞いてきた。
「ユルクが、俺が一人で夜道を歩くことを心配してくれてな。用心棒を連れたほうがいいと言うんだ」
マスターの言い方。
まだ抵抗しているように聞こえるのは気のせいか?
今一度、仕立て屋への説明も兼ねて言い聞かせておこう。
「マスターは豪商だからね。用心棒は必須だよ。こんな暗い道を一人で帰るなんて危険だし、ここから家まで遠いし」
「それはわかるけど」
仕立て屋まで難色を示した!?
「仕事ならともかく、こういうプライベートの時に、用心棒が付いてくるのは気になるんじゃないかな」
「ああ。店に寄った時に待たせたり、気になるよな」
マスターまで食い気味に同意した!
やれやれ、命よりプライベートを優先とは。
危機感の薄い、お気楽な師弟だな。
「明るい道を歩くか、馬車に乗ればいいんじゃないかな? 後は、護身用武器を持つとか」
「護身なら、俺の服には全て防御魔法がかけてあるぞ」
「それなら大丈夫ですよ。マスターの服なら、フレデリク達も豪商の立場を考慮して、強力な防御魔法をかけているだろうし」
「そうだな。後は、撃退用の魔法もつけてもらうか」
用心棒を雇わない方向で話がまとまってきてる。
私の不満に気づいたか、マスターが笑いかけてきた。
「俺はいいが、ユルクが用心棒を連れ歩くのはとめはしないぞ」
「ユルクも用心棒を連れたいんだ? 夜道を一人で歩くの怖いから」
「違うよ」
からかう仕立て屋に、しっかりと説明しておこう。
「怖いからではなく、用心棒は豪商になったときの、必須のステータスみたいなものだと思うからで、もちろん危険回避のためにも……こういう道の暗がりから強盗とか出てきた時のために」
丁度いい感じの狭い横道を指さそう。
えっ、薄暗がりのなかで――
何者かの目みたいなのが光ってる!?
「ほ、ほらっ、こんなモンスター!? みたいなのが急に出てきたりするからさ!」
「モンスター!?」
マスターと仕立て屋も横道を凝視して固まった。
どうなんだ? 確認してみよう!
「間違いなく、目が光ってますよね!?」
「ああ……!」
「本当だ!」
私の言うことは正しかったようだ!
「だから、用心棒は必須なんだ!」
無防備な私達はここで終わりか!?
「やっぱり、あなた達ニャン」
ニャン?
凶暴なモンスターじゃなくて、猫?
私達の前に音もなく近づいてくるのは――
「ニャコルさん!?」
ヨルダケの従業員、猫獣人の素材屋!
「なんだ、ニャコルか」
「驚いたよ、ニャコルさん」
マスターと仕立て屋もホッとして脱力した。
「ニャ。ユルクに、マスターに、キル」
素っ気ないような簡潔な挨拶が返ってきた。
キラキラ光る猫目が私達を見ていき、猫っぽい口元がスマイルを浮かべている。
「ユルクとキルはわかるけど、マスターまで一緒になってビックリして。面白かったニャ」
「面目ない。この二人といるとどうも気が抜けて、つい一緒に怖がってしまった」
「ユルクが暗がりから何か出てくる話をしてたし、絶妙なタイミングだったのもあるんだ。驚いたよ」
「本当に、タイミング良すぎだよ」
三人で苦笑いするしかない。
全く、隠密活動が得意な素材屋だからって。
ヨルダケのメンバーはどこまで私をビビらせるんだ? フククッ




