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異世界服屋ユルクドレスアップ !  作者: 鏡野スガタ


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夜の服屋の店員と店主

 お腹いっぱいになったし、酒場を後にしよう。


「ご馳走さまでした」


 仕立て屋とともに、マスターにお礼のスマイル。


「美味かったな」


 マスターも満足そうなスマイルをくれた。


「さて、これからどうするか」


 三人で辺りを見回す。


「少し、この辺りの店を見ながら帰らないか?」


 マスターの提案。

 久しぶりの町が名残惜しいようだ。

 私と仕立て屋は顔を見合わせてから、頷いた。


「そうですね、少し歩きましょう」

「行きましょう」


 揃って歩き出す。

 明日も店があるので、三人とも酒は一杯しか飲んでないし、足取りも意識もしっかりしている。

 来た時よりゆっくり、町並みを見ながら歩く。

 酒場の他に、食べ物屋が並んでいる。

 陽気に酔っている人が多いな。これでは、私達の服装を見てはもらえないか、夜だし、人々の服装も着崩れて乱れている感じだ。


 曲がり角についた。


「ヴェイルの店に寄っていくか?」


 再び、マスターの提案。

 私と仕立て屋はまた顔を見合わせてから、少しぎこちなく頷いた。

 マスターはギルドリングで通信をはじめた。


『どうした』

「ヴェイル、お疲れ様。今からなんだが、ユルクとキルと店に行っていいか? 」

『構わん』

「すぐにつく、じゃあな」


 通信は終わった。

 素っ気ない応答だったけど、いつも通りだ。


「よし、行こうか」


 マスターについて行き、別の通りに入る。

 大衆酒場の並ぶ繁華街とは打って変わって、バーのような静かな落ち着いた店が並んでいる。


 淡いランプの明かりで照らされている店についた。

 服屋「ヨルダケ」だ。

 その名の通り、夜だけ開く服屋。

 夜型の暮らしをしていたり、夜に急に服が必要になったりした時のための店だ。

 店内に並ぶ服は、私の店とそう変わらない。

 普段着、正装用の服、夜の職業のための服もある。


 店員さんが居た。

 黙ったまま、私達をチラッと確認しただけ。

 私のように積極的な声かけや接客はしない。

 接客が苦手な人も利用している店だ。


「こんばんは」


 つい、私とマスターは声かけしてしまった。


「こんばんは、いらっしゃいませ」


 無表情で無機質な声音の返事がきた。

 この店員さんはイルイザさんか。魔法で動くマネキン。

 奥には、男性店員も居る。

 二人とも服のディスプレイとして店内を歩きながら、店の整理整頓と必要最低限の接客と会計を担当している。


 服装観察してみよう。



 店員の服装

挿絵(By みてみん)

 夜の服屋の雰囲気と彼女のミステリアスさが出ている服装だ。

 薄紫色のハイネックノースリーブ。

 黒いワンピースを重ね着している。首のチョーカーと肩のストラップが特徴、チョーカーネックワンピースという。

 チョーカーにあるベルトなどの留め具を付け外しすることで脱ぎ着する。

 胸元はハートカット、ビスチェラインともいう。

 ワンピースの裾は不規則な形になっている。イレギュラーヘム、イレヘムという。このデザインなら裾が本当にボロボロになっても目立たずにすむ。なかなか服を新調せず裾が擦り切れるまで着る無精者にもいい。

 前裾が短く後ろ裾が長いのはアシンメトリーヘム (アシメヘム)、ハイロー、フィッシュテールなどという。

 ティアードのドレープがヒラヒラして幻想と神秘さを醸し出している。

 黒いレースの手袋。指がでるタイプは指なし、フィンガーレス。レースフィンガーレスグローブなどという。

 明るい紫色の編み上げアンクルブーツ。ソール (靴底)とヒールは金属製で、さりげなくも美しく輝いている。


 説明を省いた簡単な名前は今月オススメの黒と紫のアンサンブルワンピースだ。アンサンブルは「同時に、一緒に」という意味。ノースリーブとセット売りのワンピースだが、別々で着ることもできる。

 紫のノースリーブとチョーカーネックワンピース、チョーカーネックとハートカットのイレヘムワンピースなど、どこを強調するかで名前は変わる。


 我が店にはない、この店オリジナルデザインだ。


「素敵なワンピースですね」


 ここでは私も無機質気味な声にしておく。

 こういう店の雰囲気に合わせるのも楽しみの一つだ。


「良いデザインだな」

「裾の裁断の仕方、面白いですね」

「ああ、一見、適当にも見えるが生地と仕立てはしっかりしている」


 マスターと仕立て屋も興味津々だな。


「今、オススメです」


 イルイザさんは胸の価格プレートを指さした。

 7500リラ、お買い得だな。

 ひとしきり服を見たあと、


「ありがとう。服はお客に買ってもらうとして、俺達は店主に会いに行くとするよ」


 マスターのスマイルに、イルイザさんは視線を上にした。


「二階へどうぞ」


 それでは、店員さんと別れて。

 マスターについて階段を上がっていこう。

 二階は魔法服と鎧装備コーナーだ。照明が少し落ちて、ミステリアスな雰囲気が増している――


 一階を見下ろせるコーナーの一角に、店主が居た。

 ヴェイルさん。私とまるで違う、マスターとも少し違う。

 服屋の店主というより……

 闇の魔法使いの如く豪勢な椅子に腰かけている。

 私達が近づいても、店員さん同様に視線を向けただけ。

 声かけやスマイルを向ける気ゼロの様子。ほとんど動かない、彼もまるでマネキンだ。

 こちらも冷徹な眼差しで、服装観察するか。



 店主の服装

挿絵(By みてみん)

 店員よりさらに夜の服屋の雰囲気が増している服装だ。怪しく危ない感じもある。

 店の暗がりに溶け込むような漆黒のマント。裏地は青く柔らかなドレープが優雅だ。

 深みのあるワインレッドのシャツ。

 胸から腹にかけて胴体に特殊なベルトを装着している。胸の前でベルト留め。デザインは種類がある。

 レザーハーネスベルト、ボディハーネス、チェストハーネスなどという。

 装飾的なベルトだが、こちらはマントを装着する留め具にもなっている。これなら、ゆったり肩に掛けるように纏ったマントも外れない。

 マントを脱ぐ時はハーネスを外すか、マントのフックなどでハーネスのリングに装着していればマントだけ外すこともできる。

 黒いタイトズボン。

 装飾的な金属で足首を覆っているブーツ。

 このように金属を加工することを彫金といい、彫金装飾ともいう。デザインが凝っているだけに重そうだがヴェイルさんのように座っていたり貴族のようにあまり歩かず見た目重視ならいい、戦闘用の軽くて頑丈な金属もある。

 金属部分に足を入れて履くタイプと、金属部分に留め具があり開閉するタイプがある。

 シャフトが単体となっておりブーツの上から装着したり靴に合わせて装着する場合もある。

 このように、シャフト (筒部分)が金属製のブーツはプレートシャフトブーツ、プレートブーツ、鎧ブーツなどという。

 こちらは装飾的なのでデコラティブプレートブーツ、メタルデコラティブブーツ、彫金装飾されたブーツなどという。夜の店内で美しく重厚な雰囲気で輝いている。

 他に装備はギルドリング。赤い宝石のほう。


 説明を省いた簡単な名前は夜の服屋店主の装いだ。



「こんばんは。会うのは久しぶりだな、ヴェイル」


 マスターの声かけとスマイル。


 本当に、久しぶりだな……

 ヴェイルさんも服飾ギルドのメンバーだけど、昼間の集会には来ないし、やり取りはギルドリングか転送ボックスだし。

 いつまで経っても親しくなれないし、なんだか緊張するなぁ。

 そのせいで、いつも通り堂々としているマスターの後ろから、私と仕立て屋は少しコソコソと会釈する。


「こんばんは、ヴェイルさん。お疲れ様です」

「こんばんは、お疲れ様です」


 控えめな声かけとスマイル。

 ヴェイルさんは私達一人一人に視線を移した。


「ようこそ、我が店へ」


 店員さんと同じ無機質な返事。

 しかし、カッコイイ……

「ようこそ」はマスターと同じくらい低いがよく通るトーンだ。

「我が店へ」は店の雰囲気に合っている声かけだ。私もよく我が店と言うが、まだヴェイルさんみたいに様になってない……

 彼も私の尊敬する憧れの存在の一人だ。

 さすがに、座ったままの対応は真似しないけど。いや、これはこの人のスタイルだから良いんだ。

 ヴェイルさんの目線の位置は丁度、服装にくる。

 私達の服装観察をしているようだ――三者三様の服装はいかがか?

 文句なさそうに、小さく微笑んだ気がする。

 ん?

 ヴェイルさんの視線が今度は私と仕立て屋の顔に注がれて、フッと笑った!?


「二人で私を訪ねるのが怖くて、マスターに付いてきてもらったのか?」


 からかわれた!

 こんな風に人間味はあるんだ、時々。


「違いますよ」


 私と仕立て屋は声を揃えて反論して苦笑いした。

 確かに、いつもは二人で食事した後とか、店の一階に寄るだけで滅多にヴェイルさんには会わないけど。

 それは仕事の邪魔にならないよう遠慮してるからと、店の雰囲気がそうさせるだけで、怖いからとかではない。


「それなら急に三人で来て、何の用だ?」


 ヴェイルさんの視線が、私達を見ておかしそうに笑みを浮かべるマスターに移った。


「いや、特に用はない。三人で食事をしてな、帰りに寄らせてもらったんだ」

「ふん、わざわざそんな風に寄るな。何事かと思うではないか」

「驚かせたな、すまない」

「まぁいい、いつなりと好きにやって来るがいい」

「ああ、ありがとう。フラっと立ち寄らせてもらう、たまにはギルドメンバーとも店を楽しみたいからな」


 マスターは一階に目を向けた。


「イルイザの着ている服、とても良い出来だった」


 仕立て屋とともに、うんうんと同意。

 ヴェイルさんは満足げに微笑を浮かべた。


「ここの服も見たことのないデザインがあるな――」


 マスターは店内を見回した。

 私も、見てみよう――どれも凝ったデザインだ。参考にしよう。魔法服の品揃えは我が店より良い、魔法使いの客がこちらのほうが多いからな。

 ディスプレイは前に来た時と変わりないようだ。

 あ、奥の扉……オーダーメイド客用の部屋だ。

 ヴェイルさんの座る椅子のサイドテーブルに「オーダーメイド承ります」のカードがある。

 普通のオーダーメイドだけではなく、人伝(ひとづて)で知ったり店の雰囲気から察して、怪しい注文をする客もいる。

 オーダーメイドの部屋には地下に続く階段があり、地下の秘密服コーナーでは怪しい危険な魔法が付与された服が作られて売られている。着ると呪われる服とか……

 誰でも買えるわけではない。ヴェイルさんが客との会話から売るか売らないかを決める。契約も必要で破ると、客が次に着る服はシュラウド、死に装束になるとか……

 真相はよく知らない。ヴェイルさんと夜の仕立て屋達とマスターしか深く関わっていない商売だ。

 そんな一面がある店だから、特にこの二階では緊張してしまうんだ。

 仕立て屋も私と同じように扉を見ている……私達二人でビビって……いや、好奇心いっぱいだが自重して見ているだけだ。許可されれば、すぐにでも地下に降りていくぞ!


「相変わらず、素晴らしい品揃えだ」


 マスターの声でハッとした。

 視線を扉からヴェイルさんに戻そう。


「変わりない様子で安心した」

「何か変わりあれば、真っ先に知らせている」


 ヴェイルさんはギルドリングに触れながら応えた。

 マスターとは信頼関係ができているんだな。


「私からも、ついでに聞いておこう、皆は変わりないか?」

「ああ、特にない」

「変わりないです」

「私も変わりないです」

「加工屋達も変わりない。素材屋は今、素材採取に出ている」

「そうか」


 ヴェイルさんは少し安堵したように頷いた。

 彼もやっぱり私達の仲間だ――


「たまには、集会に来てくださいよ」


 思わず、誘っていた。


「服のことを話しましょう」


 服屋の店主同士だし。

 この機会に、少しは交流したい。


「そうだな……」


 考えるような返答だ。


「昼は寝ているからな。集会までに起きれないかもしれん」

「あっ、そうですか……」


 何か深い理由があって来れないんじゃなく。

 起きれないのか。

 夜に働いているし仕方ないか、無念の表情で頷こう。


「今度は、夜に集会を開こうか」

「たまに、ならな」


 マスターの提案にヴェイルさんは即座に付け足した。

 片眉をピクリとさせた面倒そうな表情、やっぱり、顔出しとかそういう人付き合いが苦手なのもあるようだ。


「わかった、たまにな。仕立て屋達とも話したいものだな」

「仕立て屋となら今でも話せるぞ、地下で仕立て中だ」

「どうする? 行くか?」


 マスターが私達をうかがった。

 ここは同職の仕立て屋に決めてもらおう。


「どうする?」

「うーん……今度、集会で会うことにしましょう」


 仕立て屋は遠慮がちなスマイルで答えた。

 あれ、許可されたのに降りていかないんだ……

 ビビって……


「仕立て中なら邪魔はしたくないし、地下は危険な魔法もあるから、不用意に行かないほうがいいと思うし」


 なるほど、そういう理由なら納得。


「そうだな。なら、今度改めて皆で会おう」


 マスターが厳かに決定した。


「ヴェイル、仕立て屋達によろしく伝えてくれ。はっきりした日時は後で決めよう、また連絡する」

「わかった」


 すぐじゃなさそうだな、いつになるんだろう。

 まぁ急ぐ必要はないか。ヴェイルさん達次第だ。


「では、そろそろ失礼しようか」

「はい」


 お客さんも二階に登ってきている。

 邪魔しないうちに――


「では、店を頼む。またな」

「ああ、またいずれ」

「失礼します」


 仕立て屋とともに別れの会釈をして離れよう。


 階段を降りながら、すれ違うお客さん。怪しい注文をしに来たのかな?

 危険な要望をはらんだ客ともニアミスする、退店まで気を抜けない店だ。


「ふう」


 外に出たらホッとした。

 夜の服屋、我が店とは違う楽しさに満ちていたが……

 やっぱり、少し怖かったな。




補足です。


登場人物紹介

名前 ヴェイル・アスター

服飾ギルドのメンバー。夜の服屋の店主。

手練れの魔法使いで加工も担当しており、加工屋の二人とは昔からの知り合い。

ギルドの集会にはほとんど出ず、メンバーとのやり取りもギルドリングや転送ボックスなど遠隔なことがほとんど。

古株だが飲み会なども出ない、プライベートは謎に包まれている。

同じように謎の多い仕立て屋と素材屋もいる。


ヴェイルのビジュはちょっと良すぎましたね。

顔が服装より目を引くと困るのですが、マネキンみたいな店主なのでまぁいいでしょう。


現代の服屋のビジュアルやスタイルをいうと、マネキンが海外の人をモデルに作られているのでスタイルが良すぎて参考にならないといわれ、最近ではトルソーを使う店が多くなっているという話を昔聞いた気がします。

こちらの挿絵でもトルソーで服をディスプレイしておりますが、顔のあるマネキンでもミステリアスな店には合うかもしれませんね。


接客必要最低限、今時の店の形態と店員や店主ですね。

ユルクみたいなスマイルとサービス精神旺盛な店員や店主は現代では絶滅危惧種でしょうか。

どっちの接客形態も良いと思います。


マネキン店員の着ている、チョーカーネックワンピースは一時期流行っていて今では定番ですね。チョーカーネックの前は、付け襟で似たような服装が流行っていましたか。ファンタジーの服にも流行と移り変わりがあるようです。


チョーカーネックは肩のストラップに付いていて挿絵のように首にビッタリ巻き付くタイプやレザーの固いタイプは留め具で付け外しして、ニットや伸縮性のあるタイプは服と一緒に頭から被って脱ぎ着します。


ハーネスベルトは胸のベルトが一つ、ネックベルト付きで十字架のようになっていたりと種類があります。

わかりやすさでベルト二つにしました。二つの場合は胸上と胸下をベルトが通り胸筋を強調するように装着するタイプもあります。

名前は短くチェストベルトやボディベルトなど略されることもあるかもしれません。


店員や店主の黒系やレザーのシックな服装はソリッドともいうそうです。ソリッドは固いとか、スタイリッシュ、洗練されているなどの意味です。

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