酒場での話〜服飾ギルドとの出会いと絆〜
町はまだ人々が結構歩いている。
夜の繁華街はさらに明るく賑やかだ。酒場もいくつかある。町の人達に冒険者、どこも客が入り始めているな。
窓から店内の様子を見て、店の入口にあるメニュー表を見ていく。
「メイデンタウロスのステーキだって! メイデンタウロスって、今日沢山売れた手袋のモンスターだよ」
「ほんとだ」
「肉はここに買われていたか」
服の素材となるモンスターなどの皮や毛は服屋が使い、肉は肉屋や料理屋が使い無駄なく流通している。
こんな風に繋がりを発見するとなんだかテンション上がるな。
「このステーキ食べてみようか」
「うん、食べてみたいね」
「よし、そうしようか」
今日の店はここに決まった!
マスターとともにローブを脱いで椅子に掛けて、丸テーブルを囲んで座る。
ステーキと食べたいものとオススメを適当に注文して。
まずは、ビールで乾杯。グビグビ。
「プハーッ、仕事の後のビールはやっぱり美味しいなぁ」
「うん、美味しいね」
私と仕立て屋はしょっちゅう一緒に飲むからいつもの感じだ。
「久しぶりに美味いな」
マスターはしみじみと嬉しそうにしている。
いつもは高級店や自分の屋敷で高いワインなんかを飲んでいるのだろうか。それもいいなぁ、憧れる……
他にも、料理が来るまでに気になることを聞いておこう。
「マスターの店のほうは今日はどうでしたか?」
「俺の店も特に変わりなく順調だ。普段着、仕事着、社交用とまんべんなく売れている。婚約用のドレスの注文もあったが、しっかりと契約書を交わしたしキャンセルの問題もなく進むだろう」
うんうんよかったとスマイル。
仕立て屋がマスターから私に顔を向けた。
「ユルクの店は? 貴族コーナーはどう変わったの?」
「貴族コーナーはね。空中ディスプレイといって天井に服を吊るして、マスターに見てもらったんだけどさ」
「空中ディスプレイ……」
仕立て屋は想像するように眉を寄せて、上を見た。
「そう、そんな風に見上げていると首が痛くなるというデメリットを指摘されてね。それは降ろして、必要最小限の商品を並べて希少価値を出すディスプレイにしたよ。マスターのアドバイスでスッキリとした綺麗な貴族コーナーになった」
ありがとうございますともう一度、礼をしておく。
「そうなんだ」
仕立て屋は面白そうに笑っている。
「ユルクのアイデアも見てみたかったけど、スッキリ綺麗になってよかったね。最近は貴族のお客も増えてきたし」
「うん、さっきも、あのいつもの少年貴族と従者が来てさ」
「あの二人ね」
二人は我が店に来た時に、窓を覗いて仕立て屋の仕事も見物しているという。お馴染みの可愛い客だ。
「夜に来る幽霊伯爵、あの方の屋敷に忍び込むからマントをくれと言って困らせてきてさぁ、なんとか諦めさせて家に帰す途中でマスターに会えてさ。助かったよ」
「ああ、馬車でお送りしたが、ずいぶん大人しくなさっていたな」
「マスターと居たら大人しく帰るしかないですね」
マスターと仕立て屋は笑っているが。
何か腑に落ちないな……
「私には命令して来たのに、マスターの前では大人しいなんて。同じ服屋でもオーラみたいなのが違うのかな?」
首をひねっていると、料理が来た。
「ステーキ、美味しそう!」
悩みも忘れさせてくれる存在だ。
一旦、話は止めにしてと。
分厚いステーキをがっつこう!
ナイフとフォークで、マスターと仕立て屋は切るのが上手いな。
「肉汁が凄い!」
「このベストには汚れ防止加工がしてあるが、二人の服は大丈夫か?」
「はい! 大丈夫です!」
「もしものために、汚れを綺麗に拭き取る洗浄魔法の付与されたハンカチも持ってきてあります」
服飾ギルドだけに、その辺は抜かりない。
「よし、頂くとするか――」
「頂きます!」
まずは、一口……
「メイデンタウロス、美味しい!…… ビールにも合う!」
「皮は硬いのに肉は柔らかいね、どんどんいけるよ」
「うん、美味いな」
三人揃ってがっつきつつも、服飾ギルドの性分か無意識にか、肉汁が服につかないように気をつけて食べている。
他の客は服など気にせず食べている。羨ましいような、やっぱり服が汚れるのは抵抗あるような。
「今日は、このモンスターの手袋もだけど」
仕立て屋も周りを見回して言った。
「冒険者の服も結構売れてたね」
「うん、冒険者が立て続けに来たよ。ベテラン鑑定士の一人旅のお客さんと、新人冒険者の三人組。そうだ」
このことはマスターにも改めて報告しておこう。
「一人はツケ払いでした」
「ああ、そうだったな。記録にもあった」
「ちゃんと、払ってくれそうな客だった?」
仕立て屋が心配するような笑みを浮かべて、疑うように小首をかしげた。
「多分、大丈夫だよ」
安心させるスマイル。
「冒険者ギルドのクエストをこなして金を稼ぐと言っていたし、仲間もしっかりしてて、ちゃんと払いに来ると約束してくれたよ」
「それならよかった」
「そうだな」
マスターも半分は疑っているのか眉を寄せているが。
半分は信じてくれているのか笑って頷いてくれた。
「今のところ、ツケ払い客の大半は支払っている。残りも踏み倒して逃げたというよりは、払えない状況になって消息不明といったところだな」
あの三人、この酒場には来てないな……
「払ってないお客は冒険や魔王を倒しに行ったりしてそのままですかね? 今日のツケ払いのお客さんも、魔王倒しに行きたいとか無茶を言っていたので心配ですよ。近くの森からクエストをこなすと考え直してくれてはいましたけど……」
「誰でも新人の頃は無茶をするものだからな。無事を祈ろう」
「はい」
支払いのためとはいえ、私達は真剣に客の無事を祈った。
「魔王といえば」
仕立て屋が私に笑いかけた。
「ユルクは、魔王の服装観察に行くなんて無茶して、よく無事だったよね」
「うん」
かつての無茶な行動――
思い返して笑い返した。
「私は本当に運がよかったよ。無事に服装観察はできたけど、魔王の一撃を受けて魔王城から吹き飛ばされて、それこそ空中を舞ってさ、そのまま落ちて死ぬかと思ったけど、素材屋が助けてくれたからね」
それが、素材屋との出会いだ。
「魔王城に向かう途中から、素材採取中の素材屋と偶然出会って服装観察の話をしていたから、私の無茶な行動を心配して後をこっそり付いて来てくれていたんだ」
前にも話したことだが。
仕立て屋もマスターもフムフムと聞いている。
「服屋と素材屋が偶然出会うのも運が良いというか、運命的だね」
「うん、本当にそう思うよ。おかげで危機一髪助けてもらえて魔王の領地からもすぐに脱出できた」
「素材屋って、強いし頼りになるよね」
「アイツは長い間、冒険者だったからな。色々と経験も豊富なんだろう」
「傷の手当もしてくれましたし……」
あなたは命の恩人ですと何度ペコペコと感謝しても足りなかった。けれど、素材屋は「気にせず普通に接してくれ」と言うのでそうしている。
今では、心から信頼できる仲間だ――
「それで、素材屋が『服のためにここまでするなんて凄い奴だ』と言って、私をマスターに紹介してくれて、服飾ギルドに加入できて服屋の店主になれました。あの魔王の服装観察から、一気に人生が変わったなぁ」
かなり無茶してしまったが、してみるもんだな。
そう、しみじみ思う私を見て、今度は仕立て屋と一緒にマスターも面白そうに笑っている。
「素材屋が連れてきたユルクを見て、その話を聞いて、俺をはじめ全員がユルクの度胸と服への執着というか情熱に感服したんだ。服飾ギルドに勧誘せずにはいられなかったぞ」
「どうも、ありがとうございます……!」
そういえば、加工屋の二人も驚いてたな。
ベアトリスは「頼もしい人ね」と笑ってくれて、フレデリクは「一目置かせてもらう」と呟いていたなぁ。
仕立て屋もうんうんと頷いている。
「マスターが求めていた、逸材ですよね」
「ああ、予想以上のな」
二人にそう言われると照れるなぁ。
嬉しさのままに笑っておこう。
「服飾ギルドのメンバーは逸材ばかりだから、仲間に入れてもらえて本当に光栄です」
マスターは言わずもがなだが、そういえば――
「仕立て屋も、服飾ギルドに入る前は無茶してた逸材だよね」
「逸材というか」
仕立て屋も照れたように笑った。
「スキルが "万物裁断" っていうハサミで何でも切れる能力だったら、誰でも、何でも切ってみる冒険に出るよね?」
万物裁断。ハサミであらゆるものをスパッと好きな形に切れる能力だ。
まさに、仕立て屋のためのスキルだけど。
私が手に入れていたなら……
「そうだね、とりあえず、何でも切ってみるし武器にもするかな」
「だよね」
「魔王も切れるのかな?」
「どうかな? 魔王城に着く前に、こうして額に怪我して冒険はやめたから、わからないな」
仕立て屋は前髪を掻き上げて傷を見せた。
一本線の切り傷……仕立ての際にできた傷かと誰もが思うので、聞かれた時は「仕立て中にちょっと事故で」と言って誤魔化している傷だ。
「ハサミを武器にするのもやめたし、生活に役立つ使い方をしようと考えて仕立て屋になったから」
話しながら今度は前髪で傷を隠した。
「もうこんな怪我はごめんだし、魔王は切りに行かないよ。仕立て屋が行く必要もないだろうし仕事も忙しいからね」
フムフムと納得して頷こう。
今の仕立て屋には、危なさが感じられない。
「ハサミで何でも切る、危険人物から仕立て屋にか。収まるところに収まって丸くなったって感じだね」
「私は最初から丸かったよ。尖ってたわけじゃなく、好奇心でスキルを使ってただけだからね」
そう反論して笑う仕立て屋は、どこか不敵には見える。
「まぁ、そんなわけで、本格的に仕立て屋になった頃に服飾ギルドにユルクが来てくれたんだよ。助かったよ、この傷があるから、私はマスターみたいに服屋まではできないし、接客自体も得意じゃないから仕立て屋だけやりたいけど、どうしようかなって思ってたところだったからね」
前髪の分け目のところにある傷。
お客さんの服の採寸の間くらいなら隠しておけるけど、時間が経つと見えてしまうからな。
困っていたところに、この私、ユルク・ドレスアップが現れたということか。フククッ
しかし、それを言うなら――
「私こそ助かってるよ。採寸も仕立ても、仕立て屋が隣に居てくれてすぐに頼めるから安心だし。私の腕の傷は仕立て屋の作ってくれた服が完璧に隠してくれてるから、服屋をやるのに支障もないし。接客は好きだし任せてよ」
「うん」
なんだか良い声かけとスマイルを交わせた。
お酒のおかげだろう――
「互いに補い合う二人が出会えてよかったな」
私達を眺めて、マスターも微笑んだ。
「それに、二人して無茶をやめた後にギルドに加入してくれてよかった。手こずらずに済んだからな」
「フクク、はい。もう無茶はしません」
誓いのスマイル。
「ユルクは、まだ怪しいと思うな」
仕立て屋が首をかしげて疑ってきた。
「時々、森で手当たり次第に服装観察して客引きしてるし」
「それくらいなら大丈夫だって! 無茶じゃないし、正当な服屋の仕事の一つだよ」
本屋さんにも言われたことだが。
ここでも胸を張っておこう!
「仕立て屋こそ、時々、素材屋に付いて行って色々チョキチョキしてるだろ? 怪しいよ」
「怪しくないよ。素材屋に頼まれるからで、それこそ正当な仕事の手伝いだよ」
仕立て屋も胸を張っている。
張り合う私達を見て、マスターはなおも微笑えましそうに笑っている。
私と仕立て屋、どっちもどっちというところか。
本当に、こんな張り合いのある人達が居るなんて奇跡だ。
仕立て屋や服飾ギルドメンバーに会えてよかった!
若い頃は無茶してみるものとはよく聞きますが、ファンタジー気分で無茶すると大抵は大怪我をして終了になるのでお気をつけください。




