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異世界服屋ユルクドレスアップ   作者: 鏡野スガタ


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服屋ユルク◊ドレスアップ流のディスプレイと戦略

 マスターは店に入ると全体に目を向けた。

 我が店を服飾ギルドマスターの抜かりない目つきでチェックしている。

 緊張してきた!

 分身も緊張した様子でかしこまっている。


「よし、始めようか」


 マスターはローブスーツを脱いで分身に渡した。

 真似したいカッコイイ仕草だし、ますます気合十分といった様子だ!

 私も、ローブを脱いで腕まくりするか……!


「ああ、その前に、ユルク」


 マスターが突然こちらを向いた。


「今日の、俺の服装はどうだ?」


 自身の服装をサッと片手で紹介した。

 さすが、服飾ギルドマスター。堂々と服装観察を要求してくるとは――


「特に、このベストだ」

「ベスト……」


 美しい黒地に銀の葉模様が織り込まれており、襟ぐり、肩ぐり、前立て(フロント)、裾と銀布の縁取り(パイピング)がされている。

 言葉も返せず魅入ってしまうがこのベスト……

 最近、どこかで見たような?


「これは、どこかで」

「ああ、これはな、キルの着ていたベストを参考にして作ったんだ」

「ああっ、仕立て屋の!」


 昨日、仕立て屋が着ていた……


「えっと……遊歩者の美装フラヌールドレススーツのベストですね!」

「遊歩者の美装?」

「私が付けた名前です。散歩用の服だと言うので、どうですか?」


 私のネーミングセンスは?

 マスターは吟味するように黙った――


「ああ、まさしく、ぴったりな名前だ」

「本当ですか!?」

「ああ、これ以上ないネーミングだ」

「ありがとうございます!」


 マスターの力強い断言とスマイル。自信がつくなぁ。


「その遊歩者の美装を昨日、仕立てたから見てくれと俺の店に着て来たんだ。スーツの仕立て全体が貴族向けにしても良い出来とデザインで、ベストが特に目を引いてな。その場で話を聞きながら、俺なりにデザインをアレンジして仕立ててみた」


 フムフムと相槌を打つ。

 私の提案通り仕立て屋はちゃんとマスターに服を見せに行って、そんなことになっていたんだ。


「仕立て屋のベストは私も凄い出来だと思いました」

「多種類の草花が織り込まれた蔓草(アラベスク)模様が美しかったな。俺は、シンプルに葉を一つ連ねる蔓草模様にしてみた」


 見てみよう――


「仕立て屋と同じブロケード織りのベストですね。パイピングがまるで銀の額縁で生地は夜につたう蔓草の絵画のようで、マスターの仕立てたこちらも凄く美しいです! 近くで見ても遠くから見ても、シンプルなデザインがギルドローブともシャツとズボンとも合っています。お似合いですよ!」


 尊敬と絶賛のスマイル。


「ありがとう」


 マスターも仕立て屋と同じように満足げだ。


「ユルクが、俺に服を見せに行くように言ったそうだな」

「そうなんです、凄く良い服だったので」

「おかげで、弟子の成長を目の当たりにすることができて、俺も新たなデザインを考えて一緒に成長することができた。楽しいひとときをありがとう」

「どういたしまして」


 師弟で楽しく仕立てをするひとときを過ごせたんだ。

 見せに行きなよと、けしかけてよかったな。


「さて、服の自慢も済んだし本題に入ろうか。キルのベストのように、ユルクの店のディスプレイも興味深いぞ」


 マスターはニヤリとした。


「はい、こちらです」


 スマイルを返して案内する。

 服自慢か、それのおかげで緊張が解けた。マスターは厳しいだけでなく、服のことなら何でも好奇心旺盛に楽しんでいるんだ。私も、楽しく成長しよう!



 貴族コーナーについた。


「まずは、私が考えたディスプレイを見てください」


 片手で示し、空中ディスプレイを紹介する。


「これは――」


 マスターは天井を見上げて、スマイルを浮かべたまま止まった。



 マスターと貴族コーナー

挿絵(By みてみん)

 空中ディスプレイを観察するマスターを服装観察しよう。

 上等なワイシャツとクラバット。

 弟子に刺激を受けて仕立てたブロケードのベスト。

 ダークブルーのトラウザーズ、スラックスともいう。

 全体的にダークトーンで統一された美しさ。

 仕立て屋は昼の装い、マスターは夜の装いといったところだな。

 装備はギルドリング。服飾ギルドの紋章があるほうを嵌めている。


 説明を省いた簡単な名前はベストスーツだ。



「どうでしょうか? この、空中ディスプレイは!?」


 マスターが見上げる先を私も見よう。


「先ほどの、小さなお客様達は "楽しい" と言ってくださったのですが」


 私も、このディスプレイの仕方は自信があるんだが果たして――


「確かに、楽しさがある奇抜なディスプレイだな」


 マスターはスマイルを浮かべたまま頷いた。


「ですよね!」


 "奇抜" まさにその通りだ。

 奇をてらったディスプレイ、フクク。


「貴族は、こういう奇抜さが好きだからな」


 マスターの見解に大いに頷こう。


「ですよね」


 私の狙いが伝わっているし間違ってもいなかったようだ。

 物好きな貴族の心はバッチリ掴めるディスプレイができた、フククッ


「しかし」


 マスターは腕を組み、眉をわずかに寄せた。

 難色を示されてしまった!

 何か言おうとしている、心して聞こう。


「服屋のディスプレイにしては、奇抜過ぎて落ち着いて見られないな」

「落ち着かない、ですか……!」


 確かに、目をあちこち忙しなく動かしてしまうな。


「それに、ずっと上を見ていると首が疲れる」

「そう、ですよね……!」


 確かに!

 首が凄い疲れる……

 良いアイデアが浮かんだことに気を取られて、こんな簡単なデメリットに気づかなかった……


「では、ディスプレイは降ろしますね」


 即断して、マスターに手伝ってもらおう――



「降ろしたこれらをこのままディスプレイすると窮屈になるから、減らしたほうがいいな。今のままではゴチャついている」


 トルソーを抱えて店内を見回しながらマスターが言って、同じくトルソーを抱える私を見た。


「そうなんです」


 私もマスターの顔を見返して悩みを相談しよう。


「マスターの店のように商品を充実させようと思っても、通路が狭くなってしまって……」


 壁に並ぶワードローブスタンドに中央のディスプレイテーブル。そこに天井にあったトルソーが加わると圧迫感がある。

 マスターもあちこち見回しながら思案している。


「そうだな……ならば、最小限のディスプレイにして商品の希少価値を出すほうにしたらどうだ?」

「希少価値ですか?」


 良い響きだ……


「人は少ないものに価値を見出す。ディスプレイする商品は人気商品、新作、定番と売りたいものだけにして、同じ商品を何着も並べず、一商品一着ずつか色違い、後は客の要望があればその都度ワードローブから出す。貴族向け高級店のディスプレイと仕様の一つだ。ユルクの店はスペースがないから、このやり方がいいと思うぞ」


 経験と思いやりに満ちたマスターのスマイル――


「そうですね、そうします!」


 威勢の良い返事とスマイルを返していた。


 店内の狭さに合わせたディスプレイ。

 希少価値、高級店、私が求めていたものだ!


「ありがとうございます、ディスプレイの仕方が決まりました」


 道が開けた気分で感謝のスマイル。


「マスターの店みたいに広くないので、どうしようと思っていたんです。少ないディスプレイで希少価値を出すという手がありましたね」

「後は "商品はここにあるものだけ" "限定品" といったワードを上手く使え、そうすればさらに客は買いたくなる。フックックック」

「はい。フククッ」


 ひとしきり笑いあってから――

 マスターはトルソーや商品を仕舞うのを手伝ってくれて、貴族コーナーはスッキリとしてきた。


「並べる服の価格だが」


 マスターは値札を見ながら切り出した。


「町の人も買うことがあるだろう?」

「はい」


 お祝い事や仕事やちょっとした贅沢など様々な理由で売れていく。そのために、


「町の人も買いやすい価格を満遍なく並べています。平民は安物でも買っておけと言うような嫌な店主に思われないよう、低価商品を一箇所にはまとめず、高価な商品に紛れさせて "安いのを見つけた"と思わせるようにしています」


 名付けて "掘り出し物戦略"!

 この店を開いた時に、マスターから教わった売り方だ。


「うん、しっかりと実践しているな」


 マスターは満足げに頷いた。

 そして、再び腕を組みながら貴族コーナーを見回した。


「よくなった。このほうが広々としていて、大仰な仕草をする貴族も文句ないだろう」

「そうですね!」

「後は、町の服屋ということで、商品が少ないと侮ってくる客もいるだろう。どんな要望にも応えられるように豊富な種類の在庫を確保しておくんだ」

「はい」


 心して頷く。

 マスターの真摯な瞳が私を見ている。


「我ら服飾ギルドの商う服屋に不足はない。"どんな服でもある" 全ての客にそう思わせるんだ」

「はい」


 使命感を持って頷く。

 マスターも厳かに頷き返した。


「オーダーメイドをうけたまわる案内スタンドも、目立つところに置いて――」


 丁寧な手つきで中央のテーブルに設置した。


「よし。仕立て屋達とも一緒にこれからも協力して繁盛させていこう。ユルクの服装図鑑や商才も頼りにしているぞ。もちろん、俺にも頼ってくれ」

「はい! 今度また、他のコーナーのディスプレイのやり方も教えてください」

「わかった」


 頼もしいスマイルをくれたマスターはまた天井を見上げた。


「あの空中ディスプレイ、発想はよかったぞ。楽しい奇抜さを活かして、子供服や魔法服コーナーのディスプレイにしたらどうだ?」

「そうですね!」


 服が宙に浮いてる感じ、魔法っぽくていい!


「他のコーナーも少し見ておこうか」

「お願いします」


 マスターは店内を見て回ってくれた。


「照明の明るさ、コーナーごとの飾り、商品説明札に広告書のディスプレイ、細かい部分まで気を配っているな。それぞれのコーナーの雰囲気が出ている、全体的に上手い見せ方ができているぞ」


 マスターは満足いったように頷いている。

 好印象を抱いてもらえて褒められた!

 よかった――


「売り上げのほうにも効果は見えているな」

「はい、最近は安定して順調です。フククッ」


 マスターに事務所にも来てもらおう。

 商品の在庫をチェックして、追加する服を決めて、仕立て屋に作ってもらうためメモしてから。

 分身が閉店作業をしてくれているので、それも確認してもらおう。

 まずは今日、売れた服の記録を見せよう。


「今日は、新作の手袋がよく売れているな」

「はい。作業用と冒険用に立て続けに売れました」


 このことは服飾ギルドメンバーで共有するため、それぞれに記録書を転送ボックスで送ろう。仕立て屋には補充するため手袋を追加で仕立ててほしいとも記しておく。

 次は、売り上げ管理帳と金庫の売り上げ金もチェックしてもらおう。


「今日の売り上げの記録とお金です」


 もちろん、レジの記録と売り上げ金と記録帳に違いはない。

 完璧に管理しているし、定期的に報告もしている。

 売り上げ金は服飾ギルドで分け合う共有財産だ。

 独り占めはできないし、する気はない。

 しかし、私には将来自分のブランド店を展開したいという野望がある。そのための資金として売り上げ金をちょろまかし懐に入れる……そんなことをする悪どい奴もいるからな……私はそんなことはしない! という証明のためにも、こうして目の前で堂々と、硬貨一枚までチェックしてもらおう。


「うん、問題ない。完璧だ」

「ありがとうございます」


 安心して売り上げ金を金庫に戻そう。


「これで、閉店後の仕事はあらかた片付いたな」

「はい、分身がほとんど終わらせています」


 後は、戸締まりくらいだな。

 マスターは記録帳を閉じると、肩の力を抜くように一息ついた。


「店のディスプレイに接客に事務仕事まで全て、分身がいるとはいえ一人では疲れるだろう?」


 私に向けられた顔が心配そうだ……

 心配はさせたくない。しかし、


「疲れますが、今は経験値を少しでも増やしたいので一人でやっていきます! 疲れより、やる気が満ちていますから大丈夫です!」


 力いっぱいのスマイル!

 そばに居た分身を体に戻して経験値を得て、満足げに頷いてもみせた。


「わかった」


 マスターは観念したように笑った。


「体調には気をつけろよ」

「はい!」

「ちゃんと食べてるか? 今日はこれくらいにして、夕食を一緒に何か食べに行くか? 俺がご馳走しよう」

「ありがとうございます! 行きます!」


 フククッ、遠慮なくご馳走になろう。


「よし、なら店はどこにするか」


 マスターは気さくな態度になり思案している。

 仕事モードから完全にプライベートモードに移行したようだ。

 私も、張り詰めていた力を抜いて気楽に考えよう。

 マスターと行く店――


「貴族街の高級店でディナーでもするか?」

「高級店でディナー!?」


 最高の提案にゴクリとヨダレが……!


「しかし、高級店ではがっつけないか。沢山食べさせてやりたいからな」

「そうですね……」


 "がっつく" というワードを聞いたら、めちゃくちゃお腹空いてきた!

 こうなると高級店は違うな。


「町のレストランか酒場にでも行くか?」

「そうですね、マスターは酒場なんかでいいですか?」


 服装からも滲み出る高級感が気になるが――


「ああ、俺もたまには酒場なんかで気楽に食べたい」

「そうですか」


 マスターも……路地裏や町の服屋からの成り上がりだから。

 貴族街の暮らしに染まってると思いがちだけど、町の暮らしが恋しくなる時もあるんだな。


「それなら、行きましょう! 」


 店の戸締まりをして、出発だ。



補足です。


仕立て屋はキルリアンという名前なのでキルと愛称で呼ばれています。

仕立て屋のベストは「仕立て屋 二つの姿」をご覧ください。


マスターとディスプレイをやり直した後の貴族コーナーの挿絵が上手くできなかったです。後々追加するかもしれません。

挿絵については店内の様子も全話統一させたいのですがAI生成だと難しいです。

ちょくちょくディスプレイを変えてるということで、ご了承ください。


服を掛けておくスタンドはハンガーラックともいいますし主流の呼び方ですが、ワードローブスタンドのほうがファンタジーっぽい響きな気がするのでそちらにしています。


天井に服や商品を吊るすディスプレイは昔はよくあったようです。日本でも天井の太い(はり)に縄を巻いたり釘打ちしたりして張り巡らし、吊るした商品は棒を使って取ったりしていたそうです。

呉服屋が反物を天井から垂らしてディスプレイしていたのを時代劇か何かで見た気がします。損料屋の(ふんどし)だったかもしれません。

現代では落下の危険や吊るすための太い梁がないや手に取れるディスプレイが主流になったなどの理由で、空中ディスプレイは少なくなっているようです。

ファンタジーでは「天井までとどくような棚」などがよくディスプレイの描写ででてきますね。本屋の本棚とか。欲しい商品が魔法で自ら手元に来てくれるのは助かります。

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