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異世界服屋ユルクドレスアップ   作者: 鏡野スガタ


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閉店間際のトラブル!?

 さぁ、我が店に帰り着いた。


 変わりない様子だ。何事もなかったように接客に戻ろう。

 のどかな午後か過ぎていく――

 日が暮れて客が少なくなってきた、接客とレジは分身に任せて、閉店後のマスター来訪に備えておこうか。


 貴族コーナーに一人立って、顎に指を当てて考える。

 まずは、全体を見てディスプレイの変更点を決める。

 この限られた空間でマスターの店を再現するには――もっと商品を充実させるしかないな。

 壁は隙間なく商品棚やスタンドを並べて中央の商品テーブルのそばにもまだトルソーを追加して……通路が狭くなってしまうか。


「うーん……」


 やっぱり上手く商品を置く場所がない。

 どうにかならないか……


 そうだ!


 考えるように上を見上げて閃いた。()、天井だ!


 天井にトルソーを吊るしてディスプレイする!


 うん、これだ! 奇想天外なアイデアだけど、これ以上の良いアイデアはないぞ、フククッ

 さっそくやってみよう……えーと、事務所に用意しておいたトルソーをとりあえず、魔法で吊るしてみてと――

 美しい貴族服が宙を舞っているようだ! 華やかでいてインパクト抜群!


「やっぱり良いアイデアだ!」


 自画自賛のスマイル。


 これなら沢山ディスプレイできるし、お客さんに驚きも与えることができそうだ。このディスプレイが評判になって我が店が流行るかも!? フククククッ

 マスターに見せるのが楽しみになってきた、どんな反応をするかな?


「服屋さん」


 後ろからの声かけ。

 マスターの前に、お客さんか。


「はい、いらっしゃいませ」


 丁寧な返事とスマイルとともに振り向く。


 このお客は――

 いつも二人で仲良く服選びをしている、少年貴族と少年従者だ。

 もうそろそろ閉店の時間に来るなんて初めてだな。


「あれは……?」


 二人して天井を見上げている。

 さっそく、ディスプレイに興味津々のようだ、フククッ


「いかがですか? あの空中ディスプレイは?」


 思わず感想を求めていた。


 "空中ディスプレイ" なかなかのネーミングだ。


「どうして、空中に服が浮いてるの?」


 子供ならではの純粋な質問が返ってきた。


 どうしてと言われると……貴族コーナーが狭くてディスプレイする場所が他に無くてですね、なんて、店の事情を話すわけにもいかないしな。

 ここは、


「服が浮いていると楽しいでしょう?」


 子供目線の回答をしよう。

 大人の私も楽しいと思うし。


「ふぅむ……楽しいね」


 二人は納得したように天井を見回している。

 少年貴族が空中ディスプレイに向かい手を伸ばした。


「けど、取れないよ」


 その問題には即座に応えよう。


「ご希望の商品をおっしゃってくだされば、私がお取りいたします。こうして――」


 魔法で少年貴族の前にトルソーを移動させてと。

 二人は目の前に来た商品を興味津々で見ている、子供服も吊るさないとな。


「良い服だけど」


 少年貴族が片手を振った。


「私が今日欲しいのはこれじゃないんだ」


 そうか、残念。

 まぁ、大人の服だし。


「では、どのような服をご所望でしょうか?」


 ここからは接客に集中しよう。

 前のめりにお伺いする私に、少年貴族も前のめりになって口元に片手を当てた。


「このことは内密に頼むよ」


 ひそっとした声。

 少年従者も辺りをキョロキョロして、人目をはばかっている。


「かしこまりました」


 私も小声で返そう。


「で、ご所望は?」

「私と従者のマントが欲しいんだ」

「どのようなマントを?」

「屋敷にこっそり入るための姿を隠せるマント」

「えっ!?」


 それで、こそこそ話してきたわけか。

 二人揃って飾り気のない地味なコートを着ているし、目立たない装いにマントを纏って――


「屋敷にこっそり入るとは?」


 まずはそこを聞いてから断ろう。


「知ってるかね? 貴族街の外れに "幽霊伯爵" の不気味な屋敷があるんだ」

「吸血鬼伯爵とも噂されています」


 少年貴族の説明に少年従者が付け足した。


「そう、幽霊なのか吸血鬼なのか正体を確かめるために屋敷に二人でこっそり入るんだ。そのために、私達が気づかれないようになるマントが欲しい。透明になれるマントとか」

「暗闇に溶け込めるマントとか」


 暗闇、夜に行くつもりか?

 マントを買って店を出た足で?

 なんにしても到底納得できる話じゃないな。

 幽霊伯爵といえば我が店の常連さんの、いつもこの時間に来てる、あの若き伯爵様だろうし、子供達が迷惑をかける前にやはり断って止めておかないと。


「残念ですが、そのご注文にはお応えできません」

「どうして!? マントがないの?」

「いえ、マントはありますが、人様の屋敷にこっそり入るような悪いことに使うためなど、お売りできません」


 ちゃんと大人として(たしな)めてもおかないとな。


「さぁ、もう暗くなります。お帰りください」


 二人はムッとした顔になった。


「私の言うことが聞けないのか!?」


 少年貴族は胸に手を当てて猛々しく言ってきた!

 まだ小さいのに貴族の悪いところの片鱗をのぞかせて……困らせないでほしいなぁ。父上はこんな態度は取ったことないのに、どこで覚えてきたんだ。


「黙ってマントを持って来るんだ!」

「言う通りにするんだ!」


 二人して迫ってくる。

 まぁまぁと困り顔で、両手を振り制止してみよう。


「言う通りにしないと、父上に言いつけるぞ!」


 引かずに切り札を出してきたな。

 しかし、こちらも引かないぞ!


「父上に知られてよいのですか? このことは内密なのでは?」

「あっ……」


 二人のほうが困り顔になった。

 フククッ、私のほうが一枚上手だったな。平民の服屋と侮ってはいかんよ。


「バレたら叱られるとわかっていらっしゃるのでしょう? お止めください、そのような危険な真似は」

「うーん……」


 どうする? と言うように二人は顔を見合わせている。


「ご立派な貴族様なら平民の言うことは"そうだな、そうしよう" と寛大に聞き入れるものですよ」

「うーん……そうだな、そうしよう」


 少年貴族は頷いて威勢を失って肩を落とした。

 少年従者もそれにならった。諦めてくれたか。


 安堵のスマイルとともに店の外に誘導しよう。


「さぁ、お帰りください。もう暗くなりますから、お気をつけて――」


 閉店時間になっている。

 外も薄暗くなっているし心配だから、


「お送りいたします」


 ちゃんと家に帰るかも気になるし。

 閉店作業とマスターが来た時の対応は分身に任せて。

 店を出て二人の後ろをついて行く――

 やれやれ、平和だと思っていたら貴族の坊っちゃん達に乱されるとは。

 予想外のトラブルだったなぁ、まぁ、これくらいなら冒険者ギルドに頼むほどじゃないか。


「幽霊伯爵の正体、見てみたいなぁ……」


 二人してボヤいている。

 つまらなそうだ。私を巻いて伯爵の屋敷に行ってしまうかも……そうなったら冒険者ギルドに頼むか。

 その前に、ここら辺で伯爵とばったり出会えたらいいんだけどと、キョロキョロしてみても居ない。

 今日は店に来ない日だから、この辺りも歩いてないのかな。

 いっそ、このまま一緒に屋敷を訪ねて正体を聞いてみようか? 私も知りたいし……


 あっ、前からくる、あの人は!


「マスター!」


 服飾ギルドマスターのほうと会えた。


「ああ、ユルクか」


 微笑んだマスターの目が少年貴族と従者に向いた。


「こんばんは」


 胸に片手を当てた丁重な挨拶とスマイル。

 二人もそんなマスターを見上げて会釈した。


「貴族街の服屋のオーナーだね?」

「はい。いつもご利用いただきありがとうございます。今日は、町の服屋においででしたか」

「うん、ちょっとね……」


 少年貴族は体裁が悪そうだ。

 私を振り返ると指を口に当てて "しーっ"というジェスチャーをしてきた。少年従者も続いた。二人して可愛いので、黙っていてあげよう。


「暗くなるので、お送りしているところです」


 嘘のないスマイル。


「では、私も、お供しますよ」


 マスターは深く気にせずスマイルを返した。

 こうなっては伯爵の屋敷には行けないな。

 四人で歩き出し、野良馬車を拾って乗り込んだ。

 少年貴族と従者は終始大人しく、馬車が屋敷のそばに着くと、


「ありがとう、ごきげんよう」


 と言って、何事もなかったように帰って行った。

 貴族然としたスマートな去り際だ。

 これで "マントマント"と駄々をこねてなかったらよかったんだが。


「ふう――」


 馬車の背もたれに体を預けて一息ついたら。

 マスターには、こうなった経緯を話しておこう――



「そうか、幽霊伯爵の屋敷に忍び込むマントをご所望とは」


 マスターは苦笑いした。


「町の服屋は悪ガキ、いや、イタズラ好きなお客様が来るから大変だな」


 悪ガキか、その通りだなと一緒に笑った。


「はい、言い聞かせるのに一苦労で。ちゃんと帰るかも心配でしたし、マスターに会えて助かりました」

「ああ、馬車に乗らず歩きにしてよかったな」


 夜道を歩きで――


「マスター、一人で来たんですか?」

「ああ、そうだが?」

用心棒(ボディガード)は連れていないんですか?」

「用心棒?」


 真剣な私の問いかけにマスターは軽く笑った。


「ああ、連れていない。狙われるような商品も持っていないし客も一緒じゃないからな。それに、俺はこういう時は一人で歩きたいのでな」


 マスターは窓の景色に目を向けた。

 まるで、危機感のない様子と残念な話だ!


「いけません、マスター! 一人で夜道を歩くなんて危ないですよ!」

「えっ、すまない」


 珍しく私からの注意にビックリしている。

 マスターまで叱られた子供のように見えてくるじゃないか。

 いや、私のほうが子供か……マスターには用心棒を連れていてほしいという願望で怒ってしまったから。


「すみません、心配で」


 それも、もちろんある、心配顔をしておこう。


「いや、いいんだ。わかった、夜道を歩く時は用心棒か屋敷の者を連れておこう」

「そうしてください、安心です」

「うん、心配してくれてありがとう」

「いえいえ、私も貴族街に店を出したら用心棒を連れ歩きます」


 本心を隠せず不敵に笑ってしまった。

 私の願望を知って、マスターも笑っている。


 ほのぼのした空気になったところで店に着いた。

 馬車を降りたら、ここからはまた気を引き締めよう――


「どうぞ、マスター。見てほしいディスプレイがあります」


 少年達の次はマスターに見てもらうために。

 貴族コーナーにご案内――

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