意外なお得意様!? 冒険者ギルドの服装
冒険者ギルドに着いた――
ここは、冒険者同士がいざこざを起こしていたり荒くれ者が乗り込んで来たりする場所だ。
心して入ろう――
今日は平穏そうだな。
クエストが張り出された掲示板の前やテーブルに冒険者達がいる、我が店の服や装備を身に着けた姿で。無事な様子で何より。
「こんにちは」
親しみを込めた声かけとスマイル。
「あ、服屋さん。こんにちは!」
受付嬢が返事とスマイルをくれた。
いつ見ても明るくて感じがいい、冒険者達の癒やしと憧れの存在だ。
受付嬢の服装
冒険者ギルドの看板モンスター、エアリーフォックスが寝ている。可愛い。
受付嬢に集中して服装観察しよう。
ポニーテールの水色の髪留め。リボンかシュシュ。
髪型は専門外だがポニテが落ちないように結ぶにはまず紐でしっかり結びピンで留めたりワイヤーリボン (ワイヤーが入ったリボン。リボンの素材はするする滑りやすいのが多い、すぐにズレたりほどけるのをワイヤーが防ぐ)で結んだりすると簡単でほどけないという。
耳には羽ペンを差している。羽飾りにも見える、アクセサリーにもなっているようだ。
シャツは襟とパフのある長袖。襟はレギュラーカラー (レギュラーは標準、カラーは襟)ワイシャツ、ホワイトシャツ、襟シャツといわれる。
パフの下にはバンドカフス (飾りカフスともいう、カフ、カフスは袖についている帯、バンド。袖の固定と安定、汚れ防止、装飾のためにつける。取り外せるものもある)がある。袖口のカフスと同じ水色だ。
金と水色が印象的なベスト。ラペル (襟)があるのが特徴。ラペルには金のパイピングがある。留め具の金のボタンは一列、シングルという。二列だとダブル。
簡単な名前は襟を強調したいならラペルドベスト (襟付きベスト)、装飾と色を強調したいなら金のパイピングとボタンの水色ベスト、形状を強調したいならラペルドシングルベスト (襟のあるボタンが一列のベスト)だ。
水色ベストのアクセントになっている胸元の赤いリボンのようなものはクロスタイ。タイ (帯状の首飾り)をクロス(交差)させて金の丸ピンで留めている。リボンならリボンタイかリボンブローチ。下向きのリボンは垂らしリボンともいう。
左胸には金属で形どったグリフォン。この冒険者ギルドのエンブレムでギルド職員がつけるバッジになっている。エンブレムバッジ、ギルドバッジ、記章 (徽章)などという。
アクセサリー、服、装飾の色を金と水色にして全体に統一感を出している。所属をわかりやすく示す必要がある服装の特徴だ。
下半身は見えないが黒いタイトスカートを穿いている、ズボンのときもある。履き物はアンクルブーツ。
説明を省いた簡単な名前は冒険者ギルド受付の制服だ。冒険者ギルドユニフォームともいう。
「いつも、お世話になっております」
ペコリとお辞儀を交わす。
我が店が制服を定期的に届けているからな。
受付嬢はプライベートでも店の常連さんだし。
大切なお客さんであり商売仲間だ。
「ギルドはどうですか? 見たところ、平和そうですが」
「はい、最近は大きな事件もなくて平和ですよ」
やっぱり、小さい事件はあるのかな。
まぁ、聞かないでおこう。
「服屋さんはどうですか? 今日はどうしました?」
「お陰さまでこちらも平和で変わりありません。今日は久しぶりにギルドの様子を見たくなりまして来ました。平和で何よりです」
ほのぼのとした雰囲気でよかった、クッキーを差し出そう。
「これ、よかったらどうぞ、差し入れです」
「わっ、このクッキー、新発売の! 凄く美味しいんですよ、ありがとうございます!」
好物を差し入れできたようだ、私も喜びのスマイル。
それからこれも差し出そう。
「後、ツケ払い書も持ってきました」
「お預かりします」
受付嬢はツケ払い書に目を通した。
「あ、この冒険者さんはさっきクエストを受けて出かけた方ですね。お仲間二人と一緒に」
「出かけましたか、どんなクエストをこなしに?」
「初心者向けの簡単なクエストです。最初は、魔王を倒しに行きたいみたいなこと言ってたんですけど」
受付嬢は困ったような笑顔をみせた。
やはり、ここでも二言目には魔王と言っていたか。
「さすがに無理がありますし、見たところ普段着のままでしたから、まずは服装と装備を揃えてはどうですかってオススメしたんです」
「そうでしたか」
こんな風に、服屋に誘導してくれることがある。
冒険者ギルドは服屋と客を繋ぐ重要な場所だ。
「店でも魔王を倒しに行きたいみたいなことを言っていたので、なんとか説得して冒険初心者向けの初期装備をしてもらいました」
受付嬢は笑ってうんうんと頷いた。
「見違える服装と装備になって戻ってきたので、つい、これなら魔王倒しに行けそうですよって言いそうになっちゃいました!」
うんうんと頷いてスマイル。
「でも、本気にしたら困るからDランククエストを紹介したんです。服屋さんの説得のおかげで簡単なクエストからこなすって考え直してくれてて、Dランクでも素直に受けてくれて、助かりました! ありがとうございました!」
「どういたしまして。こちらこそ、服屋への案内ありがとうございました」
おかげで冒険者の客が絶えなくて儲かってますよ、フククッ
「どういたしまして、あっ、このツケ払いのことはなるべく案内しないでおきますね」
「ええ、お願いします。知る人ぞ知る支払い方法ということで」
ツケ払いだらけになったら困るからな。
こちらの受付嬢はよくわかってくれている。
秘密のシステムを共有するスマイルを交わして、
「では、私は今日はこれで失礼します」
「はい。また、いつでもいらしてください」
「ありがとうございます。服屋にもまたいつでもお越しください、お待ちしています」
挨拶を済ませて。
そうだ、
「ギルドマスターは?」
「マスターは事務所に居ます」
「マスターにも挨拶して帰ります……」
事務所にお邪魔しよう。
扉をノックして、
「こんにちは、服屋ユルク◊ドレスアップです」
はいと低い声の返事がして――扉が開いた。
冒険者ギルドマスターの服装
いつ見ても強そうだし怖そう。受付嬢と同じような制服姿なのに全く印象が違う。
緊張で震えないよう気を強く持って、服装観察!
金のパイピングがあるスタンドカラーシャツ。星の襟章は冒険者ギルドマスターの証だ。
重厚な金色のラペルのベストは青色をしている。マントの青も勇者感がでるように、歴戦の勇者でもある冒険者ギルドマスターによく似合っている色だ。袖のカフスも同色で統一している。
左胸にはよく目立つ少し大きなギルドバッジ。
黒いズボンと折り返しブーツ。
装備は左腕の鎧。こちらは義手でもあり魔力でしっかりと体に装着されており手と変わりなく動いている。鎧義手、装甲義手、魔法義手などという。
武器にもなるという。"若い頃のようにはいかない"と言うが嘘だろう。
服とベストはオーダーメイドで義手を装着した体に完璧に合わせてある。他にも伸縮性のあるものや肩や脇に留め具があり開く服やベストなら簡単に脱ぎ着することができる。
こちらの義手は冒険者ギルドで仕事用のゴツいものだが、人の腕と同じプライベート用を装着していることもあり、そちらは店にある服でも着ることができる。義肢用に着やすくなるように簡単な留め具などに、仕立て屋がお直しをすることもある。
説明を省いた簡単な名前は冒険者ギルドマスターの制服と装備だ。冒険者ギルドマスターのユニフォームともいう。
冒険者同士がいざこざを起こしたり、受付嬢に何かあるとこの人が高確率で出てくる――
今も、何もなくても出てきただけでギルド内の空気が変わったようだ。
冒険者達の視線も集まっている、畏怖と憧れの存在だ。
もちろん私も尊敬しているし、善良な服屋だから怖がることはなにもない!
「お世話になっております。ギルドマスター」
一応、敵意がないアピールをする営業スマイルと丁寧なお辞儀。
「ああ、服屋さん、お世話になっております」
親しみのあるスマイルをくれた。
こうして笑ってくれるとホッとする、見た目ほど怖くなく優しい人なのはわかってるけど、つい身構えてしまうから。
「今日はどうしました?」
「今日は、お客さんのツケ払い書を持って来ました。冒険者ギルドの様子も見ておきたくて、平和そうで何よりです」
「ええ、最近は平和ですよ。この辺りの治安がいいせいか血の気の多い冒険者も少なくなって、いや、そういえばさっき、魔王を倒したいとか熱い冒険者の声が聞こえてたな」
あのお客さんの声、事務所にまで聞こえてたのか。
「あの冒険者さんなら店にも来まして初期装備をして、さっき初心者向けのクエストに向かったそうですよ」
「そうですか、それはよかった。駆け出しの冒険者は情熱があっていいが、最初は慎重に行ってほしいですからね」
冒険者ギルドマスターの真剣な眼差しと、思いやりと心配が滲む微笑。
私も神妙な面持ちで微笑んで頷こう。
「服屋さんのほうはどうですか?」
空気を切り替えるように冒険者ギルドマスターは明るくなった。
「店のほうは?」
「おかげさまで平和で、毎日のように冒険者のお客さんが来てくれていて繁盛しております」
儲かっております、フククッ
「それはよかった。何かあったらいつでも言ってください」
「はい、ありがとうございます」
お客とトラブルが起きたら強い人を派遣してもらおう。
もちろん、倒してもらうとかではなく穏便に間に入ってもらうために。
服飾ギルドマスターくらい豪商になると用心棒も必要だろうけど――私には先の話か。
「私も客としてまた、お邪魔しますよ」
「いつでもお越しください、お待ちしております」
最高のスマイル。
「それでは、私はこれで」
受付嬢にも別れのスマイル。
「また、来てくださいね。差し入れありがとうございました」
クッキーの袋を受付嬢は冒険者ギルドマスターにも見せた。
「クッキーを頂きました」
「おお、ありがとうございます」
冒険者ギルドマスターも嬉しそうに破顔した。
クッキーって柄じゃなさそうだが、お菓子が好きだそうで喜んでくれている。
「新発売のクッキーです、どうぞ。では、今後ともご贔屓にお願いします――」
お辞儀とともに扉をそっと閉めて、外の通りに出て一息。
ふう、何事もなく無事に済んだ。
ここも平和で変わりない様子で安心できた。
定期的なお得意様への挨拶回りは大事だな。
これからも、私も変わらず服をご提供しないと。
さぁ、帰ろう――
補足です。
ベストのラペルは形によってピークドラペル (剣のような尖った形)など名前が細かくあります。
現代の受け付けのような制服の時はストッキングを穿きますが、ファンタジーはどうなんでしょうね。やはりストッキングと書くと現代風になるのでタイツかホーザリーがファンタジーっぽいでしょうか。素足のほうがファンタジーな感じはします。なんでしょう、引き算というのか、ストッキングまで描写するとリアル過ぎるというか。
ちなみに肌色は最近はヌードカラーやスキンカラーというようです。
受け付け嬢は連載初めの頃に紹介する予定だったので、襟のやカフスの解説などが細かくなっています。
紹介するのも受け付け嬢だけの予定でしたが、冒険者ギルドマスターっているのかな? 受け付け嬢だけじゃ心配だしと思い登場してもらいました。
義手などのために着やすいように作られた服はユニバーサルデザインというそうです。
マスターのベストのような鈍い金色の名前はアンティークゴールドやオールドゴールドなどがあります。




