冒険者パーティーの服装と装備2 (金のない冒険者の初期装備)
「店主さん、欲しい装備があるんですけど!」
真ん中のお客さんがさっそく声を上げた。
「さっきのお客さんがしていた手袋ってどれですか? 凄く頑丈なモンスターの素材でできてるとか!?」
鑑定士さんの服選び、見ていたのか。
「ああ、メイデンタウロスの革ですね」
「それです!」
「あの手袋でしたら――こちらですよ」
「おおっ」
お客さんのサイズに合いそうなのを渡し。
一応、同じ説明をしておこう。
「これをください!」
手に着けてみると即決した。
商品説明とかより、さっきのお客さんと同じのを絶対買うと決めていたようだな。
こういう選び方はまさに若者といった感じだ。
まぁ、商品は確かなものだから何も言うまい。
「それから、これと同じ素材のマントもありますよね」
「マントはこちらです」
若いお客には明るい色も勧めておくか。
「色は赤や青、緑などもいかかですか?」
「ここはやっぱり、赤 ! "勇者のマント" だ」
「目立ち過ぎだろ」
「まだ勇者じゃないでしょ」
結構、似合ってはいるが。
"勇者のマント"となるとまだ早いか。
「えー、じゃあ、青は!?」
「青のほうがいいと思うぞ」
「うん、緑より……青が似合ってる!」
「じゃあ、青にするか!」
青も結構、勇者感あるな。
「お似合いですよ」
称賛のスマイル。
「ありがとうございます! これにします!」
マントが決まったなら。
若者にはあれも勧めておくか。
「防具の肩当てなどもいかがですか?」
「あっ、肩当てもつけたいです! 」
「革製と金属製と魔石製のものがありますが」
「魔石製の肩当てか、かっこいいな〜。けど、高いな……」
お客さんから笑顔が消えた。
「うわっ、このマントも高い!」
値札にようやく気づいたか。
若者の予算では厳しいようだ。
「服と装備に持ち金を全部使うなよ」
「そうよ、お金は食事や宿代にもいるんだから」
仲間達が厳しい目を向けた。
持ち金スッカラカンの仲間なんて困るもんね。
「わかってるって」
お客さんは眉を寄せて悩みはじめた。
「マントも肩当てもどうしてもつけたい……そうだ! あの、店主さん」
「はい」
「ツケ払いとかできないですか?」
ツケ払い!
どこで覚えてきたんだ、そんな制度。ギルドか酒場か?
全く、仲間とともに脱力してしまうが、聞かれたからには答えよう。
「ええ、ツケ払いもできますよ」
「本当ですか! やったー!」
喜ぶお客さんに、ビシッと紙を突きつけ説明しよう。
「冒険者服と魔法服と鎧装備類にだけ適用される支払い方法です」
ここは冒険者ギルドから近いし、この若者のように不十分な服装で死地に行こうとする客がよくいる、何かあったら私達服屋も責任を感じるし後味悪いから、お互いのための制度だ。
タダにしとくよと太っ腹な店主もいるだろうが、我が店はちゃんと金はもらうと服飾ギルドで決められている。
「このツケ払い書にサインをください。お住まいとギルドに登録しているなら登録番号もお願いします。三ヶ月以内にお支払いいただけなければ、ギルドの報酬から商品の代金を自動的にいただくことになり、それでもお支払いが完了しない場合はお住まいに請求に伺います」
「おお……」
若者はツケ払い書に恐れおののいたようだ。
見つめたまま固まってしまい、ゴクリと息をのんだ。
「払えなかったら、金払えって追いかけ回される羽目になるんじゃないのか?」
クールな仲間が未来を予言した。
「旅の目的が逃走に変わるなんてことにならないでよ」
しっかり者な仲間も釘を刺した。
「だ、大丈夫だって!」
仲間に睨まれながらも笑顔で若者はツケ払い書を受け取った。
さっそく重荷を背負ったように、表情や漂う雰囲気に少し緊張感が増している。
ツケ払いだから! とパァーッと買うようでもない。仲間達もいることでセーブできてるな。
それなら、せっかくの冒険だ、気持ちよく出発できるように客の負担を減らしてやりたくなってきた。
提案しよう。
「支払い額を極力減らせるように、服と装備を安く選んではいかがですか?」
「そうですねっ、そうします!」
素直に頷いてくれたか。
では、お財布に優しい商品を勧めていこう。
「それでは、まず、手袋はそのままにして値段の高いマントを別のものにしてはいかがですか――こちらは最新の作りではないぶん少し厚い革ですが、頑丈さは充分引けを取りませんし値段も安くなります。それから、肩当ても金属製のシンプルなものなら安いのがありますよ」
「シンプルなのはいいですけど、安くなる代わりに装備の効果やグレードが落ちるってことですか」
不安と不満の混ざった顔だ。
「効果やグレードが落ちるというと不安でしょうしテンションがさがるかもしれませんが、オススメしたものでも初期装備なら充分な効果とグレードですよ」
「初期装備……!」
「いきなり、魔王の城に行くわけではないのでしょう?」
「はい、ツケ払いのためにも金を稼いで、レベル上げもするためにもクエストを沢山こなそうと思います!」
うんうん、堅実だと頷いてスマイル。
「それだから、この辺りの森とかを歩く予定なんですけど」
「それなら、初期装備で問題ないですね」
「簡単な初期装備で充分な森って……」
顔がまた不満げになった。
「ギルドで聞いたんですけど、この先にある森は強いモンスターや強敵はいない初心者向けだって。本当ですか? 」
「町に来る時にも通ったけど、普通に人が道を歩いてたしな」
「ウサギの可愛いモンスターもいたよね」
「エアリーラビットはあの森の名物モンスターですよ。あの森で強いモンスターが出るなんて滅多にありませんねぇ」
「やっぱり?」
「がっかりさせて申し訳ないですが、町の人もよく歩いてる森ですから。私もよく行きますし庭みたいなものですね」
「庭!? 強いモンスターの出るかもしれない森が!? 強者の言うことだ!」
若者はまた凄えぇ! と興奮している。
只者じゃない次は強者認定されて嬉しいな。
強いモンスターが出ないかビクビクしながら森を歩いていることは隠して笑っておこう。
「そんな強者じゃなくても平気ですよ。冒険者ギルドだけでなく貴族街や城からも近い森ですから、沢山の冒険者や騎士団なんかも見回りしているので国でも有数の安全な森なんです。冒険初心者にうってつけですよ」
「……う〜ん、初期装備で初心者向けの森、金もレベルも稼げそうにないなぁ」
若者は唸りながら首をひねっている。
服屋が散歩するような近場の森に魅力を失い、やる気も失いつつあるようだ。
このままでは、やっぱり魔王城に行こう! と言い出すかもしれない。
仲間達もそれを警戒しているようにジト目で見ている。
私がまずは押し留めよう。
「それなら、別の森にも行ってみてはいかがですか? 国には沢山森があります。モンスターに困っているところもあるかもしれませんよ。そうして歩くうちに金も稼げてレベル上げもできて、それに」
「それに? 他にも何かありますか?」
「ええ、そうして歩くうちに服と装備を体に慣らすんです。新しい服や初めて身に着ける防具などは動きにくかったり違和感があったりしますから、森で簡単なクエストをこなす中で着慣れていく、これも重要なことです」
服屋ならではの視点。ここでしか聞けないであろうアドバイス、知っていたり気にするのは冒険の経験者くらいの結構重要な話に、お客さんは目を見開いた。
「へぇ、簡単なクエストをこなすことに金稼ぎとレベル上げ以外にも意味があるんですね」
三人して驚き感心してくれたようだ。
「新しい格好に慣れて、金を稼ぎ、レベルを上げて、それから国を出て別の国に行ったり魔王の城に行ったりするのが王道ルートですよ」
「王道ルート……!」
瞳に力と光が戻った。
初期装備とか王道とか、そういうワードに弱いようでもある。
「そうです。そうして王道ルートを行くうちに自分に合う服装や装備もわかり、レベルに合わせてグレードアップもさせていくんです、その際はまたこの店にも来てください。フククッ」
揉み手と満面のスマイル。
「わかりました!」
若者は力いっぱい応えてくれた。
「だんだんグレードアップさせることにして、それじゃあ、まずは初期装備にします! マントはこっちの安いのにして、肩当てもシンプルなものに!」
「かしこまりました」
お客さんの購買意欲が戻ったからには。
安くても納得いくように色々紹介していこう。
まず、マントといえば、
「マントの留め具はどうしますか? ベルト、ボタン、紐付きがあります、お値段的には留め具なしの巻きつけマントが一番安いですが」
「さっきのお客さんが着けてた宝石のついたフィブラがかっこよかったけど、ああいうのは高いですよね?」
「そうですね……」
確かに、ショーケースの中にある宝石付きの装飾されたフィブラなんかは高い。
ならば、手に取れる棚にある商品を勧めよう。
「こちらのフィブラはいかがですか? 作りは変わりませんが宝石はイミテーション、金はメッキで安いですよ」
「おお、本物の宝石と金に見える!」
我が店の商品は安くても粗悪品はないからな。
全て、それなりのものだと胸を張れる。
「本物の高いのは金を稼いでからにして、これにします!」
「私も本物欲しい!」
「僕も欲しい」
「ぜひ、皆さんでまた買いに来てください、フククッ」
「じ、自分の金で買えよ?」
若者は狼狽えながら仲間から視線をそらした。
「次は、肩当てを選ぼう――!」
隣の鎧コーナーに移動しよう。
「わぁ、凄え色々ある……!」
お客さんの瞳がまたキラキラしている。
鎧を見て勇者への憧れと夢が膨らんでいるようだ。
好きに選ばせてあげたいが今は我慢してもらい、堅実に現状に相応しい商品を勧めよう。
「こちらの肩当てはどうでしょうか? シンプルな作りですが、この丸みは剣のような武器の攻撃を滑らせて受け流してくれますし、肩の形状に合わせていてコンパクトで動きやすいですよ」
装着してみてもらおう。
お客さんは腕を動かしてみている――
「思ったより軽くて動きやすいし……剣も振りやすそうです! これにします!」
剣を降る身振りをしてみて決まった。
「他の防具はどうしますか?」
「そうですね……初期装備はこの肩当てだけにして後は一つ一つ増やしていきます!」
レベルアップしていく姿が見えるようだなぁ。
「それでは、お次は服も新しくしてはいかがですか?」
チュニックの首元がだいぶヨレヨレになっているようだし。
ビシッとした冒険者になってもらうためにも。
冒険者服コーナーに戻ってと。
「冒険者用は丈夫な生地ですし、防具を装着するための留め具が付いたものがありますし――こちらの染めていない生成りの生地なら安いですよ。自然の中にも溶け込める色で肌にも優しいです」
まぁ簡単に言えば、ただの布の服だが。
「それにします! ズボンも……」
生成りのセットアップだと上下ベージュ色になるから少し明る過ぎるし……
「ちょっと変ですか?」
お客さんの質問に無言の同意をして他のズボンを差し出そう。
「ズボンは色付きになさいますか?」
「はい! じゃあ……この自然な感じの緑色で! それから、靴下と。後、ブーツは」
「ブーツは破れや傷みがないようでしたら、そのまま履いていてはどうですか? そのブーツなら冒険向きですし、慣れない新しいものより履き慣れたものがいいですよ。さっきのお客さんも履き慣らしたブーツを持ってきていたように」
「そうですね!」
「魔法補正で靴ずれしたり疲れたり転んだりと色々な問題をカバーしてくれるブーツもありますが、少し高くなります」
「う〜ん」
「今は安くしておかなくちゃでしょ。お金が貯まってそのブーツを買えるまでは、私が傷を治療して疲れを回復してあげる」
仲間が申し出てくれた。
なんだかんだ厳しく言いながら、ちゃんと助けてくれるんだ。優しいな。
「ありがとう! それじゃあ、今はこのままで!」
これでだいたい決まったな。
後は――
「ウエストバックなどはどうしますか? 今着けているベルトに装着できるバックもありますよ」
「そうですね……バックとかの荷物なんですけど、さっきのお客さんは何も持ってないし手ぶらでしたよね」
「あのお客さんは収納魔法がありましたから」
「そう、収納魔法だ。俺も使えるようにならないと。バックぶらさげたりリュック背負ったりして戦いたくないし」
見た目を気にする若者らしい理由だが。
口ぶりと表情は真剣だ。暴走しそうで案外冷静に考え直すし。
さっきのお客さんというお手本がいてくれたおかげでスムーズに決めているし、憧れからちゃんと色々学び取って自分に活かしている。将来が楽しみな若者だなぁ。
「魔法を修得するまでは、僕の収納魔法に入れてやるよ」
また仲間が申し出てくれた。
クールだけど、優しいな。
「ありがとう! よし、これで服と装備も決まったし着てみるか!」
最初の若者のスタイルが決まった。
気合十分で私も服装観察してみるか!
冒険者となった服装
金のない若者なりにこだわり抜いた、シンプルで無駄のない姿だ。
勇んで魔王の元へ行ってしまいそうな姿にも見える。
冒険者や勇者の王道色の青いマント。装いに輝きを与えるフィブラ。
生成りのチュニックとズボン。安さだけでなく生成り特有の明るい色と素朴な生地も若者に合っている。
装備はシンプルな金属製の肩当て、肩鎧、ポールドロンともいう。留め具は紐やベルトで腕や肩や服に留める。
最新の革の手袋、使い慣れたソードベルト。
履き慣れたブーツ。
説明を省いた簡単な名前は冒険者の服と初期装備だ。
体に馴染んでいる服装と新しい防具の融合は、まさに初期装備の冒険者スタイルだな。
「お似合いですよ!」
テンションを上げる絶賛のスマイル。
「ありがとうございます!」
お客さんは嬉しそうな満面の笑顔を返してくれた。
「俺の新しい姿、どうだ!?」
仲間達の反応は?
「あんまり変わってない気もするけど、マントがあるとやっぱり冒険者って感じもするし、結構似合ってるよ」
クールな仲間が冷静な評価をしつつ笑顔をみせた。
しっかり者な仲間も笑顔で頷いた。
「うん、冒険者になった! 似合ってる、そのマント!」
「だよな、このマント!」
三人でマントを触ってわいわいしている。
うんうん、やっぱり最初はマントで盛り上がるよね。
微笑えましく見守っていると、輝く笑顔がこちらを向いた。
「気に入りました! これにします!」
お客さんの満足げな購入宣言。
何度聞いても気持ちいいものだ、フククッ
補足です。
王道の冒険者の服装になりました。最近はもっとスタイリッシュというか現代風の服装が色々あるので、定番というよりは懐古的な感じのスタイルですかね。
肩当てはマントの下に装着する場合とマントの上に装着する場合があります。
どちらの着け方にするかはメリットで選ぶ場合とデザイン的に選ぶ場合があるようです。
肩当てをマントの下に装着→マントを取っても肩当てをしたままでいられる。マントで隠れることで直射日光で熱くなったり風雨での錆や劣化を防ぐ。マントに隠れるので肩当てがファッション的な装飾にならず見た目がシンプルになる。見た目にこだわらない冒険者や勇者キャラに多い着け方。
肩当てをマントの上に装着→マントを取ると一緒に肩当ても体から離れる。簡単に外れる留め具ならマントだけ引っ張り取ることもできる。肩当てでマントをしっかり押さえておくことができ装飾的なデザインになる。見た目が派手な騎士や魔王や敵キャラに多い着け方。
冒険者や勇者は首に巻きつけたようなマントをよく着ていますね。ドラクエの勇者のマントが有名ですが、コスプレ用の着方を見たところマントを装着して同色のマフラーを巻きつけていました。マントにしてはマフラーっぽい首周りだと思っていたら本当にマフラーを巻いていたとは驚きでした。
中世のマントは首に巻きつけたり、留め具を着けるために寄せたり、フードを脱いでいると首に布のシワが寄ってドレープができたりしてマフラーのように見えるようです。
生成りの服は品質によっても値段が変わります。
現代ですと色付きの大量生産品のほうが安く、生成りのほうが高かったりもするようです。
セットアップはシャツとズボンなど上下が同じ色、同じ素材、同じデザインの服です。
スーツだとかっこいいのですが、生成りのベージュチュニックとズボンだとワンパンマンみたいになりました。
ファンタジーらしいシステムですが、ツケ払いとか若者にさせるのはヤバいですね。親御さんに知られたら若者だけでなく服屋まで怒られそうです。




