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異世界服屋ユルクドレスアップ〜スキル【服装図鑑】で服のお悩み解決します 〜   作者: 鏡野スガタ


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ベテラン鑑定士の二度目の冒険服と装備

 美の伝道師と入れ替わりに、お客さんが来た。


「いらっしゃいませ」

「どうも」


 常連さんだ。

 といっても、一ヶ月〜に一度くらい定期的に来るお客。

 恐らく魔法研究所勤務の人、以前に研究所で使う手袋を探していたからな。

 他に買うものもほとんど決まっている。

 チュニックのような普段着とホワイトシャツのような綺麗めの服とローブ。


 ほとんど話さないので実態は謎だらけだが。

 服装観察から、ある程度わかったりする。



 男性客の服装

挿絵(By みてみん)

 なんの変哲もない、シンプルな服装。

 ホワイトシャツ (ワイシャツ)。

 ボタン留めのズボン。

 革靴。

 首飾りはループタイという。

 宝石の部分はコチョンまたはフロントパーツといいスライド式留め金具で上下に動かして紐の締め具合を調整する。

 紐の先に付いている金具はループエンドまたはアグレット。

 紐は揺れたり前かがみの時など邪魔になりそうだが、コチョンをしっかり締めておいたり、紐を肩にかけたり、シャツの中やベストを着ている場合は中に入れておさえる。ループエンドも重りになり装飾にもなっている。

 研究所職員がよく着けている装身具だ。ループタイは簡易正装用なのでジャボやアスコットタイのように格式張らず豪華すぎず、仕事に向く落ち着いた品のある装いにしてくれる。首の締め付けが苦手な人にもいい。

 お客さんはいつもこの紫の石のループタイを着けているが、今日は外している。


 それにいつもは男性服コーナーに行くのに、今日は冒険者服コーナーに向かった!?

 常連さんのいつもと違う行動、気になるものだ……

 真剣に服を選んでいるからには冒険にでるのだろうか?

 あっ、こっち向いた! 私としたことがジロジロ見過て、気づかれてしまうとは。


「あの」


 珍しく話しかけてきた!


「どうしました?」


 まるで今気づいたような自然な返事とスマイル。


「その、服を一緒に選んでいただけますか?」


 遠慮がちなだがスマートな要望と笑顔だ。


「かしこまりました」


 私もスマートなスマイルを返そう。


 さっそく、一緒に冒険者服コーナーを見回す。

 お客さんに合う服選びにも必要だし、気になっていたことを色々聞いてみるか。


「お仕事ですか?」


 冒険者の服装をして仕事で遠出する人も多いからな。


「いえ、個人的に」


 仕事じゃないのか。


「ご旅行ですか?」


 冒険というほどでもない人もいるからな。


「いえ、研究所を退職しましてね、ちょっと冒険というか旅にでも出ようと思いまして」

「そうですか――!」


 まだ40代くらいなのに。

 これから、第二の人生を探す旅に出るってところかな?

 まずは、


「お仕事、お疲れ様でした」


 丁寧な労いとスマイル。


「あぁ、どうも」


 お客さんも笑顔とお辞儀を返してくれた。


「服屋さんにもお世話になりました。普段着から研究用の服まで全部こちらで揃えられて助かりましたよ」


 常連さんならではの、ありがたい褒め言葉だ。

 嬉しいスマイルになってしまうな。


「ありがとうございます。新しい暮らしに合う服もこちらで揃えてください。お手伝いいたします」

「お願いします」


 常連さんから冒険者が出るとは驚きだし。

 お客さんが一人減るのは残念だし寂しいものだが。

 要望に応えるためにも前向きに接客を続けよう!

 まずは、どんな感じの冒険になるか聞いてみるか。


「退職なさってのとなりますと、長旅のご予定でしょうか? 第二の人生を生きるような?」

「そうですね、第二の人生を生きることにしましたが、体力と相談しながらの気ままな、ゆるい旅にしようかと思っています」


 なるほどと相槌とスマイル。

 確かに、お客さんは冒険にでるぞ!と意気込んでいる感じはなく、力を抜いたゆるい感じで笑っている。


「あんな風に」


 お客さんは他のお客さんに目を向けた。

 若いお客さん達が冒険用の服を選んでいる――始まったばかりの人生を楽しんでいる雰囲気だ。


「若い人達のようにはいきませんから、おじさんの一人旅になります」


 お客さんの顔に一瞬、哀愁や遠慮が走った。

 けれど、すぐに前向きな顔でこちらに向き直った。


「実は、若い頃に少し冒険していまして」

「そうでしたか」


 若者を見る目には懐かしさもあったのか。


「その時に、鑑定スキルで色々見てましてね。すぐに冒険者はやめて研究所で働きだしたんですが、また自分で好きなように鑑定しながら歩きたいなと思いまして。体力のあるうちにと研究所をやめてきました」


 鑑定士だったか。商品を選んでいるときの横顔や目つきからも伺える――


「鑑定しながらの冒険ですか」


 それなら、若いお客さんには勧めないが、大人の余裕のありそうなお客さんにはこれを勧めておこう。


「オーダーメイドはいかがですか? 体にぴったりの服が動きやすくてオススメですよ」


 揉み手と満面のスマイル。


「オーダーメイドまでは考えてなかったですね! そんなに御大層なことでもなく、本当にフラッと旅支度しようと思って来ましたので」


 お客さんは頭をかきながら笑った。

 それから、優しく微笑んで店内を見回した。


「それに、この店の服はサイズも合うし着心地がいいので、ここにあるものから、予算のほうは気にせず素材や作りにはこだわって選ぼうと思います」

「かしこまりました」


 オーダーメイドを断られたのは残念だが。

 店の服を気に入ってくれているのは嬉しいな。

 それなら私も予算は気にせず最高の商品を提案していこう。フククッ


「冒険用の服は全て防水防虫加工をしてあります。他の加工や魔法耐性など必要でしたらおっしゃってください」

「わかりました」

「では、まずは、シャツから選びますか」


 ワードローブスタンドに掛かったシャツ類に目を向ける。

 お客さんはチュニックを手に取った。


「冒険といえば、やっぱりチュニックでしょうか?」

「そうですね、チュニックが定番ですがワイシャツを着る方も多いですよ――このワイシャツは冒険向けに

 汚れ防止と防臭加工がされていて、洗濯できなくても何日も白いままシワになりにくいです」

「それは助かりますね。今まではいつも服をちゃんと綺麗にして着てましたが、冒険中は洗濯やアイロンかけは難しいだろうしズボラになっても大丈夫そうだ」

「そうですね」


 あははと笑いあっておこう。


「これなら、今着ているのと同じ服装でも行けそうですね。この格好が着慣れているので助かりますよ」


 お客さんは着替え用に何着か手にして、ゆっくり眺めながら歩き出した。


「ズボンも今穿いているものと同じようなのがありますね」

「こちらはさらに伸縮性があり膝の曲げ伸ばしがしやすく、ロングブーツを穿いたり防具をつけたりしても動きやすくなっています」

「いいですね」

「荷物がかさばらないように、極限まで小さく畳めるズボンもありますよ。こちらは新作です」


 実演してみせよう。

 男性用ズボンが手の平に収まるほど小さくなった。

 お客さんは驚いてくれたが、


「凄いですね、ですが、収納魔法がありますから結構沢山入るのでコンパクト化は大丈夫ですよ」

「そうですか、わかりました」


 新商品は売れなかったか。まぁいい。

 伸縮性のズボンに決まったから次は、


「冒険といえば防具などの装備ですが、どのようなものにしましょうか?」


 鎧と装備コーナーに移動。

 お客さんは良いものを探すようにじっくりと見回した。


「そうですね。若い頃は、鉄の防具やらでガチガチに固めたんですが、この歳になると重いのはすぐ疲れると思いますから、なるべく軽くしたいですね」


 過去の経験から冷静に選んでいる。


「かしこまりました。では、重い鉄ではなく革製の防具と装備にして、革もなるべく薄いものにしましょう――こちらは最新の革製品でして、極限まで薄さと頑丈さにこだわっています」


 リュシェンヌさんにも勧めた手袋だ。

 作業用にも冒険にもいい。

 お客さんは、鋭い目を向けた――リュシェンヌさんのようにお客によってはそこまで気にしないので省くこともあるが、このお客さんは素材にもこだわるので説明しておこう。


「メイデンタウロスというモンスターの革です」


 お客さんは既に知っているかのように頷いた。

 大人の男性客は私と同じくらい知識があったりするからなぁ。特に、革製品や鎧や装備に詳しい。

 このお客さんは鑑定スキル持ちだし尚更だ。

 人の話を聞く姿勢も手練れのそれ、私の説明にも熱が入る!


「オスの硬い皮を加工していますので、例えば、強力なツノで突かれたとしても破れずダメージもほとんど伝わりません。そのような突進とツノ攻撃を想定して鍛冶屋さんのSランク硬化槍で突いて実験済で、手袋を着けていた人は怪我も痛みもありませんでした。それに加えて、こちらは毒や呪い状態異常耐性魔法も付与しているので、どんな鑑定品も安全に掴めますよ」


 お客さんは満足してくれたようで笑みを見せた。


「この店の手袋の耐性なら間違いないですね、それに、メイデンタウロスの革は研究所で鑑定したんですよ」

「そうでしたか」

「物の危険度を鑑定をしてましてね、毒性とか病原とか未知の魔法がないかとか、安全性を認定して流通させするんですが、鑑定からそれほど日も経っていないのに、もうちゃんとした商品になっているとは驚きました」


 素材屋が獲ってきたものなんかも、お客さんが鑑定したりして、私達の手元に届いてたんだろうな。

 服飾ギルドも知らないところで、お世話になっていたとは驚きだ。

 私達の仕事振りにも驚いてくれながら、お客さんは手袋をはめてみた。


「うん、凄くいいですね。これならどんな鑑定品も掴みやすそうだし、薄いのでポケットに手を突っ込めるし」


 ズボンのポケットに手を突っ込んで笑っている。

 いつものスタイルでいられるのは重要だからな。

 そうだ、いつものに冒険者スタイルも足さないと。


「マントも同じ素材のものがありますよ」

「そうですね、マントも一着買っておいてそれと」


 お客さんは想像するように上を見てから、マントの前に立って眺めた。


「恐らく野宿するので、マントを毛布代わりにして体を包んで寝る用に、できるだけ柔らかいのも欲しいですね」

「それでしたら、こちらのバフウールというモンスターの毛で作ったマントはいかがですか。野宿を想定して作られたマントで布製で柔らかですが革と同じくらい丈夫です」

「良さそうですね――着心地も軽い。これにします」


 マントが決まって形になってきたな。


「そうだ――」


 お客さんは手のひらに何かを出した。

 紫の宝石がついた装飾品のようだ。


「マント留めは、もう用意してあるんですよ」

「ああ、それはいつも着けてる」

「ええ、ループタイをフィブラに作り替えてきました」


 ループタイから作り替えられたフィブラ

挿絵(By みてみん)

 紫の宝石を囲む石座の金細工のデザインが今までのシンプルなものから、王冠と盾を組み合わせた豪華で冒険を感じさせるものになっている。

 ループタイの紐は装飾として残していて馴染み深さもある。

 スライド式留め金具もピン留めに作り替えられている。

 このような作り替えはリフォーム、リメイク、トランスフォルメなどといい宝飾ギルドの金細工師がしてくれるので、宝飾品店や工房に持ち込んで依頼する。


「この魔石は研究所で働き始めた頃に手に入れたもので、いつものように冒険にも身に着けて行きたくて、こんな風にしてみました」

「とても素敵ですよ! 」


 こういうアイテム、なんだか憧れるなぁ。


「だいたい格好はできてきたかな」


 お客さんはフィブラを胸に当ててみた。

 必要なアイテムはまだあるか――


「マントに肩当てや、腕当て膝当てなど、防具はどうしますか?」

「肩当ては、肩がこりそうなんでやめておきます」


 お客さんはもうこっているように肩を揉んだ。


「腕はこの手袋で充分そうですし、膝当てぐらいにしておきます」

「それでは、膝当ても革製のを」

「お願いします。それから、ブーツももう用意してあるんですよ」


 お客さんはブーツを出した。


「若い頃は、新しいブーツで冒険して足を痛めたので、少し森を歩いて履き慣らしておきました」


 ここでも経験を元に準備している。

 二度目の冒険とあって、こだわり抜いた上で、次々スムーズに決まっていくな。

 後は、


「ウエストバッグのような装備はどうしますか?」

「収納魔法があるので、一応買っておいて必要なら使おうと思います。これで、服と装備はあらかた揃いましたかね」

「そうですね! 身軽な冒険者のスタイルになってます」


 自信と信頼のスマイル。


「ここで、着替えて行っていいですか?」

「どうぞ!」


 このまま冒険に行くのか――心して見守ろう。

 お客さんは着替えて鏡に映った姿を確認している。


「少し、この辺りが心許ない気がしますね」


 胸と腹、胴体を撫でている。

 冒険にシャツだけだと不安か……それなら、


「ベストはいかがですか? 手袋と同じ革性のものとマントと同じ布製がありますから、防具にも防寒着にもなりますよ」

「おお、いいですね」


 これで足りないものはなくなったようだ。

 会計を済ませて、収納魔法に仕舞って。

 お客さんの準備は完了し第二の人生が幕を開ける。

 私も新たな気持ちで、服装観察しよう――



 再び冒険者になった姿

挿絵(By みてみん)

 職員時代の面影もあるシンプルな服装だ。

 作り変えたフィブラで留めたマント。

 ホワイトシャツ、革のベスト、ズボン。

 用意しておいたロングブーツ。

 装備は革の手袋と膝当て。

 後ろのディスプレイの服装と比べると、ウエストバッグや肩当てやマントの装飾などもない、必要最低限の装備だ。

 色も派手さのないブラウンとダーク系。

 地味なようで一つ一つ無駄なく機能美に満ちている。

 今は真新しいが着慣れてくると革のエイジングとともに渋いかっこよさもでてくるだろう。

 説明を省いた簡単な名前は冒険者の軽装だ。

 旅人の装い、放浪者の服、薄さと軽さにこだわっているのでライトウェイトギアなどともいう。


「お似合いですよ。フィブラもマントによく合っています!」

「ありがとうございます! フィブラもブーツも、用意したものにこんなに合う格好ができるとは嬉しいです」


 喜びと満足のスマイルを交わす。


「着心地はいかがですか?」


 お客さんは服装を見ながら体を動かした。


「思っていたよりずっと軽いです。凄くいいですね」


 ますます嬉しそうな笑顔になってもらえた。

 一緒に選べて本当によかった。


「服屋さんとこの店のおかげで、満足いく準備ができました。ありがとうございました」

「新しい旅たちのお手伝いができて嬉しいです! 改めて、長い間ご利用いただきありがとうございました」


 喜びと感謝のスマイルと、丁寧なお辞儀を交わす。


「それでは、行ってきます」


 お客さんの背中を店の外まで見送ろう。


「お気をつけて、良い冒険になるようにお祈りしています!」


 心からの声かけとスマイル。

 しかし、今回はなんだか寂しいな――

 ん?

 さっき、冒険服コーナーに居た若者達が出てきた。

 お客さんと何やら話している、冒険にでるんですかとか、いってらっしゃーいとか。

 冒険者仲間の出発に立ち会ってくれたか!

 私一人が見送りでいいのかと思っていたから、よかった。

 おじさんの一人旅と哀愁を漂わせて言っていたお客さんも驚いている、予想外の賑やかな旅立ちになったな。


補足です。


前回はバリキャリで今回は退職して第二の人生を生きることにしたイケオジ。人生色々ありますね。


現代の人が服を買う頻度はニ、三ヶ月に一度が多いそうですが、ファンタジーキャラはどうでしょう。服屋のない状況にいることも多いしオーダーメイドのような個性的なデザインの服装も多いし、やはり同じ服を沢山持っているのでしょうか。


冒険には下着ももちろん必要ですが、ファンタジーなので省略しました。お客さんがあらかじめ購入済ということで。


挿絵1では最初、ズボンにベルトをしていたのですが現代風に見えるのでボタン留めにしました。特にベルトループに通した一般的なベルトだとサラリーマンっぽくなってしまいますので中世風ファンタジーだと太めのベルトとかホルダー付きとか、もしくはベルトなしかサスペンダーがいいですね。

ズボンにある折り目センタープレスも現代っぽくなりますね。折り目は19世紀頃にイギリスのエドワード皇太子から始まったもので、執事がズボンを畳んで折り目をつけてしまったのを気に入ったとか、雨に濡れた皇太子のズボンを農夫がアイロンで乾かした時に折り目がついたのを気に入ったとか諸説あります。それが最新のズボンとして貴族達に流行り定着していったそうです。

この折り目のようにファッションのキチンとした部分や美意識は王侯貴族が生み出していることが多いですね。


挿絵1のループタイの紐についたループエンドなど、小さくてわかりにくいですよね。挿絵をタップすると、みてみんに飛んで左下に画像最大化がありますので、そこをタップすると拡大できます。

挿絵4は拡大するとフィブラの宝石の金細工の形とか、挿絵3と微妙に違ってたりします、お見逃しください。


フィブラの金細工のデザインは紋章学でいうとクラウン (王冠)とエスカッシャン (盾)を組み合わせたものでしょうか。ファンタジーによくでてくるデザインですね。


ループタイは現代ではセミフォーマル〜カジュアル用でネクタイ締めるほどではないときに着けますが、ファンタジーでは色んなキャラが着けてますね。

貴族風の服装や魔法使いのローブにも似合いますし宝石が魔法の石だったりアイテムとしてもいいと思います。

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