美粧ギルドマスターの服装とアクセサリー
さぁ、接客を続けよう。
「いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくりご覧ください」
ほのぼのした声かけとスマイル。
お客さん達は思い思いに店内を見て回っている。
下手に近寄らず、呼ばれるまで見守っていよう。
ゆったりとした心地良い空気が流れる、こうして我が店を見ている瞬間、つかの間の極上のひとときだな……
あっ、また、扉が開いた!
「いらっしゃいませ」
「ごきげんよう、ユルクさん」
ん? また、客じゃない。
「ああ! ごきげんよう。リュシェンヌさん」
手練の商人にして職人が来た。
メイクアップアーティストだ、化粧師ともいう。
服と化粧は切っても切れない関係。
私達も、お互い持ちつ持たれつの仕事仲間。
リュシェンヌさんは美粧ギルドマスターであり貴族街に化粧品の専門店『リュシェンヌ』を開いており、この町はじめ国中にブランド展開している。
私にとって目標であり憧れの存在の一人だ。
「さきほど、ユルクさんの店から出てきた売り子さんに、新しい服に似合うメイクアップを頼まれましたわ」
「ああ、さっきのお客さんに――」
リュシェンヌさんはそうやって、求めてくる人にメイクアップをしたりメイク法を伝授したりもしている、あの売り子さんはラッキーだったな。
「丁度、会えてよかったですね」
「ええ。売り子さん、ユルクさんのアドバイスのおかげで、商品に似合う売り子スタイルになれたと喜んでいましたわ。それに合わせたメイクも喜んでいただけて、私も、おかげで新しいお客さんにメイクアップの楽しさを教えて差し上げることができて嬉しいですわ」
「それは何よりです」
喜びのスマイルを交わす。
「ユルクさんのオススメした服に合わせたメイク、やりがいがありますのよ」
「そう言っていただけるとオススメし甲斐がありますよ。リュシェンヌさんがメイクアップした売り子さんの姿も見たいものです」
「ぜひ、後で町に出て見て差し上げてください。メイクなしの時よりさらに魅力的になっていますから」
「ええ、ぜひ」
楽しみだが、お高いポーションを買うのが思ったより早くなりそうだ……遠目に見ることにするか。
「今日はその思いがけない報告と、店に置いていただく宣伝書を持ってきましたわ」
新作コスメ (化粧品)やメイク法が案内されている宣伝書だ。
我が店に置いておくことで、売り子さんのように服に似合うコスメやメイクを、お客さんが求めるきっかけになる。
リュシェンヌさんの店で新しいコスメを買い、試したメイクに似合う服を求めてまた来ることもある。
こうして客が行き来するサイクルができるのだ。
他にも、美容師や床屋、装身具店や鍛冶屋など、服装に関わる職人や店の宣伝書や地図なども店内に置いている。
「宣伝書、お預かりします」
「お願いしますわ」
よく見えるところに置こう。
なになに、宣伝書には思わず目がいってしまうな。
それから、リュシェンヌさんの服装観察も忘れずに。
メイクアップアーティストの服装
メイクを任せたくなる大人の女性の美しさが漂っている。
メイクアップの邪魔にならないように、まとめた髪 (アップヘア)にはメイクブラシがヘアスティックのように差してある。仕事道具がヘアアクセサリーとは粋だな。
ハイネックのタイトなロングワンピース。黒は白のように光を反射してメイクの見え方に影響を与えたりしない、目立たず裏方に徹するなどの意味がある。
メイクアップの邪魔になったりメイクがついたりしないようにノースリーブ (袖なし)、ロングスカートにはスリットがあり動きやすい。裾にだけある金の縁飾りが豪華でオシャレなワンポイント。
コスメツール (化粧道具)を携帯できるツールベルトとレッグバッグ。ツールホルスター、ホルダー、ポーチともいう。その場ですぐ仕事に取りかかる職人であることが一目でわかる。魔法でメイクアップすることもあるが、道具を使い手作業でメイクするのが何より好きなのだそうだ。
疲れを回復して足元を安定させる魔法のワークブーツ。
シンプルでエレガントな中にも職人の機能性がある服装だが。
耳と胸元には美しいアクセサリーも輝いている。
だが、これらもれっきとした仕事道具だ。
コスメが入っているネックレス
宝石のついた石座部分がコンパクトになっており開けるとコスメが現れる。
オシャレなギミックアクセサリーだ。
メイクパレットネックレス、化粧ロケット、コスメティックジュエリー、チャームコスメなどという。
ネックレスの他にイヤリングや指輪やブレスレットなどもある。
メイクアップアーティストだけでなく貴族令嬢などもアクセサリーに忍ばせて持ち歩いている秘密の化粧道具。美しさを演出する必需品の二重奏だ。
こういうのは見るだけでワクワクしてくるなぁ。
説明を省いた簡単な名前はメイクアップアーティストの仕事服とアクセサリーだ。
化粧師スタイル、メイクアップアーティストのワークスタイルとギミックジュエリー、シグネチャー・スタイル (Signature Style、自分のブランドや象徴を取り入れたファッション)などともいう。
「今日の装いもシンプルながら美しいですね」
溜め息まじりの絶賛とスマイル。
「ありがとうございます。せっかくだから、私も新しい服を見せていただこうかしら」
「どうぞ、ごゆっくり」
仕事仲間から、お客さんになるか。フククッ
「新しい手袋も欲しいですわね。新作コスメを開発するので作業用で頑丈なのを」
「それならば――こちらは鍛冶屋さんに試着してもらって頑丈さをテストした最新の手袋です。頑丈でいて、厚みを極限までなくし作業しやすさも追求しています。魔法耐性もありますよ」
「いいですわね、これなら作業が捗りそうです」
リュシェンヌさんは魔法をもちいてコスメ開発にも関わっている。メイクへのこだわりは超絶だ。
「今度開発するコスメに合わせた、コンパクトもデザインしますの」
こんな風に、容器作りまで関わっている。
「ユルクさん、何かオススメのデザインありませんか?」
「ええっ、コンパクトのデザインですか!?」
私が考えるのか――
美粧ギルドにはメイクアップアーティストはもちろん、開発専門の魔法付与師やデザイナーもいる。
メイクやコスメには職人技術から芸術性まで必要だからな。
プロフェッショナルが集まっているんだ。
私はお呼びじゃない気がするけど。
「コンパクトに入れるコスメは "見たことのない自分"をテーマにしたカラフルなチークで色の種類は女神レッド、お姫様ピンク、戦乙女オレンジ、妖精イエロー――」
リュシェンヌさんは気にせず、開発されるコスメの特徴を教えてくれている。
こうなったら真剣に考えてみるけど……
「残念ながら、私には美しいコスメを入れるコンパクトのデザインなど浮かびません。デザインセンスないですし……」
力になれず申し訳ないスマイル。
「そうですか? ユルクさんにはデザインセンスがありそうですけど。遠慮なさらないで」
「いえ。ほんとに……」
何かあればいいんだが――カラフルなチーク
「あっ、この花はどうですか?」
先日、売り子さんから買った花。
花瓶から一本とって見せよう。
「花びらの色が全部違うんですよ。コンパクトに入れるチークみたいじゃないですか?」
「本当、綺麗な花ですわね。これをコンパクトにしたら――」
リュシェンヌさんは目を見開いて、手にした花を見つめている。
何か閃いたようだ……
「これを採用させていただきますわ」
「いいんですか!?」
苦し紛れに出したアイデアなんだけど。
「ユルクさん、素晴らしいデザインセンスの持ち主ではありませんこと」
「そんな、ありがとうございます……!」
美しい称賛のスマイルには、素直にスマイルを返しておこう。
「本当に、この花は見たことのない綺麗な花ですからテーマにも合ってると思いますしオススメですよ! ですが、咄嗟の思いつきですので、デザイナーの方々にも相談して慎重にお決めください」
新商品が売れなかったら責任重大だからな。
責任はなるべく分散させたい。フククッ
「ええ、みんなに話してみますわ」
よかったぁ。
「この花、いただいてよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。店に来た売り子さんから買った花で、他にも色違いが沢山ありましたよ」
「それも見てみたいですわ、帰りに売り子さんに会ってきます」
さすが、すぐさまデザイン制作にかかるのか。
私ももう少し協力しよう。
「売り子さんはこの町によくいますよ、花がらの三角巾を被っていて、草花の刺繍があるサーキュラースカートやエプロンを着ている娘さんです」
リュシェンヌさんはフムフムと頷いた。
「服屋さんだけに、着てる服をよくご存知ですのね」
「ええ、あの売り子さんはお客さんでもありますし」
フククッ、それに服装なら一度見たら忘れない。
「その特徴ならすぐ見つかりそうですわ。では、この手袋も買って、今日はこれで」
リュシェンヌさんは新しい手袋とデザインのアイデアを手に入れて満足そうだ。
しかし、レジで対面すると何やら真剣な目つきになり商品を袋詰めする私を見はじめた……
「ユルクさんはメイクアップやコスメは必要ありませんか?」
そのことか。
「ええ、今のところは。リュシェンヌさんに男の姿でも女の姿でも見た目は大事と言われてから、この店で着るローブに合わせたメイクはするようにしてますし」
今は、服以外にこだわる暇と興味がないかな……
「今はそれだけで充分です。まぁその、メイクといっても、リュシェンヌさんがオススメしてくれた "まるでメイクしていないような自然な美肌になる化粧下地"がメインのナチュラルメイクですけど」
「そうですか……」
リュシェンヌさんは再び鋭い目で私の姿をチェックしはじめた。
「ローブに金の模様があって豪華さがありますから、町の服屋さんなら派手になりすぎないナチュラルメイクがバランスがいいですわね。今の化粧下地だけの、ユルクさんの肌の綺麗さだけでも充分ですわ」
「ありがとうございます!」
服屋として見た目は気にしてるから、こうしてプロに褒められると嬉しいな。
それに、服装だけでなくメイクも合わせてチェックしてもらえると、トータルコーディネートが客観的に見てどうかがわかってありがたい。
「ナチュラルなお肌でお仕事も素敵ですけど、お仕事が忙しくても落ちない撚れないコスメとメイク法も次々開発中です。いつでも必要になったらおっしゃってくださいね」
このままでは引かない手練の営業スマイルだ。
「はい、ありがとうございます」
大人しくスマイルを返しておこう。
「では、また来ますわ。今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
リュシェンヌさんは美しいスマイルを残して帰っていった。
ふう、急な話の流れで化粧品開発にも関わることになったり、私がチェックされたり、変な汗が出たな。
服屋をしていると色んなことがあるものだ。
これも経験か――いつか、ユルク◊ドレスアップもブランド展開した時に今日のことが役に立つだろう。多分。
補足です。
ファンタジーのキャラがメイクしてるかどうかは、あまり気にしたことはないのですが、服装を変えたらそれに似合うメイクもするかな?と思い、メイクアップアーティストに登場してもらいました。
美粧とはメイクやヘアメイクで美しく身なりを整えることです。ヘアメイクアップアーティストも美粧ギルドですね。
メイクとコスメの違いです。
メイク→メイクアップ、メーキャップの略。化粧のこと、化粧すること。
コスメ→コスメティックの略。化粧品のこと。
メイク用品などともいうのでごっちゃになりますね。
現代のメイクアップアーティストさんはナチュラルメイクの方が多い気がしますが、リュシェンヌはファンタジーキャラなのでわかりやすく濃いメイクをしています。
ユルクみたいな町のお店のキャラは素朴でノーメイクのイメージなのでナチュラルメイクで。
こちらの物語では職人としていますが、メイクアップアーティストは専門技術職と芸術職であり化粧の悩みに答えるカウンセラーでもあるそうです。
メイク道具をヘアスティックにしているように、キャラが仕事道具をアクセサリーにしているのはファンタジーの定番ですね。お仕事モチーフアクセサリーといいます。仕事で使う本物かイミテーションかはキャラによって違うでしょう。
素肌に装着したレッグバッグは、ずり落ちないか気になりますが、滑り止めのある留め具やベルトや服に留めて固定するなどで防止できるようです。
粋と表現すると和風っぽいでしょうか。粋の英語がシックとスタイリッシュでして、あまりピンとこなかったので漢字にしました。ファンタジーは表現や名称を漢字にするかカタカナにするか迷いますね。
色の名前も難しいですよね。聞いたことないものだと、つまり何色?ってなりますし。興味は湧くので良いと思いますけども。
化粧入りネックレスのようなギミックアクセサリーは18世紀から19世紀の貴族女性の間で流行したそうです。
アクセサリーの中にコスメを忍ばせるのは、メイク直しのために席を立つのが無作法だった、今と違い昔の化粧品は落ちやすかったのもあり、その場でさっと直せるようになどの理由があります。
挿絵2のネックレスは挿絵1より大きくしてキラキラを増しています。ファンタジーなのであれくらい誇張してもいいですよね。一つ欲しくなりますね。
トータルコーディネート (トータルは全て、完全の意味。頭から爪先まで全てのコーディネート)については長くなるのでまたいつか別の話で。センスの問題やらで難しいみたいですし、私もまだよくわかっていません。
服についてなら帽子から靴や手袋やアクセサリーまでトータルコーディネートを既に毎話紹介しているといえるのでしょうか。




