服の寿命とデザインセンス問題
本屋さんも、ご機嫌で帰って行った。
私も事務所に行って、スキル大全を読むとするか。
まずは、今日の売り上げを記録してからと。
ゆっくりと本を読み、お茶も飲もう。素晴らしい一時だなぁ。
もう日も暮れるな……振り返ってみると良い休日だった。
服飾ギルドの集会に始まり、装飾ギルドと製靴ギルドと話して、マスターの店の見学、そうだ、マスターに素材屋の服の感想を聞かれてたんだった。
私と素材屋の感想を報告書にまとめて、転送ボックスに入れて送っておこう――
素材屋は暗くなるこれから動きだすのかな、新しい服が役立つといいけど。
それから、加工屋達のために黒系のオシャレな服も見繕っておくか。
ワードローブを開けたついでに明日の準備もしよう。
通常のワードローブと魔法のワードローブ。
少し整理もしておくか。
服には寿命があるから、定期的に入れ替えないといけないからな。
■一般的な服の寿命
首回りのヨレや表面の毛羽立ち。型崩れや汚れが目立ち清潔感がなくなったらそろそろ「寿命」だ。
メンテナンス次第で長持ちしたり、稀にワードローブに入れっぱなしで何年も長持ちする丈夫な服もある。
服とは不思議なものだが、素材でもある程度寿命が決まっている。
■植物性素材 (植物の繊維)→約2〜4年
洗濯による摩擦や乾燥での繊維の傷み、色が褪せたり型崩れが目立ってきた時が寿命。
■動物性素材 (動物などの毛)→約5〜10年 (手入れ次第)
動物性の繊維は復元力が高く、ブラッシングなどのケアを怠らなければかなり長く持つ。虫食いですぐにダメになる時もある。
■革性素材 (動物などの皮)→一生もの (手入れ次第)
湿気を避け乾燥させておけば長持ちする。古くなってもエイジング (経年変化)といい服の味わいになる。
■服屋の入れ替えと保存のサイクル
寿命の判断は「流行遅れ」と「保管コスト」の二通りある。
個人店では店主が決めるので色々違う。
我が店は私が個人的に決めて好きにすることもあるが、服飾ギルドメンバーと話して決めたり、季節やイベントごとに入れ替えたり、異国の流行が来たり種族が来たり町の情報を取り入れたりして、臨機応変に入れ替えている。
■在庫の保存
キャリー品 (継続販売)→定番の服はワードローブなどで適切に保管され、翌年以降も販売される。
人気商品→人気が出た服は保管されて翌年も販売され定番商品になったりする。
在庫→量が多く保管場所を取ったりすると処分されたりする。
■保管環境→防臭防虫湿気管理が徹底された場所で、ハンガー吊りまたは不織布に包んで平置きする。
服屋は売れ残りをどうするのか。
■セール→大幅な値引きで売り切る。
■二次流通→ブランドタグを付け替えて (リネーム)、別の店へ卸す。
マスターの店の売れ残りをタグを付け替えて我が店で売るなど。価格が安くなる。ブランド価値はなくなるが品質は変わらないお買い得品。稀に小さな汚れなどがたる検品落ちや留め具などを安価品に付け替えた仕様変更品もある。
■寄付・リサイクル→支援物資にする。魔法の服などは裁断されて服や鎧の前垂れなどの布や手袋類の装備にリサイクルするなど。
■アップサイクル→生地を繋ぎ合わせて、新しいデザインの服や小物として売る。
■ダウンサイクル→汚れや破れてもいい服として捨てる前提で着る。売り物にはならない。
素材屋や加工屋や仕立て屋や職人の作業着やエプロンにする。店の掃除用の雑巾にするなど。
■リメイク→仕立て直して、新しい服として売る。
ドラゴン族のように滅多に来ない客用の服は、長期保管できる魔法のワードローブに入れてある。
他にも、貴重な素材や技法で作った服なども。
ああ、これは――
私が初めてデザインした服だ。
ユルク・ドレスアップ デザインのローブ
いつ何度見ても凄い。
魔法使いのローブだ。一目でわかるようにした。
紫色と金色は魔法使い定番の組み合わせ。
フード付きで脱いだ時にはドレープができる襟元、大きな袖、色使いと合わせて全体的に気高さと豪華さを出している。
トリム (縁飾り)には魔法の呪文が刺繍されている。
デザイン的にもいいし着た者の魔法発動を助ける補助魔法も付与されている。
特徴的なのは袖。紫の袖は切れて垂れている、ハンギングスリーブという装飾袖だ。中の金色の袖は魔法使いの力を際立たせている、演出効果抜群のレイヤードスリーブ (重ね袖)だ。
一番特徴的なのは袖口と裾のギザギザ。
これは放たれた魔法を表している、魔法使いの強さがわかるポイントだ。
ギザギザには色々な名前がある。
■切り込みが入った縁→ダグドエッジ ( Dagged edge)
■鋭い切り込みの縁→ジャギットエッジ (Jagged edge)
■鋸の刃のような形→鋸歯形の縁飾り、ソウトゥース・トリム (Sawtooth trim)、セレイテッド・トリム (Serrated trim)
■雷モチーフ→サンダーまたはライトニングエッジ(雷の、稲妻の縁)
■ドラゴンモチーフ→ドラゴンファングまたはクロー (竜の牙、爪)
■星モチーフ→ステラまたはスタートリム (星の縁飾り)
■王冠モチーフ→クラウントリム (王冠の縁飾り)
などがある。
こちらのローブは星と王冠もモチーフにしている、クラウンカフスとスターヘムといったところか。
神々しいような魔法使いのローブだ。
最高傑作だと思うんだが、結果的に売れ残りとしてここにある。
まず服飾ギルドのメンバーに、お披露目した時は――
マスターは、
「初めてデザインしたにしては、よく出来てる。ずいぶん拘ったデザインだな、素材の質といい見た目の高級感といい高位の魔法使い向けにいいだろう」
と称賛のスマイルをくれた。
素材屋は、
「凄いな、強い魔法使いが着てそうだ」
と "俺は着ないけど"みたいなニュアンスのスマイルをくれた。
加工屋は、
「高尚なローブというやつか」
「そうね、私には思いつかないわ。凄い!」
「ああ、思いつかない」
とフレデリクもベアトリスも圧倒されたようなスマイルをくれた。
仕立て屋は、
「仕立て甲斐があったし、出来栄えも満足だよ。美しいローブだね」
と満足そうなスマイルをくれた。
評価は全員よかったから、安心して店に並べた。
だけど、お客からは――
「わっ、何これ凄い……」
と引き気味に驚かれ、
「何この袖、どうなってるの?」
と首を傾げられ、
「はははっ。魔法使い、これ着ろよ」
と面白半分な感じでオススメされ、
「嫌だよ、そんな派手なローブ」
とターゲットの魔法使いには拒否される始末。
散々な評価に泣くのを我慢して、何でもないスマイルで接客するのが大変だった……
事務所に戻ってから分身と慰め合いながら泣いたな。
「私がデザインしたんですよ」なんて宣伝しなくてよかった。ほんとはしたかったが、客の反応を様子見し続けた。
そして、いつしか売れ残っているのを見るのが辛くなり、ワードローブに仕舞った。
捨てることはできない……初めてデザインしたローブだ。
いつか、売りたい!
マスターも言っていた、高位の魔法使いなら買ってくれるはず!
このローブはデザインが町の服屋向きじゃなかったんだ。
確かに、二重袖とかギザギザとかデザインに拘るあまり派手になりすぎた。派手好きな貴族魔法使いなら買うかもしれないな。
価格も高級な素材を使いすぎて、町の服屋にしては高くなってしまってるし。
いつか我が店が貴族街に進出するまで取って置くんだ。
貴族街に店を出した暁には、ショーウィンドウに飾ってやるぞ!
すぐに売れるに違いない、フククッ……
その日が来ると信じて今は眠らせておこう。
今度は、この服屋に似合う服をデザインしないとなぁ。
さて、明日の準備も終わった。
事務所に戻って一休みするか……こうして、事務机を前に椅子に座っている時が一番充足感を覚える。
このまま眠ってしまいそうだが――
ちゃんと、風呂に入ってから寝ないと。
服も洗濯して新しいローブを着て。
汗や匂いを消しておく、服屋は清潔感が大事だからな。
補足です。
前話で出てきたドラゴン族の服は長い間どうやって保管してたんだろう?と疑問に思ったのでこちらで保管法を紹介しました。
服の保存や入れ替え処分時期は実際とは違う部分もあるかもしれません。
ファンタジーでも季節や月などあったりなかったりで変わりますね。
ですが保管など細かい部分は服屋でもない限りは「長い間、仕舞われていた割に綺麗な服だ」みたいな着れるか着れないか描写以外では出てこないかもしれませんが。
服や鎧の前垂れや手袋がリサイクル布でできてるとか嫌ですかね?全部が全部ではなく、そういうこともあるという例えばですのでご了承ください。
ユルクデザインのローブはどうですか? 着たいですか?
絶対目立つし「只者じゃない!」と思わせること請け合いですよ。ぜひ、自作のキャラに着せてあげてください。沢山の作品で着られていればいつか定番のローブになるのですから (野望)
ギザギザは既に定番ですよね。色々名前を紹介しておきました。
クラウントリムはジャギットクラウントリムにしてギザギザであると主張したほうがいいかもしれませんね。
ギザギザはジグザグともいいますね、ジグザグは英語表記もzigzagなんですよ、豆知識です。
服屋は清潔感が大事なので風呂キャンとかはできないですね。
匂いについてですが一昔前は服屋に行くと、香水のめちゃくちゃいい匂いのする店員さんがいたりしたものですが、香害という言葉が広まりだしてからは無臭の店員さんばかりになった気がします。いい匂いの店員さん、憧れるんですけどね。
ファンタジーはどうなんでしょうね。




