不審者? のスキルとマント
いつの間にか現れたのは――
「本屋さん! 驚かせないでくださいよ」
音も立てずに入ってくる。
いつ何時でも、本のページをめくる音以外は立てない、無音のミステリアスな本屋さんだ。
名はラテリアさん。近所にある本屋「探求の書棚」の若き店主。多分若い、仮面で隠された素顔は誰も知らない。
本屋さんの服装
艷やかな白磁に金の装飾が施されたドミノマスク (目元の仮面)。
留め具は革のバンドや紐やリボンがあるが、こちらは顔にピタッと装着してサッと外せる魔法の仮面だ。
目穴、双眸の穴などという目の部分はメガネにもなり長時間本を読んだ目の疲れを回復もする魔法が付与されている特注品。
ミステリアスさの演出にも一役買っている。この本屋さんから魔法書でもオススメされたら買ってしまうだろう。
清潔な白いワイシャツ。
シンプルなシングルボタンの茶色いベスト。
焦げ茶のズボン。見えないが革靴。
衣擦れや靴音がしない魔法の服と靴だ。
茶色いチェック柄のフードマント。
留め具は金のフィブラまたはクラスプ。
マントの内側には色々な本屋のアイテムを装備している。
金の鎖に付いた青い石はページがめくれたり紙が飛んだりしないように押さえる重石、ペーパーウェイト。
本を書いたりする用の羽ペン。
いつでもどこでも本を読むための金色の栞。
装備の留め具はペン差し、ホルダー、フックなど。
よく見るとマントの中にあるはずの右腕がなく手が外に出てマントを開いているが。
これはマントにスリット (切れ込み)がありそこから腕を外に出しているためだ。そうすることでマントをひるがえして腕を出す必要がない。スリットマントという。
左腕のようにマントの中から手を出すこともでき、すぐ手を引っ込めて本をマントの中に素早く隠したりできる。そんな風に本屋さんはマントから本を出したり仕舞ったりするが色々な使い方が可能な便利マントだ。
説明を省いた簡単な名前は本屋の仮面とワークマント
(仕事用のマント)と服とブーツだ。
これらは私服だが仕事服でもあり本屋さんはいつもこの服装をしている。
このような変わらない服装は、定番のスタイル、お決まりの格好、いつもの、馴染みの服装、私服の制服化などという。
本屋さんはこのスタイルを貫くために同じマントと服とブーツを何着も何足も買っている。
そんな風に服装を固定化する店主さんや町の人は意外に多い。
「驚いたのはこっちです。見てましたよ、また森で道行く人の服装観察からの客引きですか」
マスクの奥から呆れたような眼差しを感じる。
本屋さんも森でよく本読んでたりするから、そこで見てたのか? それとも本屋からか? どこからなのか無音だからわからないや。
「今回なんか、ドラゴン族の怖そうな青年を連れてきて。いくら営業熱心とはいえ恐いもの知らずですね」
「服のことになるとついですね。どうでしたか? あのお客さんの新しいスタイルは? あえてツノは見せてドラゴン族のまま親しみやすくがテーマでしてね」
「それはまぁ、ツノはあれど黒一色で半裸にタトゥーよりは怖さも軽減していましたし、あの鎧はドラゴン族だなって印象で似合っていましたよ」
「よかった!」
喜びのスマイル。
第三者に褒めてもらえると安心するし自信になるなぁ。
「それはいいとして、森のなかで急に声をかけたりして、不審者扱いされないようにしてくださいよ」
「不審者だなんて!? 酷いですよ。ただ、服装観察をしてるだけで」
「森に看板を置いておくほうがいいでしょうかね? "服装観察と客引きをしてくる服屋出没注意!" とでも。町長に頼んできましょうか」
「やめてくださいよ! モンスターじゃないんですから。なんかカッコ悪い注意書きだし。それに前もって警戒されたら観察も客引きもしずらいじゃないですか。ご迷惑かけないように気をつけますから許してくださいよ〜」
頷いてくれた、わかってくれたようだ。
「許しますよ。私が許さないのは本を椅子代わりにする者だけです」
「よかった〜、ありがとうございます。私は絶対に本を椅子にはしませんよ! 誓います」
積み上げた本に座るの便利で絵になるんだけどな。
まぁいい。許されたなら。
「誓いまで立ててくれるなら安心ですね」
本屋さんは口元を引き締めた厳格な表情で頷いた。
「ユルクさんならわかってくれているようだ。本がどれほど重要な知識を与えてくれることか、それを知ってか知らずか椅子代わりにする冒涜的で無知な行為がどれほど恐ろしいことか」
「わかります。私も、服にシワや毛玉をつけているのだけは許せませんよ。服がどれだけ姿形を美しくしてくれることか。身綺麗の大切さ、それを知らずにシワや毛玉をつけていることのどれだけ恐ろしいことか。時に服のシワ一つで人生が変わってしまう。"ズボラ" "だらしない" そんなレッテルを貼られた人生がどうなるか、データを本にして広く知らしめておくべきことだと思いますよ」
私達はひとしきり、本と服談義に花を咲かせた。
「ユルクさんはこんな風に理解力もあり害はないとはいえ、服となると見境いなくなるんですから。気をつけてくださいよ」
話がまた戻ったな。
「大丈夫ですよ。さっきのお客さんみたいに、出会った相手の服のアドバイスしたり店で商品を購入してもらったり上手くやってますから、名物店主にして町の活性化に役立てる方向で町長に言ってくださいよ」
町の名物店主からの店の宣伝、効果絶大が期待できそうだ。フククッ
「怪しい名物店主など居なくても町は充分活性化しています」
ズバッと断られた。ガッカリだ。
「町のことを考えているのは良いことですけどね」
本屋さんは妥協したような優しい微笑みをくれた。
「それに上手くやれてるならいいですけど、危険な相手に近づいたら服をビリビリにされるなんてことになりかねませんよ」
「大丈夫です。ビリビリにされないように最高の防御力を誇る魔法のローブを着てますから。ドラゴンの爪でも引き裂けませんよ。さっきのお客さんにもドラゴンに変身してもらって爪で引っ掻いてもらい頑丈さを見せたところですよ」
本屋さんはさらに呆れたようだ。
「ドラゴンにそんなことさせるなんて。服となると予想もできないことをする、やっぱりモンスターみたいな人だ」
悲しきモンスターと言いたげな目をしている。
「服を売るためには必要なことですからね」
あくまでも胸を張っておく。
「私も本を売るためなら色々しますし……ユルクさんの気持ちもわかりますけど」
本屋さんはやはり商売仲間だ!
「もう止めませんけど、危険な目に遭わないように気をつけてくださいよ? あなたの店の服は私も買うし品揃えも気に入ってるんですからね」
「ありがとうございます。ご心配かけたお詫びに安くしておきますよ!」
三割引きくらいにしとくか。
「そうですか? じゃあ、ちょっと見ていこうかな」
お客となった本屋さんをご案内。
「たまには、ジャケットやローブにしてみたらどうですか? 同じチェック柄のがありますよ」
こうやって勧めるためにも作っておいたのだ。
「そうしたいんですけどね」
本屋さんは本を掲げてみせた。
「もしもの時に、大事な本を素早く隠したいんですよ。傷一つつけないようにね。そのためにはマントが一番でしょう」
「そうですね……」
マントの中に素早く本を隠し庇う。
本屋さんは何よりも本を溺愛しているからな。
代わり映えしない服装にはそんな意味もあるのか。
しかし、それでは別の服を売れないなぁ……
そうだ!
「それなら、このマントはどうですか?」
着替えた姿
デザインはそのまま片側だけのマントになった。
片マント、オフショルマント、ペリースなどという。
留め具と留め方はベルトの他に紐やチェーンで首や肩や胴体に巻く、フィブラやクラスプで服にピンを差す、クリップで服に挟む、襟で留めるなどがある。
裏地 (内側)が赤いと高貴、豪華、情熱などの印象を与え只者ではない本屋だということがわかる。
「これなら、左手に持った本をマントに隠せますよ」
「いいですね、右手は動かしやすいし」
「ええ、動きやすいし、ラフですし、暑い時なんかもいいですよ」
本屋さんは体を動かしてマントを開いて見たりしている。
「内側にはペン差しやフックも付けてありますよ」
「あ、よくわかってくれてますね」
「もちろんです、フククッ、本屋さんに "お誂え向き" のマントですよ」
「ここまでされたら買わずにはいられないな。これをください」
「ありがとうございます!」
感謝と喜びのスマイル。
オススメが売れるのは嬉しい達成感があるな。
本屋さんも新しい服装を開拓できて嬉しそうだ。
「これに慣れたら、こればかり着るようになりそうですよ」
「もう何着か作っておきますよ、フククッ」
「まんまとユルクさんのペースで買わされたな。少し悔しいですよ」
「それなら、私も客になりますからオススメの本を教えてくださいよ!」
休日だし、新しい本を読むのもいいな。
「それなら丁度いい」
本屋さんは持っている本をまた掲げた。
「これはまだ紹介してなかったですね。 "スキル大全" の最新版ですよ」
「おおっ、スキル大全!」
国のスキル研究所が発行している権威あるやつだ。
「 私、自分のスキル『服装図鑑』を載せてもらうために申請したんですよ」
「そういえば言ってましたね。ずいぶん前だから、これにはもう載ってるはずですが……」
本屋さんはベージをめくりだした。
我がスキルは何ランクのベージに載っているか楽しみだ。
「本屋さんのスキル、あらゆる書物の中から必要な情報を見つけられる『索引の目』はSランクですよね。凄いなぁ」
私のスキルも同じベージに並んでるかな?
「ありましたよ」
「何ランクですか!?」
期待と興奮のスマイル!
「Bランクですね」
「はい!? Bランク!?」
「はい、Bランクです」
本屋さんの厳かな声が響く……
「そんなっ! あらゆる服の名前がわかるんですよ!? 素材から作りから着方や脱ぎ方までわかるんですよ!? めちゃくちゃチートなスキルだと思ってたのに!」
凄いだろ?フククッみたいな顔して歩いてたのが恥ずかしくなるじゃないか!
何かの間違いだ……いや、やっぱり確かにBランクのベージに載ってる!
Bランクといえばランク付けで一番無難なところじゃないか?
「もう一歩でしょう」みたいな微妙なランクだ!
「全然そんなに凄くなかったんですね、私のスキル」
本屋さんも言ってくれればいいのに。
スキルに詳しいんだから。
ウキウキワクワクしてた私をどんな目で見てたんだ。
「凄くないということはないですよ」
「えっ、本当ですか!?」
眼差しと声音は慰めでもなんでもない。
本屋の真摯さがある――
「同じ服屋を営む者や服飾関係者や服に詳しくなりたい者からしたら、めちゃくちゃチートなスキルで喉から手が出るほど欲しいと思いますよ。ですが、そういう専門職向きのスキルは限定スキルと見なされるのでランクがあまり高くならないんですよ」
「そっか、そうですね……『服装図鑑』なんて常に必要でありがたがるのは服屋か服飾ギルドか服好きくらいですよね」
「ええ、ですが、誰の服装を詳しく知るかなど使い方次第では強力な武器になるスキルのはずですよ」
「うんうん、どんな素材でできていて、どんな作りかわかれば服への攻撃法やら脱がせ方やらわかりますからね」
私がその気になれば危ない使い方だってできるんだぞ。
怖いか? フククッ
「ふふっ、使い方次第ではチートですが、服屋を営むことと、暴走しても道行く人々の服装観察することくらいにしか使わない、ユルクさんが持っているなら安心ですね」
安心して笑っている本屋さんを怖がらせてみるか?
やっぱり止めておくか、さっきモンスター呼ばわりされて町長に訴えられそうになったし。
素材を知り攻撃に使うなら強者だが、脱がせ方を知り実行したら本当にただの不審者か変態になるだろうからな……
「そうそう、私こと服屋ユルク◊ドレスアップが使えは安心安全ですよ」
信頼のスマイル!
「そうですね、そうやって安全に使っているからBランクなのかもしれません。悪用して世間を騒がせたらすぐにSランクになるかもしれないですね……」
悪用してSランクに……魔族の囁きだな……
本屋さんの仮面から覗く目、私の本性を見ようとしているみたいだ。
いいだろう、見たまえ。私は誠実な服屋だ!
「『服装図鑑』が悪用されるのは困るし、私はしませんよ。誓います!」
本屋さんは私の真摯な姿をチェックするように見た。
「なんだか、ちょっと悪用フラグっぽいですけど」
怖がらせたろか? みたいな心の声に気づかれていたか?
もう一度、安心と信頼のスマイル。
「ユルクさんなら大丈夫ですね」
スマイルをくれた。よかった。
「そんなユルクさんには、このスキル大全を半額でお売りしますよ」
「えっ、半額ですか!? ありがとうございます! そ、それじゃあ、マントもは半額にしますよ」
三割引とかケチくさいことできないじゃないか。
「半分しかないマントだから半額で!なんちゃって」
「はははっ、ありがとうございます!」
愛想笑いかわからないがウケたしいいか。
休日なのに、お客が二人も来て儲かったし!
補足です。
挿絵1の本屋さんの腕がマントから出てしまっているのに気づいた時は「ヤバイッどうしよ」と思いましたが、スリットマントがあった!と思い出して事なきを得ました。
こういう時のためにも服の名前を色々覚えておくと助かるのでいいですね。
マントの裏地が赤いのは中世では赤い染料が貴重だったため高貴さの証や隠れた贅沢だったそうです。
吸血鬼のマントの印象もあるのでミステリアスさや血や隠れた情熱なども連想されるようです。
茶色いチェック柄はなんとなく本屋さんが着てるイメージがあります。探偵のホームズのイメージもあるので知的さや博識さが本屋と繋がったのかもしれません。
茶色系やチェック柄などを取り入れたファッションは田舎や田園などの意味のカントリースタイル、懐古的や郷愁などの意味のレトロ、ノスタルジックスタイルなどというそうです。
挿絵のマントやベストのようなウール (羊毛)の毛羽立ちや柔らかさ、ズボンのようなザラついた硬そうな質感も特徴です。
ファンタジーの本屋さんは仮面をつけているイメージもあります。
表情をみせない知的でミステリアスな印象が強いです。
最近のファンタジーの仮面はとても複雑なデザインがありますよね。
何枚も重なってたり顔の縦半分とか切り口が複雑な形してたり。
プロンプトで説明して下絵を見せても (私の説明や絵が下手すぎ問題かもしれませんが)AIには上手く再現できませんし、生成イラストだとなんか怖いです。なので仮面を色々紹介したいですができません。
仮面キャラは定番の人気ですし異世界服屋でも沢山出したいですがね。
仮面の素材や種類
祭り、演劇、儀式、防具、医療、階級別、刑罰用、外出用、観賞用など様々ある。
1. 革 (レザー)、煮出し革 (ボイルドレザー)
一般的な素材。煮出し革は表情が伝わりやすく軽量で丈夫。ペストマスクも革製が主流。
2、紙 (パピエ・マシェ)、張り子
紙パルプを型に流し込んだり、紙を何層にも重ねて固めたりする。
複雑なデザインにできて軽い。
表面に石膏 (ジェッソ)や蠟 (ワックス)を塗って滑らかにして装飾を施したりする。紙とは思えない見た目になる。
3.、金属
鉄や鋼鉄、金や銀など。
恥辱のマスク (Schandmaske)→鉄製。刑罰用で恥辱を与えるために動物や怪物など奇妙で滑稽なものが多い。
デスマスク→貴金属。裕福な王侯貴族の死後のマスク。
祭事、儀礼用もある。
4、布、絹
ベルベット、シルクなど。
ヴィザード (Vizard)、モレッタ (Moretta)→貴族女性が外出時に日焼けを防ぎ身元を隠すために使う主に黒いベルベット製の仮面。かなり不気味で怖い。
5、木材
クランプス→彫刻が施され、恐ろしい表情や動物の顔を模したものが多い。重いため主に祭りで被ったり飾られたりする。
6、陶磁器、ポルチェラーノ
磁器製。重くて割れやすいので主に観賞用で飾られる。
ファンタジーなら軽くて割れにくい鉱石製もある。
7、象牙
珍しい。王侯貴族の儀礼用。
装飾に使われる素材
1、漆喰、石膏
表面を白く滑らかにする下地。
2、蝋、ワックス
人間の肌に近い質感を出す。
3、金銀、宝石、羽
権威や華やかさを強調する。
白い仮面なら張り子に石膏や蠟を塗る (陶器のような質感になる)、布や革に白粉 (白鉛)を塗る( 人肌のような質感になる)などがあります。
ヴォルト (Volto)→顔全体を覆う真っ白な仮面で、性別や素性を完全に隠すために使われる。白さの表現な白磁、白亜、白蝋などがある。
仮面に魔法がかけられている場合は、魔道具ともいうのでしょうか。異世界服屋では色々な魔法の装備やアクセサリーが出てきますが、どれを魔道具というのかわからないので全て「魔法の」と表記しています。
スキルのランク付は難しいですね、キャラに相応しいスキルを見つけるのも難しいです。
本が割引されてるの見たことないなと調べたら法律で禁止されているそうです。
異世界の本屋なら店主次第で半額もありですよね。




