278. 『D・G・H』とその機能
「ヤバいな……めちゃくちゃカッコいいというか……ヤバいな……」
目の前に現れた木馬について俺の口から出たのは、とても売れっ子作家とは思えない、語彙力の乏しいものだった。
合板を切り取っただけの一般的な木馬とは一線を画した出来栄え。さまざまなパーツから生み出された『D・G・H』の本体部分の造形は、頭から脚先まで、本当の馬を忠実に再現している。特に蔓や木の枝のような素材で編み込まれた胴体部分は生々しい筋肉の脈動を幻視してしまうほどだ。
それに加えて前部と両脇にある不自然な装飾は、作業スペースとサイドテーブルだろうか?少々使い勝手は悪そうだが、【司書】として読書や情報をまとめる時に重宝するかもしれない。
他にも足元にある謎のペダルや、各部位に刻まれた謎の言語が俺の好奇心を沸き立たせるものとなっていた。
「想像以上というか、よくゲーム内でここまでの逸品を作り上げられたな」
「すごいだろ?現時点で最高峰の技術を費やした、最高傑作なんだ。特に馬のディティールは完璧だろ」
「あ、ああ。色こそ違うけど、オーラが騎獣と遜色ないレベルやん」
「ふっふっふ、どうすれば馬をリアルに造形できるか、職人たちも張り切ってたっす!」
「そのせいで通常の木馬の10倍近くのコストが掛かりましたけどね」
「高!?アイテムの価値としては納得やけど、俺専用としてはバカ高過ぎやろ!」
想像以上の価格に思わず声を張り上げてしまう。
「ははは、一応色々な機能のデータ取りという面もあるから問題ないぞ」
「VR系のゲームじゃ、どんな技術が、どの程度使えるのか把握するのは大事っすもん。10倍程度で済むなら安いもんっす!」
「MJO初のワールドレベルのイベント前にすることじゃないですけど、必要な工程ではありますね」
呆れながら言うゼロだったが、それでも製作については賛成らしい。
「なるほど。つまりこいつは俺専用であり試作機でもあるってわけやな」
「ああ、ロボットアニメの主人公機っぽくて最高だろ?」
「ああ、ロマンの塊やな」
子供の頃にテレビに齧り付いてみていたアニメを思い出し、男の子の心が熱くなる。
「ところで本体の方に話を戻すけど、横と前についてる板は作業用の机なんか?」
「おう。ソーイチは読書や書き仕事をすることが多いだろ?ジムとかにあるデスク付きエアロバイクを参考に、前部を作業用に、横の部分を資料置き場として設計したんだ。ちなみに乗り込む時は右側の部分を上に動かしてくれ」
「なるほどなぁ。でも、前の机はメモをぎゅっと押し付けたら木馬を漕ぎながらでも書けるかもしれんけど、サイドテーブルは木馬の動きで落ちるんちゃう?」
「もちろん、そこは対策済みだ。木馬とサイドテーブルは独立していて、ソーイチが全力で漕いだとしても振動が伝わらないようにしている」
「はぇ〜、色々と考えてるんやな。じゃあ、足元についてるペダルにも特別な意味あるん?もしかして移動できるんか?」
「いや、それが……」
自転車のようなペダルが足元についているのだ。当然動くのだと期待して聞いてみたのだが、ユサタクは梅干しを頬張ったような顔で言い淀んだ。
「実は移動機能も付けたかったんだが、それをつけると木馬判定じゃなくなるみたいでな……。今回のところは断念したのさ」
「うん?じゃあ、このペダルは飾りか?」
「いや、せっかくだから別のギミックを採用したんだ」
「ギミック?」
「所々に意味深に掘られた文字があるだろ?ペダルを漕ぐと光るんだ」
「何のために!?」
「カッコいいだろうが!」
「そうっすよ!カッコいいんすよ!」
「そ、そうか」
ピカピカと光る理由を熱く語る2人に思わず後退りしてしまう。だが考えてみれば旧時代のパソコンのマウスやキーボードも謎に光っていたのだ。特別なアイテムには、そういった遊び心も必要なのだろう。
「はぁ〜、光る機能はオマケでしょ……それ以上に重要な機能を忘れないでください」
「そ、そうだな……実は光るのとは別に、ペダルを漕ぐだけで動くようにしたんだ」
「うん?それが大事なん?」
「ええ、この機能があるかどうかで、体への負担がかなり違いますからね」
「通常の木馬は全身で動かすのに比べて、こっちは脚だけでいいんだぞ?例えるなら、通常版がロデオマシン、ペダル付きが自転車ってかんじなんだよ」
「そう聞くと、楽になってる感じがするな」
「だろ?」
「現時点では、しんどい思いしてもスキルやステータスが上がるという報告はありませんしね。いかに楽ができるかも重要になるんですよ」
「楽なのが一番っすよ」
「まぁ、楽に作業できるんなら光るペダルもご愛嬌ってか?」
苦笑いしつつも、目の前のハイテクな木馬を見つめる。無駄なこだわりと高い技術力が融合した、まさに男のロマンの結晶だ。
呆れ半分、ワクワク半分といった気持ちでペダルを数回漕いでみる。すると木馬はゆらゆらと揺れ、刻まれた謎の文字が淡く明滅した。その妙な格好良さに、俺は悔しくも少しときめいてしまった。
「さて、全てのギミックを説明したんだが、感想はどうだ?」
「リアル寄りの馬の造形とデスクや光るエアロバイクの組み合わせがアンバランスながらオモロいな。うん、かなり気に入った!こんなええもん用意してくれてありがとうな」
「気にするな。それより最後に聞きたいことがあるんじゃないか?」
「聞きたいこと? ……あっ、名前の意味教えて!」
木馬の出す圧に気を取られていたが、名前も意味不明なのを忘れていた。期待通りのリアクションをとった俺を満足したユサタクは、両手を大きく広げて答えた。
「いいだろう。ソーイチ専用の木馬『D・G・H』。それは、デスク&ギミック付き木馬の略称だったんだよ!」
「あっ、そうなんや……」
自信満々に明かされた本来のアイテム名は、機能を単純に羅列しただけの、残念なものであった。
木馬の描写が難しすぎる……一応、作者のTwitterにてイメージイラストを掲載しましたので、興味があったらみてみて下さい!
https://x.com/motomaru23/status/2065903684874387616?s=46&t=6ZFTvJGB8nCQBfgun8E19A
次回は明日か明後日の午前6時に更新予定です。
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