277.先送りの選択と特注品
ティータイムが終わった後、話の流れの中でMJOでのプレイングを模索することになった俺は、畑仕事をこなしながら迷いに迷っていた。
(今まで通りレースに参加しつつクランの仲間とまったりプレイするか、積極的に他のプレイヤーと関わっていくか。作品のネタ集めを考えるなら後者一択やけど……)
安定と刺激。2つの選択肢のどちらを優先するべきか?作家としても答えは既に出ていたのだが、問題が1つあった。
(ぶっちゃけ、人と関わるのはあまり得意じゃないんやけどなぁ)
そう、自分のコミュ力不足のせいである。
MJOを始めてからはクランの仲間をはじめ、プロスや寝太郎君などのゲーム仲間、果てはテレビ出演と色々とこなして来たのだが、本当の俺は、1日のほとんどを机の前から動かない、インドア系作家でしかないのだ。
(アバター越しやからこそ、NPCや他プレイヤーと緊張せんと話せるけど、イレギュラー込みで長時間知らん人と接するのは正直辛い……)
今にして思えば徹夜に慣れている俺がたった数日で休養が必要になるほど疲労したのは、慣れ親しんだ人以外と接し続けたせいかもしれない。
(一体、どないしたらええんや……うぉ!?)
ースキル【耕す】のレベルが8に上がりましたー
色々と堂々巡りになっていた時、スキルのレベルを告げるアナウンスが脳内に流れる。
(悩んでても成長はするか……うん?【耕す】……よく考えたら……)
悩んでいるのに成長してしまう、どこか矛盾した状況に思わず苦笑いしてしまう。だが、【耕す】というスキルのおかげで、一つの閃きが降りてきた。
(そや、明日の開拓依頼のために、資料を読み込む必要あったよな。しかも2冊もあるし、効率よく読み進めんと間に合わへん。そのためには、【騎乗】スキルの練習をしながら資料を読まないと間に合わんかもしれん。
けど、プレイヤー初の依頼の資料やし、人前で読むのは良くない……うん、仕方ない。仕方ないから、今日のところはひっそりと練習した方がええかもしれんな)
ある種の先送りといえるのだが、一応は理にかなっている。あえて『どちらも選ばない』という誘惑に負けた俺は、今日のところはひっそりと練習することに決めたのだった。
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「そうか、今回は表に出ないと決めたんだな」
「ネタ集めと言いながら、目的から逃げるのは悔しいけどな……」
「今は逃げたっていいじゃないか。ネタ集めの時間は1年。まだ360日も残ってるんだぞ」
「そう聞くとサービス開始から日が経ってないって実感するな……」
30日近くMJO内では経過しているが、現実ではまだ4日目。その事実を改めて実感した俺は、少しだけ救われた気分になった。
「さて、駄弁るのはこれくらいにしておくとして、【騎乗】の練習の話に移ろう」
「これ以上は気が滅入るだけやしな。で、練習用の木馬って、ここにもあんの?」
「そもそも練習場作ったのは俺たちだぞ?メンバー分の木馬は確保済みさ。というか、実はソーイチのために、特注の木馬を用意していたんだ」
「はあ!?【騎乗】スキルって木馬でギコギコ遊ぶだけやのに、俺のためだけに特注したん!?」
「ああ。ソーイチに、ただの木馬は似合わないからな。どちらで練習するにしても、特注をプレゼントするつもりだったのさ」
「特注の木馬……マジで公衆の前で練習せんでよかったわ……」
ただでさえ目立つと釘を刺されていたのに、俺の木馬まで特注品とくれば目立つどころの話じゃないかもしれない。俺はひっそり練習することを選んだ自分を内心褒め称えた。
「さて、期待も高まってきたところで、セキライ、ゼロ。例のブツを持ってきてくれ!」
ユサタクがパチンと指を鳴らすと、セキライとゼロが果樹園の影からひょっこり現れ、大きな布で全身を覆い尽くされた謎の物体を慎重に運び込んでくる。おそらくは俺専用の木馬なのだろうが、朝に見たものより横にも縦にも大きく見える。
「セキライ、ゼロ、ありがとな。……にしても、これ下にあるんは本当に木馬か? なんか変なオーラを感じるんやけど」
「あはは、ソーイチさんのために職人魂が燃えちゃったみたいっす!」
「ええ。ソーイチに似合う木馬は何か?と、作り進めるにつれて、どんどん魔改造されていったんですよね」
満面の笑みを浮かべるセキライとは対照的に、ゼロは少し呆れたように肩を竦める。その温度差に少し嫌な予感がしてくる。
「うんうん、いつ見てもいい出来栄えだな」
「いやいや、布でなんも見えてないやん……」
「俺の心の目にはバッチリ写ってるんだよ!それよりもここ!ここに立ってくれ!」
俺の鈍いリアクションが不満だったのだろう。いつもなら焦らしまくるユサタクだが、今回は急かすように目の前に俺を誘導する。
そして、想定通りの位置に立った俺を確認したユサタクは、不敵な笑みを浮かべ布の端をガシッと掴む。
「さあ、刮目せよ!これが俺たちの技術の結晶だ!!」
野太い声を張り上げながらユサタクは布を勢いよく取り払う。そこで現れたのは朝に目撃した、おもちゃのような木馬とは一線を画した作品だ。
「なんやこれ!?ヤバいな!?」
「驚いたか?これこそがソーイチ専用の木馬。名付けて『D・G・H』だ」
興奮と驚きがミックスされた俺の横顔を見て満足そうに笑ったユサタクは、目の前のアイテム名を自信満々に告げるのであった。
特注品の木馬とはどんなアイテムなのか?それは次回のお楽しみ。
次回は明日か明後日の午前6時に更新予定です。
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