276.ティータイムとブランデーと小さな世界
全ての転移ポイントを開放し終えた俺たちはすぐさま第二ホームへと帰還。簡単なミーティングを済ませた後に、打ち上げも兼ねて少し遅めのティータイムを楽しむことになった。
「ふぅ〜。運動の後の甘味。身体中に染みわたるなぁ」
「ああ。特にメインのパウンドケーキが最高だよな」
「はぁ〜美味しいです〜。モチョさん、また腕を上げたんじゃないですか〜」
「えへへ……ありがとうございます」
もてなし役として参加したモチョは、俺たちの賛辞の言葉にほにゃっとした顔で笑う。
「ところで、もしかしてパウンドケーキの隠し味に使われてるのって……」
「ええ。実は出来たてほやほやのブランデーを、隠し味に使ってみたんですよ」
「ついに洋酒が完成したんか!」
「ふふっ。ソーイチさんが作り方の本を要約してくれたおかげですよ」
アース米の栽培を隠すために増やしたい果樹園と、その建前に計画していた洋酒作り。俺は基礎的な手法が記された【酒造り〜洋酒編①〜】の要点をまとめてモチョに託したのだが、その成果が今日のパウンドケーキに活かされたようだ。
「本当ならブランデーそのものをお披露目したかったんですけど、みんなに出すだけの量を用意できてなくて……」
「ゲームとはいえお酒作りって時間かかりそうだもんな」
「なるほど。だから少量でもバッチリ風味をプラスできるパウンドケーキに使ったんやな」
「ええ、お察しの通りです」
「でも大正解!こんなに美味しいパウンドケーキを食べたのは本当に久しぶりですよ」
「リアルじゃカロリーや糖質・脂質とかで、手が出にくいですしね〜」
「うんうん」
スイーツ大好き女子の三人が謙遜するモチョを褒めちぎっていく。そんな微笑ましいやり取りに俺とユサタクもここぞとばかりに追従していく。
「あはは。この至福の時間のためなら、どんな過酷なクエストも乗り越えられるよな」
「ああ。明日からの開拓クエストも、俄然やる気が湧いてくるってもんだよ」
「もう!あまり褒め過ぎないで下さいよ〜」
美味しい紅茶とケーキによって元気をフルチャージされた俺たちは、お互いの顔を見合わせて小さく笑う。わずかに残っていた探索後の緊張感が、甘い香りと共にゆっくりと解けていく。
「こんなに美味いもんが食えるんやったら、次のお酒のためにも俺も本探しに励まんとあかんな」
「賛成! という事で、次回作も期待してます、モチョ」
「ええ、任せてください!」
尽きないお喋りに花を咲かせながら、穏やかな時間がゆったりと流れていった。
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「ふう、美味しかった!ご馳走さま」
「お粗末さまです。最後に紅茶、もう一杯いかがですか?」
「せやな……折角やし、ちょっとだけブランデー垂らしてくれへん?」
「ええ、すぐにご用意しますね」
「ありがとう」
パウンドケーキも食べ終えた俺は、好きな作品に書いてあった紅茶の飲み方をリクエストしてみる。
「うん、大人な香りがええな……って、そういえば俺も【騎乗】スキルゲットしたいんやけど、第一農地の練習場に行ったらええの?」
「いやいや、流石にお前が行ったらえらいことになるぞ!」
「5分としないうちにファンクラブのメンバーに囲まれますね……」
「ですね〜」
リクエストした紅茶を堪能した後、【騎乗】スキルの練習について尋ねたのだが、ユサタクは目を見開いて止めに入る。そしてゼロとフワフワも苦笑いしながら、うんうんと頷く。
「大袈裟過ぎやろ……いくらなんでも木馬をギコギコ漕ぐだけの俺に突撃するなんて、超弩級にマニアックなファンだけやろ」
「このゲームには、そのマニアックなファンばかりだから問題なんだよ。そうだよなマロン」
「ええ。同じマニアックなファンの一員として言わせて頂きますけど、ノアタイムス殺到事件やサイン大増刷事件を筆頭に大小様々な事件が起きてるんです。こっちで未然に阻止してるのもありますし、それに……」
そこからマロンはMJOで起きた俺が巻き起こした騒動をすごい熱量で話し始めた。その中には俺の知るものから初耳のものまで盛りだくさん。俺は早々に白旗を振り上げることとなった。
「……まいった、参りました!このゲームに俺の大ファンがいるのは理解したからストップ!」
「はぁ〜はぁ〜……ごめんなさい、ついつい熱が入っちゃいました」
「色々とスゴいです〜。私には真似できないくらいの早口でしたよ〜」
正気に戻ったマロンが顔を真っ赤にして俯き、フワフワが褒めてるのか貶してるのかわからない感想を呟く。
「マロンの暴走は兎も角、ソーイチにも熱狂的なファンが多いかわかっただろ?だから、無闇にファンの前に出るのは色々な意味で危ないんだよ」
「逆に理由があるなら、第一ホームで練習してもいいんですけどね」
ユサタクが総括する中、ゼロは少しだけ俺に歩み寄った発言をする。
「……あえて大勢の前に出る理由?」
「ええ。ソーイチは小説のネタ探しのためにMJOを始めたんですよね。それなら多少のいざこざも作品の肥やしになるんじゃないですか?」
「確かに、本人のためと言いながら、少し過保護過ぎたのかもしれないな……」
「賞金レースのためにも露出を控えていましたけど、ソーイチさんは目的があって参加したんですね。だったら、本人の意思が一番大事ですよね……」
思い当たることがあったのか、親友とマロンは悔しそうな表情で俯く。
「その過保護のおかげで色々と助かってた部分もあったんやし、気にせんといて。それよりも【騎乗】の訓練含めて、どういったプレイングでやっていくのか、改めて考えさせてもらうわ」
俺はブランデーの香る紅茶を飲み干し、そう語るのであった。
次回は明日か明後日の午前6時に更新予定です。
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