259.タクシーの予約と夜明け前のティータイム
この世界に新しい文化を刻み込んだ『アース米試食会』は、日が変わる間際にモチョお手製のおにぎりの詰め合わせを、来客者全員にお土産として渡して終わった。
その後片付けを免除された俺は、現実世界へと一度戻り諸々の雑務に取り掛かっていた。
カタカタカタ カチ
「よし、16時15分にタクシーの予約完了!これでログアウト直後からスパ銭に向かえるな」
まず行なったのは、修羅場明けの度に訪れている施設に行くまでのタクシーの手配。しかも敢えて予約時間をギリギリにすることで、面白そうなイベントが降りかかったとしても、半強制的にゲームからログアウトできるように調整したのだ。
それから次のログインまでの間に外出用の服やバッグを準備していった。
【陽の月3週目、土の日】【4月3日15:30】
(流石に本日分の収穫は終わったっぽいな。畑がすっからかんになっとるわ)
ログインして最初に目に入ったのは、1本の稲も残っていない農地であった。俺は既に配達されていた新聞を片手にうろうろしていると、ひとりお茶を楽しんでいたアマネを発見した。
「おはよう、アマネ。日が昇る前から優雅やな」
「おはようございます、ソーイチさん。でもリアルじゃ、おやつの時間じゃないですか。だから暗い中食べてもセーフなんですよ」
「ははは、確かにそうやな。ところで農業ギルドに納品する為の種欲しいんやけど、どこにあるん?」
「ああ、倉庫に余った種が置いてますよ。一応、取り出した後はクランコールへ報告お願いしますね」
「大事な種やもんな。オーケー、報告了解や」
俺は倉庫から納品用の種30粒を取り出し、コールを飛ばした。
・
・
・
それからは、ログイン後の恒例行事となったMP・STを消費する為の畑仕事と要約新聞の作成。それに加えて今回は魔力電池の充電作業をこなしていった。
「……よし、充電完了!これでマジで思い残すことなく、休みに入れるわ」
「ふふっ、おめでとうございます」
「ありがとう。それよりギルドの開館時間まで時間あるし、俺もお茶していいか?」
「もちろん、大歓迎ですよ!」
普段の彼女からは想像もつかないほど、弾んだ声が返ってきた。その豹変ぶりに少し圧倒されながらも、俺は茶請けのクッキーを口に運ぶ。
「……あれ、このクッキー新作?食感がいつものと違う気がするんやけど」
「ソーイチさんって味覚鋭いんですね。これはモチョシェフの期待の新作、『米粉クッキー』なんですよ」
「えっ、試食会の時点では未完成やったよな?まさか俺がログアウトしてる間に完成させたん!?」
たった数時間で新メニューを開発するモチョの熱意と食への執念に、クッキーを持つ手が震える。
「そういえば、種の在庫がもりもり増えてってるけど、他プレイヤーへのお披露目は、どのタイミングでするつもりなん?」
「う〜ん、具体的な日付は決まってないですが、とりあえずクランのメンバー全員が試練をクリアした上で、ゲーム内時間で1〜2日空けて行われると思います」
「……ふむ。それなら俺が帰って来た頃には、米騒動が起きてるかもな」
「こ、米騒動って間違ってはないですけど……でも時期的には予想通りになりそうですね」
「そっか……一大イベントに立ち会われへんのは残念やな……」
俺の発見から始まった大イベントが、盛り上がるタイミングが俺の休養期間とモロ被りしてしまうのを悟り、肩を落とした。
「確かに残念ですよね。一応、広めた後のコールログは共有サーバーに保存しておくので、順を追って眺めるのもアリかもしれませんね」
「おっ、共有サーバーやったらリアルでも見れるし、なんとか波に乗れそうやな」
「数時間はタイムラグありますけどね」
「そこは8倍速の世界やし、仕方ないわ。それより次にインした時、暇なメンバーにインタビューしたいから、参加希望者を集めてもらえる?」
「そんなの全員が手を上げるに決まってるでしょ……。大きなイベントが迫ってますし、5名くらいで勘弁してくださいよ」
「時期的に仕方ないか……とりあえず、一番生きたコメントくれそうなモチョだけは確定でお願い」
「ええ、伝えておきます」
「頼んだで」
こうして、俺が休養中の数日分のゲーム内動向を取材する約束を取り付けることに成功したのであった。
・
・
・
「……アース米の種30粒の納品を確認しました。試練の完全クリアおめでとうございます!」
「ありがとう。これで野望に一歩近づいたわ」
「大袈裟……でもなさそうですね」
ギルド開館と同時に農業ギルドを訪れた俺は、アレンに個室へ案内され、そこでアース米の種を納品していた。
「おっ、もしかして何か掴んでるかんじ?」
「試食会が大好評って話は聞き及んでますね」
「いくらなんでも情報掴むの早すぎやろ……。ギルドオープン前にどうやって知ったんや」
「ふふふ、内緒です。それより、私も食べてみたいんですけど、試食会って再度行なわないのですか?」
「どうやろ?色々考えてるかもしれへんけど、俺は何も聞いてないな」
「そうなんですか?ソーイチさんってアース米の責任者的な立ち位置だと思ってたんで、少し意外です」
俺の反応が意外だったのか、目を丸くするアレン。
「う〜ん。実は元の世界に戻るから、イベント関係の責任はリーダーが引き継いでるんよ」
「あっ、そうなんですね。ソーイチさんが居なくなると寂しくなりますね……」
「……いやいや!今生の別れ風に言ってるけど、来週の中頃には戻るから!」
「意外と早く帰ってくるんですね。でも、それまでの間の決め事は……」
「何か企画する場合はユサタクにアポ取っといて」
「わかりました、それでは何か決まり次第ユサタクさんへ連絡を入れておきますね。それと、ソーイチさんも元の世界ではお気をつけて」
「ありがとう。それじゃあ、元の世界にいってきます」
アレンに見送られギルドを後にした俺は、眩しい朝日を浴びて一息ついた。
その後、付与ギルドにて魔力電池の納品も終わらせた俺は、ログアウトの準備を整え、クランコールの画面を呼び出した。
ソーイチ:それじゃあ、これよりリフレッシュ休暇に行ってきます!
ユサタク:ああ、ゆっくりしてくるんだぞ!
セキライ:いってらっしゃいっす!
「はぁ〜〜〜。よし、ログアウトするか」
クランの仲間からの見送りコールを確認した俺は、少しの寂しさをため息ではき出した後、ログアウトのボタンをタッチするのであった。
ソーイチの連続プレイは一先ず終わり。この後は2話連続で幕間の投稿になります。
次回は明日か明後日の午前6時に更新予定です。
ブックマークや評価・誤字報告していただきありがとうございます!!
今後とも本作をよろしくお願いします。




