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デビル・アビリティ  作者: ゴミAIに投げるだけのなにか
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3/4

影②

 その日の夜。


 アズマは自分の部屋で、昼間取ったぬいぐるみを眺めていた。


 ベッドの上に置いてある。


「……買ったことにするか」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


 自分でも苦しい言い訳だと思う。


 けれど、もう手元にある。


 返しに行くのも面倒だった。


 アズマは電気を消した。


 窓から入る街灯の明かりで、部屋の中に薄い影ができる。


 その影を見ていると、昼間とは違うことに気づいた。


「……ん?」


 自分の影。


 その向こうに、カーテンの影。


 さらに、その向こうに窓。


 アズマは立ち上がった。


 影を伸ばす。


 壁まで。


 さらに伸ばす。


 カーテンのところまで届く。


 そこで止める。


「……ここまでは昼と同じか」


 影の先を、壁からカーテンへ移してみる。


 影がカーテンに貼りついた。


「……」


 引っ張る。


 カーテンが少し動いた。


「え?」


 もう一度。


 ぐいっ。


 カーテンが開いた。


 アズマは目を丸くした。


「影で動かしてる……?」


 さっきまで物を直接掴んでいたときとは違う。


 今度は、影が直接その物に触れていない。


 カーテンに落ちている影を掴んだ。


 それだけで、カーテンそのものが動いた。


「……じゃあ」


 部屋の電灯のスイッチを見る。


 壁に落ちたスイッチの影。


 アズマは影を伸ばす。


 指の形にする。


 スイッチの影を押す。


 カチッ。


 電気がついた。


「…………」


 アズマはしばらく黙っていた。


「影そのものを掴んでるんじゃない」


 自分で口にしてみる。


「影を掴むと、元の物まで動く……?」


 確信はない。


 けれど、何度か試してみる。


 椅子。


 カーテン。


 机の引き出し。


 どれも動いた。


 影さえ見えていれば。


「……なるほど」


 アズマは椅子に座った。


 少し考える。


 そして、思いついた。


「これ……鍵も開けられるんじゃないか?」


 *


 翌朝。


 アズマは駅前のコインロッカーの前に立っていた。


 昨夜から、ほとんど眠れていない。


 影で鍵を開けられるか。


 そればかり考えていた。


 別に、何か盗みたいわけではない。


 ただ、試してみたかった。


 アズマは人の流れが途切れるのを待った。


 ロッカーの鍵穴に、細い影が落ちている。


 影を伸ばす。


 鍵穴の影を掴む。


 回す。


 カチッ。


 開いた。


「……」


 中には誰かの荷物が入っていた。


 アズマはすぐに閉めた。


「……できるんだ」


 悪用できる。


 その事実だけで、少し怖くなる。


 だが同時に、別の考えが浮かんだ。


「じゃあ、鍵のかかってる場所も……」


 駅の裏手を見る。


 立入禁止の扉。


 鍵がかかっている。


 アズマはしばらく見つめた。


 扉の前まで行く。


 影を伸ばす。


 鍵穴へ。


「…………」


 やめた。


 さすがに怖い。


 戻ろうとした、そのとき。


 扉の向こうから物音がした。


 ガタン。


「……?」


 人の声はない。


 もう一度、音がした。


 今度は小さい。


 扉の下で、細い影が動いている。


「……猫?」


 アズマはしゃがみ込んだ。


 影を鍵穴へ伸ばす。


 カチャ。


 鍵が開いた。


 扉を少し開ける。


 黒い猫が飛び出してきた。


「おお……」


 猫はアズマを一度だけ見た。


 そのまま走っていった。


 アズマは扉を閉めた。


「……これは悪用じゃないな」


 自分に言い聞かせる。


 けれど、さっき開けた鍵穴を見ていると、別のことを考えてしまう。


 鍵がいらない。


 鍵を持っていなくても、影さえあれば開けられる。


 そう思うと、急に街の中にある鍵という鍵が気になってきた。


 店の裏口。


 自転車の鍵。


 ロッカー。


 金庫。


 家の玄関。


「…………」


 アズマは歩き出した。


 その顔から、さっきまでの笑みは消えていた。


 便利だから怖い。


 怖いのに。


 使ってみたい。


 その気持ちのほうが、少しだけ強かった。


 *


 駅を出たところで、アズマは足を止めた。


 商店街の角に、質屋がある。


 ショーウィンドウの中に、腕時計や指輪が並んでいた。


 その奥に、店の裏口が見える。


 鍵の影が、朝の光の中に細く落ちている。


 アズマは立ち止まったまま、そこを見ていた。


「……入れるよな」


 もちろん、入るつもりはない。


 ただ、できるかどうかを考えただけだ。


 そう思いながら、影を伸ばす。


 裏口の鍵穴へ。


 あと少しで届く。


 そのとき、店の中からシャッターを開ける音がした。


 アズマは慌てて影を引っ込めた。


 店主が裏口から出てくる。


「……」


「……」


 目が合った。


「何か?」


「いや」


 アズマは裏口から離れた。


「道、間違えただけです」


 店主は怪訝そうにアズマを見た。


 アズマはそのまま商店街を歩き出す。


 角を曲がってから、胸に手を当てた。


 心臓が早い。


「……何やってんだ、俺」


 自分でも分かっている。


 さっきのは、試しただけではない。


 開けようとしていた。


 中に何があるのか、見ようとしていた。


「……でも」


 アズマは自分の足元を見る。


 伸びた影が、靴の先から細く揺れている。


「これなら、誰にも見つからない」


 その考えが浮かんだ瞬間、アズマは立ち止まった。


 怖い。


 けれど、同じくらい楽しい。


 その感情を、少し離れた電柱の影からデビルくんが見ていた。


 アズマは気づかない。


 デビルくんは何も言わない。


 ただ、アズマの影が伸びたり縮んだりする様子を、じっと眺めていた。

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