影③
その日の夕方。
アズマは商店街を歩いていた。
昼間、質屋の裏口を開けようとしたことが、頭から離れない。
別に、欲しいものがあるわけではない。
金が必要なわけでもない。
ただ。
「……開けられるんだよな」
それを確かめたかった。
一度やってしまえば、もう同じだった。
できるかどうかを考えるだけでは足りない。
実際に使ってみたくなる。
アズマは商店街の端にある古いゲームセンターへ入った。
店内は薄暗い。
客も少ない。
奥には両替機と、古いゲーム機が並んでいる。
その中に、コインロッカーがあった。
鍵が付いている。
アズマは周囲を見る。
誰もいない。
「…………」
影を伸ばす。
床を這わせる。
ロッカーの鍵穴へ。
カチッ。
開いた。
中には何もない。
「……なんだ」
少しがっかりする。
隣。
その隣。
一つずつ開けていく。
空。
空。
タオル。
空。
そして、一つだけ。
財布が入っていた。
アズマの手が止まる。
「…………」
財布を影で引き寄せる。
ロッカーから出す。
黒い財布。
少し古い。
アズマはそれを見つめた。
「……やめとくか」
そう言って、戻そうとする。
そのとき。
財布の横に、何かが落ちた。
一枚の写真。
子供が二人写っている。
アズマはそれを見て、手を止めた。
「……」
財布をロッカーに戻す。
写真も戻す。
「……これは違うな」
扉を閉める。
影を引っ込める。
そのまま帰ろうとした。
だが。
入口の近くに、両替機がある。
その下に、小さな財布が落ちていた。
誰かが落としたらしい。
アズマは拾った。
中を見る。
現金。
数枚のカード。
そして、免許証。
「……」
さっきの財布とは違う。
落ちている。
持ち主はここにいない。
アズマは財布を見つめた。
「これなら……」
自分でも、何を考えているのか分かっていた。
財布をポケットに入れる。
店を出る。
*
帰り道。
アズマは何度も後ろを振り返った。
誰も追ってこない。
「……大丈夫だろ」
財布の中身を思い出す。
現金。
たいした額ではない。
それでも、盗ったという事実だけが妙に重い。
家に着く。
玄関を開ける。
財布を机の上に置く。
椅子に座る。
「…………」
返そうと思えば返せる。
店に届ければいい。
警察でもいい。
だが、面倒だ。
アズマは財布を開いた。
すると。
一枚のレシートが目に入った。
スーパーのものだった。
日付は今日。
買い物の内容。
牛乳。
パン。
薬。
そして、レシートの裏に、小さな字で名前が書いてあった。
アズマは財布を閉じた。
「……」
しばらく動かなかった。
やがて立ち上がる。
財布を持つ。
「返すか」
玄関へ向かう。
そのときだった。
床に落ちた自分の影が、勝手に動いた。
「……え?」
影が伸びる。
机の上の財布へ向かう。
アズマが手を伸ばすより先に、影が財布を掴んだ。
「おい」
影が財布を引き寄せる。
アズマの足元まで戻ってくる。
「……何だよ」
アズマは財布を拾った。
影は元に戻っている。
「勝手に動くなよ」
もちろん返事はない。
ただ。
アズマは妙な違和感を覚えた。
今の影は、自分が動かしたわけではない。
少なくとも、そういうつもりではなかった。
「……まだ何かあるのか?」
自分の影を見る。
影は普通に床へ伸びている。
何も起こらない。
「気のせいか」
そう思うことにした。
財布を持って、外へ出る。
*
夜。
アズマは財布を落とした場所まで戻った。
ゲームセンターの前。
もう閉店している。
店のシャッターは下りている。
その前に、人が一人立っていた。
若い男だった。
何度もポケットを探している。
「……財布……」
アズマは足を止めた。
「あの」
男が振り向く。
「これ、落としました?」
財布を差し出す。
男の顔が変わった。
「あっ……!」
受け取る。
中身を確認する。
「ありがとうございます!」
何度も頭を下げた。
アズマは少し気まずそうに笑った。
「いや……まあ」
男が去っていく。
アズマはその背中を見送った。
「……疲れた」
家に帰る。
玄関を開ける。
部屋の明かりをつける。
壁に自分の影が映る。
アズマは影を見る。
「……お前、何なんだよ」
影は答えない。
ただ。
アズマが手を上げると、影も手を上げる。
「普通か」
手を下ろす。
影も下ろす。
そのとき。
影の足元から、もう一つ黒い影が伸びた。
アズマは気づかなかった。
部屋の隅。
誰もいないはずの場所に、デビルくんが立っている。
「……」
アズマはベッドへ倒れ込んだ。
「今日はもう使わねえ」
目を閉じる。
デビルくんは何も言わない。
ただ、床に伸びるアズマの影を見る。
その影の端が、ほんの少しだけ揺れた。
まるで笑っているように。
「…………」
デビルくんも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
そして、朝と同じ言葉を呟く。
「使え」
アズマには聞こえなかった。
部屋の明かりが消える。
影だけが、暗闇の中に残った。
AIにぶん投げてるから時間経過がめちゃくちゃになってる。設定通りに出力されないから手直し必要だし、もうやめるわ。




