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残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―  作者: solune
第1部:学園脱出と日常の崩壊

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第30話:屋上の扉【2/3】

おかげさまで、月間ホラー〔文芸〕ランキングにランクインしました!

読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます!

『ガツンッ!! ガツンッ!!』


扉の中央部から、重厚な金属同士が強固に噛み合い、引き千切れるのを拒絶するような硬質な衝撃が跳ね返ってきた。

開かない。

扉は、何か別の物理的な拘束具によって、びくともしない完全な密閉状態に固定されていた。


「な……なんでだよ!? なんで開かねえんだよ日高!?」

壁際で鉄パイプを構えていた健太が、血相を変えて蓮の横へと詰め寄ってきた。

「ラッチバーは下がったんだろ!? なんで扉が開かねえんだよ!?」


葵も顔面を蒼白にし、震える手で扉の金属面に触れた。

「日高くん……まさか、火災の熱でドアの枠が歪んで、噛み合っちゃったの……!?」


「いや……違う」

蓮の声音は、恐ろしいほど低く、冷え切っていた。

「熱による歪みじゃない。……金属が互いに引っ張り合って、何かに物理的にロックされている手応えだ」


蓮は深く息を吸い込み、ポケットから取り出した小型LED懐中電灯の光量を極限まで絞り、光束を扉の隙間とラッチバーの上部へと集中的に照射した。


懐中電灯の細い光の中に照らし出されたのは、あまりにも残酷で、救いのない現実だった。


扉の中央、ラッチバーのすぐ上部。

そこには、長年の錆で茶黒く変色した、厚さ5ミリを超えるスチール製の極太な『ハスプ(掛け金構造)』が取り付けられていた。

扉側とドア枠側の双方に頑丈な鋼鉄金具が配置され、扉を閉じた時に2つの金具の穴がぴったりと重なり合う構造。


そして、その重なり合った掛け金の穴をガッチリと貫通するようにして通されていたのは――。


直径1センチ以上はある、真鍮製の極めて重厚な『大型南京錠』だった。


鈍い真鍮色のボディ。焼き入れ加工が施された硬化スチール製のシャックル(U字型の金属アーム)が、ハスプの穴の中でガチリと噛み合って施錠されており、本体の下部には、暗闇の中に冷たく光る4桁のダイヤルが、不揃いな数字を並べて沈黙していた。


「……南京錠だ」

蓮の声が、喉の奥から絞り出されるように漏れた。


「……え?」

葵の手から、アルミ柄の十字槍が滑り落ちそうになった。


「南京錠が……かかってる。外側からじゃない。この『内側(校舎側)』から、ガッチリと4桁のダイヤル式南京錠で施錠されているんだ」


「嘘だろ……!? なんで……なんでだよ!!」

健太が頭を抱え、信じられないものを見るような目で南京錠を凝視した。

「なんで南京錠なんかかかってんだよ!? ここは非常口だろ!? 火事の時に生徒が逃げるための脱出口じゃねえのかよ!? なんで鍵をかけて閉め切ってんだよ!!」


健太の絶叫のような問いかけに、蓮は奥歯をギリギリと音を立てて噛み締めた。

作業用革手袋で覆われた指先で、冷え切った南京錠の金属面を強く握りしめる。


記憶が、蓮の脳裏を急速に駆け巡っていた。


「学校の防犯ルールだ……」

蓮の掠れた声が、狭い踊り場に落ちた。


「防犯ルール……?」

葵が息を呑んだ。


「数年前……他校の生徒が屋上から飛び降り自殺を図る事故が、この彩葉市内で立て続けに起きたんだ」

蓮は感情を押し殺した声で、かつて全校集会で生活指導の教員が話していた内容を思い起こした。

「それ以来、市内のすべての県立・市立高校において、生徒の転落事故や無断侵入を防止するために、『屋上扉の常用施錠』が県教委の通達で厳格に義務付けられた。……屋上へ出られるのは、体育の授業や部活動、清掃業者が入る時だけ。それ以外の時間帯は、教務部や職員室の管理下で、常に重厚な南京錠によって施錠されているのが……この学校の日常のルールだったんだ」


平和だった日常の管理規則。

生徒の命を守るために定められたはずの「防犯ルール」と「安全対策」。

それが今、文明と秩序が崩壊した極限の地獄において、逃げ場を失った生徒たちを死の罠へと閉じ込める、最も冷酷で不条理な鉄の鎖となって牙を剥いていた。


「そんな……そんなのってないよ……!」

葵が、悲鳴のような声を漏らして扉の金属面に両手を押し当てた。

「ここまで……ここまでみんなで必死に戦って登ってきたのに……! 階段の化け物たちを命がけでやり過ごして、やっと辿り着いたのに……! 目の前が外なのに、こんなのあんまりだよ……!」


扉の隙間からは、屋上の外から吹き込む冷たい夜風が、ヒューヒューと耳障りな音を立てて絶え間なく流れ込んできていた。

この扉を1枚隔てた向こう側には、煙に汚染されていない澄んだ空気と、上空を旋回する救助ヘリコプターの視界、そして街全体を一望できる安全な屋上が広がっている。

それなのに、目の前にあるたった1個の真鍮の南京錠が、彼らと「生存」の間を、決して越えられない絶望の断崖となって隔てていた。


小林も、壁に背中を預けたまま、血の気の引いた顔で拳を強く握りしめていた。

「俺……俺のせいでみんなを足止めして……その上、扉まで開かないなんて……。クソッ……クソッ……! ここまで来て、全員で行き止まりなんて嘘だろ……!」


「小林、自分を責めるな!」

健太が叫び、その瞳に狂乱の光を宿らせた。

「開かねえなら……ぶっ壊すまでだ! こんな鍵の1個や2個、力任せに叩き割ってやるよ!!」


健太は両手で鉄パイプ戦斧を上段へと引き絞ると、全身の背筋と体重を乗せて、扉の南京錠に向かって渾身の力で叩きつけた!


『ガァァァァンッ!!』


耳をつんざくような凄まじい金属打撃音が、コンクリートで囲まれた狭い階段の踊り場に爆音となって反響した。

衝撃の激しい反作用によって、健太の両腕にビリビリとした強烈な痺れが走り、鉄パイプを握る手のひらの皮が擦り剥ける。「くっ……!」と苦悶の呻きが健太の口から漏れた。


だが、火花が散った南京錠の表面には、ほんの僅かな擦り傷と凹みが刻まれただけだった。

直径1センチを超える硬化スチール製のシャックルは、曲がるどころか、ハスプの穴の中でビクともせずに噛み合い続けていた。


「嘘だろ……!? なんで壊れねえんだよ!!」

健太が信じられないように目を見開き、再び鉄パイプを振り上げようとした。

「もう1発だ! 何回でも叩いてやる! ぶっ壊れるまで叩き続ければ――」


「やめろ、健太! 叩くな!!」

蓮が即座に踏み込み、健太の太い右腕を力任せに掴んで強引に押し留めた。


「離せよ日高! 叩くしかねえだろ! 叩かなきゃ開かねえんだよ!!」


「叩いても壊れない!」

蓮は厳しい眼差しで健太を睨み据え、断固たる口調で言い切った。


「この南京錠のシャックルは、建設現場や重量シャッターで使われる特殊アロイスチール(焼入れ合金鋼)製だ。ノコギリの刃も通らないし、鉄パイプで上から力任せに殴った程度じゃ、表面が僅かに削れるだけで絶対に破断しない。……それどころか、お前が今立てたその凄まじい打撃音を考えろ!」


蓮の鋭い一喝に、健太の身体がピクッと硬直した。


「金属同士をフルスイングでぶつけ合えば、その甲高い破壊音はコンクリートの吹き抜けを伝わって、校舎全体へと一瞬で響き渡る。……3階の視聴覚室に閉じ込めた大群や、4階の廊下を彷徨っている感染者たちを、この行き止まりの階段へ一斉に呼び寄せる最大の合図になるんだぞ!」


蓮の冷徹で筋の通った指摘に、健太は振り上げていた鉄パイプをゆっくりと下ろし、肩を激しく上下させながら悔し涙を滲ませた。

「じゃあ……どうすりゃいいんだよ……! 暗証番号を合わせるのか!? 4桁のダイヤルだぞ!? 0000から9999まで、1万通りもあるんだぞ!? 1秒に1回回したって、何時間かかると思ってんだよ!!」


健太の悲痛な叫びが、狭い空間に虚しく響いた。

健太の言う通りだった。

1万通りの組み合わせをこの暗闇の中で手作業で探り当てることなど、物理的に不可能だ。本棟の火災から吹き上がってくる有毒ガスと一酸化炭素がこの踊り場を完全に包み込むまで、残された時間はせいぜい数十分。彼らには、そんな気の遠くなるような試行錯誤を許す時間など、1秒たりとも残されてはいなかった。


絶望が、冷たい泥水のように4人の全身を侵食していく。


3階の視聴覚室で見事に成功させた【音の罠】。

30体を超える巨大な群れを一歩も刃を交えることなく封じ込め、手薄になった中央階段を一気に駆け上がってきた、ここまでの血と知恵の結晶。

そのすべてが、たった1個の南京錠という物理的な障害の前に、無残に砕け散ろうとしていた。


蓮は呼吸を整え、唇を強く噛み締めた。

脳内で、父から叩き込まれたサバイバル工学と破壊工作の知識が、凄まじい速度で回転を始める。


(南京錠本体を打撃で割ることはできない。ダイヤルの総当たりも時間切れになる。……ならば、手持ちの装備で『ロック機構そのもの』を物理的にバイパスできるか?)


蓮の視線が、左腰のベルトに固定された、父から譲り受けた頑丈なサバイバルナイフへと注がれた。

厚さ5ミリの強化ステンレス鋼。刃物としての切れ味だけでなく、木材を割り、テコとして隙間をこじ開けるための強靭な靭性を備えた、本物の軍用規格ナイフだ。


父の言葉が、記憶の底から鮮烈に蘇る。

『蓮、金属の錠前や鍵は、正面からの打撃には滅法強い。だが、接合部の隙間にクサビを打ち込み、テコの原理で横方向のせん断力を加えれば、脆弱な溶接面やボルトの首をねじ切ることができる』


「……まだ諦めるな」

蓮の静かで引き締まった声が、沈黙を切り裂いた。


「え……? 日高くん、何か方法があるの!?」

葵がすがるような目で蓮を見つめた。

今回の続きは、19:10の投稿になります。お楽しみに!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

面白かった、続きが気になると思っていただけたら、執筆を続ける大きな励みになります。


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これからも『残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―』をよろしくお願いいたします!

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