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残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―  作者: solune
プロローグ:日常の終わり

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第2話:噂の流星群【3/3】

おかげさまで、月間ホラー〔文芸〕と[週間]ホラー〔文芸〕と[日間]ホラー〔文芸〕のランキングにランクインしました!

読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます!

『キーン、コーン、カーン、コーン』


無情にも、三時間目の始まりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。

しかし、もはや誰も席につこうとする者はいなかった。

バタン、と勢いよく教室の後ろのドアが開き、担任の教師が血相を変えて飛び込んできた。


「お前ら、窓から離れろ! 全員、速やかに自分の席に戻って待機しろ!」


普段は温厚な教師の、見たこともないほどの怒鳴り声に、生徒たちは弾かれたように窓際から離れ、自分の席へと戻った。

教師は教壇に立つと、息を切らしながら黒板を叩いた。


「いいか、よく聞け。先ほどのエリアメールや防災無線の通り、現在、市内で大規模な暴動が発生している。原因は不明だが、暴徒は極めて凶暴で、見境なく人を襲っているという情報が入っている」


教師の声は震えていた。彼自身もまた、状況を全く飲み込めていないことは明白だった。


「学校側の措置として、現在、校門を含む全ての出入り口を完全に施錠した。外部からの侵入を防ぐためだ。警察や消防への連絡は済んでいるが、現在回線がパンクしており、いつ応援が来るかはわからない。だが、この校舎にいれば安全だ。絶対に、パニックを起こして外に出ようとするな」


教師が言い終わるのと同時に、教室の空気がパキリと凍りついた。


「……先生、帰れないんですか?」

最前列の女子生徒が、泣きそうな声で尋ねる。

「ああ。安全が確認されるまでは、全員この学校に留まってもらう。保護者への連絡は学校側で一括して行うから、お前たちは各自のスマートフォンで無駄な通信をしないように。バッテリーを温存しろ」


教師の言葉に、教室内は深い絶望と混乱の渦に飲み込まれた。


「ふざけんなよ! 俺ん家、親父が病気で寝てんだよ! 帰らなきゃ!」

「お母さんに電話繋がらない! どうしよう、どうしよう!」

「なんで学校に閉じ込められなきゃいけないんだよ!」


泣き叫ぶ声、怒号、祈るようにつぶやく声。

日常のルールが崩壊し、生徒たちはむき出しの感情をぶつけ合い始めていた。

蓮は席に座ったまま、その混乱をどこか冷めた目で見つめていた。


帰りたい。家族の安否が心配だ。その気持ちは痛いほどわかる。蓮自身も、今すぐ自転車に飛び乗って、自宅にいるはずの母と妹の元へ駆けつけたい衝動に駆られていた。

だが、窓から見えたあの地獄のような光景が、蓮の足を強烈に縫い止めていた。


(外に出れば、確実に殺される)


交差点で警察官すら飲み込んだあの狂気の集団に、無防備な高校生が立ち向かえるはずがない。今は、教師の言う通り、この堅牢なコンクリートの箱の中に閉じこもっているのが、唯一の生存戦略なのだ。


蓮は深呼吸をして、心を落ち着かせようとした。

ふと、視線を斜め前に向ける。


葵は、周囲のパニックに巻き込まれることなく、背筋を伸ばして席に座っていた。しかし、その膝の上で強く組まれた両手は、かすかに、だがはっきりと震えているのが見えた。

クラスの中で普段見せる、静かで凛とした佇まい。今の彼女は、その佇まいを必死に保とうと、目に見えない恐怖に向かって、震える心で耐え忍んでいるように見えた。


蓮は無意識のうちに席を立ち、葵の席へと歩み寄っていた。


「水島」


声をかけると、葵はビクッと肩を跳ねさせ、蓮を見上げた。その瞳には、隠しきれない不安の涙がうっすらと浮かんでいた。


「日高、くん……」

「大丈夫だ」


蓮は自分でも驚くほど、低く落ち着いた声で言った。


「学校の門は頑丈だ。それに、ここは四階だ。そう簡単に、あいつらがここまで上がってくることはない。だから、落ち着いて待とう」


何の根拠もない慰めだった。だが、今の彼女には、そして自分自身には、そう信じ込ませるための『言葉』が必要だった。

葵は少しだけ目を見開いた後、震える唇を噛み締め、こくりと頷いた。


「……うん。ありがとう」


その時だった。


『ギャアアアアアアッ!!!』


廊下の方から、ガラスを引っ掻くような、耳をつんざく悲悲鳴が響き渡った。

教室内の喧噪が一瞬にして静まり返る。全員の視線が、廊下側のすりガラスの窓に向けられた。


「……おい、なんだ今の声」


健太が立ち上がり、廊下側のドアへと近づこうとする。


「待て、健太!」


蓮が制止するよりも早く、すりガラスの向こう側に、『ドスッ!』という重いものがぶつかる影が映った。

続いて、廊下を走る複数の足音と、怒号。


「やめろ! 来るな!」

「誰か、先生呼んで! 〇〇君が、急に……!」


廊下の外で、明らかに別のクラスの生徒たちがパニックを起こしているのがわかる。

担任の教師が青ざめた顔でドアに手をかけ、「お前らは絶対に出るな!」と叫んで廊下へと飛び出していった。

ドアが開いた一瞬、蓮の目に飛び込んできた光景。


それは、廊下の床に広がる赤黒い血だまりと、一人の男子生徒が、別の男子生徒の上に馬乗りになり、その首筋に顔を埋めている姿だった。


昨夜の動画と、全く同じ光景。

それが、安全であるはずの校舎内で、現実のものとして繰り広げられていた。


「……嘘だろ」


蓮の口から、絶望の言葉が漏れる。

外部からの侵入者ではない。

すでに、校内の中に『感染者』が潜んでいたのだ。


朝から体調不良を訴えて保健室に向かった生徒。休日に繁華街へ遊びに行って、何らかの理由で傷を負っていた生徒。

誰が最初の感染源だったのかはわからない。だが、事実として、狂気はすでにこのコンクリートの箱の内側に侵入し、増殖を始めていた。


「開けろ! 中に入れろ!」


廊下にいた生徒たちが、パニック状態で蓮たちのクラスのドアをバンバンと叩く。


「おい、やばいぞ! 中に入れたら、あいつらも入ってくる!」


ドアの近くにいた男子生徒が、パニックを起こしてドアに鍵をかけようとする。


「ふざけんな! 見殺しにする気か!」


健太がその男子生徒を突き飛ばし、ドアの鍵を強引に開けた。

なだれ込むように数人の生徒が教室に逃げ込んでくる。その中には、制服に血を浴びて泣き叫んでいる女子生徒もいた。


「閉めろ! 早く閉めろ!」


健太が叫び、蓮と共にドアを全力で閉めようとする。

だが、その隙間に、血に塗れた手がヌルリと差し込まれた。


「ヒッ……!」


教室内に悲鳴が上がる。

ドアの隙間から覗いたのは、白目を剥き、口の周りを血で染めた、見知らぬクラスの男子生徒の顔だった。彼は獣のように唸りながら、凄まじい力でドアをこじ開けようとしてくる。


「クソッ、なんて力だ!」


健太が顔を真っ赤にしてドアを押し返す。蓮も体重をかけてドアを押すが、感染者の力は人間のリミッターが完全に外れており、徐々に隙間が広がっていく。


「手伝って! 早く!」


蓮が叫ぶと、葵が椅子を手に持って駆け寄り、ドアの隙間に挟み込んでストッパーの代わりにした。その隙に、蓮と健太が渾身の力でドアを押し込み、ついに『ガチャン!』という音と共に鍵をかけることに成功した。


「ハァ……ハァ……」


蓮と健太はドアに背中を預け、床にへたり込んだ。

ドアの向こう側では、感染者が狂ったようにガラスを叩き、うめき声を上げている。


「……入ってきたぞ。学校の中に」


健太が、震える声で呟いた。

安全な檻だと思っていた場所は、一瞬にして逃げ場のない現場へと変わった。


窓の外を見れば、正門のバリケードはすでに崩壊しかけており、無数の群衆が校庭へと雪崩れ込もうとしている。

廊下には、理性を失った怪物が徘徊している。

日常という名の薄氷は、完全に砕け散った。


「蓮……」


葵が、不安げな目で蓮を見下ろしていた。

蓮はゆっくりと立ち上がり、親友と、守るべき少女を見た。


事なかれ主義で生きるのは、もう終わりだ。

ここで待っていても、助けは来ない。待っているのは、確実な死だ。


「……逃げるぞ。ここから脱出する」


蓮の声には、もはや迷いはなかった。

絶望の底で、彼の生き残るための本能が、ついに目を覚ましたのだ。

次の話は、翌日7:10の投稿になります。お楽しみに!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

面白かった、続きが気になると思っていただけたら、執筆を続ける大きな励みになります。


ぜひ「★評価」と「ブックマーク」で応援してください!


これからも『残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―』をよろしくお願いいたします!

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