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残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―  作者: solune
第1部:学園脱出と日常の崩壊

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第18話:理科室の武器づくり【1/2】

おかげさまで、月間ホラー〔文芸〕ランキングにランクインしました!

読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます!

遮光シートで完全に密閉された、特別棟2階・第1理科室。

天井の蛍光灯はとうに消え、外から漏れ入るはずの月光すら、窓を覆う分厚い黒ビニールシートによって完全に遮断されていた。


完全なる漆黒。

その息の詰まるような暗闇の中で、蓮、健太、葵は、冷たいコンクリートの床に座り込み、じっと息を潜めていた。隣接する準備室の暗がりには、先ほどの逃走劇の中で辛うじて逃げ込み、腰を抜かして震えていたクラスメイトの鈴木が小さく身を縮めている。


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ――ッ!


校舎のどこかで鳴り続ける非常ベルの甲高い金属音。

そして、遠くグラウンドや本棟の方角から絶え間なく響いてくる群衆の悲鳴、火災の爆ぜる重い轟音、喉を鳴らす感染者たちの不気味な咆哮。それらの破滅的な環境音は、分厚い壁と扉を隔てていてもなお、室内に潜む者たちの鼓膜と精神をじりじりと削り続けていた。


蓮は、床に伸ばした右足へ鋭く視線を落とした。手に握りしめたサバイバルナイフの黒い鋼刃が、小型LED懐中電灯のわずかな反射光を受けて鈍く光っている。

先ほどの廊下での死闘。蓮はこのナイフを振るい、襲いかかってきた感染者――かつての教師や同級生だった者たちの頭部や首筋を、何度も突き刺し、切り裂いた。その手応えは、作業用革手袋越しの手のひらに、生々しい肉の抵抗と骨の硬い感触としていまも克明に残っていた。


(倒すことはできた。……だが、間合いが近すぎる)


蓮はナイフの短い刃渡りを見つめながら、冷徹に思考を巡らせた。

父が護身用として遺してくれたこのサバイバルナイフは、極めて頑丈で切れ味も鋭い。しかし、刃渡りは15センチ程度だ。腕の長さを加算したところで、相手に致命傷を与えるためには、自分自身が相手の「腕が届く距離」まで危険を冒して踏み込まなければならない。


先ほどの廊下の戦闘では、左腕に巻きつけた国語辞典の防具で牙を受け止め、その1瞬の隙にナイフを突き立てる戦法を取った。結果として無傷で切り抜けることはできたが、それは相手が単独、あるいは散発的に襲いかかってきたからに過ぎない。

もし、2体同時に飛びかかられたらどうなるか。足元を掴まれてバランスを崩したら。あるいは、相手の突進する質量が自分の腕力を上回り、床に押し倒されたら。

感染者には、人間としての痛覚も恐怖心といったリミッターも完全に外れている。骨が折れようが筋肉が断裂しようがお構いなしに、こちらに噛みつくことだけを目的に、死に物狂いで肉薄してくるのだ。そんな怪物に対し、刃渡り15センチのナイフ1本で近接戦を挑み続けるのは、あまりにも危うい綱渡りだった。


――『ナイフは万能だ。だが、過信するな』


不意に、蓮の脳裏へ数年前の夏休みの記憶が鮮烈に蘇った。

蓮がまだ小学校高学年だった頃、父に連れられ、県境にある深く鬱蒼とした山奥へキャンプに入った夜のことだ。

周囲には街灯1つなく、野生動物の気配と虫の音だけが支配する真の暗闇の中、2人は焚き火の赤い炎を静かに囲んで座っていた。父はランタンの灯りの下で、砥石を使い、愛用のサバイバルナイフをシャッ、シャッと規則正しく研ぎ澄ませていた。


『蓮。もしこの森の中で、夜中に野犬の群れや、手負いのイノシシに襲われたら、お前はどうする?』

父は砥石を滑らせる手を止めず、ふと問いかけてきた。

『逃げる。走って車に隠れるよ』

当時の蓮は、ごく自然にそう答えた。しかし、父は鼻を鳴らして短く笑った。

『逃げ切れる距離なら、それが正解だ。だがな、野生動物の初速と脚力は人間の比じゃない。背中を見せて走れば、数秒で追いつかれる。……じゃあ、逃げられない至近距離で鉢合わせたらどうする?』

『……このナイフを貸して。これで戦う』

蓮がそう答えると、父は研ぎ澄まされたナイフを掲げ、その刃先を親指で軽く弾いた。

『バカ言うな。野生動物の反射神経と強烈な噛む力の前じゃ、人間の腕力なんて紙くず同然だ。このナイフで急所を突こうとして相手の懐に入り込んだ時点で、俺たちの負けだ。喉笛か腕を噛みちぎられて終わりだ』

『じゃあ、どうすればいいんだよ。逃げるのもダメ、ナイフもダメなら、殺されるのを待つしかないじゃないか』

不貞腐れたように唇を尖らせる蓮に、父は焚き火の傍らに転がっていた、長さ2メートルほどの太く丈夫な木の枝を拾い上げて見せた。


『周りをよく見ろ。森の中には武器がいくらでも落ちている。この枝の先端をナイフで削って尖らせるか、あるいはナイフそのものを枝の先に頑丈に縛り付けろ』

『槍……?』

『そうだ。人類が食物連鎖の頂点に君臨できたのは、鋭い牙や爪を持っていたからじゃない。「槍」を発明して、自分より強くて速い獣の攻撃範囲の「外」から、安全に致命傷を与える手段を手に入れたからだ。リーチの差は、そのまま命の差になる。相手の牙が届かない距離から、一方的に攻撃する。絶対に近づくな。遠くから突け。それが、人間が獣に勝つための、最も古くて、最も理にかなったサバイバルの鉄則だ』


暗闇の中で焚き火の炎に照らされていた父の横顔と、その言葉の圧倒的な重み。それらが今、極限状態にある蓮の境遇と寸分の狂いもなく重なり合った。


(そうだ……父さんの言う通りだ)


蓮は、暗闇の中でハッと目を見開いた。

相手は、1度でも噛まれたら終わりという絶対的な感染リスクを持った狂犬の群れと同じだ。接近戦はあまりにも危険すぎる。いま必要なのは、感染者の手や牙が届かない安全な距離から、相手の急所を的確に破壊できる「リーチの長い武器」――すなわち、槍だった。


「……健太、葵」

蓮は床に腰を下ろしていた2人へ向けて低く呼びかけ、静かに立ち上がった。

「どうした、日高? もう行く時間か?」

健太が、先ほど手に入れた鉄パイプを杖代わりにして身を起こす。


「いや、まだ時間はある。……武器を作る」

「武器? 俺にはこの鉄パイプがあるし、お前にはナイフがあるだろ」

「ナイフじゃリーチが短すぎる。もし廊下で複数の感染者に同時に囲まれた時、接近して切り結ぶのはリスクが高すぎるんだ。……葵も、先ほど本棟から逃げるパニックの中でハサミを落としただろ。身を守るための、間合いを取れる突刺武器が必要だ」


蓮の的確な指摘に、葵も真剣な面持ちで頷き、立ち上がった。

「槍……。でも、どうやって作るの?」

「ここは理科室だ。素材はいくらでもある」

今回の続きは、19:10の投稿になります。お楽しみに!ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


面白かった、続きが気になると思っていただけたら、執筆を続ける大きな励みになります。


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これからも『残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―』をよろしくお願いいたします!

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