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残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―  作者: solune
プロローグ:日常の終わり

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第4話:父からの電話【2/3】

おかげさまで、月間ホラー〔文芸〕と[週間]ホラー〔文芸〕のランキングにランクインしました!

読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます!

三人は、通学路の途中にある大きな交差点に差し掛かった。ここから、葵は駅前の方角へ、蓮と健太は坂を登って住宅街の方角へと道が分かれる。

「じゃあ、私はここで。二人とも、気をつけて帰ってね」

葵が立ち止まり、ペコリとお辞儀をした。

「おう! また明日な、水島さん!」

「また明日。寄り道しないで帰れよ」

蓮が声をかけると、葵は「ふふっ、日高くんもお母さんみたい」と笑い、駅の方へと歩き出していった。

夕日に照らされた彼女の華奢な背中が、人混みの中に紛れて見えなくなるまで、蓮はその場にたたずんで見送っていた。


「……おいおい、見えなくなるまでお見送りか? 愛が深いねえ」

健太が横から肘で小突いてくる。

「バカ言え。ただ見送っただけだ」

「はいはい、そういうことにしといてやるよ。でもさ、お前、最近ちょっと変わったよな」

健太の言葉に、蓮は眉をひそめた。

「変わったって、何が?」

「なんかさ、前みたいに『面倒くさい』とか『どうでもいい』って言う回数が減った気がする。水島さんのことになると、やけに男前になるっていうかさ。さっき俺が怒られた時も、マジで怖かったぜ」

健太はニシシと笑って、歩き出した。

蓮はその言葉にハッとした。

確かに、自分でも無意識のうちに、葵を守ろうとする言動が増えている。事なかれ主義で、他人の問題には深く干渉しないと決めていたはずなのに、彼女が怯えている顔を見ると、放っておけなくなるのだ。


(……俺、そんなにわかりやすいのか)

蓮は少しだけ赤くなった顔を夕日のせいにしながら、健太の後を追って坂道を登り始めた。


「じゃあな蓮! 明日、一限目の数学の宿題写させてくれよ!」

住宅街の中腹で、健太とも別れた。

「自分でやれ! また明日な!」

蓮は手を振り、一人でさらに坂を登っていく。


健太と別れ、一人きりになると、急に周囲の音が耳につくようになった。

電線に止まったカラスが、不吉な鳴き声を上げて夕空へと飛び立っていく。どこかの家で飼われている犬が、何かを威嚇するように激しく吠え続けている。

そして、遠くのバイパス道路の方から、かすかに、しかし途切れることなく聞こえてくるサイレンの音。

『ウゥゥゥゥゥゥゥ……』

風に乗って運ばれてくるその音は、まるで街そのものが悲鳴を上げているように聞こえた。


蓮は足取りを速めた。

見慣れた住宅街の風景。ブロック塀、表札、停められた車。すべてがいつもと同じはずなのに、まるで薄いフィルムを一枚隔てた向こう側にいるような、奇妙な違和感があった。

ふと、前方から猛スピードでパトカーが走ってきた。赤色灯を激しく回転させ、サイレンを鳴らしながら、蓮の横を風のように通り過ぎていく。パトカーに乗っていた警察官の顔が、一瞬だけ見えた。

その顔は、焦燥と恐怖で引き攣っていた。


(……なんだ?)

ただの交通事故に向かうパトカーの雰囲気ではなかった。まるで、とてつもない脅威から逃げているか、あるいは戦場に向かっていくかのような、悲壮な覚悟が漂っていた。

蓮の胸の奥で、再び冷たい警鐘が鳴り響く。


(ネットの噂……病院での事件……暴動……)

点と点が、嫌な形で線になろうとしている。

もし、健太が言っていた「病院で患者が噛みついた」という話がデマではなく、事実だとしたら。

東欧で起きた暴動と、同じような狂気が、この日本でも、この彩葉市でも発生しているのだとしたら。


「……まさかな」

蓮は立ち止まり、首を強く振った。

そんな映画みたいなことが起きるはずがない。ここは日本だ。警察も自衛隊も機能している。何かあれば、すぐに鎮圧されるはずだ。

そう自分に言い聞かせ、再び歩き出そうとした瞬間。


『ブゥー、ブゥー、ブゥー』


ズボンのポケットの中で、スマートフォンが激しく振動した。

マナーモードのバイブレーションが、静かな住宅街の道に奇妙に響く。

蓮はビクッと肩を跳ねさせ、ポケットからスマートフォンを取り出した。画面には、『着信 父さん』の文字が表示されている。


「……親父?」

蓮は眉をひそめた。

単身赴任中の父・哲也は、週末には帰ってくるものの、平日に電話をかけてくることは滅多にない。しかも、今は月曜日の午後五時半。普通ならまだ仕事をしている時間帯のはずだ。

何か急用だろうか。

蓮は立ち止まり、通話ボタンをスワイプして耳に当てた。


「もしもし、親父? どうしたの、こんな時間に」

電話の向こうからは、少しの沈黙があった。

そして。

『……蓮か。今、どこにいる?』

聞こえてきた父の声は、普段の落ち着いたそれとは全く異なっていた。ひどく低く、押し殺したような、そして微かに震えているような声。まるで、背後にいる何かに聞かれないように息を潜めて話しているかのような、切迫したトーンだった。


「どこって、学校の帰りだよ。もうすぐ家に着くところだけど……親父、どうしたの? 声、変だぞ」

蓮の問いかけに対し、哲也は質問には答えず、唐突に、しかし極めて真剣な声でこう言った。

『いいか、蓮。よく聞け。家に帰ったら、すぐに【非常用持ち出し袋】の場所を確認しておけ。それから、俺の書斎にある鍵のかかったキャビネットを開けろ。鍵はデスクの一番下の引き出しの裏にテープで貼り付けてある。その中に、キャンプ用のサバイバルナイフと、強力なマグライトが入っている。それを出して、すぐに使えるように準備しておけ』

「……は?」

蓮は、自分の耳を疑った。

突然何を言い出すのか。非常用持ち出し袋? ナイフ?

「親父、何言ってんだよ。地震でも来るってのか? 防災訓練の話なら、帰ってから母さんに――」

『訓練じゃない!!』

哲也の鋭い怒声が、スマートフォンから弾けた。

蓮は思わず耳から端末を離しかけた。今まで、父からこんな大声で怒鳴られたことは一度もなかった。

『いいから、俺の言う通りにしろ。母さんと結衣には、絶対に家の外に出るなと伝えろ。鍵とチェーンを全部かけて、窓のシャッターも下ろせ。誰が来ても、絶対に開けるな』

「親父……だから、何が起きてるんだよ! 説明してくれよ!」

蓮が必死に食い下がると、電話の向こうで、ガチャッという何かの重い金属音が聞こえた。

『説明している時間はない。蓮、お前はもう高校生だ。状況を見て、自分で判断しろ。街が……狂い始めてる。いいか、もし俺が帰れなくても――』

「帰れないって、どういう意味だよ!」

『――お前が、家族を守るんだ。躊躇するな。生き延びろ』


ブツッ。

一方的に通話が切れ、無機質なツー、ツー、という電子音だけが虚しく響き始めた。

「おい、親父! 親父!!」

蓮はスマートフォンに向かって叫んだが、当然返事はない。すぐにリダイヤルするが、『電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため――』という冷たいアナウンスが流れるだけだった。


蓮はスマートフォンを持ったまま、夕暮れの坂道で立ち尽くした。

秋の生ぬるい風が、制服のシャツを抜けていく。

父の最後の言葉が、脳内で何度もリフレインしていた。


(親父、あんな声出すなんて……よっぽどのことだ。ただのデマや暴動じゃない)


蓮の視線の先、坂を登り切った向こう側にある彩葉市の市街地から、一本の黒い煙が立ち上り始めているのが見えた。遠くのバイパス道路から聞こえていたサイレンの音は、いつの間にか数と音量を増し、街全体を飲み込む巨大な大合唱へと変わっていた。

今回の続きは、19:10の投稿になります。お楽しみに!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

面白かった、続きが気になると思っていただけたら、執筆を続ける大きな励みになります。


ぜひ「★評価」と「ブックマーク」で応援してください!


これからも『残響サバイバーズ ―僕らの最後の青春―』をよろしくお願いいたします!

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