46.
⭐︎46.
『Love Archive』終了から数週間。
弓弦自身も気づいていなかった。
ある”異変”が起きていたことに。
◇◇◇
「はい、本番五秒前!」
「四!」
「三!」
「二!」
「一!」
歓声がスタジオを揺らす。
「きゃああああああ!!」
「弓弦ーーー!!」
「宗真ーー!!」
「晃一ーー!!」
「晋也ーー!!」
スポットライトが照らす。
中央へ立つのは。
Asterism。
アステリア・プロダクションが誇る、国内トップ男性アイドルグループ。
センター。
御影弓弦。
金髪。
整ったハーフのような顔立ち。
王子様そのもののビジュアル。
そして。
ステージに立てば。
完全に別人だった。
妖しく笑う。
マイクをくるりと回し。
片手でネクタイを緩める。
カメラへ流し目。
「……。」
黄色い悲鳴が爆発する。
「きゃーーーーーー!!」
「弓弦ぅぅぅ!!」
「王子ーー!!」
圧倒的。
色気。
カリスマ。
王様のようなオーラ。
恋愛リアリティーショーで、あれだけ恋する青年になっても。
ステージへ立てば。
いつもの御影弓弦だった。
◇◇◇
ライブ終了。
MC席へ移動する。
「Asterismのみなさんでしたー!」
拍手。
司会者が笑顔で迎える。
「いやぁ、格好良かったですね!」
「ありがとうございます。」
いつものように神崎が代表して頭を下げる。
トークが始まる。
新曲。
ツアー。
撮影裏話。
順調に進んでいた。
すると。
女性MCがにやりと笑った。
「でも。」
「今日は聞かないといけませんよね?」
弓弦は嫌な予感しかしない。
「……。」
「御影さん。」
「はい。」
「最近。」
「ほたるさんとはどうですか?」
「…………。」
一瞬。
時間が止まる。
客席。
「きゃーーーーーー!!」
「きたぁぁぁ!!」
「聞いて!!」
弓弦の耳まで赤くなる。
「えっと……。」
「えっと?」
「その……。」
「仲良く……。」
もごもご。
さっきまで王子様だった男が。
急にしどろもどろになった。
「かわいい。」
女性MCが思わず呟く。
男性MCも笑っている。
「いやいや!」
「さっきまであんな色気振り撒いてた人ですよ?」
「急に高校生みたいになりましたけど!」
客席。
「かわいいーー!!」
「照れてる!!」
「赤いーー!!」
弓弦は顔を覆った。
「勘弁してください……。」
「連絡は?」
「……してます。」
「デートは?」
「…………。」
「した?」
「……しました。」
「きゃーーーーーー!!」
スタジオが揺れる。
水城はもう笑いを堪えきれていない。
「やばい。」
「弓弦さん。」
「可愛い。」
黒瀬まで肩を震わせる。
「キャラ崩壊してる。」
神崎だけが静かにため息をついた。
「こうなると思った。」
女性MCはさらに攻める。
「どちらから誘うんですか?」
「俺……です。」
「断られません?」
「断られます。」
「え?」
「忙しいので……。」
「でも。」
少しだけ笑う。
「来てくれる時もあるので。」
その笑顔が。
あまりにも幸せそうで。
客席が静かになる。
「……。」
「……。」
「かわ。」
誰かが呟いた。
「え。」
「何この顔。」
「かわいい。」
「恋してる。」
「本当に好きなんだ。」
SNS担当スタッフが慌てて画面を見る。
『#弓弦かわいい』
『#恋する王子』
『#ギャップ』
『#守りたい』
あっという間にトレンド入りした。
◇◇◇
番組終了後。
楽屋。
弓弦はソファへ倒れ込む。
「終わった……。」
「何が。」
水城が腹を抱えて笑う。
「全部。」
「王子キャラ。」
「終わった。」
「いや。」
黒瀬がスマホを見せる。
「終わってない。」
「むしろ始まった。」
「え?」
画面にはニュース。
『王子様が恋するとこうなる』
『御影弓弦、恋愛トークで照れ顔連発』
『ギャップに沼るファン続出』
コメント欄。
『今日初めてAsterism見た。』
『格好いい人かと思ったら可愛すぎた。』
『ギャップやばい。』
『好きになった。』
『推します。』
『恋してる弓弦最高。』
「……。」
さらに。
「ファンクラブ。」
神崎が数字を見せる。
「昨日比。」
「三万七千人増。」
「……え?」
「女性だけじゃない。」
「男性も増えてる。」
「恋する男、応援したくなる。」
「そんな声が多いな。」
水城が吹き出した。
「ほたるちゃんと付き合って。」
「人気まで上がるって。」
「どういうこと?」
「分からん。」
黒瀬が笑う。
「でも。」
「前まではさ。」
「近寄りがたい王子様だったじゃん。」
「今は。」
「ちゃんと恋する人間だって分かった。」
神崎が頷く。
「親近感が出た。」
「それでいて。」
「ステージでは王子。」
「理想的なギャップだ。」
弓弦はまだ理解できていない。
「……俺。」
「何もしてないけど。」
「恋した。」
水城が即答する。
「それ。」
「一番強い。」
四人の笑い声が、楽屋いっぱいに響いた。
その頃、SNSでは。
新しい呼び名が生まれていた。
――恋する王子。
それは御影弓弦というアイドルに、新しく与えられた、もう一つの愛称だった。




