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Love Archive
最終話 ―告白の夜
最終日。
島で過ごす最後の夜。
昼間まで賑やかだった空気は嘘のように静まり返り、波の音だけが静かに砂浜へと寄せては返していた。
海には満天の星。
浜辺には番組スタッフが設営した照明が柔らかく灯り、幻想的な景色を作り出している。
十二人のキャストが一列に並ぶ。
その少し離れた場所には、それぞれのマネージャーや事務所関係者。
この一か月、彼らを支えてきたスタッフたちも息を呑みながら見守っていた。
そして。
東京から駆け付けた番組MCが中央へ立つ。
「皆さん、一か月間、本当にお疲れさまでした!」
大きな拍手。
「本日、最後のイベントです。」
「Love Archive――告白タイム。」
空気が、一変する。
「男性キャストから、想いを伝えたい女性へ。」
「返事は、その場でお願いします。」
緊張。
笑っていた出演者たちの表情が、一斉に引き締まる。
ここが、この番組最大の見せ場だった。
全国が、配信を見ている。
リアルタイムコメントは過去最高。
SNSのトレンドも、番組関連で埋め尽くされていた。
MCがカードを見る。
「最初は――水城さん。」
宗真が苦笑しながら前へ出る。
「うわ、トップかぁ。」
場が少し和む。
宗真は照れくさそうに頭をかきながら、ひまりの前へ立った。
「最初は友達って感じだったけどさ。」
「一緒に笑ってる時間が一番楽しかった。」
「俺は、ひまりが好きです。」
「付き合ってください。」
真っ直ぐな告白。
ひまりは目を潤ませながら笑った。
「ありがとう。」
「すごく嬉しい。」
一度、深呼吸する。
「でも……ごめんなさい。」
「私は恋愛というより、大切な友達のままでいたい。」
宗真は数秒だけ固まり、
「……そっか。」
と笑った。
「ありがとう。」
最後まで笑顔だった。
拍手が起こる。
「宗真らしい!」
「かっこよかった!」
女性陣も涙ぐみながら拍手を送る。
宗真は照れ隠しに笑いながら元の場所へ戻った。
「振られたー!」
「いやぁ、きつい!」
その明るさに、全員が笑う。
番組らしい空気だった。
MCも笑う。
「ありがとうございました。」
「続いて――櫻井さん。」
櫻井がゆっくり歩き出す。
向かう先はMASHIRO。
二人の仲は後半急速に進展した。
デートを重ね、この島でも一番自然な距離感を築いていた。
「俺は。」
「いつの間にかに君ばかり見てた。」
「一緒にいる時間が当たり前になって。」
「島を出ても、その続きを一緒に過ごしたい。」
深く息を吸う。
「好きです。」
「付き合ってください。」
MASHIROは、少し泣いていた。
何度も頷きながら、
「……はい。」
小さく返事をする。
「よろしくお願いします。」
歓声が上がる。
女性陣が悲鳴を上げる。
「きゃーー!!」
「おめでとう!!」
二人は照れながら笑い合う。
スタッフも拍手。
ディレクターはガッツポーズ。
「これだよ!」
「恋リアはこれ!」
現場は一気に熱気に包まれた。
番組としても最高の流れ。
そして。
MCが最後のカードを見る。
静かに微笑んだ。
「最後は――御影弓弦さん。」
一瞬。
空気が止まった。
視線が、一斉に弓弦へ集まる。
弓弦はゆっくり息を吸う。
隣では神崎が何も言わない。
ただ、小さく肩を叩いた。
――やりたいようにやれ。
昨日言われた言葉が蘇る。
弓弦は歩き出す。
一歩。
また一歩。
向かう先は、決まっていた。
ほたる。
白いワンピースを着たほたるは、静かに弓弦を見つめていた。
その顔を見ただけで。
胸が締め付けられる。
この一か月。
一緒に笑って。
一緒に泣いて。
一緒に景色を見て。
恋人みたいな時間を過ごした。
ただのファンだった頃から思えば、
全部が、夢ような日々。
弓弦は立ち止まる。
少し笑ってしまう。
「……俺さ。」
「最初、この番組、恋愛する気なんて全然なかった。」
出演者たちが微笑む。
「でも。」
「気付いたら。」
「朝起きて最初に探すのも。」
「綺麗な景色を見せたいと思うのも。」
「一番に笑ってほしいと思うのも。」
「全部、ほたるだった。」
ほたるは黙って聞いている。
「番組が終わっても。」
「俺は。」
「君の隣にいたい。」
真っ直ぐ見つめる。
「好きです。」
「付き合ってください。」
静寂。
波の音だけが聞こえる。
誰も息をしない。
スタッフも。
出演者も。
マネージャーも。
全員が返事を待っていた。
阿久津は腕を組んだまま、険しい顔で見ている。
――やっぱり言ったか。
そんな顔だった。
その視線から、圧すら感じる。
弓弦も分かっていた。
答えなんて。
最初から決まっている。
トップアイドル同士。
付き合えるわけがない。
ほたるは、自分のことなんて。
なんとも思っていない。
振られる。
そう思っていた。
案の定。
ほたるは困ったように笑った。
「……。」
その笑顔を見て。
ああ。
終わった。
弓弦はそう思った。
しかし。
次の瞬間だった。
ほたるの視線が、ふと後ろへ向く。
「……?」
一瞬だけ。
目を見開く。
驚いた顔。
弓弦からも見える位置。
その視線の先。
高い位置からプロデューサーたちが見下ろしいる。
その中に、一人だけ異様な存在感を放つ男がいた。
篠宮誘人。
ほたるの所属事務所社長。
芸能界でも知らぬ者はいない敏腕プロデューサー。
柔らかな笑みを浮かべ、優しそうに立っている。
現場スタッフですら、どこか緊張している。
その篠宮が。
誰にも気付かれないほど自然に。
左手を少しだけ上げていた。
親指と人差し指で、小さな丸を作る。
――OK。
ほんの数秒。
本当に一瞬の合図。
弓弦も思わず目を見開いた。
(……は?)
理解が追いつかない。
ほたるも驚いたように瞬きを繰り返す。
それから。
小さく、小さく息を吸った。
ぎこちない笑み。
照れたように笑って。
弓弦を見上げた。
『……よろしく、お願いします。』
一瞬。
世界が止まった。
「……え。」
弓弦の思考が完全に停止する。
「……え?」
周囲も同じだった。
誰一人、予想していなかった。
MCすら固まる。
数秒の沈黙。
そして。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
浜辺が爆発した。
「嘘でしょ!?!」
「OK!?!?」
「成立した!!」
「うわああああ!!」
出演者全員が立ち上がる。
宗真が頭を抱える。
「いやいやいやいや!」
「マジかよ!!」
黒瀬は口を開けたまま固まる。
「え、待って。」
「付き合うの?」
神崎だけは苦笑していた。
「……まじか。」
弓弦は、まだ理解できていない。
本当に。
本当にOK?
夢じゃない?
そんな顔で、ほたるを見つめる。
ほたるは恥ずかしそうに笑って、小さく頷いた。
その笑顔があまりにも綺麗で。
弓弦は、もうそれ以上何も考えられなかった。
ただ。
今は。
目の前の笑顔だけを見つめていた。
スタッフは大歓声。
ディレクターは頭を抱えて叫ぶ。
「やったぁぁぁ!!」
「伝説だ!!」
「最高視聴率更新だ!!」
誰もが確信していた。
この瞬間は、恋愛リアリティーショー史に残る名シーンになると。
波の音。
星空。
祝福の拍手。
笑顔と涙に包まれながら――。
Love Archive、最高のフィナーレは幕を閉じた。




