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37.



⭐︎37.





 スタジオ撮影後。


 その日夜。


 夕食と入浴を終えた十二人は、リビングへ集められていた。


 大きなソファ。


 テーブルにはジュースやお菓子が並び、どこか修学旅行の夜のような空気が流れている。






 スタッフが一歩前へ出た。


「皆さん、お疲れ様でした。」


「今日は特別に、番組用に編集したVTRを一足先にご覧いただきます。」


「放送前なので、もちろん外部への口外は禁止です。」


 





 出演者たちから歓声が上がる。


「えー!?」


「もう見られるんですか!」


「楽しみ!」




 スタッフが笑う。


「恋愛リアリティーショーですので……。」


「多少、編集も入っています。」




 その一言に、一同は「まぁ、そうだよね」と笑い合った。




 部屋の照明が落ちる。


 大型モニターに映像が映し出された。





 ――Love Archive。


 壮大な音楽。


 南の島の空撮。


 そして、島へ降り立つ十二人。




「おぉ……。」


「映画みたい。」



 一ノ瀬が素直に感動する。


 しかし。


 数分後。


 自分が盛大に迷子になっている映像が流れた。


「たぶん、こっちですよね。」


 テロップ。


 ――違います。


 さらに。


 ――一ノ瀬、島到着三分で迷子。





 リビングが爆笑に包まれた。


「編集ぅぅぅ!!」


 水城が叫ぶ。




 一ノ瀬がソファを叩く。


「そんなテロップある!?」



 黒瀬が涙を浮かべながら笑う。


「いや、おもしろすぎる。」



 水城は腹を抱えていた。


「これはずるい!」



 神崎だけは静かに頷く。


「事実だ。」


「神崎さんまで!」






 さらに笑いが起きる。


 映像はテンポよく進んでいく。




 各ペアのサバイバル。


 宗真が注意される場面。


 黒瀬がさりげなく女性を助ける場面。




 ほたると伯耆が森の中を歩く場面。


 ほたるが鼻歌を歌い始めると、リビングまで静かになった。




「……すごい。」


 誰かが思わず呟く。





 画面の中のほたるは、昼間よりずっと幻想的だった。


 本人は少し照れくさそうに笑う。




『編集ですよ。』


「いや、そんなことない。」


 伯耆が即答する。



「普通にCDみたいだった。」


 ほたるは困ったように笑った。


『ありがとう。』




 そして。


 問題のシーンがやってきた。


 山頂近く。


 崖。


 足を滑らせるほたる。


 弓弦が叫ぶ。


 画面がスローになる。


 壮大なBGM。





 飛び出す弓弦。


 ほたるを抱き締める。


 土煙。




 そして。


 抱き上げる。


「黙って、抱かれてろ。」


「拒否権はない。」


 ――なーんて。





 映像が終わる。


 一瞬の静寂。


 そして。





「いや編集!!」


 水城が立ち上がった。


 


「盛りすぎ!」


 全員が吹き出す。





「いやいやいや!」


「違う違う!」





 黒瀬まで笑いながら首を振る。


「確かに助けたよ?」


「でも!」


「こんな一直線じゃなかった!」





 神崎も珍しく苦笑している。


「落ちてからだ。」


「弓弦は落下を見て走った。」


「飛び込むまでに数秒はある。」


「編集で全部繋げてるな。」


「そうそう!」


 宗真が勢いよく頷く。




「あと捻挫!」


「弓弦、あんなすぐ気付いてない!」




 弓弦も苦笑した。


「いや……。」


「あの時、大丈夫か皆んなで確認して。」


「歩き始めてから、足庇ってるの見つけたんだよ。」




 伯耆も笑う。


「そうそう。」


「スタッフさんもいたし。」


「気付いたの、もうちょっと後。」





 ほたるも映像と現実の違いに笑ってしまう。


『編集の力すごい……。』


「完全にドラマだった。」




 黒瀬が笑う。


「俺らも現場いたけど。」


「こんな王子様だったっけ?」




 水城が頷く。


「完全に脚色されてる!」





 すると。


 スタッフが申し訳なさそうに笑った。


「恋愛リアリティーショーですので。」


「多少の演出は……。」


「多少!?」




 一同が揃ってツッコむ。


 リビングが笑いに包まれる。





 しかし。


 映像はまだ終わらない。


 続いて流れたのは。





 ドラマ『花の幻影』。


「おぉ!」


「ここで繋げるんだ!」

 




 同じ局だった。


 弓弦とほたるの名シーン。


 夜の支配者と遊女になった密偵。





 そして。


 未公開映像。


 美月が静かに弓弦へ話しかける。




「御影さんって。」


『ほたるちゃんに詳しいですよね。」






 弓弦が顔をしかめる。


「あ。」





 水城が笑い始めた。


「来た。」




 黒瀬はもう肩を震わせている。


 神崎だけは静かにコーヒーを飲んでいた。





 画面の中では。


 美月が一つずつ証拠を積み重ねていく。


 好きなパン。


 好きな花。


 カップリング曲。


 ライブMC。


 デビュー当時の話。


 弓弦の顔がどんどん引きつっていく。

     





 そして。


「もしかして。」


「ファンだったりします?」




 数秒の沈黙。


 画面の中の弓弦が、小さく笑う。



「……はい。」


 その瞬間。


 リビングでも爆笑が起きた。





「認めた!」


「言っちゃった!」




 水城が涙を拭く。


「編集関係なく認めてるじゃん!」


「そこは本当だからな。」


 黒瀬が肩を叩く。




 弓弦は顔を覆った。



「あー……。」


「終わった。」





 画面ではさらに。


 宗真。


 黒瀬。


 神崎。


 三人の暴露大会。




「ライブ全部。」


「ファンクラブ。」


「グッズ。」


「配信。」


「サイン会。」





 暴露されるたびに。


 リビングの弓弦が小さくなっていく。  



「晋也……。」


「全部言う?」





 神崎は涼しい顔だった。


「事実しか言っていない。」


「だから困る。」





 また笑いが起きる。


 そして。


 モニターには、最後の一言。


『……ありがとう。』


 ほたるだった。





 画面越しの自分が、少し照れながら笑っている。

 


 リビングでも、ほたるは同じように笑った。


『嬉しかった。』



 その一言だけ。


 茶化すでもなく。


 照れるでもなく。


 本当に嬉しそうに。   





 弓弦は少し驚いたように彼女を見る。


「……。」





 ほたるはにこりと笑う。


『ファンって言ってもらえるの、すごく嬉しいから。』


『ありがとう。』




 リビングが少しだけ静かになった。




 水城が小さく笑う。


「よかったじゃん。」




 黒瀬も頷く。


「推し公認。」




 弓弦は耳まで赤くしながら、小さく頭を掻いた。


「……どういたしまして。」





 照れ隠しのような返事。


 それだけで、また笑いが起きる。




 スタッフが拍手した。


「以上で、本日の上映会は終了です。」


「皆さん、お疲れ様でした。」





 照明が明るくなる。


 出演者たちは立ち上がり、それぞれ伸びをする。


「じゃあ、おやすみ。」


「おやすみー。」


「また明日。」





 自然と部屋へ戻っていくメンバーたち。


 その後ろ姿を見送りながら、美月はふっと笑った。


「……やっぱり。」


 小さく呟く。


「面白い人。」



 その視線の先には、照れくさそうにほたると言葉を交わす弓弦の姿があった。



 この2人の。



 恋は、始まっているのだろうか。


 それは当事者にしかわからない。

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