28.
⭐︎28.
◇ ◇ ◇
――東京。
スタジオ。
モニターには、ナイトプールデートを終えた二人の映像が流れていた。
月明かり。
青く光るプール。
楽しそうに笑うほたる。
その隣で、終始優しい表情を浮かべる一ノ瀬葵。
VTRが終わる。
「……いやぁ。」
MCの高木が、開口一番、大きく頷いた。
「これは。」
「もう。」
「一ノ瀬くん。」
「好きじゃん。」
スタジオが笑いに包まれる。
「あははは!」
藤咲奈々も思わず笑ってしまう。
「分かりやすかったですねぇ。」
「最初の料理からそうでしたけど。」
「もう目が違いました。」
恋愛心理学者・城戸も静かに頷く。
「ええ。」
「人は興味のある相手を見る時間が長くなります。」
「今日の一ノ瀬さん。」
「ほたるさんを見ている時間が圧倒的でした。」
「料理中も。」
「プールでも。」
「会話していない時間ですら見ていました。」
「怖いくらい。」
高木が笑う。
「いや、怖くはない!」
「恋ですね!」
「完全に恋!」
「これは。」
「一ノ瀬くん、もう持ってかれてる。」
「私もそう思います。」
藤咲も笑顔で頷いた。
「最初は『話してみたい』くらいだったのに。」
「今日は。」
「完全に表情が違いました。」
「うん。」
高木が腕を組む。
「もう仕事じゃない。」
「一人の男になってた。」
スタジオから拍手が起こる。
「一方。」
城戸が画面を見ながら微笑む。
「こちら。」
デート後インタビュー。
モニターに、ほたるが映る。
『楽しかったです!』
『プールも綺麗でした!』
『星がすごかったです!』
『また入りたいです!』
数秒の沈黙。
「あはははは!」
スタジオ大爆笑。
「そこ!?」
高木が机を叩く。
「デートじゃなくて!」
「プール!」
「星!」
「景色!」
藤咲も笑い涙を拭く。
「安定ですねぇ。」
「天然。」
「本当に天然。」
「一ノ瀬さんのことは?」
高木が笑いながら続きを読む。
『優しかったです。』
『料理のお手伝いも頑張ってくれました。』
「料理のお手伝い!」
「そこ!」
「そこ評価なんだ!」
「恋愛ゼロ!」
スタジオは再び笑いに包まれる。
城戸も苦笑していた。
「現時点では。」
「ほたるさんに恋愛感情は見られません。」
「純粋に。」
「今日一日が楽しかった。」
「それだけですね。」
「でも。」
藤咲がにこっと笑う。
「こういう子ほど。」
「恋に落ちた時、急に変わるんですよね。」
「それ見たい!」
高木が身を乗り出す。
「見たい!」
「お願いします!」
スタジオは大盛り上がりだった。
◇ ◇ ◇
一方。
島のシェアハウス。
ナイトプールから帰ってくる二人を、リビングで待っていたメンバーが迎える。
「おかえりー!」
「どうだった?」
「寒くなかった?」
「綺麗だった?」
質問攻め。
ほたるは嬉しそうに笑う。
『すごかった!』
『プールが綺麗で。』
『星もいっぱいで。』
『すっごく楽しかった!』
「よかったねぇ。」
あやめが微笑む。
その横で。
ひまりが、こっそり莉子へ耳打ちする。
「……ねぇ。」
「うん。」
「あれ。」
「決まりじゃない?」
莉子も小さく頷いた。
「だよね。」
「お似合い。」
「第一印象からずっとだし。」
「料理も一緒。」
「デートも一緒。」
「完全にこのペアじゃない?」
美月も静かに笑う。
「自然だったもの。」
MASHIROもこくん、と頷く。
「優しい空気でした。」
女性陣の中では。
もう。
一ノ瀬とほたる。
その組み合わせが、ごく自然なものとして受け入れられ始めていた。
◇ ◇ ◇
一方。
男性陣。
「どうだった?」
黒瀬が笑いながら聞く。
「楽しかったよ。」
一ノ瀬は照れたように笑う。
「いい時間だった。」
「へぇ〜。」
水城が意味深な顔をする。
「顔が違うなぁ。」
「そんな?」
「違う違う。」
「今日一番笑ってる。」
「そうか?」
「そうですよ。」
神崎まで静かに頷く。
一ノ瀬は照れ臭そうに頭を掻いた。
「……まぁ。」
「また話したいかな。」
その一言に。
「おぉ〜。」
黒瀬がにやりと笑う。
「いいですねぇ。」
そんな空気の中。
ずっと静かだった櫻井伯耆が、不意に口を開いた。
「僕も。」
全員が振り向く。
「もう少し。」
「ほたるちゃんと話してみたいな。」
「……。」
「……。」
「……。」
一瞬。
部屋の空気が止まる。
水城がゆっくりと目を見開いた。
「……え?」
黒瀬も固まる。
「伯耆さん?」
神崎は静かにコーヒーを置いた。
そして。
弓弦だけが。
「…………。」
笑顔のまま、ぴたりと動きを止めていた。
◇ ◇ ◇
――東京・スタジオ。
番組は本編へ入る……はずだった。
しかし。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
スタッフが慌ただしくスタジオへ駆け込んでくる。
高木が振り返る。
「どうした?」
「いま、島で追加インタビューが届きました!」
「追加?」
「はい!」
「櫻井さんです!」
「え?」
急遽、モニターが切り替わる。
画面には、収録後の櫻井伯耆。
夜風に当たりながら、一人でインタビューを受けていた。
『僕も、もう少しほたるちゃんと話してみたいな。』
『今日見ていて。』
『料理している姿も。』
『笑っている姿も。』
『すごく素敵な子だなって思いました。』
『これから仲良くなれたら嬉しいです。』
VTR終了。
スタジオが静まり返る。
一秒。
二秒。
「……え?」
高木が口をぽかんと開ける。
「増えた。」
藤咲が吹き出した。
「増えましたね。」
「ライバル。」
城戸も静かに笑う。
「これは面白くなりました。」
「いやいや!」
高木が立ち上がる。
「一ノ瀬くん!」
「安心してる場合じゃない!」
「もう一人きた!」
「あははは!」
藤咲も笑いが止まらない。
「しかも伯耆さん。」
「すごく落ち着いた方だから。」
「急に来ると強いですよね。」
「そうなんですよ。」
城戸が頷く。
「感情をあまり表に出さないタイプほど。」
「一度興味を持つと、一気に距離を縮める傾向があります。」
「えー!」
「一ノ瀬くん!」
「のんびりしてられない!」
スタジオは大盛り上がり。
すると。
またスタッフが小走りでやってきた。
「プロデューサー!」
「今度は何?」
「番組公式SNSが……。」
「どうした?」
「めちゃくちゃ荒れてます!」
「えぇ!?」
スタジオに笑いが起きる。
スタッフがタブレットを差し出す。
画面にはリアルタイムで流れるコメント。
「一ノ瀬くん頑張れ!!」
「伯耆さん参戦!?」
「え、三角関係くる?」
「ほたるちゃんモテすぎ!」
「もう一ノ瀬派です!」
「いや伯耆派!」
「ほたるちゃん可愛すぎる!」
高木が笑う。
「おぉー!」
「盛り上がってる!」
「すごいな!」
藤咲がスクロールする。
「あ、まだある。」
「アステリズム頑張れー!」
「恋してー!」
「弓弦くん動いて!」
「神崎さん仕事やめて恋して!」
「水城くんフリーすぎる!」
「黒瀬くん応援してる!」
高木が腹を抱えて笑う。
「あははは!」
「恋してー!って!」
「ファンが言う!?」
「アイドル相手に!」
藤咲も笑いが止まらない。
「普段なら。」
「『恋愛しないで!』ですよね?」
「そう!」
高木が頷く。
「なのに!」
「恋してーーー!!」
スタジオは爆笑。
城戸も珍しく口元を緩めた。
「興味深いですね。」
「Asterismは、普段から共演者との距離感が自然なので。」
「視聴者も。」
「恋愛リアリティーショーでは、一人の男性として恋をしてほしい。」
「そう期待しているのかもしれません。」
「なるほど。」
高木が大きく頷く。
「つまり。」
「恋愛しろー!」
「でも失恋するなー!」
「でも幸せになれー!」
「ってこと?」
「ファンって難しい!」
スタジオ中が笑いに包まれる。
藤咲がモニターへ視線を向ける。
「まだ始まって二日目です。」
「それなのに。」
「もう矢印が増え始めました。」
「そして。」
城戸が静かに締めくくる。
「一番本人が、そのことに気付いていないのは。」
画面には。
星空を見上げて笑う、ほたる。
「彼女でしょうね。」
その天然な笑顔に。
スタジオはまた、優しい笑いに包まれた。




