24.
⭐︎24.
一方、その頃。
二階の廊下を挟んだ反対側。
男性メンバーの部屋では。
「おぉー!」
水城宗真が部屋へ入った瞬間、両手を広げた。
「広っ!」
「ソファふかふか!」
「これ一か月快適じゃん!」
荷物を放り投げるようにベッドへ飛び込む。
ぼすん、とクッションが沈んだ。
「最高!」
「子どもか。」
神崎晋也が呆れながらスーツケースを開ける。
隣では黒瀬晃一も部屋を見回していた。
「景色やば。」
「朝ここでコーヒー飲みたい。」
「似合わねぇな。」
「神崎さん、失礼。」
笑い声が上がる。
その空気を見ながら、一ノ瀬葵も穏やかに笑った。
「いいメンバーで良かった。」
「初日からギスギスしてたらどうしようかと思ってた。」
「それは俺も。」
櫻井伯耆が頷く。
「恋愛番組って、もっとピリピリしてるイメージだった。」
「まだ初日だからじゃない?」
水城が笑う。
「今日の夜くらいから恋愛スイッチ入るんじゃない?」
「お前は早そうだけどな。」
「もちろん!」
親指を立てる。
「可愛い子好きなんで!」
「知ってる。」
神崎が即答する。
部屋にまた笑いが広がった。
そんな中。
一ノ瀬が何気なく口を開く。
「正直さ。」
「ほたるちゃん。」
「やっぱり一番可愛いね。」
その一言で。
一瞬だけ空気が止まる。
「まぁ。」
黒瀬が苦笑する。
「否定はできない。」
「テレビで見るより可愛かった。」
櫻井も静かに頷いた。
「思ってた以上に自然体だった。」
「もっとアイドルって感じかと思ってた。」
「それ。」
一ノ瀬も笑う。
「近寄りにくい人なのかなって勝手に思ってたけど。」
「全然違った。」
「話してみたいな。」
「ゆっくり。」
「どんな子なのか知りたい。」
その言葉に。
水城がニヤニヤし始める。
「お?」
「一ノ瀬さん。」
「気になってる?」
一ノ瀬は照れ臭そうに笑った。
「いや。」
「まだ恋愛とかじゃないよ。」
「でも。」
「第一印象なら、一番かな。」
「可愛いし。」
「笑顔がいい。」
「年下って感じもしないし。」
「なんか、一緒にいると癒やされそう。」
「へぇ〜。」
水城が楽しそうに弓弦を見る。
「弓弦さんは?」
「第一印象。」
「……。」
弓弦はミネラルウォーターを一口飲む。
表情は崩さない。
「みんな魅力的だったよ。」
営業スマイル。
百点満点の回答。
「いやいや。」
黒瀬が吹き出した。
「そんなインタビューみたいな答えじゃなくて。」
「気になる子。」
「いるでしょ。」
「……。」
弓弦は少しだけ考えるふりをした。
「まだ初日だから。」
「これからかな。」
「ふーん。」
水城は意味深に笑う。
「じゃあ、ほたるは?」
「……。」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
弓弦の思考が止まった。
(ほたるちゃん。)
(今日も可愛かった。)
(名前呼ばれた。)
(笑ってた。)
(近かった。)
(いや待て。)
(落ち着け。)
(今それ言ったら終わる。)
心の中では大騒ぎだった。
しかし。
表に出たのは、穏やかな笑みだけ。
「ドラマでも一緒だから。」
「気は楽かな。」
「それだけ?」
「うん。」
その返事を聞いて。
「……。」
「……。」
神崎、水城、黒瀬の三人が、無言で顔を見合わせる。
(嘘つけ。)
(嘘だな。)
(よく言えたな。)
三人とも心の中で同じことを思っていた。
ドラマの現場で。
休憩中にほたるが笑うたび。
弓弦がどれだけ内心で騒いでいるか。
一番知っているのは、この三人だった。
「まぁ。」
神崎が静かに口を開く。
「番組なんだから。」
「焦る必要はない。」
「自然に話せばいい。」
「そうだね。」
一ノ瀬も頷く。
「せっかく一か月あるし。」
「まずは全員と仲良くなりたい。」
その言葉に。
弓弦は静かに笑った。
「そうだね。」
その笑顔は、いつも通り完璧だった。
ただ。
胸の内だけは違う。
(……まずい。)
(一ノ瀬さん。)
(ほたるちゃん、気になってるんだ。)
その事実に気付いた瞬間。
心の奥で、小さな警報が鳴り始めていた。




