22.
⭐︎22.
「皆さん、お集まりください!」
スタッフの声が島へ響く。
シェアハウスの前。
木製のデッキには半円を描くように椅子が並べられていた。
その向こうには、どこまでも広がる海。
カメラが何台も回り始める。
赤いランプが点灯した。
「それでは改めまして。」
「ここから一か月、共同生活が始まります。」
「まずは自己紹介からお願いします。」
スタッフが微笑む。
「男性陣からどうぞ。」
最初に立ち上がったのは、一ノ瀬葵だった。
長身。
柔らかな笑顔。
さすが俳優と言うべきか、立っているだけで絵になる。
「一ノ瀬葵、二十七歳です。」
「俳優をしています。」
「恋愛リアリティーショーは初めてなので、正直かなり緊張しています。」
「方向音痴なので、もし島で迷っていたら助けてください。」
一瞬、静寂。
そして。
「あははは!」
「それ絶対ある!」
場が一気に和む。
「よろしくお願いします。」
穏やかな拍手が起こった。
続いて神崎。
「神崎晋也、二十五歳。」
「Asterismです。」
「……仕事ばかりしてきたので、恋愛は得意じゃありません。」
「自然体で過ごせればと思っています。」
短い。
あまりにも短い。
「終わり?」
水城が笑う。
「終わりだ。」
「神崎さんらしい。」
笑いが起こる。
その空気のまま、水城が立ち上がる。
「はいはい!」
「水城宗真、二十三歳!」
「Asterismです!」
「好きなタイプは、笑顔が可愛い子!」
「恋愛? めちゃくちゃしたいです!」
「彼女募集中!」
「よろしくー!」
「軽っ!」
女性陣から笑い声。
黒瀬も負けじと立ち上がる。
「黒瀬晃一、二十二歳!」
「ダンス担当です!」
「俺も彼女欲しい!」
「せっかく来たんだから、本気で恋愛しようと思ってます!」
「よろしく!」
ストレート。
好感度の高い挨拶だった。
そして。
最後。
「御影弓弦です。」
空気が少し変わる。
アイドルとしてのスイッチが入った。
背筋を伸ばし、自然に視線を集める。
「二十五歳。」
「Asterismでセンターをしています。」
「普段は王子様なんて言われますけど。」
そこで少し笑う。
「実際は普通の男です。」
「一か月、よろしくお願いします。」
爽やかな笑顔。
歓声こそないが、思わず見惚れてしまうような完成度だった。
(すご。)
ほたるは心の中だけで呟く。
(アイドルってすごい。)
知っている。
普段の弓弦は。
ドラマの休憩時間になると。
少し抜けている人だった。
でも、今は完璧。
(プロだな。)
妙なところで感心する。
続いて女性陣。
白石あやめ。
落ち着いた大人の余裕。
小鳥遊美月。
モデルらしい洗練された美しさ。
天野莉子。
自己紹介だけで何度も笑いを取り、スタッフまで笑わせてしまう。
橘ひまり。
「イケメン大好きです!」
堂々と言い切って男性陣をざわつかせた。
最後はMASHIRO。
緊張で声が震えながらも、一生懸命歌手として頑張りたいことを話す。
そして。
「最後、ほたるさん。」
スタッフに呼ばれる。
ほたるは静かに立ち上がった。
十二人の視線。
何台ものカメラ。
それでも。
まるでライブステージへ上がるように自然だった。
『ほたるです。』
にこり、と笑う。
『十八歳です。』
『アイドルをしています。』
『恋愛経験はありません。』
少し照れたように笑う。
『こういう番組も初めてなので。』
『たくさん緊張してます。』
『でも、一か月楽しみたいです。』
『よろしくお願いします。』
深々と頭を下げる。
一瞬。
静まり返った。
「……かわいい。」
誰かが思わず漏らす。
その一言で、空気がまた柔らかくなる。
拍手。
笑顔。
スタッフまで微笑んでいる。
席へ戻ったほたるは、さりげなく全員を見渡した。
(……なるほど。)
その瞬間だった。
ようやく、この番組の「勝ち方」が見えた。
(恋愛番組だけど。)
(恋愛だけじゃない。)
視聴者は誰を見るのか。
誰を応援したくなるのか。
考えれば簡単だった。
恋をする人。
ではない。
恋をされる人。
中心にいる人だ。
女性同士で張り合うより。
誰か一人だけを追い掛けるより。
全員から自然に好かれる方が、圧倒的に画面へ映る。
しかも。
(アステの四人とは、もう仲がいい。)
ドラマのおかげで距離はできている。
無理に近付く必要もない。
視聴者から見れば。
“昔から仲がいいんだな。”
それだけで十分。
ならば。
(残り二人。)
一ノ瀬葵。
櫻井伯耆。
この二人とも自然に仲良くなれば。
男性全員とバランス良く話せる唯一の存在になれる。
(恋愛しなくても。)
(番組の中心には立てる。)
ほたるは営業用の笑顔のまま、小さく頷いた。
(……よし。)
(この一か月。)
(楽しく、お仕事しよう。)
その決意を胸に秘めながら。
本人だけは気付いていなかった。
その「全員と仲良くする」という作戦が、結果的に、この島の恋愛模様を一番かき乱すことになるということ。




