表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/72

22.



⭐︎22.





「皆さん、お集まりください!」


 スタッフの声が島へ響く。


 シェアハウスの前。


 木製のデッキには半円を描くように椅子が並べられていた。


 その向こうには、どこまでも広がる海。


 カメラが何台も回り始める。


 赤いランプが点灯した。


「それでは改めまして。」


「ここから一か月、共同生活が始まります。」


「まずは自己紹介からお願いします。」


 スタッフが微笑む。


「男性陣からどうぞ。」


 最初に立ち上がったのは、一ノ瀬葵だった。


 長身。


 柔らかな笑顔。


 さすが俳優と言うべきか、立っているだけで絵になる。


「一ノ瀬葵、二十七歳です。」


「俳優をしています。」


「恋愛リアリティーショーは初めてなので、正直かなり緊張しています。」


「方向音痴なので、もし島で迷っていたら助けてください。」


 一瞬、静寂。


 そして。


「あははは!」


「それ絶対ある!」


 場が一気に和む。


「よろしくお願いします。」


 穏やかな拍手が起こった。


 続いて神崎。


「神崎晋也、二十五歳。」


「Asterismです。」


「……仕事ばかりしてきたので、恋愛は得意じゃありません。」


「自然体で過ごせればと思っています。」


 短い。


 あまりにも短い。


「終わり?」


 水城が笑う。


「終わりだ。」


「神崎さんらしい。」


 笑いが起こる。


 その空気のまま、水城が立ち上がる。


「はいはい!」


「水城宗真、二十三歳!」


「Asterismです!」


「好きなタイプは、笑顔が可愛い子!」


「恋愛? めちゃくちゃしたいです!」


「彼女募集中!」


「よろしくー!」


「軽っ!」


 女性陣から笑い声。


 黒瀬も負けじと立ち上がる。


「黒瀬晃一、二十二歳!」


「ダンス担当です!」


「俺も彼女欲しい!」


「せっかく来たんだから、本気で恋愛しようと思ってます!」


「よろしく!」


 ストレート。


 好感度の高い挨拶だった。


 そして。


 最後。


「御影弓弦です。」


 空気が少し変わる。


 アイドルとしてのスイッチが入った。


 背筋を伸ばし、自然に視線を集める。


「二十五歳。」


「Asterismでセンターをしています。」


「普段は王子様なんて言われますけど。」


 そこで少し笑う。


「実際は普通の男です。」


「一か月、よろしくお願いします。」


 爽やかな笑顔。


 歓声こそないが、思わず見惚れてしまうような完成度だった。


(すご。)


 ほたるは心の中だけで呟く。


(アイドルってすごい。)


 知っている。


 普段の弓弦は。


 ドラマの休憩時間になると。


 少し抜けている人だった。


 でも、今は完璧。


(プロだな。)


 妙なところで感心する。




 続いて女性陣。


 白石あやめ。


 落ち着いた大人の余裕。


 小鳥遊美月。


 モデルらしい洗練された美しさ。


 天野莉子。


 自己紹介だけで何度も笑いを取り、スタッフまで笑わせてしまう。


 橘ひまり。


「イケメン大好きです!」


 堂々と言い切って男性陣をざわつかせた。


 最後はMASHIRO。


 緊張で声が震えながらも、一生懸命歌手として頑張りたいことを話す。


 そして。


「最後、ほたるさん。」


 スタッフに呼ばれる。


 ほたるは静かに立ち上がった。


 十二人の視線。


 何台ものカメラ。


 それでも。


 まるでライブステージへ上がるように自然だった。


『ほたるです。』


 にこり、と笑う。


『十八歳です。』


『アイドルをしています。』


『恋愛経験はありません。』


 少し照れたように笑う。


『こういう番組も初めてなので。』


『たくさん緊張してます。』


『でも、一か月楽しみたいです。』


『よろしくお願いします。』


 深々と頭を下げる。


 一瞬。


 静まり返った。


「……かわいい。」


 誰かが思わず漏らす。


 その一言で、空気がまた柔らかくなる。


 拍手。


 笑顔。


 スタッフまで微笑んでいる。


 席へ戻ったほたるは、さりげなく全員を見渡した。


(……なるほど。)


 その瞬間だった。


 ようやく、この番組の「勝ち方」が見えた。


(恋愛番組だけど。)


(恋愛だけじゃない。)


 視聴者は誰を見るのか。


 誰を応援したくなるのか。


 考えれば簡単だった。


 恋をする人。


 ではない。




 恋をされる人。


 中心にいる人だ。 



 女性同士で張り合うより。


 誰か一人だけを追い掛けるより。


 全員から自然に好かれる方が、圧倒的に画面へ映る。


 しかも。


(アステの四人とは、もう仲がいい。)


 ドラマのおかげで距離はできている。


 無理に近付く必要もない。


 視聴者から見れば。



 “昔から仲がいいんだな。”


 それだけで十分。



 ならば。


(残り二人。)


 一ノ瀬葵。


 櫻井伯耆。


 この二人とも自然に仲良くなれば。


 男性全員とバランス良く話せる唯一の存在になれる。

 


(恋愛しなくても。)


(番組の中心には立てる。)


 ほたるは営業用の笑顔のまま、小さく頷いた。


(……よし。)


(この一か月。)


(楽しく、お仕事しよう。)


 その決意を胸に秘めながら。


 本人だけは気付いていなかった。


 その「全員と仲良くする」という作戦が、結果的に、この島の恋愛模様を一番かき乱すことになるということ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ