20.
⭐︎20.
東京湾から高速船で、およそ一時間。
都会の景色がゆっくりと遠ざかり、青い海が視界いっぱいに広がる。
たどり着いたのは、小さな離島だった。
人口も少ない。
静かな港町。
白い灯台。
どこまでも続く青空。
その島の高台には、一軒だけ真新しい建物が建っていた。
白を基調にした二階建てのシェアハウス。
大きなウッドデッキ。
海が一望できるインフィニティプール。
夜になれば満天の星空。
この番組のためだけに建てられた特別な家。
入口には木製の看板。
そこには番組ロゴが刻まれている。
Love Archive
一か月。
十二人の男女が共同生活を送り、本気の恋を探す恋愛リアリティーショー。
脚本なし。
台本なし。
あるのは、それぞれの感情だけ。
――恋は、記録される。
そんなキャッチコピーとともに、新シーズンの幕が上がろうとしていた。
◇ ◇ ◇
都内。
ロケバスが一台、港へ向かって走っていた。
車内は静かだった。
窓際に座るほたるは、ぼんやり海を眺めている。
『……。』
イヤホンを片耳だけ付け、頬杖をつく。
眠い。
朝が早すぎた。
昨日もドラマ撮影で帰宅は深夜。
睡眠時間は三時間ほど。
正直、恋愛どころではない。
そんな気持ちだった。
『……恋愛かぁ。』
小さく呟く。
興味は。
ない。
恋をしている時間があるなら働きたい。
恋人より仕事。
仕事より、お金。
その順番は昔から変わらない。
もちろん。
そんな本音を世間へ見せるほど馬鹿ではない。
今回の設定は。
恋愛経験ゼロ。
純粋な十八歳。
それでいく。
『……頑張ろ。』
営業用の笑顔を一度だけ鏡で確認する。
その瞬間だった。
携帯が震える。
画面には。
社長。
篠宮誘人。
『もしもし。』
『おはよう、ほたる。』
穏やかな声。
『眠そうだね。』
『眠い。』
『知ってる。』
くすっと笑う。
『無理だけはしないこと。』
『……うん。』
『恋愛しろとは言わない。』
『うん。』
『でも。』
一拍置く。
『楽しんでおいで。』
『……。』
少しだけ目を丸くする。
『社長がそんなこと言うなんて珍しい。』
『僕も少し考え方を変えたんだ。』
『君はもっと自由でもいい。』
その言葉に。
ほたるは少しだけ笑った。
『…行ってきます。』
『いってらっしゃい。』
通話が切れる。
画面が暗くなった携帯を見つめながら。
ほたるは、小さく考える。
『……自由、ね。』
その時は。
本当に、何も考えていなかった。
恋なんてどうでもいい。
一か月、平和に終わればそれでいい。
そう思っていた。
まだ。
この番組の「正解」に、自分が気付いていなかったからだ。




