表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/48

16.




⭐︎16.





それからというもの。


 ほたると顔を合わせる機会は、少しずつ増えていった。


 きっかけは、やはりあのドラマだった。


 放送開始と同時に大きな反響を呼び、毎週のようにSNSでは関連ワードがトレンド入りする。


 切り抜き動画は何百万回も再生され、雑誌の表紙、バラエティ番組、CM、特番――。


 気付けば、「ほたる」と「Asterism」を一緒に起用したいという依頼が、制作会社やスポンサーから次々と舞い込むようになっていた。


 人気者同士。


 自然と現場が重なる。


 そんな日々が続いていた。


     ◇◇◇


「おはようございます!」


 スタジオへ姿を現したほたるに、スタッフたちの表情がぱっと明るくなる。


『おはようございます。今日もよろしくお願いします。』


 にこり、と柔らかく笑う。


 その笑顔は、本当に眩しかった。


 一人ひとりの名前を呼びながら挨拶をして、小道具スタッフにも、照明スタッフにも、メイクさんにも笑顔を向ける。


「今日も可愛いなあ。」


「癒やされる……。」


「現場の空気変わるよね。」


 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。


 誰から見ても。


 天真爛漫で。


 いつも笑顔で。


 現場をぱっと照らす太陽のような女の子。


 それが、世間の知るトップアイドル・ほたるだった。


 ――けれど。


「はい、一旦休憩入りまーす!」


 監督の声が響く。


 カメラが止まり。


 スタッフたちが散り散りに動き始める。


 その瞬間だった。


『……終わった。』


 ふっ、と。


 笑顔が消えた。


 まるで仮面を外すように。


 さっきまでの眩しい笑顔が嘘だったかのように、表情がすとんと落ち着く。


「……毎回思うけど。」


 黒瀬が苦笑する。


「切り替え早すぎない?」


『笑顔もタダじゃない。』




「金の話をするな。」


「夢が壊れるからやめろ。」


 水城、が笑う。




『今日も頑張った。』


「うん、頑張った。」


『だから、もう動きたくない。』


「まだ昼だぞ?」


『知ってる。』


 真顔で返され、四人は思わず吹き出した。


 もう、この姿にも慣れてしまった。


 最初こそ驚いたものの。


 あの日以来、ほたるは彼らの前では無理に笑わなくなった。


 知られてしまったのなら、隠す意味はない。


 そう割り切ったらしい。




 スタッフの前では完璧なアイドル。


 アステの前では、素のまま。



 その切り替えは、驚くほど潔かった。


「そういえばさ、ほたるちゃん。」




 宗真がペットボトルを片手に近付く。


「この前さ――」


『むり。』


「え?」


『眠い。』


「まだ何も話してない。」


『眠いから聞けない。』


「自由すぎる。」


 ほたるは小さく欠伸をすると、周囲をゆっくり見回した。


 空いている椅子。


 その中で、一番近くに座っていた人物を見つける。


 弓弦だった。


『……。』


 何も言わずに近寄る。


 弓弦が不思議そうに顔を上げる。


「ーーー?」


『おやすみ。』



 その一言だけ残して。


 ことり。


 ほたるは弓弦の肩へ頭を預けた。


「…………。」


 弓弦の思考が止まる。


 水城も止まる。


 黒瀬も止まる。


 神崎だけが、静かに目を閉じた。


(あぁ。)


(またか。)


 そんな顔だった。


『……。』


 数秒もしないうちに、小さな寝息が聞こえてくる。


 本当に寝た。


「早っ!」


 水城が思わず声を上げる。


「寝るまで三秒くらいだったぞ。」


「充電切れたスマホか。」


 黒瀬も笑う。


 その様子を、少し離れたところでスタッフたちが見ていた。


「あはは。」


「仲良しですね。」


「ほたるちゃん、すっかり懐いてる。」


「兄妹みたい。」


 そんな微笑ましい声が聞こえてくる。


 だが。


 アステの四人だけは、心の中で一斉に首を振った。


(違う。)


(絶対違う。)


(仲がいいんじゃない。)


(便利な枕だ。)


 どう考えても、そうだった。


 ほたるにとって。


 弓弦は今、一番近くにいたから選ばれただけ。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「……弓弦。」


 神崎が静かに口を開く。


「使われてんな。」


「……うん。」


「完全に。」


「……うん。」


「文句は?」


 少しだけ笑いを堪えながら尋ねる。


 すると弓弦は。


 肩にもたれるほたるを起こさないよう、そっと姿勢を整えながら。


 本当に嬉しそうに、小さく微笑んだ。


「……ない。」


 三人は顔を見合わせる。


「終わったな。」


 水城が即答する。


「終わりましたね。」


 黒瀬も頷く。


「重症です。」


「かなり。」


 神崎は缶コーヒーを一口飲み、呆れたようにため息をついた。


「御影弓弦。」


「はい。」


「トップアイドル。」


「うん。」


「国宝級イケメン。」


「うん。」


「女性ファン数百万人。」


「……うん。」


「現在。」


 一拍置いて。


「推しに枕として利用されております。」


「言い方!」


 黒瀬と宗真が吹き出す。


 しかし当の本人は、まるで気にしていなかった。


 むしろ。


 肩に伝わる小さな重みが、少しだけ嬉しい。


 そんな顔をしている。


 神崎はもう一度ため息をついた。


「……だめだ。」


「?」


「ほたるちゃん限定で、弓弦のIQがゼロになるな。」


「否定できない。」


「否定しろ。」


 スタジオの隅で笑い声が広がる。


 その中心では。


 何も知らないほたるだけが、安心しきったような寝顔で、静かな寝息を立て続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ