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【書籍発売中!】我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件   作者: 木ノ花 
第三章

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110/111

第110話 クリスマスイブ

 獣耳を頭に生やした幼女たちが、我が家の居間にぽつんと佇んでいた。


「ほわ~……きれいだね~!」


「ね~、リリもだいすきっ! ルル、あのしろいふわふわ、もうたべちゃダメなのよ」


「んっ! あのふわふわ、おいしくない!」


 エマを中心に寄り添って並び、明るい声で言葉を交わす獣耳幼女たち。

 三人が夢中で見つめる先には、青々としたもみの木のイミテーションが置かれていた。サイズは120センチ。色とりどりの飾りや、雪を模した綿などで飾り付けられている。


 そして、今日は12月24日。

 となれば、もみの木の正体は考えるまでもない。そう、クリスマスツリーである。


 俺が朝ごはんの洗い物をしている間、獣耳幼女たちは仲良くツリーを眺めていたようだ。というか、先日ネットで取り寄せ、居間の隅に設置して以降ずっとこの調子。少しでも時間が空けば、うっとりと見入っている。


「あ、サクタローさん!」


 台所から戻ってきた俺に気づき、その優しげな輝きを秘めたヘーゼルの瞳を嬉しそうに細めるエマ。


 この子の頭には、亜麻色の髪と同色の犬耳が生えている。垂れ気味ながら、感情に合わせてピコピコ動く様子がなんとも愛らしい。腰の後ろから伸びるモフモフ尻尾も、大きく左右に揺れている。


「サクタロー! おさら、あらうのおわった?」


 続いてリリが、理知的な輝きを放つエメラルドグリーンの瞳をこちらへ向け、にぱっと笑みを浮かべる。


 この子の頭にも、黄金色の髪と同色の狐耳が生えている。腰の後ろでは、やはりモフモフの尻尾が音を立てる勢いで揺れていた。


 と、さらにここで。

 グイグイとズボンを引っ張られる感触を覚え、視線を足元へ向ける。


「んぅ、サクタロー!」


 いつの間に近寄ってきていたルルが、俺の体をよじ登ろうとジタバタしていた。その無垢な輝きを宿すブルーの瞳が、『抱っこしろ』と強く訴えかけている。


 この子の頭にも、黒髪と同色の猫耳が生えており、しなやかで細長い黒の尻尾が腰の後ろで揺れている。


 三者三様、とても個性的。しかし共通して、心根が純真で、優しく思いやりがあって、素直で、愛嬌たっぷりで、俺にとってはもうすっかり天使の三姉妹である。


 年齢は、長姉のエマが六歳、次姉のリリが五歳、末妹のルルが四歳、と聞いている。ただし、体型は揃って小柄。孤児という境遇ゆえに栄養不足だったせいだろう。


 それでも、俺たちが出会ったあの日――我が家と異世界が繋がり、廃聖堂で初めてその姿を見たときと比べれば、だいぶふっくらとした印象だ。


 服装だって大違い。当時のボロ布を脱ぎ去り、今は動きやすくも温かい子供服を着ている。どんなコーデでも大喜びしてくれるものだから、選んでいるこちらが楽しくなってくる。


「それにしても、三人ともすっかりクリスマスツリーがお気に入りだね」


「うんっ! だって、とってもキレイだもん! わたし、またかざりつけしたい!」


「リリも! しろいふわふわもうない?」


 ルルを抱っこしながら声をかけると、エマとリリも跳ねるように寄ってきて足に張り付いた。


 先日、みんなで一緒にクリスマスツリーの飾り付けをした。それがよほど楽しかったようで、またやりたい、とズボンを引っ張ってのおねだりだ。


 あのときは、ルルが白い綿を口いっぱいに詰め込み、大騒ぎになった……飲み込む前に吐き出させたので事なきを得たが、食べ物ではないと言い聞かせるのに苦労した。とても美味しそうに見えたらしい。


 もし飾り付けをするなら、今日はしっかり注意しておかねば。

 抱っこされてご満悦のルルに、俺は目を向けた。

 しかしここで、待ったの声がかかる。


「飾り付けはあとだ! 三人とも、まずは『サンタ』とやらについて結論を出すぞ!」


 鼻息荒く謎の提案を口にしたのは、コタツに入り浸りのサリアさん。

 彼女の目の前には、みかんの皮が散乱している。また食べ散らかして……年齢は18歳と聞いているが、獣耳幼女たちの方がよっぽどお行儀がいい。


 しかも、契約上は奴隷という立場……なのだが、ご覧の通りストレスなくのびのびと日々を過ごしている。日課の晩酌の量も増える一方だ。


 そんなサリアさんも獣人で、グレーアッシュの長い髪と同色の狼耳が頭に生えていた。もちろん、腰の後ろではモフモフの尻尾が揺れている。


 服装は、スウェットがトレードマーク。ずいぶん気に入った様子だったから、インナーやおしゃれなタイプなど含めネットでたくさん取り寄せてある。


「サリアの言う通りです。まずは、サンタさんとやらの処遇を決めねば。ですが、その前に私はお茶のおかわりをいただきたいです。サクタローさん、緑茶をお願いできますか?」


 言って、自分のマグカップを差し出してくるフィーナさん。

 少し前から我が家で一緒に暮らすようになったのだが、やはりコタツに入り浸っている。近頃は、紅茶でなく緑茶がお好みだ。


 そんな彼女の種族は、エルフ。

 笹のように細長い耳を持ち、その顔立ちは黄金比もかくやのレベルで整っている。


 アメジストを彷彿させる幻想的な紫の瞳、銀糸のような長い髪。この両方の魅力的な特徴も相まって、もはや神秘的とすら表現したほうがしっくりくる。

 年齢は不詳なものの、ぱっと見は二〇代前半に思えなくもない。


 おまけに、レーデリメニア(異世界の国)の姫君にして女神ミレイシュの巫女、という大層なお立場にある。しかし今やスウェットに身を包み、日本の庶民的な暮らしが板についてきた感がある。味覚も和風が合うみたい。


 それで彼女たちが、いったいなんの話し合いを求めているのかといえば……我が家では、先日から『サンタ』についての議論が繰り広げられていた。


 俺がクリスマスやツリーの由来を軽く説明したところ、それぞれがとても個性的な意見を抱いたようで、自然と三つの派閥が出来上がったのだ。


「そうだった! リリ、ルルも!」


 ハッとした様子のエマが、リリを伴って小走りにコタツへ。ルルもまたジタバタし始めたので下ろしてあげると、ふんふん鼻を鳴らしながら後に続く。


 サリアさんの指示で、みんなが席につく。

 ただし、いつもと位置が違う……どうやら、意見ごとに座る場所が分かれているようだ。いつもながら、我が家は本当に賑やかである。


 ただの傍観者の俺はいったん台所へ向かい、全員分の飲み物をのんびり用意してから自分の席に戻り、コタツに足を突っ込む。

 それを合図に右隣のサリアさん、加えてリリとルルが張り切って本題を切り出した。


「では、話を始める――プレゼントは、すべて私たちのものだ! 何より、我が家へ侵入しようとする不届き者を見過ごしてはおけん!」


「ぷれぜんと、ほしい! リリはいいこだから、たくさんもらってもいいでしょっ!」


「んっ! ルルちゃんも、いいこいいこして!」


 この三人は過激派で、プレゼントの独占を狙っている。

 サリアさんは、サンタの行為を不法侵入とみている。成敗するついでにプレゼントも大量にいただいてしまおう、といった魂胆だ。大人げないにも程がある。


 リリとルルも跳ねるように立ち上がり、いい子だからたくさんもらってもいいよね、と主張している。


「ダメだよ! ほかのこたちのぶんがなくなっちゃう! ちゃんと、ありがとうもいうの!」


 左隣のエマが反対意見を述べる。この子は、サンタにお礼を言ってお茶を出す派。

 そのうえ、他の子たちの分まで考えるなんて……おりこうさんすぎて、つい獣耳ごと頭を撫で回してしまった。


 本人はなんで褒められているのかわかっていない様子。それでも嬉しかったようで、「えへへ!」とはにかんでいる。尻尾も音を立てて揺れている。


「それより、トナカイさんの鼻は本当に赤いのですか? 少しだけでも触れさせてもらえると嬉しいのですけど。ああ、そうそう。飼葉だけでなく、水も用意しないといけませんね」


 対面のフィーナさんは、労われるべきは重いソリを挽くトナカイ派。

 ラクスジットで飼葉を仕入れてきて、トナカイに食べさせてあげたいそうだ。できれば赤い鼻を触ってみたい、とソワソワしている。


 要するに、全員がクリスマスというイベントをよく理解してない状態だ。

 ちゃんと説明したんだけどなあ……まあ、仕方ない。異世界の人からすれば、年に一度プレゼントを届けにくるおじいさんとか意味不明だもんね。


 とはいえ、せっかくだから地球のイベントをしっかり楽しんでもらいたい。

 だから俺は、この争いに終止符を打つ一言を投じることにした。


「他の子たちの分まで欲しがられると、サンタさんも困っちゃうだろうなあ。そうなったら、我が家だけ順番ぬかされちゃうかもね」


『えっ!?』


 五人は揃って驚愕した声を上げ、俺に視線を向けたままピタリと動きを止めた。

 さらに少しの間を置き、獣耳幼女たちの瞳がみるみる潤んでいく……マズい、ちょっと効き目が強すぎたようだ。


「安心して、今のところは大丈夫! サンタさん、ちゃんとプレゼント持ってきてくれるから!」


 俺は大慌てでフォローする。その途端、弾かれるようにエマが懐に飛び込んできた。それにやや遅れ、リリとルルも転がるようにしがみついてくる。


「さんたさん、きてくれないの……?」


「こないのやっ! リリ、もっといいこにするから!」


「んっ、ルルちゃんもいいこ!」


 うるうる瞳を揺らす獣耳幼女たちに見上げられると、罪悪感が凄い。すぐにまとめて抱き寄せ、さっきのは例え話だと必死に説得する。本当にごめん。


 サリアさんも、盛大に眉間に皺を寄せながら「むぐぐ……」と唸っている。プレゼントがもらえないのは相当嫌なのだろう。


 俺はそのまま説得を続け、どうにかみんなを落ち着かせることに成功する。結果、サンタさんにお礼をすると決まった。それぞれ絵を描いて、飾った靴下の中に入れておくのだ。


 さっそくお絵かき帳をコタツの上に並べれば、獣耳幼女たちもニッコリ。

 自分のクレヨンを片手に、思い思いお絵かきを始めてくれた。これで俺も一安心。


「あの、サクタローさん。飼葉の手配はどうなります?」


「……トナカイには、うちの余った野菜をあげましょうか」


 フィーナさんだけは、ずっとトナカイのことを気にしていた。このお姫様も、たいがいマイペースだよなあ。


 もっとも、大人の二人には後ほどサンタの種明かしをする。夜中に獣耳幼女たちへのプレゼントをこっそり用意する予定だから、その手伝いをお願いしたい。


 その代わり、晩酌にはスパークリングワインを用意したからね。スペイン産のもので、トロピカルで華やかと評判の逸品だ。値段も安く、初心者向けの味わいらしい。

 他にも、ワインを二本。ポルトガル産の赤、カリフォルニア産の白を取り寄せた。


 俺は別にお酒に詳しいわけじゃないけど、わりと好きな方なのでボトルを開けるのが楽しみだ。サリアさんとフィーナさんが喜んでくれると嬉しい。


 もちろん、晩ごはんも盛大にいく。みんなにとって初めてのクリスマスだから、一生の思い出に残るような料理を作らねば。


 さあて、今日は忙しくなるぞ。

 温かな居間に、プレゼントを期待する声が飛び交う。明るく楽しげな雰囲気に頬を緩めながら、俺は取り出したスマホでレシピをチェックしていくのだった。

本作の書籍が発売されました。詳しくは活動報告をご確認くださいませ。ぜひお手にとっていただけますと幸いです。

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


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エマちゃん... ええ子ぉやナぁ、ホンマ フィーナさん、動物好きなンやネ
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