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我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件 【書籍化決定!】  作者: 木ノ花 
第二章

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第101話 キラキラの合図

 うちの獣耳幼女たちは、確かにいつも我が家でシールをぺったんぺったん張りまくっている。冷蔵庫や棚など、大変に賑やかなことになっており……でも、それとは違うんだろうな。


 エマを横抱きにしつつ膝の上に乗せ、亜麻色の瞳を見つめて問いかける。


「もう一度聞かせてね。エマは、どこでシールをみたの?」


「えっと、サクタローさんおはなしまだかなぁって、クルマのとこからみてたの! そしたら、かぜがびゅうってなって、きがわーってなって! シールがね、むこうにあった!」


 頬を赤くして、尻尾をふりふり興奮気味のエマ。続けて、地面を踏みしめる馬車の音よりも大きな声で懸命に説明してくれた。


 馬車の入口から顔を出して俺のことを眺めていたら、ふと風が吹いてサミール邸の目隠しとなっていた木々が揺れた。なんとなしにそちらへ目を向けてみれば、枝葉の隙間からキラリと光るシールが覗く。それが気になり、思わず客室の屋根の上に飛び出してしまった――要約すると、こういうことらしい。


 それじゃあ、次の質問だ。これはかなり重要だから、しっかり聞かねば……いや、ほぼ答え合わせなのだけど。


「エマが見たのは、どんなシールだった?」


「キラキラのワンちゃんシール!」


 ああ、やっぱりそうなのか……気づいてはいたが、タリクくんにプレゼントしたもので間違いないようだ。


 キラキラのワンちゃんシール、手の平サイズ大のもの。

 ちょっと前に見たフェアリープリンセスの回に、シールが登場した。それを貼って敵に連れ去られたキャラが合図を送る、といった内容だ。


 そのエピソードと共に、確か親愛の証としてプレゼントしていた……俺は真横で見ていたのだ、ハッキリ覚えている。しかもそっくりなシチュエーション。


「そうだったんだね、ありがとう。サリアさんとフィーナさんは見てない?」


 俺の質問を受け、リリとルルをそれぞれ膝に乗せた二人は顔を横に振る。念のためゴルドさんにも目を向けたが、同様の仕草が返ってくる。

 

 となると、一人だけだ……あの距離で、あの高木越しに。大人の目でも確認できなかったものを、エマだけが見たと言っている。

 

 見間違いって線も十分ある。まして子どもの言う事を鵜呑みにするのはどうなのか――なんて普通なら思うだろう。


 俺は再び、横抱きにしたエマの顔を覗き込む。

 亜麻色の瞳が、まっすぐにこちらを見つめている。無垢な光を宿し、少しだけ潤んでいる。


 この子が、理由もなく嘘をついたことは一度もない。いつだってお利口さんで、素直で、他人思いで、愛らしくて、天使で……それならば、俺のやることは一つ。

 エマの言葉を信じ、何があったのかを明らかにするだけだ。


「大事なことを教えてくれてありがとう、エマ。すっごく助かったよ。でも、馬車の屋根に登るのは危ないからもうダメね」


「はーい! でも、タリクはきっとたすけてっていってるよ! ねぇ、サクタローさん!」


 助けにいくよね、と言いたげに笑みを浮かべるエマ。

 隣でサリアさんに抱っこされていたリリも、期待した瞳をこちらへ向けてくる。


 フィーナさんの膝の上のルルは状況をよくわかっていなそうだが、姉二人が嬉しそうなのを見て喜んでおり、黒い尻尾をゆらゆらと左右に振っていた。すっかり眠気も覚めてしまったかな。


 さて、ここ一連の孤児たちに関する問題……いや、事件。恐らく主犯はサミール・ラドニだ。しかしまだ確定ではなく、より重要な背後関係を掴めていない。


 それに俺はこの街の、ひいては国のルールを正確に把握していない。最悪、この行いが合法という可能性すら消せていない。

 だから今は、大人に任せておいて、と微笑みを返す。


 とはいえ、エマが見つけてくれた手がかりを無駄にするつもりはない。タリクくんを助けるためにも、正確な居場所を突き止めねば……俺は腕組みするゴルドさんへ目を向け直し、あるお願いを口にした。


「どこか高い場所を知りませんか?」


 ***


 俺が手短に事情を説明しつつ改めてお願いすると、ゴルドさんは快く請け負ってくれた。


 その足でいったん聖堂へ戻る。それから我が家の納戸に置いた『ある物』を持ち出し、トートバッグ片手に再び馬車へ。


 ここからは、サリアさんに護衛として付き添ってもらう。獣耳幼女たちは、フィーナさんにお任せした。今ごろ、居間のコタツで大好きなフェアリープリンセスを楽しんでいるに違いない。

 

 早く帰宅して、俺もみんなとまったりしたい――なんて考えているうちに馬車が止まり、目的地に到着したことをゴルドさんが告げた。


 案内に従ってそのまま石造りの建物へ入り、螺旋階段をゆっくり上がっていく。

 明り取りの窓から差し込む外光だけが頼りだ。サリアさんに支えてもらいながら、俺は慎重に足を進めた。


「この物見台は、街全体を俯瞰できる位置に建っておる。迷宮が存在する以上、それを欲する外敵には事欠かぬからな。もしものための備えの一つである」


 言って、立ち止まるゴルドさん。気づけば最上段に到達していた。

 それから彼は、目の前の鉄の扉を引き開けた。途端に、びゅうっと冷たい風が容赦なく吹き込んでくる。俺たちは揃って衣服の襟元を締め直しながら、外へ。


「これは、見応えありますね……」


 ラクスジットの味わいあるレトロな街並みが、眼下いっぱいに広がっていた。

 スカイツリーからの光景……には遥かに及ばないが、眺めは案外悪くない。


 ここは、街の北西に設けられた物見台だ。石造りの細長い建物で、高さは……体感、マンションの十階くらいだろうか。日本なら埋もれてしまう程度の規模ながら、ラクスジットではずば抜けた眺望を誇る。


「あちらに見えるのが、この街の中心の鐘楼。北に見えるのが、この地を治めるラクスジット公爵の居城である」


 時おり響いてくる鐘の音は、あそこで打ち鳴らされたものらしい。

 やや遠目に望む西洋風のお城は、公爵邸だそうだ……凄い立派、というかファンタジーだな。いつか見学にうかがいたい。


「そして、あの建物が今回の標的――サミール・ラドニの屋敷である」


 少し歩いて位置を変え、胸の高さほどの石の欄干からわずかに身を乗り出し、真っ直ぐに指を差すゴルドさん。


 見覚えがある……サミール邸で間違いない。石壁の内に並ぶ目隠しの高木が、冷たい風に吹かれ揺れていた。


「して、サクタロー殿。この高所からいかがして確認するつもりなのだ? 目を凝らしたとて、人の顔すら判別できまい」


「ご安心を。これを使えば、隅々まで確認できるはずです」


 ゴルドさんの質問に答えながら、俺は肩に下げたトートバッグから私物を取り出す。


 細長い双筒型のボディに、黒いラバーコーティングが施された観測用の器具――その正体は、双眼鏡だ。それも二十倍対応。


 こいつで、サミール邸を丸裸にしてやる。ソワソワと興味を示すゴルドさんは後回しだ。


 俺はさっそく、石の欄干から身を乗り出して双眼鏡を覗き込む。少し怖いが、サリアさんに抑えてもらっているから安心だ。


 レンズの倍率を調整すると、内部の様子がくっきりと浮かび上がった。

 石壁に囲まれた庭の中心に、母屋らしき立派な建物が見えてくる。その奥に、もう一棟。木立の影に簡素な建物が……あれは離れだろうか。


 続けて、その建物の二階へ双眼鏡を向けた。

 すると、はめ殺しの窓が視界に入る――その瞬間、キラリ。


 俺はハッと息を呑む。風が梢を揺らすたびに西日の角度が変わり、なおもキラキラと輝く。


 今度はゆっくり息を吐きながら、レンズのピントを合わせていく。次第に輪郭が定まっていき……ついにキラキラのワンちゃんのシールが、視界の中央にハッキリと映し出された。


 はめ殺しの窓枠のすぐ横に、ぺたりと貼られている。

 エマがあのシールをプレゼントしたとき、タリクくんは『よくわかんねーけど、ありがとな!』なんて笑っていた。


 けれど、ちゃんと覚えていたんだ……だから、あそこに貼った。俺たちなら気づくと信じて。


「まったくキミは……大した子だ」


 俺は思わず、安堵やら焦燥やらが入り混じった声を漏らす。

 心臓の鼓動が少し落ち着いてきたら、隣で気にしていたサリアさんに双眼鏡を渡す。それからたっぷり十数秒後、彼女は穏やかながらも強い口調で断言した。


「タリクは、間違いなくあそこで囚われている。あのシールが、ラクスジットに二つとあるはずがない」

 

 うん、と俺たちは頷き合う。

 エマが見つけた……あの子のおかげだ。

 タリクくんも、あそこから合図を送っていた。助けを待ちながら、できることをやっていた。

 

 それならば、何を置いても救出せねば。

 さあ、次は奪還作戦の立案だ。

本作の書籍の予約が開始されました。詳しくは活動報告をご確認くださいませ。ぜひお手にとっていただけますと幸いです。

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