洗濯をしよう
前回のあらすじ
農場から帰ってきた
「洗濯をしよう!」
僕は高らかに宣言をした。
「えー、今日は休むんじゃなかったの?」
「これは仕事の内に入りません!農場に行って汗をかいたし、もう我慢の限界だ」
面倒くさがるアポロを引きずり、買い物へ出かけた。
「いらっしゃい、今日は何が欲しいんだい?」
「桶と洗濯板と石鹸とハンガー、それと物干し竿ってありますか?」
「あるよ、ちょっと待ってな」
店主さんは店の奥に入り、大きな竹竿を持ってきた。
「おお、やっぱり竹だ」
「この素材は便利でね、なんでも作れる。大きさはこれくらいでいいかい?」
「はい、大丈夫です」
これで洗濯に必要な道具は揃った。かなり大荷物になったが、アポロは軽々と持っている。荷物番マスターの称号を捧げよう。アポロはじっとこちらを睨みつけてきたが、口を開くことはなかった。
「あとは、服だな」
「やったー!服屋さんだ!何買おうかなー」
「服は沢山あるだろ!またゴミ山を作るつもりか」
「えー、いいじゃん。可愛い服を買わないのは失礼だよ」
城の人が管理をしなかったから、聖地が荒れた。うん、それは一つの要因だけど、きっと彼女の元来の性格にもかなり大きな要因があるな。
「すまないが、今日は僕の服だ。着替えを買わないと」
「なんだ、つまんないの。服屋さんはあそこだよ」
少し歩いて、服屋は到着した。アポロは何故か上機嫌だった。
「今日は僕の服だからな。買わないからな」
「わかってるって。お店の前で待ってるね」
アポロは大荷物を抱えたまま、スキップをしてくるくると回り始めた。犬か。こんな姿を誰かに見られたら、勇者の信用がガタ落ちだ。急いで買い物を済ませなければ。
「いらっしゃい、あら、見ない顔ね」
年は四十くらいの女性が立っていた。デールさんと同じくらい、だろうか。質素な服装だったデールさんとは違い、彼女は少し、いやかなり派手な服装をしていた。
「あの、ここって男物の服は売っていますか?」
「売ってるよ。そんなに種類はないけどね」
店の中は大半が女性ものの服だった。少し居心地が悪い。
男性用の服は、店の片隅に置かれていた。シンプルなtシャツとパンツ、それに下着しか売られていたなかった。
「いや、流石に少ないでしょう!」
「いいじゃない、なんだか気が乗らないのよ。どうせあんたらいい服を作ってもすぐに汚すし、破くし、何よりデザインのしがいが無いのよ。アポロちゃんくらい可愛い子に来てもらえるなら、服を作る甲斐があるってもんだけどね」
ひどい…まあ、実際僕は服にこだわりは一切ないので気にしないが。
しかし、シンプルなデザインではあるが綺麗な形だったし、何より手触りが素晴らしかった。
「これは、コットンですか?」
「シャツとパンツはコットン、下着はシルクよ」
「シルク!?」
「農場でトールさん達が養蚕してんのよ」
あの人たち、どれだけ働いているんだ…彼女は素っ気ない口ぶりではあるが、服を褒められて少し嬉しいようだった。この村は、今のところ娯楽という娯楽がない。この服が、村に住む人の数少ない楽しみの一つなのかもしれない。アポロは買い過ぎだけど。
僕は服を3セット購入した。実に良心的な料金で、僕のお財布の中身はほとんど減らなかった。
「待たせたな」
「はいはーい」
アポロはまだスキップをしていた。体力と精神力は、間違いなく勇者のそれだった。
僕たちは家に帰り、桶にお湯を溜めた。少しぬるいくらいのお湯の方が汚れがよく落ちる。しかし、流石に洗濯板を使って洗濯をしたことはないので、頭の奥の知識を総動員した。
お湯に石鹸を入れて、洗濯物を少しつけておく。その後、上下に擦ってしっかりと汚れを落としてやる。この時、あまり強く押し付けると服が変形してしまうので優しめに。
「おい、水が真っ暗だぞ」
「…オカシイナー」
「服が好きなら、ちゃんと洗濯しなさい!」
「はーい…でも、知らなかったんだもん」
「知らなかった?」
「掃除のやり方も、料理のやり方も、洗濯の仕方も」
「…」
僕は返事をせず、目の前の洗濯物を黙々と片付けていった。やはり、城の人の責任は大きい。
僕が着ていた服も、真っ黒に汚れていた。これは中々精神にダメージを与えたが、何とかこらえた。新しい服は素晴らしい肌触りだった。
適当な木の破片を探し、アポロに突き刺してもらった。人間がやったとは思えないほど、深く突き刺さった。竹竿をかけても、少し押してもびくともしない。これは大丈夫そうだ。勇者、便利。
綺麗な水に入れ替えて、すすぐ。そして洗濯板の上で優しく絞ってやる。よし、良い感じだ。
最後にパンッと勢いよく洗濯物を伸ばしてやり、ハンガーにかけたら完了!
綺麗に整列した洗濯物に心地よい風が当たる。意外と洗濯機が無くても何とかなるものだな。
「ねえタカキ、ご飯にしよう!ご飯!」
「はいはい」
今日は貰った食材を使って、美味しい料理を作ってやろう。僕が今、彼女に、勇者にできることは、これくらいしかないのだから。




