第8話
ミサちゃんはやっぱりホストのときのお客のミサちゃんだった。
僕は急に死んでしまったことを謝った。
「ルイくんのせいじゃないよ。」
ミサちゃんはそう言ったが寂しそうな顔になった。
「ゲーム苦手だって言ってたのに。」
僕がそう言うとミサちゃんはここに来るのがいかに大変なのかをマシンガンのように話した。
僕は「うんうん」と相槌を打ちながら話を聞いた。
そこには僕の知っているがんばり屋のミサちゃんがいた。
「ミサちゃんはすごいね。よくがんばったね。」
僕がそう言うとミサちゃんは急に泣きだしてしまった。
「何がどうなってるのか、もうよくわからないよ。」
ミサちゃんは今、スマホをいじっている。
ボイスチャット機能がオンになっていて、直接話しているのだと教えてくれた。
「ルイくんは違うの?」
僕はその問いになんて答えていいかわからなかった。
「僕はどうやらゲームの中に閉じ込められたみたいなんだ。だからそっちのリアルな方のことは何も知らないんだ。」
僕はミサちゃんにラスボスと言われた話をした。
「そうだね、なんだかそんな扱いをされているよ。公式は1回もそんなこと言ってないんだけどね。」
このゲームにクリアはない。それがわかっただけでも少し嬉しかった。
ミサちゃんと話をしている間にも襲撃者がやって来た。
僕は少し待っててと言って外に出て片付けてきた。
「ここのルイくんは私が知ってるルイくんと少し違う気がするの…」
ミサちゃんは僕が何をしに行っていたのか察しているようだった。
「僕はみんなと違う。殺されたらきっとそこで終わると思うんだ。」
「終わるってどういうこと?」
ミサちゃんは怯えているように見えた。
僕はいつ飲むのかわからなかった紅茶をミサちゃんに振る舞った。
「ありがとう。」
ミサちゃんの顔が少し和らぐのがわかった。
「ゲームの中にいるっていうのはすぐにわかったんだ。でも僕は誰かが操っているキャラじゃないんだ。もちろん僕が操っているわけではない。」
説明が難しかった。
それでもミサちゃんはなんとなくわかってくれた。
「ルイくんの肉体が消えて、精神だけがこのゲームの中に入ったってことかな。」
ミサちゃんは僕のために一生懸命考えてくれているようだった。
「そうなのかな?僕、お客さんに刺された記憶で終わってるんだ。死んだよね?僕。」
「そうだね。ニュースになってたよ。」
ミサちゃんは目を伏せて紅茶をすすった。
目にうっすら涙を浮かべていた。
「悲しませてごめん。」
僕がそう言うとミサちゃんは笑顔を見せて「ルイくんが謝ることじゃないよ!」と明るく言った。
もっといろんなことを聞きたかったけどミサちゃんもわかっていないことが多かった。
「ここでセーブしていいかな?」
「もちろん!家の中じゃないと僕を倒そうとしてる輩にミサちゃんがやられちゃうよ。」
ミサちゃんは僕にやられた時のことを思い出してクスクス笑った。
「すごいスピードでね、話しかける暇もなかったよ。」
僕は「ごめん」と言って笑った。
「私はコンテニューできるけど、ルイくんは違うかもしれないんだね。今日はもう遅いからあっちで調べてまた来るよ。」
リアル時間は深夜2時すぎだと言った。
どうやらこちらとの時間軸はずれているようだった。
「ミサちゃん、会いに来てくれてありがとうね。」
僕がそう言うとミサちゃんはにっこり笑って手を振りながらログアウトしていった。
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【須藤美沙子】
ルイくんに会えた!
私はゲームをログアウトしてスマホを抱きしめた。
数ヶ月ぶりにルイくんと話すことができた。
頑張ったことを褒められたし、やっぱりルイくんは私のことをよく理解してくれている。
理解できないのは今のこの状況だ。
ルイくんは現実世界で死んでしまった。
お葬式をやったのかどうかはわからなかったけど、きっと火葬はされたはずだ。
ルイくんは天涯孤独なんだと言っていたことがある。
あまり自分のことを話すのは好きじゃなさそうだったから、私はあえて聞かなかった。
ルイくんにどんな過去があろうとも、私はルイくん推しをやめない。
精神だけがゲームの世界で生きているとか、ありえない話である。
今流行りのAIだろうか?
でも私に関する記憶をAIはどうやって手に入れたのだろうか。
ルイくんはSNSと呼ばれるものはほとんどやっていなかった。
真面目な人だし、メモをとったりしていそうではある。
誰かがそういうのを元にあのキャラクターを作り上げたのだろうか。
考えても答えは出ず、私はため息をついた。
あれが本当のルイくんなら、あんなところにひとりぼっちで置いておきたくない。
────
私はゲームの中のルイくんに会いたい気持ちをぐっと抑えて仕事に行った。
早く終わらせるために私はいつもに増してテキパキと仕事をこなしていく。
「須藤さん、今日はどうしちゃったんですか?そんなに急いで彼氏にでも会いに行くんですか?」
後輩の藤木くんがニヤニヤしながら私をからかうようにそう言った。
私は適当に返せばいいものを驚いて一瞬固まってしまった。
ルイくんが彼氏だなんて!!
「そんなんじゃないです。ちょっと用事があるだけです。」
私はすぐにそう言ったが手遅れだったようだ。
顔が真っ赤になっていたのである。
後輩も私の意外な反応にたじろいでいた。
「あ、そうなんですね、僕も早く帰れるようにがんばります。」
後輩はそう言って逃げるように自分の席へと戻って行った。
何はともあれ後輩の援護は助かる。
私は気を取り直してパソコンに向かった。
────
『TKT☆GAME』
これがあのゲームを作っている会社である。
調べると大元は中国にある。
さすがに中国には行けないのだが、日本に日本語対応をしている会社があるという情報を入手した。
おそらく中国の本社から下請けのような形になっているのだろう。
あのゲームは多言語を扱っていて、その言語によってサーバーが分かれる。
私はもちろん日本語を選び、プレイヤーたちはまるでそれが日本で作られたゲームなのかと思うくらい細部まで日本語で対応されていた。
そしてルイくんのいるあの島は日本語のサーバーにしか出現していない。
その噂を聞きつけた海外サーバーの人たちがこぞって日本語サーバーにキャラクターを作り出した。
そこまではよかったのだが、どういうわけなのか海外の人たちはルイくんのいる島に行くためのアイテムが入手できないと言うのだ。
私はそういう詳しいことはわからないが、接続している地域を判別する機能があるらしく、日本に在住している人にしかドロップしないということらしい。
私にはチンプンカンプンだったが、ルイくんを襲う人が減るのはいいことだ。
私はどうにかしてその日本語版を運営している会社をみつけたい。
問い合わせをしても教えてくれない。
ネットで情報を集めようとしてもなかなかヒットしない。
私のようなにわかが突然そんな深い世界に飛び込んでも水面でパシャパシャしてるだけだ。
私は帰宅し、情報をまとめ、ゲームを起動した。
そこにまだルイくんがいるのかどうか、緊張が走る。
ログインするとルイくんのログハウスの中から始まった。
私はとりあえず安堵した。
ゲーム内の時間はどうやら夕方のようだ。
ゲーム内では時間の経過が早い。
部屋の中にルイくんの姿はない。
出かけているのかもしれない。
私は窓から外を見た。
森の中は静かだった。
一人では絶対に外に出るなと言われていた。
私はおとなしく待つことにした。
ルイくんはすぐに帰ってきた。
「ミサちゃん!久しぶり!」
「え?昨日ぶりだよね?」
たった一晩留守にしていただけだったがルイくんは1週間ぶりだといった。
ルイくんはゲーム内の時間軸で時が流れているようだ。
「そうなんだ…。多分ここに来て半年くらい経った気がしてたんだけど…」
「ルイくんの事件から1ヶ月くらいかな。」
ルイくんはそれを聞いて少し黙ってしまった。
「俺だけおじいさんになるのが早いかもね。」
ルイくんはそう言って笑顔を見せた。
それが作り笑顔にしか見えなくてなんだか悲しくなった。
それからルイくんは武器庫を見せてくれた。
好きなのをあげると言われだが武器のことはよくわからない。
私が課金してゲットした剣もそこにあった。
私はルイくんとおそろいの戦闘服をもらった。
ルイくんのアバターには小さいから使えないものらしいし、何よりもペアルック感がいい。
そして私はルイくんが腰につけているぬいぐるみに気がついた。
「その猫ってこのゲームのキャラクターだよね?私ね、ルイくんの誕生日プレゼントに同じものを用意してたんだ。」
私はなんの気なしにそう言ってしまってからハッとした。
ルイくんは誕生日前に死んでしまっている。
「そうだったんだ!だからアイテムボックスから出たんだね!」
ルイくんは私を倒したあとにこれが出現したと嬉しそうに話してくれた。
「ときどき思うんだ。僕は運営に操られてるんじゃないかって。」
ルイくんは見えない何かがある気がすると言った。
「俺の気持ちを読まれているって言ったら変だけど、そういうときがたまにあるんだよ。」
ルイくんは子供みたいな顔で「変だよね」と言うので私はその可愛さに体がねじれそうになってしまった。
ルイくんは時々子供みたいな時がある。
『俺』と言っているけど、ときどき『僕』になるときがある。
きっといつもは『僕』なのに人前では『俺』って言っている気がする。
そんなところも本当にかわいい。
私はニヤニヤしていた。
ハッとしてルイくんを見ると不思議そうに私を見ていた。
「ミサちゃんて本当に面白いよね。」
「えっ?!」
「なんか、いつも一生懸命で、でもほら、完璧な人間なんていないでしょ。ジタバタしてるなってわかるんだ。ミサちゃんもそれをわかってて一生懸命がんばってて、そういうのを楽しめてる感じがして、すごく羨ましいよ。見てて飽きない。」
褒められたのか貶されたのかよくわからなかった。
でもルイくんの言葉には悪意がないのはわかった。
「人間は大事なこととか好きなものに対しては無条件に頑張ることができるのだよ。」
私が偉そうにそう言うとルイくんは声を出して笑った。
それは珍しいことだった。
ルイくんはあまり感情を出さない。だから私はそれがとても嬉しかった。
「ミサちゃん、本当に会いに来てくれてありがとうね。」
ルイくんは優しい眼差しで私を見つめてそう言った。
私は心臓が破裂しそうだった。
「1回殺されたけどね!」
私はそう言ってドキドキをごまかした。
ルイくんは「ごめんごめん」と笑っていた。
それと同時に怒りがこみ上げてきた。
こんな優しいルイくんを悪魔や殺人鬼のように仕立て上げた運営を許せないと思った。
私はルイくんに現在までにわかったことを話し、ログアウトした。
日本語版を運営している会社を見つけ出す必要がある。
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